表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
29/120

ウサギと人参と力の行方

 コンを同行させてしばらく進んでいくと汚れた青い金属の扉があった。

 今まで何もない洞窟だったのでとんでもない違和感がある。


 コンが扉を指してシャドーボクシングをする。


「戦うってことか? この扉の奥で」


 コクコクと頷くコン。


「ゲームとかだと階層ボスとかがいるんだろうけど、これ⋯⋯そうなのか?」

「一応試練だし、ありそうだよね」

「入ると出られないやつかな?」

「なんにしろ入るしか道はないよね」

「コン、この中にどんな奴が何匹いるか分かるか?」


 コンは両手を頭の上にのせてピョンピョン跳ねた。


「ウサギか、一匹か?」


 コクコクと頷く。


「途中で倒したウサギのボスと考えると、素早さ重視で人参持ちかな?

 コン、お前戦えるか? 何ができる?」


 するとコンはどっしり構えて拳法の型のようなことを始めた。なかなか様になっている。


「よし、じゃあ戦える範囲でもしウサギが人参持ってたらその人参と戦ってくれ。

 俺は前衛でウサギとスピード勝負かな。

 月穂は後方から俺達のサポートと後方からの支援攻撃、何か気づく事があれば指示を飛ばしてくれ。後、後方警戒も少しな」

「分かった、任せて」


 コンも頷いて答える。


「よし、準備はいいか? 入って様子見ながら荷物をまとめて置いて戦闘に備えるぞ」


 十三は扉に手をかけて力一杯押すと、コゴゴッと音を立てて扉が奥へと開く。

 中は薄暗く明かりがないと見通せない。ゆっくりと中を注視しながら入っていくと後ろで扉が閉まった。


「やっぱり中のボス的なの倒すまで出られないやつかな」

「そんな感じだね」


 すると、ボボボッと壁に火が灯った。


「明かりだ。魔法かな?」

「荷物は壁際に置いとこう」


 荷物を置いて部屋の奥に目を向けるとソレはいた。


 長い耳、赤い目、もふもふな毛、ウサギだ。そのサイズを除けばだが⋯⋯


「うっ、なんか気もち悪っ⋯⋯」


 ウサギは愛らしい三〜四頭身ではなかった。二mほどで15頭身くらいある引き締まった筋肉質の隻眼のウサギだった。

 鋭い目つきで人参をかじっている。


「何だあれ⋯⋯足の筋肉」

「体のバランスおかしすぎじゃない?」


 聞こえたのかピクリとこちらに反応して立ち上がる。

 品定めでもするかなのようにこちらを見た後、消えた。


「!?」


 後ろを見るとさっき置いた荷物の所にウサギはいた。

 十三の額から汗が流れる。


(臨戦態勢に入っていなかったとはいえ、一瞬見失った⋯⋯こいつ⋯⋯速い)


 ゴソゴソと荷物を漁っている。どうやら先程倒したウサギの人参が目当てのようだ。見つけたらしく、取り出すと同時にかじりつき横にあったビニール袋に目をやる。


(あれは解体したウサギが入ってるやつ⋯⋯)


 それを持ち上げて匂いをかぎ、ゆっくりとこちらに向き直る。


 ゾクッ!


 とんでもない殺気を放ち始めた。


「来るぞ! 月穂! 俺の後ろに隠れろ!」


 ウサギは首を斜めに傾げた、と思った瞬間その場から消えた。

 十三は瞬間、拳を左に突き出すと、ドカン! と激しい音がなる。

 ウサギと十三の拳がぶつかり合っていた。


(見えてるぞ、っていうかそんな殺気撒き散らしてたら何処にいるかわかるからな)


 ウサギはバックステップで壁まで飛ぶ。

 防がれると思ってなかったようでビックリしているようだ。


「何だそんな驚いた顔して? ここにはお前と張り合うような奴は居なかったのか?」


 しっかりと気を練り直した十三は不動の構えをとる。

 少し重心を低くし、だらりと両手を下げる。

 スピード勝負と思っていたが受けに徹する事にした。

 スピードはやや分が悪い為、スキをつかれて月穂が狙われないように受け主体とカウンターに切り替える。


「コン、アイツの持ってる人参の相手、頼んだぞ。さらに月穂にも攻撃がいかないように気をまわせるか?」


 ドン! と胸を叩くコン。


(まだ一度も一緒に戦ったことなんかないし信頼を築く時間もなかった。

 なのに何故か任せられると思える⋯⋯

 ほんと一体何者なんだこの大根は?)


「じゃあウサギは俺がぶっ倒す」


 その時、驚いて様子を見ていたウサギが動いた。

 十三は重心を下げ、腕を交差させて頭の上に持っていく。と同時にウサギが上から天井を蹴って反転し、かかと落としを放ってきていた。

 ズドン! と衝撃と共に十三の足元が少し凹む。


(こいつが最初の階層のボスって⋯⋯何かの間違いじゃないのか?

 本来この探索は一人でするんだろ?

 母さんや美沙さんはこれに一人で勝ったのか?

 流石に無理だろ!)


 交差した腕を押し上げてウサギを弾き返すと、ウサギはその力を利用してクルクルと後方に回転しながら一度離れる。


「仕切り直しだウサギ」


 ウサギはまたも首を斜めにカクンと傾けるとその場から消えた。

 十三は直ぐに右側に防御の姿勢を取る。インパクトの瞬間にウサギはまたも消えた。天井を蹴り反対側の壁へと跳躍し、さらにその壁を蹴って左側から振りかぶってくる。


(フェイント! だからなんでそんなに戦い慣れしてるんだよ!)


 左の防御を固めようとした瞬間、ウサギは手に持ち替えていた人参を投げてきた。


(!? 前のチビウサギと同じ手!)


 喰い付こうと飛んでくる人参に防御から手刀へと切り替えようとした瞬間、何かが割って入った。


 コンだ。


 コンは飛んできた人参を下から蹴り上げた。

 天井近くまで蹴り上げられた人参は苦痛に叫んで下を睨む。

 人参はそのまま天井を蹴ってコンの頭上へと強襲すると、コンも地面を蹴り空中戦に持ち込む。

 コンの右手と人参の右手が空中でぶつかり合うとその衝撃で双方弾けとんだ。

 着地して睨み合う人参と大根。


(すげ⋯⋯とりあえず戦闘は大丈夫そうだな)


 と考えると同時に人参を防がれて少し動揺するウサギの拳を掴む。


「動揺したな、腕の振りが鈍ったぞ」


 掴んだと同時に右手を顔面に振り抜き、吹っ飛ぶ胴体に蹴りもお見舞する。

 体幹を鍛え上げ、どんな体制からでも攻撃や防御を行える古武術ならではの流れるような動き。

 ウサギは壁際まで吹っ飛んでいく。


 口から血を滲ませながらこちらに頭を上げて立ち上がろうとしてくるウサギは目を見開いた。

 十三の後ろにいた月穂が追撃で《光牙》を放っていたのだ。

 気づいた時にはすでに遅く、避けようとしたが右の太腿を撃ち抜いた。


 「勝負あったな、もうお前に自慢のスピードはない。

 三対二の複数戦闘だということを一瞬忘れてしまってたんだろう? 残念だがここまでだ」


 ウサギもそれは理解したのか、凄まじかった殺意ももうない。

 後ろを見るとコンの方もケリがついていたようで、人参は地面に転がっている。コンは近づいて人参から紫の欠片を取り出してこちらへ向かってくる。


 十三と月穂は荷物を背負うとウサギの方へ歩き出す。

 横まで来たところで立ち止まるとウサギは観念したのか目をぐっとつむった。


「強いなお前、またここに来た時はタイマンでやろうな。

 俺達は先へ行く。それまで鍛え上げとけよ」


 と言って肩をポンと叩いて横を抜けていく。

 最初ウサギは理解できず困惑した。

 ここでの敗北は死。欠片を抜かれて負けた相手に魔素が譲渡される。

 十三の意図を理解したのか、死を覚悟して消えていた瞳の光が戻る。


「ギュイッ!」


 ウサギは後ろから声をかけると、足を引きずりながら十三の前まで歩いてきてそのまま手を伸ばす。


「握手か? 分かった」


 十三が手を握るとその瞬間、手を通して薄い紫の煙がウサギから流れ込んだ。


「え? お前!?」


 最初は少し焦ったがウサギに敵意はない。そして、欠片を砕いた時に吸収される紫の煙と同じ感覚が流れてきた。


「欠片を割らなくても譲渡出来るのか? でもお前、それって自分の力を失う事になるんじゃないのか?」


 ウサギは十三を見つめる。その目には固い意志が灯っていた。

 煙が流れきるとウサギは縮んで前に倒したウサギと同じくらい小さくなっていた。


「そうか、また鍛え上げるんだな。やっぱり強いなお前。次に会う時が楽しみだ」


 十三は拳を突き出した。

 ウサギは何のことか分からないようだったので月穂に手を出してもらい拳を合わせて見せる。

 それを見たウサギは十三に力強く拳合わせ、出口の方を指差した。


「またなウサギ!」


 そのまま先に進み始めた十三の背中をじっと見つめて小さく頷いた。

もし少しでも興味を持って貰えたらブックマークや星評価等頂ければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ