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記憶魔法 過去邂逅②

「ミカド様、時間です団長室に集合して下さい」

「あぁ⋯⋯分かった」


 半年ほど前に魔王の拠点が南方にあるという噂が囁かれていた、狩人が魔物に乗った人物を森の奥深くで見かけたらしい。

 ミカドはその事実を確かめるべく偵察の任に赴くよう王国の近衛団長から命を受けた。


「失礼します!」

「入れ」

「あ、もう来てたのか皆」

「ミカドが最後だよ」

「いい身分たなミカド」

「アイシス、イリヤも早いんだよいつも」

「「あんたが遅いの!!」」

「何をやっている、始めるぞ」

「「「はい!」」」


 近衛団長がぐだりそうだった場を静かに引き締めて再度今回の偵察の任を言い渡す。


「以前より噂で流れてきていた魔王の拠点だが、複数の同じような人物の目撃証言が入ってきた。

 互いに接触のない人々から同じような報告が上がってきている為、噂で放置しておくには無視できない物になってきた。

 そこで少数精鋭、もし万が一魔王とかち合っても最悪逃げる事が可能であろうお前らのチームに依頼をする事となった。

 神速の火雷神イリヤ、天虹(てんこう)の賢者アイシス、光輪の英雄ミカド。

 改めて調査の任を申し与える」

「「「はい!!!」」」

「必要なのは魔王の打倒ではない、情報だ。

 よって死ぬことは許されん! 生きて情報を持ち帰れ!」

「「「はい!!!」」」


 そのまま団長室を出た3人は表に用意された地面から少し浮いて留まっている石の船に乗り込み南方の森へと出発した。


「おー、さすが国の石舟! 揺れが無い!」

「ほんと一般用は揺れるもんねー」

「船酔いなど鍛え方が足りんのだ」

「ハイハイ俺は軟弱ですよ」

「自覚はあるんだな」

「一応国の英雄なんですけど」

「一応な」

「イリヤがいじめてくるんだけど、アイシス助けて」

「あははは、イリヤには敵わないって諦めて」


 若くしてずば抜けた戦闘能力を開花させたフリーランスの傭兵チーム【エルド】。

 数々の依頼や戦闘で群を抜いた実力を見せてきた実績を認められ、チームのリーダーであるミカドは英雄の称号を国から授与された。

 国に属すれば高位の役職と給与で迎えられる3人だが、偏った政治や権力に利用されないよう自分達の正義と信念を貫く為、国から称号を得た今も個人で依頼を受けている。


「魔王か、悪魔のような姿をした大男と言われてるけど実際どうなんだろうな?」

「滅ぼされた国の生き残りの証言だとそんな感じだよね」

「魔物の群れと共に現れ、国を踏みつぶし消えていく⋯⋯⋯ほぼ災害だな」

「金品などを持って行く事もなくただ蹂躙し通った国を消していく、意思を持って国をピンポイントで狙い今の所生き残った国は無い。

 国のトップは戦々恐々だろう」

「だろうな。

 今回の依頼は今から行く転移ゲートから通常だと5日は未開の森を進む、俺達なら2日もいらないだろう。

 間に一つ村を挟むからそこで1回休憩だ」

「オッケー、ご飯はそこで食べよう!」

「アイシス⋯⋯相変わらず飯ばっかだ

な」

「ご飯は大事だよ! お腹空いたら戦えないもん」「それはそうだが、何かあるごとに飯だからな⋯⋯」

「色んなところの美味しいご飯は食べないと罪だよ、世界の美食に失礼だよ!」

「分かった分かった! 世界中の美味しいもの食べるのが夢だもんな、そこにある美食に失礼はダメだよな」

「分かればよろしい」

「はー⋯⋯いつもの如く緊張感の無い」

「イリヤは真面目さんだからねー」

「あんたらが不真面目なんだよ」

「ゲート着いたぞ、街まで一気に駆け抜けるからな」

「はーい」

「はいよ」


 石舟を降りて国にある3つのピラミッドのうちの1つへ入り、国のガードのチェックを受けてからその中心神殿にあるゲートへと入りそこから森の中をアイシスの上級魔法である支援魔法で速度強化して一気に抜ける。

 通常だと途中の村まで1日かかる距離を数時間で走破して腹ごしらえを済ませるつもりだった。

 しかし着いたその村は魔物に襲われていた。


「おい! 行くぞ!!」


 ミカドはアイシスとイリヤに声をかけると同時に村へと突っ込んでいった。

 中にはいると村は既にほぼ壊滅状態だった。


「コノヤロー!!」


 惨劇を目の当たりにしてミカドは血が一気に沸騰した。

 オーラを展開させ近くの魔物から蹴散らしにいく。

 一番近くにいたオークを殴り飛ばす、が障壁に阻まれて拳が止まった。


「ゴブリンメイジ!? 下級に属する魔物が障壁!?」

「ミカド! こいつら普通の魔物じゃなさそうよ!」

「見て、種族バラバラなのに陣形組んでる」

「訓練されてるのか!? 魔物が!?」


 1度下がってアイシスとイリヤの横につく。


「ゴブリンメイジもそうだけど予想しない攻撃が来る可能性が高いわ、気を抜かないで」

「分かった」


 ミカドはオレンジ色のオーラを解放し威圧をかける。


「雑魚ならこの威圧で散っていくだろうけど」

「そうはならないみたいね」


 驚くことに魔物達は微弱だがオーラを纏い威圧に抵抗していた。


「一体どうやって⋯⋯最下級の悪食ラットまでも⋯⋯」

「噂の魔王の配下ってわけね」

「今回の任務の元の情報、間違いなさそうだね」

「相手が誰だろうが関係ない! 行くぞ!!」

「ちょっ! もう⋯⋯援護するけど無茶しないでよ!」

「私も行く、アイシス付与つけて」

「分かったわ」


 指に灯した3つの属性が混ざり合い、古代語の詠唱と魔法陣と共に上級魔法である支援魔法が形成された。


【コアトルアロン】


 イリヤとミカドの身体を薄い膜が覆うと2人のスピードが数段上がる。

 元々スピードのあるイリヤはほぼ姿が掻き消えた。

 次の瞬間にはゴブリンメイジの首がズレ落ちて魔石がコトリと地面に落ちた。


「!?」


 オークは咄嗟にオーラの量を上げ突っ込んできたミカドに拳を合わせる。

 ぶつかりあった拳は衝撃波を産みオークの腕が吹っ飛んだ。

 そのインパクトの瞬間を狙って悪食ラットが地面スレスレをかけてミカドの足へと強襲する。

 ミカドは地面を踏み抜き地面を捲り上げて悪食ラットを吹き飛ばす。

 地面を踏み抜いて止まったミカドの頭上からコンドルの様な大きな鳥が弾丸のように回転を加えて落ちてきていた。


(避けれない、受けるしかないか⋯⋯)


 腕を上に交差させて衝撃に備える、が衝撃は来なかった。

 アイシスが風の刃でコンドルを切断していたのだ。


「ありがとうアイシス!!」

「気を抜かない! 数を減らすわ」


 右手の人差し指に光の属性を灯すと古代語で詠唱する。

 アイシスの掲げる手のひらひ中心に10を超える小さな魔法陣が展開される。

 当時に左手をかざして大きめの魔法陣を展開させる


『【ラトリトロウ アギル】、【アトラシータ】』


 左手の魔法陣を中心に音波の様な波が発生する、その後すぐに小さい各魔法陣から小さな光の矢が無数に射出された。

 矢は空中の1点に辿り着くと弾けて雨のように村の各地へと降り注いだ。


「探知魔法と誘導矢か、これで数はだいぶ減るな」


 近くにいる魔物に集中しようとするとアイシスが叫んだ。


「半分以上避けられたわ!!」

「何だって!? 位置を把握したあの上空からの高速の矢を!?」

「どこかで統率してる奴がいる」

「厄介な⋯⋯」

「!? 引いて行くわ!!」

「何!?」


 魔物達は北の方へと一斉に引いて行った。


「逃げた⋯⋯のか?」

「探知にはもう1匹もいないわ」

「北へ逃げたわね」

「魔王の拠点の噂の方角とは逆」

「追いたいところだけど任務は拠点調査、北へは向かえないわ」

「この村をこのまま放ってはいけない、生存者が居ないか調べよう」

「そうね」


 分かれて村を調べ回るが残念ながら生き残りは見つからなかった。

 アイシスは土属性魔法で遺体を地面に沈めると光の浄化魔法を村全体にかける。


「これでアンデッド化することは無い、悔しいたろうけど私達が心を受け継ぐわ、安らかに眠って」

「こんな場所だけど少し食事と休憩をとりましょう、後で取れるかわからないわ」

「そうだな」







(チッ⋯⋯気配と魔素が尋常じゃなかったからどんな奴らか見たかったが、潜んでたら村の奴らと一緒に地面に埋められちまった⋯⋯

 面倒くさそうな奴らだな、武器と奴隷取引に加担してた村たから通りがかりに消そう寄ったが無視すべきだったか⋯⋯

 魔物も減った、面倒だが一旦戻って編成し直さねーと)


 魔王と呼ばれる少女サリアは拠点討伐に動きを見せた国に先制を仕掛けようとするついでに国の権力腐臭が漂う村を潰してから行こうした、が思わぬ反撃を受けてしまった。

 地中を移動して影魔法で潜み、土まみれの身体を少しキレイにしようと近くにあった湖に出た。


「クソッ、泥まみれで帰ったらアイツ達に風呂場でオモチャにされちまう」


 サリアは土まみれの服を湖に投げ込み、自分も頭から飛び込んだ。


「ブハッ! あー土クセー⋯⋯」


 指に水属性を灯すとサリアは自身を水球の中に閉じ込めた。

 水球の中を回転させ身体中の土を剥ぎ取っていく。


 パキッ!


「!?」


 洗濯に集中してしまって周りに気を配ってなかったサリアは驚いて水球を説いて服を手繰る。


「あ⋯⋯ご⋯⋯ごめん!! 水汲みに⋯⋯誰かいると思わなくて!!」


 サリアは手繰った自分の服で辛うじて身体を隠していた。


「ごめんなさい! 見るつもりじゃなくて!! あの!! 本当にごめんなさい!!」


 ふと自分の姿を見てずぶ濡れの半裸だと気付いたサリアは殺気を飛ばす。


「ひっ!! 殺気!? ごめんなさい!! あーどうしよう⋯⋯頭ももう何がなんだか」

「死んで詫びろ」

「ごめんなさい! お怒りもごもっともです! 殺されても文句は言えません! でもどうか死ぬ前に施設の子供等に遺言を!!」

「施設の子供?」


 殺気が少し弱まった。


「街の施設の子供達がいて、孤児や奴隷から解放した子達を集めて保護してるんですが、その子達に自分の財産を残す手続きが終わってなくて⋯⋯」

(コイツ俺と同じ様なことを⋯⋯⋯)

「どうかそれだけはお願いしたい!」

「子供⋯⋯何人だ」

「約400人⋯⋯います」

(400!? コイツ⋯⋯)

「おい」

「ハイ!」

「帰って子供達と僻地にでも行ってろ」

「え?」

「大きな街や都市はこれから戦場になる、僻地にいれば余程の事がない限り被害は少なかろう」

「それはそう⋯⋯ですが」

「嫌なら死ね」

「わー! すいません!! ありがとうございます!! 裸見たことは誰にも何も言いません!!」

「あー、殺さねーが見られたお返しはしとかねーとな」


 サリアは風と土の属性を灯すと風で覗き魔の服を切り裂き全裸にし、土魔法で地面に首まで埋めた。


「後は自力で出て帰れ覗き魔ヤロー」

「すいませんでしたー!!」


 サリアは服を着るとそのまま消えていった。


「助かった⋯⋯不可抗力とはいえ覗き魔として殺されるとか⋯⋯やっぱり早く遺産の譲渡手続きしとくべきだったな」


 首まで埋まった状態で少し安堵した。


「アイシスとイリヤに何て説明しよう⋯⋯」


 ミカドはひんやりした土の感触を肌で直接で感じながら事の顛末をどう説明するか思案していた。

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