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Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
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進展と限界値

 月穂は朝の鍛錬と座学が終わった合間に正源に声をかけた。


「すいません、ちょっと相談したいことがあるんですけど」

「何じゃ? 魔法関係なら美沙さんに聞くほうがええぞ?」

「いえ、夢についてです」


 月穂は掻い摘んで内容を話した。


「儂の夢では経験はないのー、それにいくら魔法といえど未来を覗くのは今の所不可能じゃろ。

 直近の目の前の事象ならともかく、遠い未来など確定しておらんのじゃから」

「てすよね、やっぱりただの現実との混同と近くの十三さんとの共鳴が可能性は高いてすかね?」

「推測でしかないがそんなところじゃろう」

「ありがとうございました」

「力になれぬやもしれぬが、また何かあったら何でも聞いてきなさい」

「はい」

「午後の座学、頑張るんじゃぞ」


 正源を見送り居間での座学に向かう。


(やっぱり分からないか⋯⋯もしかしたら今後の夢の中で何か分かるかもしれないしね。

 よし、切り替えていこう!)


 夢に答えがある事を期待して気持ちを座学へ向ける。覚える事は山ほどある、立ち止まってなんかいられない。




 月穂の座学と魔法、十三の真呼吸維持とヨガ。

イメージと知識など精神的な前者

身体感覚と持続など肉体的な後者


 ひたすらに続けて1週間、お互いに少し変化が現れる。


 まずは十三。

 ドライアイスチャレンジとでもいうかのような鍛錬法でイメージと真呼吸の持続を主に続けていた十三。

 相当集中して毎日やっているがピクリともドライアイスの冷気は動かない。


(皮膚呼吸のイメージだけじゃダメなのか? 何だ、後は何ができる? 呼吸の仕方やイメージの仕方、体制、やれそうな事はほぼやり尽くしたぞ⋯⋯)


 情けなくも何度か諦めそうになったが続けてきた、その成果が全く目に見えてこないのはやはり堪える。深層探索開始までという時間制限もあるから尚更だ。


(はーっ⋯⋯ずっと座禅してると体が固まる、ストレス発散も兼ねて全力で演舞でもやるかな)


 短パンのまま演舞をしようとそのまま内気功を練り込んで巨大桶から立ち上がろうと動く直前、その瞬間に冷気が揺らいだ。


(!? 冷気が今動いた? 立とうとしたからか? いやまだ動いてなかったぞ)


 肌がよりヒンヤリとして桶の冷気が少し減っている気がする。


(まさか⋯⋯)


 内気功を切ってひと呼吸、もう一度気を練る。


 スウッ⋯⋯


 と少し冷気が肌につく。


「こ れ か ー!!」


 あまりの嬉しさに絶叫する十三。巨大桶ドライアイスチャレンジを始めてからついに糸口を発見した。

 気功を使う際に人体には気孔という皮膚機関が存在するが通常はほぼ使われておらず閉じている。

 だが内気功を練り体内に循環させたことで気孔が開いたのだ。


「よっしゃー! 後はこれから持続へと繋げるのみ! やってやるぞー! ふはははは! ファーハハハハハ!」


 道場に続く廊下にちょうど様子を見に来た朱莉がビクッとしてそのまま踵を返す。


「アニ⋯⋯コワレタ⋯⋯」


 十三はその後の夕食で朱莉と春菜を見るとビクッとして目を逸らされた。

 妙に大人しかったのが不気味だったが触らぬ神に祟りなし、と何も聞かずに食事を終えて部屋に帰る、自分のせいとは知らずに⋯⋯



 一方、月穂はぶ厚い基礎の本数冊の覚えにくいところを数度読み直し暗記していた。言語、体系の知識はすでにほぼ頭に入った。

 魔法の行使も陣の必要がない簡単な初級位階は地下鍛錬で使用していた。

 水を撃ち出す魔法、風を起こす魔法、石を形成する魔法、物を温める魔法、光を灯す魔法、など危険はないものばかりだが、順調に適性を示し正しく行使出来ていた。


 今日からは魔法陣を使った攻撃性のあるもの、そして次のステップである中級二重複合魔法の為、複数属性の発動にむけての訓練が始まる。

 ここからは急激に難易度があがる。

 詠唱と同時に魔法陣を構築し、発動しなければならない。

 魔法の的確なイメージと詠唱、撃ち出す魔法の属性と威力や方向、形状などの図式と計算式等を魔法陣にする作業。

 無意識にできるぐらい慣れていないと実用レベルでは使えない。数をこなさなけばならないわけだ。その上で同時に、魔素を扱える絶対値と最大量を底上げしていく、頭と精神を酷使する鍛錬となる。


「さあ、月穂さん魔法陣を使った魔法の行使、伝えてた通り今日からやるわよ」

「はい!」


 十和呼に言われた月穂は危険の伴う魔法の使用に少しだけ緊張している。


「詠唱は暗記済みよね、それに伴う魔法陣も」

「覚えました」

「じゃあゲートを開くからそこに魔法を撃ち込んでね、制御出来ないと感じたらすぐに魔素の流れを断ち切ること、いいわね」

「はい!」

「では適正の高かった水と光からね、《水牙》と《光牙》よ」


 ふぅーっ、と息を吐き、魔素を循環させる。髪が銀色に煌めくと同時に魔法のイメージを固め詠唱を始める。


『星を包む母なる水よ 集い穿て⋯⋯《水牙》』


 詠唱に司る古代文字を短縮した魔象形文字を魔法陣の中に描き、そこに属性、威力、方向性、放出などの文字と計算式を一気に組み込む。


 手の前に発動させた円陣から魔法の真名を発した瞬間に中央に魔素が集中し、激しい勢いの水弾が放たれる。


 どうやら無事に発動したらしい。

 美沙と十和呼は感心したように魔法の放たれたゲートを見つめている。


「お手本にしたいくらいキレイに発動してたわよ月穂さん」

「流石は私の娘ね! やはりあなたの魔法適正は相当高いわ、良かったわよ月穂」

「ふぅー⋯⋯緊張したよー」


 基本の通りちゃんとできたようでホッと胸を撫で下ろす。


「次は《光牙》ね、ゲートは開けたままだから準備できたらいつでも打っていいわよ」


 開いているゲートを見つめ直して発動に入る。


『穢れ無き太陽の光を集め放て⋯⋯《光牙》』


 先程と同じように詠唱、そして魔法陣を組み立て真名を口にする。

 と同時に光弾が魔法陣の中央から放たれる。イメージより二割増しくらい威力が大きかった。


「月穂さんやっぱり光と水の適正高いわね、通常の魔法陣でこの威力」

「通常の?」

「それは応用編でまた教えるわ」

「今からは発動までの流れに慣れるのと、限界値の確認の為にひたすら魔法を打って頂戴」

「はい」


 この後、初級の《地牙》と《火牙》も難なく発動させるが、威力は水と光に比べるとだいぶ劣る。


「水と光か、まだ他の適正を見てないけど月穂は回復や幻術系が得意な感じかな」

「回復と幻術⋯⋯」

「追々分かってくるわ、とりあえず今は撃てなくなるまで初級魔法を使って」

「はい」


 その後ひたすらに月穂は魔法を撃ち続けた。


「もう無理で⋯⋯す」


 休むことなく打ち続けた結果⋯⋯23発。


「魔法維持もそうだったけど未特訓と経験でこれは異常だわ」

「私が初めて撃ち尽くした時は八発だったわよ」

「私は六。月穂はその約四倍⋯⋯銀髪効果なのかしらね」


 月穂は地面に突っ伏したまま数値の違いを聞いて、初めて自分の魔法適正の異常さを実感した。


(うぅ⋯⋯魔素は感じるのに⋯⋯これ以上循環維持できない⋯⋯地面冷たい⋯⋯眠⋯⋯)


「お疲れ様、そのまま少し寝ちゃいなさい。ここには魔素が流れてるから回復も早いわ」


 言葉が最後まで聞こえる前に月穂の意識は手放された。それと同時に髪の色がもとに戻る。


「さて、この適正異常、どう成長するのかしらね? 頼もしいけれど末恐ろしいわ」

「しっかり導いてあげないとですね」

「そうね、上級のその先へ月穂さんなら辿り付けるんじゃないかと思うわ。その下地と歩む向きは私達で可能な限り整えてあげましょう」


 十和呼は少し考えていた、現代に身体に変化が現れる程の魔素適合者が生まれた意味。

 身体に変化が現れた過去の偉人達の歴史的な記録、月穂がこの時代に生まれたのは必然であり、歴史に残る何かが起こるのではと思わせる。

 杞憂であればいいがどうしても不安が拭えない。例の夢を見て継承してきているだけに恐ろしい未来が、自分の子達の世代に破滅が起こるのでは⋯⋯と。

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