異世界? 異星界?
無事に救出され、アクアの魔法により事の顛末を見知ったドライアドは何度も何度もペコリと頭を下げて感謝の意を伝えた。
「いいよそんなに頭下げなくても、十分気持ちは伝わったから、アクアちゃんの友達なら助けるのは当たり前だしね」
それを聞いてアクアもドライアドの横に並んでペコリと頭を下げた。
「もう、いいって言ってるのに、アハハ」
そんなやり取りをしている横でコンはじっとドライアドを見つめていた。
その視線にドライアドは気付いて近づいていき、物珍しそうに色んな角度から観察している。
「植物の精霊だもんね、大根のコンは仲間みたいなものなのかな?」
ドライアドは一通り観察を終えるとアクアを見る、アクアはコクリと一つ頷いた。
コンに向き直り、ドライアドは身振り手振りをしながら何やらコンに話しかけている。
「植物同士会話ができるんだ⋯⋯」
コンも身振り手振りで返答しているようだ。
暫く会話が続き、その後コンはじっと考えこんでいた。
ドライアドは優しくコンを見つめて返答を待っている。
暫くしてコンは意を決したように静かに頷いた。
ニコリと笑ってドライアドはコンを抱きしめ、そしてそのまま額をコンにくっつけると魔法陣を額に展開する。
「あれって⋯⋯契約魔法だ!」
「え!? てことはコンとドライアドが従魔契約をして召喚獣になるって事?
それってどっちが召喚獣!?」
「魔物同士でも契約成立するんだ⋯⋯」
「うっ、まぶしっ!」
コンとドライアドの間の魔法陣から眩い光が溢れた。
光が収まると額を離して手をお互いにパンとぶつけてハイファイブをした。
「なんでこんな流れになってるのか全く理解できないけど、一つ質問。
どっちが従魔?」
ドライアドがスッと手を上げた。
「なるほど」
「コンちゃん魔法使えるの?」
親指をグッとあげて首を横に振る。
「またそれか! イエスかノーかどっちなんだよ!」
コンは両手を肩の上までスッと上げて首をかしげる。
「だーかーらー、いつもそれするけど結局どうなのか分からんて!」
「だよね⋯⋯あ、じゃあ1回召喚してみてよ」
コンとドライアドが目を見合わせて、ヤレヤレみたいに首を振った。
「あれ⋯⋯なんかこっちの無知が悪い気がしてきた」
「とりあえず見せて貰おうよ、やっぱり知りたいし」
ドライアドは召喚を受けるため一度帰還の魔法陣を構築し、その中に沈んだ。
「へー、そんなふうに自分で帰るんだね」
月穂は魔瞳術を展開し、新たな魔法を興味深そうに観察している。
ドライアドが帰ったところでコンが右手に魔素を集めてシャカシャカと手を動かしてから地面に叩きつけた。
ブワリと魔法陣が展開される。
「あっ、魔素がドライアドと繋がって混ざった!」
魔法陣からドライアドが、ジャジャーンと聞こえそうなくらいのリアクションで現れた。
「おおー、召喚できてる」
「凄いよ、コンちゃんの手のシャカシャカと地面にバン! までが詠唱の変わりになってたんだ。
魔法の座学の時に言ってた、詠唱は言語には縛られないから自身のイメージと合致するなら他の言葉でいいって、それは歌でもジェスチャーでもダンスでも可能だって」
「そっか、言語使えなくても魔法は発動するんだな、だから魔物は言語の詠唱無しで違うプロセスで魔法を使ってるのか」
「さらに魔法陣が展開された時点でドライアドと繋がってそっちから魔素の補助がされてたよ、コンちゃんの魔法に負担が無いように」
「気配りさんだな」
「でも結局何があって従魔契約したんだろうね?」
「どっちかもしくは双方に何かしらのメリットがあるんだろうな、全く想像もつかないけど」
「ねえコンちゃん、戦力強化されたってことでいいのかな?」
コンはボフンと胸を叩いて答えた。
「戦力強化は大歓迎だ、これで少し最深部まで短縮できるかな」
「コンちゃんに頼りっきりはダメだだけど早く地上には帰りたいね」
「そういやドライアドはなんで捕まってたんだろうな、精霊種って上級種でめっちゃ強いんだろ?」
「何があったんだろうね? 聞いても話せないし⋯⋯」
と話ているとドライアドがジャンプして月穂をギュッ! と十三の方に押した。
「キャッ! ドライアドさん何するの!?」
「うわっ! ち、ちち、近い! 顔! 顔!」
「ごめんね十三! ちょっとドライアドさんもう押さないでー!」
二人の顔がくっつくくらいドライアドはギュウギュウと押し込み、二人の顔の間に滑り込む。
それと同時に魔法陣を二人の額に展開させ魔法を発動させた。
† † † †
「うっ⋯⋯まぶし」
「なんだこれ?」
「え? どこここ?」
眩い光から目を開けるとむせ返るような緑の大地と青い空が開けていた。
その青い空には月のような衛星が薄く二つ見えている。
所々に天を突くような巨木が立ち、様々な生き物や魔物が生態系を作っている。
そのうちの大木の木の枝にドライアドは腰掛けて世界を眺めていた。
大好きな森の大好きな樹、ここに腰掛けて眺めているのが大好きだった。
魔物同士の戦闘が日常の弱肉強食の世界だが、自然は害される事なく太古から育まれている。
二人が見ているのはドライアドの記憶。
(これは、ドライアドさんの⋯⋯記憶?)
(空があるから祠の中じゃないな、てか月が二つある⋯⋯)
(地球じゃないってことだよね?)
(違う星? 異世界?)
(じゃあ、どうやってドライアドさんはここに?)
ドライアドの視点で二人は世界を眺めている、壮大で美しい誰の手も入っていない原始林。
ふとドライアドの視点が空へと向いた。
(あ、流れ星だ)
(まだ明るいのに良く見えるな、近い所を通ってるのかな?)
一つ見えた後に続いていくつもの流星が流れてくる。
(キレイ⋯⋯赤、青、緑、色んな流れ星が落ちてくる)
魔物達も気付いて見上げている。
すると突然、空一面に魔法陣が現れた。
(うわー! 視界が一面魔法陣で埋め尽くされてる)
(凄い、誰がどうやってこんな大きな魔法を⋯⋯?)
各魔法陣が回転し光を帯びる。
低い法螺貝を吹くような音と、ガン! ガギン! と大地を揺るがす轟音とともに地上三十メートルほどの所が空間が切られたように先が見えなくなった。
その後、続いて何度か轟音が鳴り響き、大地が大きく揺れた途端に見えない天井から光る鉱石が生えてきた。
暫くすると揺れは収まり、薄暗く照らされた空間に大木や草木の横にドライアドは倒れていた。
巨木は三十メートルくらいの高さのところで天井に埋まっている。
(これって⋯⋯この祠だよね)
(あぁ見た目は完全に一緒だな)
(ドライアドのいた所がこの階層に転移したってこと?)
(その可能性が一番高いかな)
(魔法陣が展開されてたってことは誰かの魔法でって事だよね?)
(そんな事できるのって神様クラスとかじゃないのか?)
(いるのかな⋯⋯神様?)
(いると言われてももう驚きもしないよ、なんせ大根が仲間にいるんだ、何言われても信じれる気がするよ)
(アハハ、そうだね)
そこでドライアドの記憶の映像が途切れた、恐らく転移の衝撃で気を失ってたところを捕獲されたんだろう。
「大変だったねドライアドさん」
コクコクと頷くドライアドは少し涙目になっている。
「誰がやったか心当たりはあるのか?」
ドライアドはフルフルと横に頭を振る。
「誰がやったのかもそうだけど、何でこの祠になんだろうね?」
「検討もつかないな」
「もしかしたら最深部に何か情報があるかもね」
「あぁ、可能性はある」
「何もかもが分からないことだらけで思考が止まりそうだよ⋯⋯」
「俺達に今出来ることはただ受け入れて進むだけだ、否定して立ち止まってなんていられない」
「うん、じゃあとりあえず自己紹介しておこう。
私は月穂、ドライアドさん改めて宜しくね」
「俺は十三、宜しくな」
ドライアドはペコリと頭を下げて答えた。