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Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
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大根と涙

賞への応募にあたりサブタイトルを変更しました。

 二度目の戦闘を終えて少し息をつく。

 月穂は少し憂鬱になっていた。何故ならこれからウサギを食料として持っていく作業があるからだ。


「サバイバル本のお世話になる時だな」

「⋯⋯」

「解体は食べる前にするから血抜きと内臓処理して持っていこう。

 大丈夫、俺が担当する。田舎だから昔からイノシシとか鶏とかの処理作業は母さんや爺ちゃんとたまにしてたから。でもウサギは初めてだから本で確認しながらするよ」

「ありがとう、ごめんね少し慣れたら私も必ず頑張ってやるから」

「あぁ、分かった。でも無理しなくていいから」


 十三は本を確認してから処理作業を手際よく終わらせて、小さい袋に入れてカバンにしまった。


「野菜と違って日持ちしないから後で食べてしまわないとな。よし、じゃあ進もうか。

 ここまで約一時間、あまり進んでないのに二度の戦闘か、それも荷物背負ったまま⋯⋯ゆっくりはしてられないな。

 探索スピードも考慮しとかないと一週間地下生活とかゴメンだ」

「そうだね、三日間を超えると気が滅入るかも。贅沢だけどやっぱりお風呂とか入りたいし⋯⋯」

「風呂⋯⋯地下温泉とか湧いてないかな?」

「温泉! いいね」

「探索に明るい希望もないと気が滅入るから温泉発見も目標に頑張ろうか」

「賛成ー!」


 プラス思考を少し盛り込み、新たな目標を掲げて探索に挑む。


「モンスターの種類や生態系が全く分からないのはやりにくいな。

 前後に並んで警戒を分担するより横に並んで行こう。後ろの警戒は難しいからお互いフォローしながら行こうか」

「うん、分かった」


 戦闘スタイル上、十三が前、遠距離攻撃と支援の月穂が後ろが定番イメージだが、前に進みながらの後方警戒はかなり難しい。

 初戦が後方からだっただけに怠るわけにはいかない。

 十三は二人で後方も警戒しながら、有事にはすぐ後ろにも対応出来るよう、横並びで進む事を提案した。

 月穂は簡易地図の作成も担当しているので十三が警戒網を広めにカバーする。


「今の所は分岐少ないね、二ヶ所あっただけで一つは行き止まりだったし」

「良い点と悪い点と半々だな、分岐だらけの迷路だと歩行距離がかなりキツくなるけど、隠れる場所がその分ほとんど無い」

「隠れたり出来ないのはちょっと厳しいよね、戦闘回避はまず不可能」

「試練の為のダンジョンと祠みたいだし、逃げずに経験を積めってことかな?」

「うまく隠れる経験も積ませて欲しいよ」

「隠れるにしてもこの派手な髪の毛の色⋯⋯どうにかならないかな、目立ちすぎるよ」


 などと気を張り詰め過ぎず小声で話しながら少しゆっくりめに歩いていく。


 その後、三回目の分岐路に差し掛かったたころで座っている大根を見つけた。

 意味不明な情景だったので目を擦ってもう一回確認し直した。

 やっぱり大根が座っている。

 向こうは気づいているのかいないのか分からない。


「何だあれ、膝抱えて座ってるぞ」

「なんか哀愁漂ってるね、嫌な事でもあったのかな?」

「もしかしたら大根社会も大変なのかもな、ってそんな訳ないだろ! ⋯⋯あるの?」

「わかんないよ⋯⋯

 ねえ、あの大根なんか涙目になってるような気が⋯⋯」

「⋯⋯」

「どうする?」

「いや、どうするって言われても⋯⋯あっ」


 どうやらこっちに気づいたらしい。

よっこらしょ⋯⋯とでも聞こえるように立ち上がる大根、そして目の涙を拭った。

 少し観察するようにこちらを見てスタスタと壁際に移動してまた膝をかかえて座りこむ。

 手の部分に当たる根を動かして先の道を指す。


「え? 何? 行けって事?」

「みたいなジェスチャーだけど⋯⋯」

「どっちにしろ進まないといけないんだ、警戒最大で行くぞ」


 警戒しながら恐る恐る横を通り抜けてみる。

 大根は動かない、こちらを見てもいない。

 結局、何事もなく通り抜けた。


「マジで何だったんだ?」

「何か辛いことがあったみたいなのは何となく分かるけど⋯⋯言葉通じないだろうし聞けないよね」

「⋯⋯」


 そのまま立ち去ろうとした時、後ろで物音がした。


「!」


 振り向いて戦闘態勢をとる。

 さっきの大根が立ち上がっていた。


「くそ! 油断誘ってたのか? やっぱり戦うのか!」

「待って! 何かしてる」


 大根はくるりと後ろを向いて背中を見せて手でこちらを指して、その後自分の背中を指している。


「? 何だ?  背中?」


 リュックを背負うようなジェスチャーをして十三を指している。


「もしかして⋯⋯十三リュックの中の大根?」

「どういう事だ? 大根出せばいいのか?」


 リュックを見ると上から葉っぱが飛び出していた。


(あぁ、これに気づいたのか)


 大根は両手を前に差し出している。


「渡せってことか?」


 大根の目的は全く分からないけど、恐らくリュックの中の大根を渡して欲しいのだろう。


「渡してもいいんじゃない? 戦闘する気は無さそうだし」

「んー、まぁ⋯⋯」


 警戒は解かないままリュックを降ろして中から大根を取り出す。

 ピクリと手を差し出していた大根が反応する。そして目からポロリと涙を流す。

 十三はゆっくり近づいて自分の持っている大根を、差し出し両手に乗せた。

 ギュッ! と大根はそれを抱きしめた。プルプルと震えている。

 暫く抱きしめていた後、こちらにその大根を差し出してきた。


「受け取っていいのか? 見る限り知り合いか家族とかだったんじゃ?」


 ぐっ! とさらにこちらに差し出してくる。


「分かった、受け取るよ」


 十三はすでに警戒をある程度解いていた。受け取ってリュックに入れると大根は一礼した。

 それを見て十三と月穂も一礼する。


「行くか」

「うん、じゃあね大根さん」


 踵を返して先に進む事にする。

 曲がり角まで来たときふと振り返ると涙を目に浮かべて震えて立っている大根が見えた。声を押し殺して泣いてるようだった。


(あぁ! くそっ!)


「なぁ⋯⋯来るか?」


 余りに辛そうな大根を見ていたらつい言葉が出た。


「十三⋯⋯」


 大根は大きく目を見開いて一歩前に出たが、思い立って止まった。


「月穂、こいつ連れていってもいいかな? なんかほっとけないよ、微妙に責任みたいなのも感じるし⋯⋯」

「うん、良いと思うよ。ただの直感だけど」

「決まりだ。なぁ、ってことだがどうする? 大根」


 不思議そうにこちらを見ていた大根は、涙を流しながら歩いてきて目の前で止まり深く一礼した。


「OKってことでいいよな。俺達はこれからここの最深部へ向かうんだ。その先はどうなるか分からないけど。

 それと、厳しい様だけどまだ信用した訳じゃない事は分かってくれ。もしかしたら俺達に復讐とかを企んでいるのかもしれない、くらいには警戒しているから。

 それでも一緒について来るならかまわない。

 ってことで俺は十三、宜しくな」


 っと言って手を差し出す。

 すると泣きながらコクコク頷いて握手をしてきた。

 月穂も同じように手を差し出して握手する。


「私は月穂、宜しくお願いしますね大根さん」


 大根は両手で握手してくる。

 行動、仕草、人文化の理解、どれも大根が自然に会得しているものとは到底思えない⋯⋯異常だ。

 その異常な大根は今は歓喜で涙を流しながら飛び跳ねている。


「大根て呼ぶのもアレだし、安直だけど名前コンでいいか?」


(この先ほんとどうなるか全く分からないけど、あんなしょげてたらなんか放って行けないよな⋯⋯

 知り合いっぽい大根を倒しちゃってたし)


 実は十三と月穂の肩と頭には召喚獣の柘榴とアクアがいる。

 柘榴の時空魔法でお互い以外には認識出来ない様にしているのだ。

 二匹は目線を交わして頷き合う。イレギュラー事項に触ってきそうな一件、要警戒だと。


 その後、大根のコンに今までの事とこれからの事を話しながら歩いていた。

 一通り話し終えると大根は胸を張って先頭を歩き始めた、自分が案内するよと言わんばかりだ。


「じゃあお願いするわねコン」


 コンはポスンと胸を叩いて前に進む。

 ダンジョンに入って約二時間、大根が仲間になって先へ進むと誰が想像できただろうか。

 不思議な一行はさらなる地下を目指して歩いていく。

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