VRゲームは世界を救う
イリヤの連撃が轟音を立てて数秒叩き込まれると、すでに地面は大きく抉れてクレーターが出来ていた。
中は雷撃の名残り、煙と炎で見えない。
普通の人間や魔物がこんな火力の攻撃を喰らったら塵も残らないだろう。
その時、ボフッ!
と煙と炎の中から人影が飛び出した。
両腕がボロボロになっているイリヤだった。
「痛ッ! 慣れない身体な上に本来の肉体じゃ無いから加減が本当に出来ないわね」
自身の腕が攻撃に耐えきれずにズタズタに裂かれたものだった。
「さて、どこまで効いたのかしら⋯⋯」
クレーターの中心を見つめているが動きはない。
その間イリヤの身体を精霊体で覆っている翠葉が治癒魔法をかけている。
その時、クレーターの中心から黒いドームが、ズアッ! と膨れ上がってきて煙や炎雷を押しのけた。
「まぁ、このぐらいで倒せるとは思ってないけど月穂達を離れさせる時間稼ぎにはなったわね。
イレギュラー対応で付いてるといえ柘榴じゃコイツ相手は無理だし」
黒いドームが収縮されルシフェルの姿が見えた。
「流石に痛てーな」
ケタケタ笑って喋っていた先程までのテンションとは違い、静かに、そして嬉しそうに声を出さずに笑っている。
「ダメージは⋯⋯」
ルシフェルの身体を見ると防御に回したであろう腕はズタズタになり、身体中か雷撃の名残りと炎、焦げ跡があちこちに見える。
「効いてはいるようね」
「あぁ⋯⋯寝起きでガキの身体とはいえ舐めすぎてたわ、ゴメン」
「ゴメン? え? 謝るのそこ?
ま、まぁ⋯⋯こっちも同じようなものよ、身体と力が釣り合ってない」
「あーっ! オイ! 治癒魔法とかズルいぞお前! 俺にもかけやがれ!」
「ズルいって⋯⋯なんでそんな事しなきゃなんないのよ」
「ダメか、まぁ言ってみただけだし」
「あんた⋯⋯何か昔とキャラ変わってない?」
「だよなー、自分でもちょっと思うわ。
このガキの身体と魂が影響でもしてんのかもな?」
「わざとじゃないわよね? なんか抜いちゃだめなところの気が抜けるんだけど⋯⋯」
「わざとやる意味あると思うか?」
「⋯⋯無いわね」
お互い違う身体で昔と色々噛み合っていないようだ。
「んー⋯⋯よし、昔の事は置いといてやる。
俺は裏にいる奴探すわ、何が目的か知らんが使われるのはムカつくんだよ」
「何言ってんのよ? お前を勝手にその辺自由にうろつかせる訳ないでしょ!」
「まぁ、だよなー⋯⋯じゃあ一緒に黒幕探そうぜ」
イリヤはポカーンと口を空けている。
「可愛い美少女と黒幕探しのバトル旅、面白いと思ったんだがダメか⋯⋯」
イリヤが見る限り本気でショボンと気落ちしているようだ。
「あんた全部本気で言ってるの?」
「当たり前だ!
神の下僕犬とジャレ合うのも、治癒魔法かけてほしいのも、世界を滅ぼそうとしてたのも、美少女とバトル旅してみたいのも、あのガキがめっちゃ面白そうにやってたゲームやってみたいのも、俺は何でもいつでも全部本気だ!」
「ゲームって⋯⋯」
「お前は大根やってたから知らねーんだよ、あのVRオンラインゲームってやつ。
すげーんだぜ! 色んなキャラ自分で選べて作れて魔法にバトルにガチャにレアアイテムコンプ!」
「VR? ガチャ? コンプ? 何語?」
「可哀想だなーお前、知らねーんだもんなー」
「何かバカにされてる⋯⋯ムカつく」
「まぁ、って事で俺はやりたい事山盛りだから行くわ」
「だからお前を外に放つわけには行かないって言ってるでしょ!」
その瞬間、ルシフェルの周囲がズシン! と重たい威圧感に包まれた。
「!?」
「一緒にバトル旅しねーで邪魔すんなら、消えろ⋯⋯」
イリヤの視界からルシフェルが消えた。
と同時にお腹に衝撃をくらって空中へ飛ばされる。
息を吐く間もなく宙に上がった背中にルシフェルが光輪を幾つも纏った腕を振りぬいた。
まるで隕石でも落ちたかのような衝撃が空中のイリヤ、そして地面に広がる。
砂煙か辺り一帯を覆い尽くし何も見えなくなった。
ルシフェルが腕を横に振るうと煙がブワリと霧散する。
「一撃で死んだかな?」
クレーターの中央には倒れて動かないイリヤがいた。
形成されたクレーターはイリヤがルシフェルを攻撃したものより大きく深い。
百発以上拳を撃ち込んだイリヤの攻撃よりも、ルシフェルの一撃の方が威力が大きいという事になる。
ガラリ⋯⋯と石の動く音がした。
「お、生きてる生きてる」
「グッ⋯⋯うぅ⋯⋯カハッ!」
動けてはいるもののダメージは相当なようだ、恐らくもう闘えないくらいには。
「可愛い美少女を葬るのは惜しいけど、しょうがないよな?
俺がこれからも楽しく闘い遊ぶ為だ、悪く思うなよ、そんでついでに魔法の試し撃ちだ」
手を前にかざして魔法陣を生成する。
「詠唱は⋯⋯めんどいから無しだ」
魔素がグッと増幅され魔法が放たれようとしたその時、ビクンとルシフェルが揺れた。
「ん? なんだ?」
魔法が途中解除され不思議に思っていると、バシン! とルシフェルの手が自分の口を抑えつけた。
「ムグッ!?」
自分で自分を止めようとしている。
「グッ⋯⋯まさか十三⋯⋯なの?」
イリヤは朦朧とした意識の中で様子のおかしいルシフェルの中に小さな希望が見えた気がした。
ルシフェルがギリギリと自分の口を握り潰そうとしている腕を離そうともがく。
少し手が口から離れたところで問う。
「誰だ⋯⋯ガキか? 大人しく中で寝とけよ」
問いを発した口がニヤリと笑い、答えと問いを投げかける。
「十三はまだ寝ている、それより何でお前がこの子に堕りてるんだ? ルシフェル」
「何だ? 俺を知ってる? 誰だ!?」
「忘れたのか? なら少し見せてやる」
ギィン!
という金属音のような音と共にルシフェルの頭上の黒い光輪がみるみる光に侵食されていき、半分のところまできて止まり、身体からは黒いオーラを押しのけて金色のオーラが半分まで侵食した。
「グッ⋯⋯この神気!?
マジかよ⋯⋯クソヤロウ⋯⋯ミカエル!!」
「前世ぶりだなルシフェル、いやサタンの方がいいのか? 毎回、滅しても滅してもお前は舞い戻ってくるな」
「あ⋯⋯あぁ、さっきイリヤにも言ったが⋯⋯ルシフェルでいいぞ」
「そうか、じゃあルシフェル、もう一度問うぞ。 なんでこの子の中にいる?」
話を出来るよう少しだけミカエルは力を緩める。
「フゥ⋯⋯いてて、俺にも分からねーんだ
よ説明が面倒くせー」
「お前がまた何かやらかそうとしてる黒幕なんだろ?」
「あー、今回は誓って俺じゃねー」
「そういやそんな事言ってたなイリヤに、少し見てたぞ」
「そういうこった、裏で何かやってる奴がいる。
俺はそいつを見つけてぶちのめしに行かなきゃならんのよ、このクソヤロウと同じ身体にぶち込んだゲスヤロウをな!」
「ふむ、確かにこの同居状況⋯⋯厄介だな」
「だろ!? すぐ様見つけ出してボッコボコにして解除させる! だから身体よこせ!」
「お前を自由に外に出す訳ないだろ⋯⋯」
「なんだミカエル、お前俺とこの同居続けてーのか? 俺はまっぴらゴメンだぞ!」
「俺が探し出す、世界を壊しかねんお前を放つ訳にはいかんからな」
「ふざけんな! ゲスヤロウを探して見つけてブチのめすのは俺だ! 後ついでにVRゲームもやるんだ、邪魔すんじゃねー!」
「VR!?⋯⋯アレを⋯⋯やるのか?」
「何だ? 当たり前だろうが! あんなおもろそうなの見てるだけなんて出来るかよ! ずっとガキがやってるの見てるお預け状態だったんだぞ! もう我慢の限界だ! 絶対にやる!」
「⋯⋯」
「何だよ?」
「いや、あの⋯⋯なんだ⋯⋯」
ルシフェルがニヤリと笑う。
「さてはお前⋯⋯やりたいんだろうVRオンラインゲーム?」
「なっ! 別にそんな⋯⋯俺もやってみたいだなんて⋯⋯思って⋯⋯」
だんだんと語尾が小さくなっていくミカエル。
「ちょっと⋯⋯待ちなさいあんた達」
ボロボロのイリヤが呆れ声で割って入った。
「イリヤ! 久しぶりだな! また会えて嬉しいよ」
「あー、ハイハイ、また会えて嬉しいわミカエル」
「すぐコイツ閉じ込めて助けるからな」
「何いつてやがるミカエル、そんな事させるわきゃねーだろが」
丁度左右で黒と金に分かれて拮抗を保っている二人は、左右の手をぶつけ合ってせめぎ合いを始めた。
「身体寄こせ! この真面目君が!
俺はゲスヤロウ探索面白バトルとVRゲームの旅にでるんだよ!」
「どこまでふざけてるんだお前はルシフェル! もう二度と世界は壊させない! 世界とVRゲームは俺が護る!」
「ふざけてるのはあんた達二人ともでしょ! ルシフェル! ミカエル!」
ギギギッ! と左右手がつかみ合いオーラを放出して地面が圧力で凹んだ。
双方のオーラが弾けそうになるその時、
「ヤメロー!!」
叫び声と共にせめぎ合いが止まった。
黒と金のオーラがぶつかり合う真ん中から赤黒いオーラが分けて入ってくる。
「人の⋯⋯身体で⋯⋯何やってんだー!!!!」
中央からブワッと黒と金のオーラが分断され押しやられていく。
「フーッフーッ! 黙って中から見てりゃ好き勝手言いやがって、これは俺の身体だ! 勝手なことすんな!」
丁度オーラが三等分された状態にまで分断され三人が同在する状態となったようだ。
「おいガキ! 身体寄越せっての! バトル旅とVRゲーム出来ねーだろが!」
「そんなことさせるかルシフェル! 十三君、コイツは俺がなんとかするから身体の主導権を渡して欲しい!」
「そんな事に言ってお前一人でVRゲームやるつもりだろ! クソミカエル!」
「なっ!? そんな事する訳無いだろう! する時は十三君にお願いしてだな⋯⋯」
ぎゃあぎゃあと喧嘩を始める二人に十三が切れた。
「うーるーせー!!!!
身体は俺のもんだ! お前らに明け渡す義務は無い! この感覚だと身体の持ち主の俺の意識と主導権が一番強いみたいだ、お前らに身体を好き勝手させる事はほぼ無いだろう。
でもそんなにVRゲームやりたいなら約束しろ! 勝手に主導権を奪い、活動する事を禁止すること、特にルシフェル、お前は世界に害を為さない事を誓え!
そしたら好きなゲームぐらいやらせてやる」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「どうするミカエル?」
「どうするって言われてもやっぱりお前を滅しない事には世界はゴニョゴニョ⋯⋯」
「ダメだこりゃ⋯⋯おいガキ!」
「何だ?」
「条件を飲んでやる、その代わり必ず黒幕を探し出しブチのめす際には俺にもやらせる事! ゲームは⋯⋯いっぱいやらせて下さい」
「え? 敬語? そんなにやりたいのかよ⋯⋯で、ミカエルは?」
「お⋯⋯お願いします」
「こっちも敬語⋯⋯どんだけゲームやりたいんだよ」
世界の拮抗はVRゲームによって保たれた。
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