地下二階層の主
食事をとった後、少し休んでから空洞部屋の片付けをして先に進む。
出来るだけこの昆虫階層を今日のうちに抜けたいが、蟻の巣のような入り組み具合な為にかなり難航している。
「月穂、マッピングはどう? 何か道や分岐に傾向とかありそうかな?」
「んー、ダメ。完全に不規則だと思う」
「そうか⋯⋯」
「ここ、食料調達も厳しいよね。今の所謎のキノコが少し生えてたくらいで何も無い」
ムカデはもしかしたら食べれるのかもしれないけど、あれから出会っていない。蟻は無理だろうし、一応サバイバル本に毒の見分け方は書いてあるがキノコは危険すぎる。
今の所、持っている食料は干し肉と乾パンにカブと大根。
三日分の食料としては心許ない。食材を後二食に使ったとして残りの二日分が足りていない。
そんな食料事情を気にしつつ迷路を進んでいくと、堂々とソイツはいた。
隠す気も隠れる気もない巣が通路を塞いで作られている。
巨大蜘蛛がその巣の中心にいた。
七十から八十センチくらいの黒いボディーに黄色の模様がある肉厚な蜘蛛だ。
コンは十三と月穂の後ろで身構えている。月穂は少し震えているがしっかりと戦闘態勢に入っていた。
(良し、月穂は動けそうだな)
「コン、荷物と一緒に下がって後方警戒しといてくれ」
コクコクと頷きコンは後ろへと下がる。
「月穂、奴が動く前に火魔法で奴と巣を焼き払ってみてくれ」
「分かった」
直ぐに魔法陣を形成して詠唱を始める。
『猛る清き紅蓮の炎よ 焼き祓え⋯⋯【火牙】』
月穂は魔法陣の指示を少し変更して一点集中ではなく少し広めに範囲を指定して放つ。
蜘蛛はギチギチと音を鳴らしながらササッと隅へ逃げた。範囲の広まった炎が巣へと直撃する。
が、その直前に魔法陣が巣の前面に展開され月穂の炎をそのまま弾き返した。
「え!?」
月穂と十三はギリギリで横に飛び退いた。しかし、その後ろに避難していたコンの元へ炎は襲いかかる。
「コン! 避けろ!」
ギリギリでコンも躱したが、二人の荷物に炎が直撃した。
「あぁ! 私達の荷物が!」
「クソッ! まさか魔法を跳ね返してくるとか予想できるか!」
「この蜘蛛、魔法を使えるのね。
さっきのが何魔法か分からないけど多分他の種類も使えると思うよ。
でも詠唱なしであのレベルの魔法の発動をどうやって⋯⋯」
驚いている二人を尻目に巨大蜘蛛は巣の中心に戻ってきた。
その顔に表情などないが笑ってるように見える。
魔法なんて効かない⋯⋯と。
「遠距離魔法が無理となると巣の裏側まで行って接近戦しかないのか? かなり厄介だな」
「さっきの反射する魔法、一回事に貼り直してるのか、蜘蛛の魔力が続く限り属性問わず何発も跳ね返せるのか、何発か打ってみて様子を見たいけどいい?」
「分かった、隙が生まれそうならそこで突っ込む」
「コンちゃん! 反射される魔法に気をつけてね!」
頷いて手を上げるコン。それを見て月穂は魔法を展開する。
(苦手そうな火魔法が難なく跳ね返されたから相性で攻撃するのは厳しいかな。
得意の水と光、後は切り裂く風魔法で数打ってみよう)
月穂は素早く順番に魔法を放ってみるが 全て跳ね返される。やはり属性は関係無いようだ。
続いてもう一発水魔法を放つ。今までと同じように魔法が反射されたが、同時に魔法陣がパキン! と割れた。
すると蜘蛛はその後すぐにギチギチと音を鳴らせて前肢を動かして魔法陣を貼り直した。
「反射出来るの五発までみたいだね」
「あぁ、その隙をつくしかないかな」
「しゃあ次の五発目は光弾を打つわ、光を炸裂させるから蜘蛛の目が眩んでるうちに接近して」
「分かった」
月穂が魔法を放ち始めると十三は気を練り直す。
全速で突っ込む為に足に溜めを作り、両手にはアーミーナイフを逆手に持って待機する。
何時でも行けると月穂に目配せすると、月穂は光の弾を放った。
着弾直前に光弾が炸裂し洞窟内が白く染まる。
暫くして光が収まると十三は巣を越えて蜘蛛の背後に立っていた。
スルリと巣の一部と蜘蛛の頭が切断され、地面に落ちる。
「やった! 十三凄い! カッコイイ!」
「⋯⋯」
十三は残心は解いているが動かない。
「どうしたの? まだ何かいるの?」
ゆっくりと振り向いた十三を見て月穂はブハッ! と吹き出した。
光弾が炸裂した瞬間、十三は巣まで踏み込み十字に切り裂いて突破し、そのまま蜘蛛に接近して逆十字に切り返した。
その交差の寸前、蜘蛛の放った糸が顔面に絡んだのだ。そのスピードでカウンター気味に糸を食らった為、顔が紐でギュウギュウに結ばれたハムみたいになっていた。
「あははははは! 何その顔! ヤメテお腹痛い! あははははは! ゴメンね笑ったらダメなのブフッ! あははははは!」
「⋯⋯」
横でコンは十三を指差し地面を叩いてのたうち回っている。
(俺⋯⋯なんか悪い事したっけ? 所々でネタみたいな事になるのは何なんだ?)
何も言わずにブチブチと糸を剥ぎ取って蜘蛛の所に行き欠片を回収し、月穂達の元に戻る。
「ゴメンね十三、体を張って戦ってくれてるんたから笑っちゃダメなの分かってるんだけど、あまりにも顔が面白過ぎて⋯⋯」
「いや、良いんだ。殺伐とした探索にも笑いはあったほうが良い。常に気を張って戦っていたら滅入るから⋯⋯」
少し切なそうな笑顔で答えた十三の足をポンポンと叩くコン。
「あぁ、慰めてくれてんのか? ありがとう⋯⋯って、お前転がりまわって爆笑してたろ!」
ササッと月穂の後ろに隠れるコン。
(転がりまわって爆笑後におちょくられた⋯⋯ていうかコンは何なんだ本当に? 中身人間だろもう)
「あー、そうだ。蜘蛛の欠片は魔法連発してくれた月穂が使って」
「うん、分かった」
パキンと欠片を割って煙を吸収する月穂。
「これでこの階層のボスの可能性が増えたね、蜘蛛⋯⋯魔法を弾く1メートル超える蜘蛛とかやだな⋯⋯」
「あぁ、厄介そうだな魔法反射巨大蜘蛛⋯⋯あ! そういや荷物!」
「あ、そうだった! 燃えちゃったんだ!」
すぐに荷物に駆け寄る。燃える素材の物は見事に炭と化していた。
「探索一日目で荷物ロスト⋯⋯」
「あ⋯⋯カブと大根が良い具合に焼けてる⋯⋯」
「⋯⋯」
使えそうな物が無いか燃えカスをつついてみるが、残念ながらほとんど無い。
「着替えが⋯⋯うぅ」
「服が戦闘でボロボロになっても替えが無くなったな⋯⋯」
「ナイフ一本づつの本気サバイバルになっちゃった⋯⋯あ、マッピングのメモ帳とペンはポケットに入れてたから大丈夫だ」
「良かった、無駄に迷わなくて済むのは大きい。ここに居てもしょうがないしカブと大根食べてから行こうか」
食べた後、名残惜しくも荷物を後に先に進む。
この後?、二度の蟻との戦闘をし、行き止まりの大きめの部屋に着いた。
「なんだ、また何もない行き止まりか。せっかくだし五分くらい座って休もう」
「かなり歩いてるしね今日、座るのは大賛成」
何も無いのを確認して中央で少し休憩する事にした。
「そういやコンは魔法使えるのか?」
コンは立ち上がり足をバンと開いて胸をドンと叩き首を左右にフルフルと振る。
「どっちなんだよ!」
手を交差させてバツにするコン。
「最初からそうやってくれよ⋯⋯」
(ボケまでやるのかよ⋯⋯もういいよ、何者か考えるの辞めよう)
その時、小さく地面がゴゴゴッと揺れた。
「!? 何だ?」
立ち上がろうとしたが、手と足が地面の砂にとられて抜けない。
「何!? 罠? 敵?
足が抜けない」
見るとコンもさっきのバツの体制のまま砂に埋もれていっている。
「流砂!? いやこんな何もない所で⋯⋯ 罠か!?」
物凄い勢いで埋まっていく。足掻いても抜け出せそうにない。その時、
『壮大な父なる大地を身に纏わん⋯⋯【地装・玉】』
月穂は十三が発動しようとして出来なかった地を纏う魔法の防御形態を発動させた。
三人を石の玉が覆う。
「ナイス月穂、とりあえず助かった。後はこの行き先だな」
ズズズッと石の玉は地面の砂へと吸い込まれて行った。
三人を覆った玉は三十秒ほど揺られて、ゴトン! と固い場所に落ちた。
ゆっくりと月穂は魔法を解除する。辺りを見ると少し薄暗いが同じような場所に見える。
「何だったんだ? 階下に落ちる罠?」
「違うみたい、見てあそこ」
月穂が指差す方向を見ると地面が少し凹んですり鉢状になっている。
「まさか⋯⋯地下二階層に大量にいたあれ、コイツのエサか!?」
すり鉢状の砂の中心に二本の突起が見えている。
「え? 何? 蜘蛛?」
「家の神社の軒下に山ほどいる。
そう⋯⋯蟻地獄だよ」
三人は直ぐに身構えた。
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