冥界の従者
「コン!」
「コンちゃん!」
二人の前に仁王立ちで魔闘気を放つコンのおかげでかなり威圧は軽減された。
「コン! コイツはまだ俺の敵だ! 手出しは無しだぞ!」
コンは首を横に振った。
想定外のそれほどの敵ということだろう。
下がれ、と手を後ろに払って目を合わせるコンの瞳は焦っていた。
「コン⋯⋯」
月穂は威圧で完全に動けないでいる。
手を出すなと言いつつも十三の足は震えて力が入らない。
(この祠の試練、こんなのを相手にするのも試練の一つなのか?
爺ちゃん母さん、美沙さんは一人でこんなのを相手したのか?
無理だろ⋯⋯俺達がイレギュラーで二人で入ったからか? 試練だとしたら無理ゲーってやつじゃないのかこれ)
その時、一際大きく魔闘気が膨らむと魔法陣が展開され徐々に狼のオーラが凝縮し安定した。
黒いオーラに黒い身体、金色のクマドリ、二足歩行ではないだけで見た目はまるでエジプト古代神のアヌビスのようだ。
〈我⋯金狼ノ神ガ従者。
己ガ魂ヲ贄ニ、我ヲ降ロシタ愛シキ子。
ソノ怨敵ハ、魂ノ代償トトモニ、冥界へイザナオウ⋯⋯〉
「うわ!? 頭にギンギン意思が伝わってくる⋯⋯!」
「きゃあっ! 何これ頭に響いて⋯⋯!」
「神の従者って!? 神が本当にいるのにも驚きだけどその従者が現実に顕現とか⋯⋯流石にアウトだろ」
「じ、十三⋯⋯怖いよ」
「くっ⋯⋯ヤバすぎる、逃げれるか⋯⋯?」
従者はその意図を察したのが魔法陣を展開さた。
「■■■■■ ■■ ■ ■■■■ ■■■
■ ■■■■■■■■ ■■ ■■ ■■■■
⋯⋯『■■■■■ ■■■』」
何の言語か聞き取れない詠唱を終えると魔法陣は三十メートルほど地面に円状に拡大され、そこから円柱状に光の帯が立ち昇った。
「何あれ⋯⋯結界!?」
「みたいだな、これで逃げられなくなった、逃げるチャンスだった筈なのに⋯⋯威圧感で動けなかった」
コンはその間ずっと従者を睨みつけていた、翠葉も同じくコンの頭の上で睨みつけている、何があっても対応出来るように。
今は前に立つコンの魔闘気の壁のおかげで何とか凌げている。
「まずいな⋯⋯
なぁコン、あれ人間が倒せるのか?」
コンは無言のまま従者から目を離さない。
「クソッ、どうする⋯⋯」
「うぅ⋯⋯」
月穂はガタガタと震えている。
(戦えそうなのはコンと翠葉⋯⋯正直俺では太刀打ち出来そうに無い)
その時、従者は片方の前足を少し上げて、トンッ⋯⋯と静かに地面を叩いた。
「■■ ■ ■■■■■■ ■■⋯⋯『■■■■』」
すると黒いオーラが地面を這い、そこから三本の黒い腕が立ち昇った。
「何だあの薄気味悪い嫌な感じ⋯⋯まるで幽霊でも見ているような」
「ヒィ⋯⋯十三⋯⋯」
「本能的に恐怖が湧いてくる⋯⋯大丈夫か月穂?」
「うぅ⋯⋯もう直視できない」
従者が地面を這わすように繰り出した手は冥界から呼び出した『冥界の誘い手』、アヌビスの元へと魂を捉え送る従者の手。
「あの手⋯⋯ヤバイ!」
その瞬間、伸びた手が襲いかかる。
「月穂後ろにいるんだ!」
十三は魔功術のオーラを最大に纏い、魔眼を発現させる。
コンは魔闘気を纏ったまま、迫って来る『冥界の誘いの手』を体術のみで跳ね返していく。
(いいぞ、コンは対応出来てる)
しかし、それもつかの間、よく見ると手がコンのオーラをむしり取っていっている。
「!?」
予想外の攻撃の効果にコンのは驚愕の表情で一時後退する。
その間、翠葉は光の魔法を待機させていた。
コンが下がった瞬間に魔法陣を展開させ魔法を唱える。
「♩~♪♪~♩♩~♩♪♪~♪♩♪♪~♪~♪~♪♪♩~♪♪~♩」
「歌?」
魔法陣が光り、コンだけでなく十三と月穂の身体を薄い膜が覆う。
冥界の存在から身体と魂をを守る為に光属性の防御膜を張ったのだ。
「温かい⋯⋯ありがとう翠葉ちゃん」
「だいぶ楽になった⋯⋯助かったよ翠葉」
翠葉はそのまま次の魔法の詠唱に入っている。
コンは効果時間を無駄にしないように自分から攻撃に動いた。
ドン! と地面を蹴り従者の元へと強襲する。
『冥界の誘い手』がそのコンのへと襲いかかり捉えようとする直前、地面から光の鎖が黒い手に伸びた。
ガシャン! とその手に絡みつき動きを捉えた。
コンはその横をすり抜けて従者へ向かい拳を振りぬいたが、ゆらりと残像を突き抜けてしまった。
その瞬間、横からとんでもない勢いの頭突きを食らった。
「コン!!」
衝撃波が発生する程の頭突きの勢いと同じ速度で吹っ飛ぶコンは直ぐに足を地面にガリガリとつけて勢いを殺す。
ギリギリで頭突きを腕に魔闘気を集中させ防いでいたようだ。
「あの従者、足に黒い風を纏ってるぞ」
「あれ、魔法とオーラが⋯⋯混ざってる」
「普通の魔法とは違うってことか?」
「たぶん、効果は増幅されてると思う」
「威圧感と不気味さ、謎の手の攻撃に強化効果増幅⋯⋯実力が全く見えないぞアイツ」
「私の使える魔法では何も対抗出来そうにないよ」
「月穂は魔眼で解析に専念しといてくれ、俺は機会があれば参戦する、どこまで出来るか分からないけどな⋯⋯」
「無茶だよ! って言いたいけどコンちゃんだけだと厳しいかもしれないね」
「あぁ、足手まといにだけならない様にアシストに専念する」
コンがパンパンと砂埃を払うと従者は地面を蹴る、文字通りその場から姿が掻き消えた。
コンも同時に地面を蹴る。
ズドン!
互いに居た場所から中央付近で衝撃波が生まれる。
ドン! ドドンッ!
視界に捉えきれない速度で衝撃波が重ねられていく。
現時点で互いの攻撃、防御も互角。
リーチを考えるとコンの方が不利な分、自力は勝っているように見える。
(凄え⋯⋯こんな中に突っ込んでいくのか俺)
するとタタタッと翠葉が走って十三の元へ辿り着いた。
「翠葉、お願いがある⋯⋯」
十三の話を聞いて直ぐに首を横に振る。
「ダメだ、これは月穂とも話し合った事だ。
最悪、俺とコンは置いて何よりも月穂を生かし逃がす事に全力を注いでくれ。
頼んだぞ!」
翠葉は納得できないまま十三に無理やり引っペがされて月穂の元へ向かわされる。
「サンキュ翠葉、護ってやってくれ」
翠葉は月穂の元に辿り着くと無言で魔法の準備に入った。
(これで前に出られる)
十三は魔功術で内気功を極限まで高める。
少しの衝撃で内側から弾けとんでしまいそうなくらいの圧を溜め込み、スゥッ、と息を吸い込み叫んだ。
「コン!!! 行くぞ!!!
久世古流!!」
ドン! と地面を蹴り、魔眼で何とか捉えた二人の姿の方へと跳ぶ。
『縮地!!!』
コンが一瞬従者を止めたのを捉え、古武術特有の歩法『縮地』でゼロ距離に詰めた。
同時にそのスピードのまま拳を従者に押し当てる。
『乾坤天功!!!』
身体の筋肉、関節全てを捻り手刀の突き一点に集中させると同時に全力の内気功を相手体内に放つ。さらに刹那、指を開いて掌を当て第二波を打ち込み対象内部をかけ巡る衝撃にぶつけ、完全に内圧で破壊する久世古流の奥義の一つ。
更にそこに魔功術のオーラと地属性の粒子を叩き込んだ。
恐らく今できる十三の最高の火力攻撃。
ズドドン!
と衝撃が従者の内部でぶつかり合い、グラリ⋯⋯と従者の身体がフラついた。
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