蟻地獄
どうやらかなり広めの空間に落とされたようだ。
高さは十メートル程、幅は薄暗いせいか見えない。
その中心に角だけが地面から見えている蟻地獄。角がユサユサと揺れると砂に流れが出来て中心へと流れ込んでいく。
「ボスかコイツ?」
「そんな感じだよね、威圧感が他のと違う」
「蜘蛛と同じ待ち主体で狩りをする虫だ。遠距離攻撃対策に同じような反射魔法を持っているかもしれない」
「試しに一発打ってみるね」
「多めに距離をとってやってみよう、向こうからどんな攻撃が来るか分からない、離れないように固まっていこう」
コンと月穂はコクリと頷く。
先の戦いで火魔法を使って荷物を焼かれたので、魔法反射を持つ可能性のあるモンスターには火魔法は封印、代わりに得意の水魔法を放った。
『星を包む母なる水よ 集い穿て⋯⋯【水牙】』
ドシュッ! と蟻地獄に向かって放たれた魔法は、少し弧を描いて着弾したので違う方向に蜘蛛の時と同じく反射されてしまった。
蟻地獄はこちらを認識はしているようだが攻撃はして来ない。
「だよな、じゃないと遠距離から攻撃され放題だもんな」
「何発まで耐えれるのか分からないけど、ボスだとしたら蜘蛛と同じく五発まで反射って事は多分ないよね⋯⋯」
「ああ、そして相手は砂の中⋯⋯蜘蛛同様に突っ込んで攻撃って訳にはいかないよな」
「どうしよう? 私も魔力回復してないからそんなに数は撃てないよ」
「こっちの手数は厳しく、決め手に欠ける⋯⋯か」
注意を払いながらも思案していると蟻地獄の方からギチギチと音が聞こえ、角から魔法陣と共に石礫が放たれた。
「クッ!」
十三は練っていた内気功を拳に集め、石を弾いていく。
「痛ってー! 興味なさそうにしといて時間差で攻撃かよ! いやらしい奴だな!」
「大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だ」
「向こうにはこっちへの遠距離攻撃手段が有るんだね⋯⋯」
「どうにかして外に炙り出せないもんかな? 近接に持ち込めば俺とコンでどうにかするんだけど⋯⋯」
「どうしようね⋯⋯⋯⋯ん? 炙り出す?」
「どうした? 月穂」
「んー、文字通り炙りだせるかなー? って。範囲火魔法を蟻地獄にじゃなくて周囲に放って熱で炙り出し」
「なるほど⋯⋯潜られるとどうしょうもないけど⋯⋯有りだな、やってみる価値はありそうだ」
「決まりだね」
月穂は直ぐに初級の範囲魔法を放つ
『猛る清き紅蓮の炎よ 悪しき穢れを焼き祓え⋯⋯【火牙・炎】』
手に生成された魔法陣から火炎放射のように火が放たれ、蟻地獄の周囲の砂を火で囲む。
ジリジリと離れているこちらにも熱が伝わってくる。
熱せられた砂に耐えきれず蟻地獄は中心から躍り出た。
「よし!」
「やったー! あ、え?」
が、その下半身は想像していた蟻地獄の姿とはかけ離れていた。
有るべき蟻地獄の腹からは太いムカデが生えていたのだ。
「うそだろ!?」
「ヒィ! 最悪だよ! 最悪の姿だよあれ!」
「キメラか?」
ドン引きしている間もなく蟻地獄はまたも魔法陣を展開し、石礫を放った。と、同時にヘビの様にくねりながら穴から這い出そうとしている。
「下がれ月穂! コン! 今回は意識失ってる暇なんて無いからな! 一緒にやるぞ!」
十三が厳しくも横で戦えと鼓舞する。
コンは震える足をバシッ! と叩き一歩前に踏み出した。
「良し! それでこそ漢だ!」
(ん? 男だよな? 何となくそう思ってたけど、間違ってたらゴメン⋯⋯)
十三の横にきてゲシッ! と足を蹴る。
(!? それは女って事? え?? 何の蹴り?)
コンは十三を蹴った足をそのまま高く上げズン! と地面を踏みつける。
コンから黒みがかったオレンジの蒸気のようなものが吹き出した。
(おいおいコンさん、何だその威圧感は⋯⋯
あれ気功⋯⋯じゃないよな、何なんだ? てかそんな奴が何で上層階で膝抱えて泣いてたんだよ)
コンから威圧感と言うか存在感が強く重く吹き出されている。
(何にせよ負けてられないな)
十三も気と魔素を練りこみ赤黒いオーラを纏う。
チラリとお互いをみると同時に地面が凹むくらい踏み込み、蟻地獄へ突っ込んでいく。
ようやく長い胴体を穴から抜け出させた蟻地獄のムカデの胴体は十メートルを超えていた。
向かって来ていたのを察知してか、蟻地獄は体をうねらせていた。
頭部からは石礫の魔法、尻尾は逃げ道を無くすように横薙ぎに払ってきている。
「石礫はまかせろ! 尻尾頼んだ!」
内気功を纏った拳で石礫を弾き続ける十三の元に尻尾の薙ぎ払いが迫る。
その間に滑り込んだコンは下から尻尾を蹴り上げた。
と、同時にジャンプして尻尾の上に飛び出すと上からパンチを叩き込む。
ズガン!
と激しい音と共に尻尾が地面にめり込み砕けた。
(おお、スゲー! あのオレンジのやつ何なんだ?)
石礫を弾き終えた十三は関心して横目に見ていた。その時またも頭部に魔法陣が形成された。
「また石礫か!?」
すると、コンが着地するはずの地点からズズズっと砂が持ち上がり、その下から鋭い石の槍が数本飛び出してきた。
「!?」
「危ないコン!」
コンは体をグッと丸めるとオレンジのオーラと共に右足を虚空に蹴り出した。
ボッ! と音がしてとコンは空中から左に弾かれた。
「え? 空中を⋯⋯蹴った!?」
ゴロゴロと十三の元まで転がってきて親指をグッと突き出す。
「グッ、じゃない! 何だよ今の!? 後で教えろよ!」
逆の親指をグッと出す。
「マジで!? やった絶対だぞ! 漢と漢の約束だ!」
ゲシッ! と十三の足を蹴る。
「痛ッ! 何で蹴るの? じゃあやっぱりおん⋯」
ゲシッ! と逆の足を蹴る。
「イタッ! え、どっち!? 分かんないぞ! それよか来た!」
また頭部に魔法陣を形成している。尻尾は動いていない。
魔力の残りが少ない後ろにいる月穂は、魔法温存の為に様子を見ている。
蟻地獄がギチギチ音を立てながら作る魔法陣がさっきまでの魔法より大きい。
「今までより大きい攻撃が来る! 月穂、離れるなよ!」
十三達の足元に魔法陣が現れた。
「下! また石槍か!?」
「キャッ!」
何時でも飛べるように月穂を抱えた。が、何も飛び出て来ない。
魔法陣の外側が強く光り、直径二十メートル程まで広がった。
「まさか⋯⋯」
と思った瞬間、その光る外側の輪から石の壁がせり上がってきた。
「ヤバッ! 間に合うか!?」
石壁の外に飛ぼうと踏み込んだ足が砂に埋もれた。
「!?」
抜け出そうともう片方の足を踏み込むも砂に埋まってしまう。
コンの方を見ると既に首元まで埋まって本当の大根みたいになっていた。
(ヤバイ! これがコイツの必勝スタイルか! 抜け出せない⋯⋯流砂の檻!)
流砂の下から振動を感じた。
「下から来る! 月穂!」
何とかしなければと抱えていた月穂を見ると魔法陣を展開していた。
『星央との楔の狭間へ 我らを抱け⋯⋯
《浮遊・連》』
三人に浮遊魔法が付与される。が、動けるのは砂に埋まっていなかった月穂だけだ。
まず近くに植わっていたコンを引き抜いた。
「コンちゃん! 十三君抜くの手伝って!」
直ぐに一緒に十三を引き抜くと、十三は壁に向かって二人を掴んで飛び退いた。
刹那、蟻地獄の大顎が砂から飛び出し、バクン! と閉じた。
「危ねー! 助かった月穂!」
「でも魔力がもう無い、後三十秒維持できるかどうかだよ、それまでに倒さないと私はもう戦えない」
「分かった、やるぞ! コン!」
蟻地獄は得意の必勝パターンで捉えたはずの獲物が口の中にいない事に驚いていた。
「行くぞ! 同時だ!」
コンと十三は一緒に壁を蹴り蟻地獄の脳天に渾身の一撃を叩き込む。
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