定期調査とボススライム
世界にステータス視覚化の魔法スキルが解放されたその日、自分の可能性を知った人々がこぞってパンゲアオンラインへ呼吸スキル獲得の為にログインした。
空間ダイブ型の仮想世界、今回の件で10億を超える同接を記録した。
その規模に耐え得るサーバーやシステムをどこでどう維持しているのか、色々な企業や国が調査を試みているが全容は全く掴めなていない。
人々はそんな事よりも自身のスキルや属性などに湧き上がっていた。
そんな中ミストラルも一度ログアウトして現実世界でステータスを開いた。
病に伏しているせいもあるだろう身体能力の低さ、そしてスキルには【仙人の呼吸】【賢者の資質】【???】、称号【耐える者】
「称号はルーシェのスパルタ教育とこの病に耐えてきたからかな⋯⋯スキルは1つ見えないや」
そして上の方にある状態の所を見るとそこには【重病】とあった。
「やっぱりマリアさんの言ってた『万能薬』しか⋯⋯」
今では9割方マリアの提言を受けようと思っている、闇組織の一員になるのと引き換えに。
その前にルーシェ(ルシフェル)に報告と助言を貰おうと思っていたがあれから彼のログインは確認できていない。
当のルシフェルは十三がダンジョンに潜り続け調査を続けていた為ログイン出来ないでいた。
〔オイコラ! 今日こそはやらせろよ!!〕
「善処するよ」
〔てめー! なんだその返事は! やらせる気ねーだろ!!〕
〈十三君も色々大変なんだよ、困らせちゃダメだろルシフェル〉
〔うるせーな覗き魔は黙ってろ!!〕
〈ぐっ⋯⋯だからあれは不可抗力だと⋯⋯アイシス、お前からも何か言ってやってくれよ〉
〚ルシフェル、流石にこの世界の状況でダンジョン無視は出来ないわ。
ここでの生活が崩れたらゲームなんて出来なくなるわよ〛
〈そうだぞ! ありがとうアイシス〉
〚どう致しまして覗き魔さん〛
〈ちょっ!?〉
〔むぅ、お前の言うことは確かに一理あるな⋯⋯ゲーム環境が無くなるのは困る〕
〚あら、素直ね気味が悪い〛
〔うるせー〕
〈俺やっぱり今後もずっとこの扱いなのかな⋯⋯〉
ミカエルの名誉回復はまだ当分先のようだ。
「この騒がしい同居状況も大分慣れたけど戦闘中と他人がいる時だけはほんとやめてくれよ?」
「傍から見たら頭おかしい人になっちゃうよね、私も気を付けないと」
「さて後は階層ボスだけだな、爺ちゃんちゃんとあのゴーレム倒してくれたらしいから良かったよ、もう絶対戦いたくない」
「昨日の調査の時はボスゴーレムVer『吟遊詩人』だったね、あの変幻自在の音魔法は面倒だった」
「どれだけボスのバージョンあるんだろうな?」
{ボスゴーレムのバージョンは情報がある限り多種多様に生成可能です、その多くは人の世界の様々なマスタークラス、職業などを模倣したものが多く、その特性を利用して冒険者達の試練と訓練に利用されて広く利用されていました。ここもその場所の1つだと推測されます}
「凄い性能だな⋯⋯」
「今回はなんなんだろうね?」
「爺ちゃんに育てられたあの仙人モンクじゃなければ何でもいいや」
話をしているとボスゴーレムが小さく丸まった後に動き出した、その姿は⋯⋯石だった
丸いキレイなフォルムの石。
「???」
「なにあれ?」
「石⋯⋯っぽい」
「フォームチェンジに失敗したのかな?」
丸い石が一瞬揺れると鋭い突起を伸ばしてきた。
「うお!!」
「!?」
2人は同時に後ろに飛んで躱す。
「なんだあれ?」
「石に見えるけど⋯⋯ちょっとプルプル感が」
「まさか⋯⋯」
「スライム?」
突起を収めるとプルリと揺れた。
{ボスゴーレム【Ver スライムベイパー】です、ゴーレムの固体身体特性とスライムの流動身体特性、スライム亜種の中でもレア個体【気化】能力を持つボスゴーレムです}
「気化!?」
「固体、液体、気体の特性を持ってるってこと!?」
{その通りです}
「なんで毎回特別面倒そうなのばかりなんたよ!? おかしくないか!? 管理者出てこーい!!」
「あれどうやってダメージ与えるの⋯⋯?」
「たぶん物理は無効だと思う⋯⋯」
「魔法⋯⋯効くかな?」
「いつもの事だけどやってみるしかないよな」
「じゃあいつも通り光魔法から撃つね」
反撃に備えて水の障壁を張ってから即座に魔法陣を展開させ光魔法、水魔法、火魔法、風魔法と基本属性初級魔法を撃っていく。
スライムは何事も無かったかのようにプルンと揺れる。
最後に『迅雷の杖』をかざして雷撃を放つ。
雷撃はスライムのプルプルした身体に吸収されるように掻き消えていった。
「これもダメか、魔法はほぼ効き目が無いみたい」
「じゃあ次は俺の⋯⋯」
途中でスライムはまたも槍のような突起を伸ばしてきた、今度は複数。
月穂は後方へ飛び、十三はその間に入って拳で弾く。
バシバシと音を立てて弾いていく。
(防御はできる、スピードもさほど無い⋯⋯気を付けないといけないのは謎の気体特性か)
隙を縫ってオーラを拳に纏わせて打撃を狙う。
スピードはあまりないらしく思ったより簡単に打撃を打ち込むことが出来た。
しかし水を叩くように打撃は衝撃を流される。
間髪入れず連撃を叩き込むが結果は変わらずだった。
地属性は効き目が無さそうなので無属性の魔素を拳に纏わせてさらに打撃を打ち込む。
その瞬間、連撃が鬱陶しくなったのかスライムは身を震わせるとサァッ⋯⋯と空気に溶けていった。
「!? 気化!!」
完全に姿を見失った。
気配を頼りに構えを崩さず集中するが捉えることができずにいると⋯⋯
「気を付けて!! 呼吸を止めて!!」
「!!」
月穂の声で手で口と鼻を押さえる。
「私の魔瞳術で微かに見える! 動く魔素をトレースできてる!
気化した瞬間に十三の顔めがけて流れていったわ、たぶん体内侵入が目的よ!!」
(体内!?)
口と鼻を押さえながら十三はゾッとした、気化したスライムが体内から身体を攻撃するイメージ⋯⋯。
(洒落になんねー! こんなのどうやって戦うんだ!?)
「風魔法で流れを止めてみる!」
月穂は直ぐに風魔法で気化したスライムの魔素が見えるあたりを旋風で囲む。
「いける! スライムの動きを制限出来てる!」
「でもまだ有効な攻撃手段が無い⋯⋯」
スライムは風にまかれていたが直ぐ固体化し風を抜けた。
するとその体は一回り小さくなっていた。
「縮んだ?」
「違う! 空気中に微量残ってるよ!」
「分裂!? 片方は気体で!?」
「十三、これかなりヤバイんじゃないかな⋯⋯」
「月穂! 風の防護魔法を顔にかけれるか!?」
「分かった!」
直ぐ様月穂は薄い風の防護魔法を互いにかける。
「気体のやつの方のトレースだけ続けてくれ!」
「うん! 今は気体側は固体の少し前方の宙に漂ってる」
「オッケー、こっちから迂闊に手を出せないから受けにまわる」
(気体の制御に効果のあった風系は俺は使えない⋯⋯どう立ち向かうか)
風魔法で自由を少し奪われたスライムは警戒しているのか襲ってきていなかったが、痺れを切らしたのか固体が動いた。
「気体は動いてないわ!」
(よし、なら固体は受け流しておいて気体がどう動くか見せてもらおうか)
飛びかかってきた固体はさっきと同じ様に槍のように触手を伸ばして攻撃してくる。
「遅い上にそれはさっきみたぞ!」
手の甲で斜めに弾いて受け流していく。
暫く同じ攻防が続いたところで月穂が叫んだ。
「スライムの右斜め後ろから気体!」
声を聞いて直ぐに固体を弾き、後方へ飛ぶ。
「同じ方向から追撃してる!」
(やってみるか)
十三はオレンジ色のオーラを手から扇状に放出させる。
物理効果のあるオーラはスライムの気体の進行を防いだ。
「凄い、気化スライムが止まってる!」
「でもダメージ与えるのは無理そうだ⋯⋯」
月穂は十三が防御に成功したのを見て少しだけ安心する。
魔素をトレースしていた月穂は1つの点を不審視していた。
「さっきから魔素は追えてるけど通常あるはずのコアになる魔石の反応が無いの、どうなってるのあのスライム⋯⋯」
「魔石が無い? そんなやつ今まで見たことないぞ⋯⋯おっと!」
固体が触手を増やして突き刺してくるのを躱す。
「ぐあっ!」
伸ばしてきた触手の先端が少し膨らみ、そこから木の根の様にさらに細い触手へと無数に枝分かれしたのを方に数本受けてしまった。
「大丈夫!?」
「っ痛⋯⋯深くはない」
「今治療を⋯⋯」
その時気体側がバラけて散り散りに少し集まった。
すると虚空から触手の槍が降り注いできた。
ズドッ!
十三は避けきれずに死角からの触手を被弾する。
幸い急所には受けていなかったが不意の方向からの攻撃に体制を崩す。
それを見るとスライムは固体側も気化させた。
スドドドドドッ!!!
全方位の虚空から槍の雨。
「十三!!!」
砂埃に覆われて状況が見えない。
「十三!! ダメ⋯⋯治療しないと!」
十三の元へ無意識に駆け寄ろうとする月穂にスライムの槍が向かう。
目の前に点になった槍が写った。
バキン!!
石を割るような音が鳴り響くと月穂へ向かった槍は明後日の方向へ飛んでいく。
砂埃の中心にはオレンジのオーラに包まれた十三が回転して槍を弾き折っていた。
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