吸血姫の呼吸サポート
翌日、仮想空間内とパンゲア創世記のホームページでは1つの情報が開示された。
【ダンジョン攻略への資格】と題され数字カウンターが表示されており、新スキル獲得の人数が表示されたのだ。
その人数は3人、攻略掲示板ではその開示を受けてザワついた。
世界最大の仮想空間全プレイヤーのうち3人だけが【仙人の霞】を呼吸法を使って新スキルを獲得。
その内の一人はルシフェル、他の2人はまず間違いなく呼吸法を知る裏の世界の人物。
それ以外の一般人は一人として高難易度といわれるスキルを獲得できておらず、コミュニティや攻略掲示板では様々な盛り上がりを見せていた。
あまりの難しさに落胆する人も出てくる中、1人のスキル獲得者が獲得のサポートを始まりの街で始めたのだ。
ゲーム内世界ランキング8位、EUサーバー【吸血姫マリア】。
夜や暗所以外は弱体化という扱い難いネタ職業でランキング上位に君臨している妖艶美麗の人気ランカー。
彼女は共有サーバーの広場の噴水に現れるとライブでの短い動画配信を始めた。
「下等な人間共よ、汝らも先日目の当たりにした通り汚らわしく下らない現世は真意に目覚めた。
普段は人間共に力など貸すのも虫唾が走るがまぁ此度の件は別だ。
スキルと力を得て現実のダンジョンへ挑み、永遠と望みを叶えたい者は我が城へ来るが良い。
そして妾を楽しませてみせよ」
世界ランク序列8位の実力とそのキャラや容姿で人気ではトップ3位に食い込んでいる。
廃課金により広大なゲーム内の土地を購入し、吸血城を建てたことでも有名な彼女の元へと人々はこぞって集まっていった。
その1室から下を見下ろして彼女はつぶやく。
「集まって来たか⋯⋯ダラダラとゲームプレイしときたいところだが命令は命令。
さっさとスキルを覚えさせてダンジョンに送り込まねば。
さーて、世界から墜ちる者はどれほどかの?」
彼女が人々を見下ろしているうちに城の敷地には万を超えるアバターが集まっていた。
「さっさと始める⋯⋯ん? この光景⋯⋯もしかして大好きなあの日本アニメのアレが使える時では!?」
ライブ配信を開始するとゴクリと唾を飲み込んでからメガネをかけて人々を映すと言い放った。
「まるで人がゴミのようだ!」
集まった人々やライブ配信を見ている人
のうち某アニメを知る者たちは沸いた。
「え? 何今の??」
「さすがアニメ好きのマリア様」
「知ってる! 日本で有名なやつだ!」
「分かる、俺もこの光景見たら言いたくなるわ」
「そのセリフが言える立場に立ってるんだな」
「あの城、後で崩れて飛んでいくの?」
スッキリしたマリアはザワつく人々を無視して話始める。
「ふぅー⋯⋯妾は満足じゃ。
さて、悪ふざけはこの辺にして始めるぞ、汚らわしい人間共に費やす時間なぞ勿体無いでな」
スッと指を夜空へ指す。
「人間共よ世界は回帰した⋯⋯古の魔法の時代へと。
これは夢でも幻想でもない。
世界に魔素が満ち、異界ダンジョンが点在する幾度も滅びてきた神話の世が復活したのだ。
汝らは永くその世界には触れておらぬ。
宗教という、世代と言語を超えて語り継がれる舟によりその一旦を垣間見るのみ。
だが今、汝らはその神話の世界に立っている。
少し分かりやすく言おう。
魔法、魔物⋯⋯異能、神話の遺物⋯⋯それら全ての言い伝えや空想は再び現実のものとなったのた。
此度の夜空の魔法陣がもたらした地に満ちた魔の素【魔素】によってな」
観衆を見つめ一呼吸置いて話し始める。
「魔素はそのままでは毒と言っても良いものだ、汝らが先日倒れたのはその影響。
しかし魔素の毒性を排除し増幅させ巡らせる忘れ去られた神秘の臓器、裏では【魔臓器】と言われているソレは先日の2度目の夜空の魔法陣により汝らの体内で強制的に覚醒した、汝らが昏倒から目覚めた理由はそれ、毒が中和されたのだ。
魔素を効率良く扱うには先人たちが開発し受け継いできた身体能力を開花させる呼吸法が有効になる、それらは裏の世界では常識だ。
そして妾はその裏の世界に住む者、そして汝らの扉を開く者。
勘ぐられる前に言っておくが、夜空の魔法陣でこの世界に変革をもたらした者については知らぬ、その真意も分からぬ。
しかしその意図がどうあれ確実にこれから始まる古の時代を汝らが生き抜く為、少しばかり助力をしてやろう、少し面白くなってきた未来への暇つぶしを兼ねてな」
マリアは歴史上秘匿されてきた魔素や魔臓器と魔法や歴史に関して、そして自身が裏の世界の人間だと言う事を公表した。
これには世界中の裏組織が驚いた。
直ぐに各組織は彼女の素性を調べるがイギリスの組織どころか世界のどこの組織にも属していなかった、それは自然と彼女の素性を顕にさせる。
彼女は首謀者側、もしくは暴走者組織。
魔素やオーラの暴走により力と破壊衝動に飲まれ堕ちた者、世界の破滅を望む者達の組織、故に世界を混沌へ導くのが目的かもしれない事が危惧されたが秘匿情報はライブ配信により既に全世界へと流れてしまった、止めようは無い。
秩序を保つ側の組織の者達の不安を嘲笑うかのようにマリアはさらに語り始める。
「さて人間共よ、呼吸とは何か分からぬ者はおるまいな?
酸素を体内に取り込み二酸化炭素を吐く、そして体内の酸素を身体中に巡らせエネルギーに変えていく。
そこでエネルギーに変えるのは人間の元来の組織では無く、遥か太古に体内に共生を始めた外部生物⋯⋯【ミトコンドリア】が大きく担っている。
【仙人の霞】スキルはそのミトコンドリアを活性させ身体能力を向上させるだけではなく、隠された臓器である丹田と魔臓器も活性化、魔素を効率的に増幅させ循環させる能力だ。
魔素が無い環境だとこの呼吸法は大量の酸素を取り込み身体能力を向上させるが、同時に相当の負荷を生む危険なものだ。
しかし魔素があると少し話は変わる。
通常では処理出来ない大量の酸素は丹田で掛け算式にエネルギーに変換される。
魔臓器で魔素と混ざり合い、酸素量の負担分が若干軽減され魔力を産む。
通常、肺や血管等に負担がかからないよう魔素の無い状態で身体を鍛えつつ馴染ませながら長い時間をかけ習得していくものだ。
しかしさっき言ったように魔素が絡むと少しブーストがかかり負荷が軽減される、さらにスキルシステムの補助とやらで最適化されるらしい。
時間と修練が必要な呼吸法スキル獲得が通常よりも相当時短されるわけだ。
まぁ持続時間は鍛錬が必要だが、その時点でダンジョンへ挑む力には足りうるレベルには立っている」
人々が内容を消化できるようさらに一呼吸置いてから話し始める。
「各地に現れた異界ダンジョンに存在する魔物は強い、奴らは力の源とも言える魔素が凝縮した魔石からか構成され活動する。
そしてその経験と力は魔石に蓄えられており、破壊すると凝縮された魔素は周囲の生物へと流れ、吸収されると加算される。
まさにゲームと同様の経験値獲得とレベルアップが起こる⋯⋯理論上誰でも強くなっていけると言う訳だ」
マリアは口角を上げて笑う。
人々は騒ぐ事もなく聴き入っていた、自分達が居る本当の世界の状況が把握しきれていないのだ。
「分かるか人間共? 汝らは今、ファンタジーゲームの舞台にに立っているのだ、死の危険を除いてな」
徐々に人々はザワつき始めた。
「ファンタジーゲームの世界⋯⋯」
「魔法? 魔素? 魔臓器?」
「レベルアップ⋯⋯誰でも強く⋯⋯」
「俺でも現実世界で強くなれるのか」
「いやでも魔物と戦うんだろ? ゲームと違って下手すれば魔物に嬲り殺されるんだぞ」
「来た! 俺の時代が来たー!」
「どうやって魔法覚えるんだ?」
「エリクサーとかあるのかな?」
皆がザワつき始めたのを見てマリアは収集できるうちと、スキル獲得サポートを始める。
「始めるぞ人間共、先ずはやって見せてやる、コツを掴むまで最初はどうしても時間がかかるからひたすら地道にやれ、いいな。
獲得者はシステムに表示される、獲得順に番号が振られてるようだから4から10の数字を得た者には妾が直接褒美をくれてやる、精々励め」
最後の1文で人々は沸き立った。
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