初戦闘
すみません! 手違いでエピソード27が抜け落ちていました。
改めて投稿し直しました。
真ん中から裂けたカブに口が現れ、突き出された十三の拳に喰らいつこうとする。
寸でのところで拳を止め、ガチン! と口が閉じられたカブの下から膝蹴りを食らわせる。
パキッ! という音とともにカブが縦に裂けた。
(あれ? 案外脆いな)
しかし、大根はそのまま逆の根に持っていた尖った石をカブを死角に利用して突き出してきた。
(!? この大根、少し戦い慣れしてないか?)
突き出していた拳をくるりと回して石の突きをいなす。
そのまま態勢の崩れた大根の横っ腹に蹴りを思いきり入れた。
バキッ! とこちらも思ったより脆く上下二つに割れた。ドサリと落ちた上半身の割れ目に小さく光る物が見えている。
(何だあれ?)
暫くしてもピクリとも動かないので先程の蹴り一発で息絶えたのだろう。
近づいて光る物を見てみると小さな宝石の欠片の様だ。恐る恐る引っこ抜いてみる。
キラキラと紫に光る黒曜石のような小さい欠片は少し力を入れると、パキン! と砕け散り、中から薄い紫の煙の様なものが吹き出し十三にまとわり付いた。
「うわ! なんだこれ!? クソッ、触れない!」
「十三!」
初戦闘であっけにとられて見ているだけだった月穂が声をあげて駆け寄る。
「大丈夫!?」
(さっきの煙、十三の身体に入っていった! 毒? まさか呪いとかじゃないよね!?)
「あ、あぁ⋯⋯大丈夫、何ともない」
体のあちこちをさすったり動いたりして確認してみるが異常はないようだ。
大根に目を向けると先程まであったつぶらな瞳が無くなっている。見た目はただの大根だ。
カブの断面も確認してみると同じような欠片が見えている。
今のところ謎の煙の影響での異常は無い。
意を決してカブの欠片も抜いて砕いてみる事にする。
「月穂、ちょっと離れてて。大丈夫、少し確認したいんだ」
「本当に大丈夫なの? 毒とか呪いとかじゃない?」
「あぁ、今の所何ともない。もし万が一何か起これば直ぐに撤退する」
「⋯⋯分かった」
(この石⋯⋯まさかとは思うけど。まぁ情報を得る術もないから仮説のまま確認するしかない。
まだここはダンジョン入り口だし、何かあれば即座に撤退できるから試しに検証するなら早い今のうちだよな)
意を決して、パキン! と欠片を砕いた瞬間、また薄い煙が現れて十三に吸い込まれていった。
その瞬間、体内の魔素の流れに乗って何かが一緒にかけ巡り馴染んでいくのを感じる。毒どころか少し力が湧くような感覚だ。
(やっぱり、予想通りかな?)
心配そうな月穂に向き直る。
「これたぶん、ゲーム風に言うと経験値とか言うやつなんじゃないかな。
倒した相手の魔素が体の中をかけ巡って吸収される感覚、少し力が湧くような感じ。
この欠片を砕いた相手に向かって、生命活動の為に練りこまれていた魔素が流れ込み力になるっていう感じ、なのかな⋯⋯」
「ほとんどファンタジーゲームじゃないそれ。まぁ、魔素や魔法がある時点で皆まで言うなって感じだけど」
「そして、これ⋯⋯」
十三が大根とカブを指して言う。
「食料⋯⋯だよな」
「⋯⋯」
さっきまでこっちを殺そうと動き回っていた野菜モドキ。欠片を抜いたら目や口はなくなり、完全に見た目は野菜だが、気持ちが食料だと認めたくない。
「この先、食料がまともに手に入るのかも分からないし、見た目が食料のこれは確実に持っていくべきだと思う。気持ち悪いけど」
「うん⋯⋯だよね」
この先の食料事情が分からない以上答えはもう出ている。
渋々、十三は大根を。月穂は恐る恐るカブをバックパックに入れた。
「そういえばこの大根とカブ、後ろから来たよね?」
「あぁ、恐らく辺りに生えている草のうちのどれかだったんだろう。これからはさらに気をつけて行かないとな」
(魔物、モンスターか。そして恐らく倒した相手の魔素を吸収し力にする経験値。ここまで来るとやってみたくなるなやっぱり)
「月穂、今からさらに試したいことがあるんだけど⋯⋯もし失敗して何も起こらなかったら他言無用、記憶からそっと消して何も言わないでおいて欲しい」
「? よく分からないけど、いいよ」
目をつむり、手を前にかざしてからスゥーッと息を吸い込んで呟いた。
「ステータス⋯⋯オープン!」
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
静寂が空間をを支配した。
十三は少しプルプルしながら涙目になる。
(ちくしよう! そこは定番ファンタジー小説じゃないのかよ! 展開されたら少しカッコイイとか思って人前でやった自分の勇気を返せ!)
十三は誰にでもなく心の中で叫び、そして静かに言った。
「⋯⋯行こう」
「⋯⋯」
月穂は心中を察し、約束通り何も言わずに歩き始めた。
暫く沈黙のままダンジョンを警戒しながら進んでいると、
「ギュアギュア!」
という何かの鳴き声の様なものが聞こえた。手を月穂の前に差し出して静止する。隠れる場所なんてない。
気を練り警戒を最大レベルまで上げる。どうやら向こうも気づいたらしい、静かに近づいて来た。
月穂にジェスチャーで後ろを警戒する様に伝える。とうとう視界が届くところまで来た。
「ウサギ⋯⋯か」
長い耳が見えた。普通のウサギかと思ったが違う。二足歩行で右手に人参を握っている。
「やっぱりモンスターだよな、ウサギは二足歩行で人参を手であんな掴み方しない」
「ちょっと愛らしいけど、騙されたらダメだよね」
「向こうはヤル気みたいだしな」
ウサギは足の筋肉を引き絞るようにしてしゃがみ込み、ドン! と前に跳躍した。
「! はやっ!」
受けずに半身になって躱そうとした。するとウサギが握っていた人参が裂け、口が現れた。
「ギュアギュア!」
「さっきの鳴き声はウサギじゃなくてお前かー!」
ツッコミながら身体をギュルッ! と捻り回避した。
「あぶなっ! ツッコミ入れてる場合じゃない。月穂! こいつ速いぞ!」
「大丈夫! ギリギリだけど見えてる」
ウサギはくるりと反転し、さらに跳躍して来る。
(直進は読みやすい、カウンター入れてやる)
「ギュアギュー!」
「うおっ!」
跳躍の勢いのまま視界を潰すように手に持った人参を投げてきた。
「ウワッ!?」
身体をいなして人参を躱すと、予測していたかのようにウサギがそのスペースに蹴りを入れてきた。
ドン! と蹴りの衝撃を右手に受けた直後、前蹴りを出してウサギの胸を押して距離をとる。
「重っ! だから何でこいつら戦い慣れしてるんだ!?」
出来た距離を縮めながらお互い様子を見る。そして十三から仕掛けようとした瞬間、後ろから音もなく人参が飛んできた。
「しまっ!」
ドシュッ!
衝撃と痛みを覚悟したが、肩に来るはずのダメージは来なかった。
音の正体、それは月穂の放った水魔法の【水牙】が人参を穿った音だった。
モンスター達が十三に気を向けている間、素早く魔法を撃つ準備をしていたようだ。
「ナイス! 助かった!」
奇襲の失敗にウサギも驚いている。その一瞬を見て十三は一歩で距離を縮め拳を振りぬいた。
バガン! と凄い音がしてウサギが吹っ飛び壁に張り付いた。
「ふぅー、肝が冷えた⋯⋯月穂、ありがとう」
「怖かった⋯⋯初めて動くものに魔法撃ったよ⋯⋯十三に当たらなくて良かった」
「ナイスアシストだった、あれが無ければ間違いなく怪我してたよ」
「格闘は無理だけど、後方支援なら任せて、いくつか魔法は教えてもらってるから」
頼もしい限りだと思いながら、人参の割れ目から例の石を取り出す。
ウサギのはどこに在るんだろう? と思ったら胸の辺りから石が浮き出てきている。
(死んだら体外にでてくるのか?)
摘むとポロリとすぐ取れた。
「月穂、今度は君が使ってみてくれ」
「⋯⋯分かった、害は無さそうだし、力が底上げされるならやらない手はないよね」
十三から石を二つ受け取ると一つを摘んで割った。薄い煙が月穂へと吸い込まれていく。
「あ、ホントだ。魔素と一緒に流れていった」
もう一個のウサギのほうの石も割って煙を吸収する。
「確かに少し力が湧く感じだね、これが他の生物の経験を得るっていうことなのかな」
「この石は今の所100%魔物に入ってるな。月穂はファンタジー小説や漫画、アニメは見る?
「小説は見てないけど漫画とかアニメはたまに見ますよ」
「あのキラキラした石、たぶんそういう世界で魔石とか言われるやつだと思う。
多くは魔法が込められていたり、エネルギーが内包されていたりといろんな活用用途があるように描かれる魔法の石。想像の産物だと思ってたけど⋯⋯」
「割れて栄養になって消えちゃったね⋯⋯」
「今の所は力になりそうだから全て回収して、分けながら割って吸収していこう」
「うん、賛成」
「あと⋯⋯これもやっぱり食料だよな⋯⋯」
「⋯⋯ウサギさん」
暫く動かなくなったウサギと人参を見つめる二人だった。