光魔法は料理向き?
巨大ムカデとの戦闘から少し立ち直り、歩き出す一行。
この階層の生態系は恐らく昆虫、節足動物類。月穂は考えるだけですでに顔が青ざめてしまう。
コンは今や先頭を歩いていない。
左右に首をビュンビュン降って警戒をしつつ二人の間に挟まって歩いている。
植物故に葉などを食べる昆虫類は苦手なのだろうか。
気が滅入る巨大昆虫との戦いだが、先の戦闘で得たものもあった。
それは外気功と属性魔素の混合技。
十三はムカデとの戦闘で初級魔法の《地装》を拳に纏わせようとしたが、まだ実践で瞬時に発動出来るほど熟練しておらず結局発動しなかった。
そこで基本属性チェックの際に行った魔素イメージを指に灯す鍛錬、それを外気功と共に拳へと集中させた。
すると、拳の周りに赤黒い砂が形成され、インパクトの瞬間に極小の弾丸のようにムカデの外殻を穿った。
魔法自体を発動せずとも少しながら攻撃力の上乗せに成功したのだ。
練習すれば全身へ纏わせることも将来可能かもしれない、と十三は考えていた。
一方、月穂は激しく反省していた。
巨大昆虫の腹、という醜悪なものを見たとはいえ、戦闘中に意識を失うという致命的な状況に陥ったからだ。
十三が居なかったら間違いなく餌になつていただろう、考えただけで恐ろしい。
(次は例えGが大量に出ても正気を保たないとダメだ。
今回は助かったけど次は無事な保証なんて無い、二度と同じ醜態は晒さない!)
一人でムカデを倒してくれた十三の袖が破れた左腕を見つめて強く誓う。
とその時、前方から不快な音が聞こえた。
キチキチキチ ギチギチ
すぐに戦闘態勢に入る三人、コンは腰が少し引けている。
音のする方を見つめているとそれ等は現れた。
蟻だ、一匹が十五から三十センチほどの蟻が五匹見えた。
硬そうだな、と十三が思ったその瞬間、月穂が魔法を放った。
『星を包む母なる水よ、集い、散開し、穿て⋯⋯《水牙・散》』
通常の《水牙》と同じく魔法陣を形成、それぞれが右手の全指先に五分割され、ドリルの様に回転する水流が放たれた。
その全てが蟻の頭を穿ち絶命させる。
「おおぉ! 複数攻撃!」
「フフフ、褒めていいよ、と言いたい所だけどさっきの失態があるからやめとく。
ずっと戦闘は十三メインだったから私がここは頑張るね」
月穂はこの階層、昆虫が見えた瞬間に全て魔法で殲滅させる作戦のようだ。
要らないものを見る前に消してしまいたいのだろう。
その横で目をキラキラさせて月穂を見つめるコンは両膝を地面に着いて崇め始めた。
彼の目には昆虫を一瞬で駆逐する救世主の様に見えたのかもしれない。
(崇めるとか⋯⋯色々と行動が人間味有り過ぎだろ、コン。
めっちゃ気になるし、アレコレ聞きたいけど⋯⋯会話が出来ないのが残念すぎる)
横で見ていた十三は首を傾げながら未だ謎の同行者の正体を詮索するが、答えが出るはずも無い。
そんな事を考えている間に、月穂が倒した蟻から欠片を目を背けながら回収して分配する。
十三が一個、月穂が二個。今回はコンにも与えてみようと確認をとる。
「コン、お前は欠片の煙いるか? 効果は俺達と同じなのかな?」
コンはコクリと頷いた。どうやらモンスターにも効果は有るらしい。
(ってことは、モンスター同士でも戦闘があり、生き残った個体は強く成長して行くって事か? それで戦い慣れしてるのがいる訳か)
「じゃあコンは残りの二個を受け取ってくれ」
コンはそっと受け取るとそのまま口に放り込みガリガリと食べてしまった。
(食べていいのかそれ? ⋯⋯いや、どう見てもお腹に優しそうじゃないし)
皆、欠片を処理、吸収したところでさらに進む事にする。
この地下二階層、ほぼ昆虫のエリアになっているからか巣のように道がかなり入り組みだしている。
「早くこの昆虫階層を抜け出したいのに、何なのこの迷路? ⋯⋯マッピング大変だよ」
「コンはここの階層は知らないのか? ってあぁ⋯⋯虫だらけだもんな、来ないよなこんなとこ」
どうやらコンの知識が通じるのは一階層だけのようだ。
(まぁ、探索をずっとコンに頼るのも良くないしな、自分達でどうにかしていかないと)
その後、道に迷いながら蟻のグループと四度出会ったが、月穂が出会い頭に魔法全開で瞬殺していた。
幸い他のムカデやその他の種類の昆虫にはまだ出くわしてない。
(この階層にもボスがいるとしたらどっちだろ?
ムカデの上級種みたいなのは勘弁して欲しいな⋯⋯)
十三は負傷を負った戦闘を思い出し、出来れば暫く出会いたくないと願う。
「そろそろお腹も減ってきたし、安全が確保できる場所がもしあれば休憩とらないとね。
ずっと歩き続けて戦ってるし」
「あぁそうだな、適当な場所があれば休憩しよう。
虫で落ち着かないかもしれないけどこのまま動き続けて疲労が溜まるのも良くないし、食料用に持ってきたウサギ肉も悪くなる前に食べてしまわないとな」
こんな通路の途中では休憩など余りにも危険すぎる。
それでも先がどうなっているか分からない以上、相応しい場所が見つかるまでは歩き続けるしかない。
そこからさらに二度の蟻との戦闘を終えた先に部屋のような空洞があった。
「出口は無いな、行き止まりか。
入り口のみの警戒だけで済むなら休憩には最適だな、周囲を調べてから何もなければここで休もう」
「うん、賛成。じゃあ私食事の準備するね」
「ウサギ肉は下処理だけしたからまだ切りわけないとだけど大丈夫?」
「頑張る!」
「じゃあ入り口の警戒は任せてくれ。調理は部屋の中心でよろしく」
「分かった」
部屋を調べて何も無いのを確認した後、月穂は直ぐに調理の準備を始めた。
と、言っても肉を石の上で切って魔法の火を調整して直炙りするだけだ。
それでもすでにまな板やフライパンなど文明の利器が恋しくなっている。
(普段の何気ない生活⋯⋯恵まれすぎてたんだなー)
ナイフで二人分に切り分け、手の平からガスコンロのように円形に放出するよう火魔法をイメージしてみる。
結果、火は発せられたが円形に同火力を安定して出せない。長い時間細かいコントロールを維持するには詠唱と魔法陣の補助が必要なようだ。
発動しそうな詠唱文と魔法陣の構築は恐らく可能だが、今から数々試すには時間がかかり過ぎる。
(んー、どうしよう? 火魔法だとまだ火を放つことしか出来ない。
代用出来そうな道具も無いし、水を沸かそうにも鍋も入れ物もない⋯⋯困ったな。
サバイバル本には火の起こし方はあったけど調理器具の代用とかは書いてなかったし⋯⋯生食は流石に無理だなー⋯⋯)
ブツブツ言いながら肉を切り、たまにボボッ! と火を出している姿を見てコンは後ずさった。
これは近づいたらダメなヤツだと察して十三のほうへ行くことにした。
十三は部屋の入り口に胡座をかいて座っている。近づいて行くと声が聞こえてきた。
「外気功と属性を流すだけの同時発動をして、拳に赤黒い色の砂の粒子が生成されたけど、これ極めたら特殊鉱石とかの装甲を自分で創り出して纏うことができるんじゃないのか?
フフ⋯⋯フフフフフ⋯⋯
変身ヒーロー⋯⋯
フフフ⋯⋯後はビームを⋯⋯
フフフ⋯⋯ムフフフフ」
コンはビクッとなる。なんかこっちも近づいたらダメなヤツだと。
行き場の無くなったコンは静かに二人の中間地点に歩いていき、膝を抱えて座り込んだ。
座り込む大根が変な空気の板挟みになっている間に月穂は違う試みを始めていた。
「そういえば光も熱だよね⋯⋯高温で照射出来れば焼けるんじゃ?」
出力を調節して照射してみると表面が少し焼けた。
「よし、いける!」
が、長くても十秒が限度なので薄めに切って何度か照射しなければならなかった。
何とか焼き上がったので十三とコンに声をかける。
「焼けたよー、食べよう」
焼かれる度にいい匂いが漂ってきて我慢の限界だった十三は、魔物の肉という事実も忘れて受け取ったのと同時にかぶりついた。
「⋯⋯ウマッ!」
思ったよりも柔らかくそれでいて中までしっかりと火が通っている。
軽く焦げ目も付いて食欲を誘う。塩コショウだけでもかなり美味しかった。
「凄いよ月穂! これウマイ!」
「もしかして光属性魔法って料理に向いてるのかな?」
コンにも食べるか聞いてみたが、膝を抱えて座りながら首を横に振っている。
「何があったの?」
「さぁ?」
コンは触れないでおこうと座ったまま遠くを見つめていた。
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