世界廻転 虚実顕界
どれだけ気を失っていたのか⋯⋯
周りを目だけで見渡すと月穂が倒れているのが視界に入る。
「ゆ⋯⋯ゆ⋯え⋯⋯」
喉がカラカラで声が上手く出ない。
{十三様、目が覚めましたか?}
「アイ⋯⋯何が⋯⋯あった?」
{3度目の魔法が発動し月から光が放射された後お2人は倒れました。
身体に異常は無さそうですが自身でも確認下さい}
言われて身体を確認しようとするが重度の疲労感で思うように動かない。
「身体は⋯⋯まだ動かせそうに⋯⋯ないな⋯⋯」
少しずつ声は戻ってきたものの身体の疲労感は簡単に抜けそうにない。
{治癒魔法はお2人にかけたのですがあまり効果が無いようです、通常の負傷、異常、体力消耗などとは違うようです}
「周りは⋯⋯世界はどうなってる?」
{ネットに介入し既に調査しました、状況はお2人と同じです。
地球上、恐らく海中も含めて全生物に同様の症状や効果が起こったものと思われます}
「全生物⋯⋯魔物は? 魔物は⋯⋯祠から漏れてないのか?」
{今の所そのような確認は出来ていません、魔法の効果が何だったのかはまだ解析判明していません}
「不気味だな⋯⋯」
{魔素の拡散、魔臓器の強制覚醒、そして次に魔物の顕現が目的だと推測していました、1つ⋯⋯}
「う⋯⋯ううん⋯⋯じゅう⋯⋯ぞ?」
「起きたか月穂、動けるか?」
「ん⋯⋯んん⋯⋯あれ? 動け⋯⋯ない」
月穂も目覚め、体調を尋ねると十三と症状は同じでまともに動けないようだ。
とりあえず先程のアイとのやり取りを月穂に説明している間に身体が少しずつ元に戻ってきていた。
重たい身体を引きずって家の中に戻ると皆起きてはいたが動けずにいた。
「月穂⋯⋯無事⋯⋯だったの⋯⋯ね」
「お母さんも無事で良かった」
美沙の元に駆け寄ると頬をすりよせた。
「那波、春菜、朱里、皆無事か?」
「お兄⋯⋯ちゃん」
「無事⋯⋯なの? この状況⋯⋯」
「あー⋯⋯身体⋯⋯重っ⋯⋯」
三姉妹も動けはしないが無事のようだ。
「暫くしたら動けるようになると思う、月穂はここで皆を頼む、俺は母さんと爺ちゃんのとこに行く」
「分かった」
身体を引きずりながら地下の祠へと向かうとそこにはすでに起き上がっていた正源と十和呼がいた。
「無事だったのね、良かった」
「あぁ、上は皆無事だよ」
「それは良かった、外に何か影響は?」
十三はアイとのやり取りを2人に説明した。
「効果不明か⋯⋯効果も目的も分からんものに意識を刈り取られるのは単純な恐怖でしかないのぅ」
「効果あるとすれば今はこの身体の疲労感くらいだけど⋯⋯」
「携帯は⋯⋯繋がっとるの、紫暮に連絡とらんとな」
震える手で正源は紫暮に電話をかけた。
「生きとるか?」
「残念ながら生きとるよ、倒れたままやけどなぁ」
「お互いしぶといの」
「せやなぁ」
「こっちの祠は変化なし、魔物も漏れ出てけてはおらん」
「こっちも報告はあらへん、まー皆まだ倒れとるんやろけど、とにかく何の魔法やったんか全くやわ」
「疲労感がある事から身体に何か影響があるじゃろうとは思うが今のとこさっぱりじゃの」
{間に失礼します、先程十三様に報告の途中だったのですが、1つ魔法効果と思われる事例が見つかりました。
海外からの動画発信です、携帯へ送ります}
送られたリンクをクリックすると英語で文句を言いながら身体を引きずって移動する若者のセルフィ動画が映されていた。
家から這い出て外の車庫にある車へと向かっているようだ。
車に乗って病院か警察にでも行くつもりなのだろうか?
何とか車庫のシャッターボタンを押して中をのぞき込んだ若者が叫んだ。
そこには車体の後ろ半分が抉れて無くなり不思議な空間が揺らめいていた。
十三達にはすぐにそれが何か分かった。
「祠のゲート⋯⋯」
若者は使い物にならなくなった自分の愛車を嘆き、悪態をつきながらその空間に周りにある物を投げ込む。
投げられた物は音も立てずに吸い込まれていった。
携帯を2台持っていた彼は謎の空間の向こう側が気になったのか、ガレージにあった長い木の棒に携帯を括り付けて向こう側を撮影しようと動画をまわしながら恐る恐る空間へと差し入れた。
1分ほどしてゆっくりと引き抜いてみると先端には無事に携帯は付いていた。
すぐに動画内容を確認してみて彼は驚愕した。
映っていた内容は自分の車庫では無かったのだ。
映っていたのは人の手が入っていないような森、見たことのない植物、そしてその遠く先には大型のトロールの様な生き物の影が歩いており、距離から推測してもかなりの大きさだった。
彼は重たい身体を引きずりながら車庫から逃げ、家に戻ると銃を取り2階から震えて車庫の入り口を眺めていた。
動画は徐々に拡散されていて様々なコメントが寄せられていた。
その中には自分の家の外にも同じような空間が見えると報告するものもある。
{世界同時多発的にダンジョンが形成されているようでその数は不明です}
「マジか⋯⋯」
「あかん、これはあかんよ、既存のダンジョンから魔物が這い出ようとするのは防げるやろけど、世界各地で発生してもーたら入り口の封印管理なんか人員的にも間に合わん」
「地下の祠の入り口は護られてるから大丈夫だけど⋯⋯」
「このままじゃと世界中から魔物が這い出てくるのは防げんじゃろうの」
「魔法の効果はそれだけじゃないと思う、この身体の変調は何? 間違いなく何か影響を受けた筈だよ」
「だよな、何もないわけがない」
「まずは【夢袖】各地支所に通達するわ。
見つけ次第報告し【夢袖】と特務軍で対処にあたりバリケード等で物理的に封印、後は封印魔法が使える者が順次当たる。
国には外出禁止令を発令させ特殊危機対策室を設置し情報収集と対応を、国営放送、各メディアからゲートの危険度や情報発信を統一させて世間へ流させる。
今の世はSNSやらで情報の個人発信が可能やから統制は不可能や、相当荒れるやろけど今の所それしかでけへん」
「こっちはアイ殿の解析で何か分かれば知らせるわぃ」
その後、暫くすると同様の動画が世界各地から投稿されるようになった。
色々と推測するも何も分からず、世界からアップロードされる動画をチェックしながら情報収集するしかなかった。
しかし、やはり好奇心からかゲートに入る者が現れた。
その中には入ったきり出て来てない者もいた。
戻った者たちは口を揃えて言った。
「異世界が広がっている」「ゲームの世界が現実になった」と。
ゲート内の動画がどんどんとアップロードされるようになり世界は混乱に陥る。
その中には正体不明の生物に襲われ、命からがら逃げ帰る動画もあったからだ。
騒動から3日、今だ魔物が外に出た報告は無いが新たな事実が判明する。
アメリカ版【夢袖】である【Depth of Dream】通称【DoS】がゲートの一層の奥にある扉を発見しそこにいた魔物を倒しドロップアイテムを獲得したのだ。
魔石が1つと1枚の材質不明のプレートでそこには英語で文字が刻まれていた。
【虚ろう世界の古の大陸に始まりを 異界を踏破する者に力と望みを 天の御使い虚ちる場所に終わりを 偉大なる時代を現し世に】
初めての首謀者からのメッセージ。
その1文目はすぐに特定された。
【仮想世界 パンゲア創世記オンライン】
虚実世界の古代大陸。
フルダイブ型仮想世界を実現させた初めてのオンラインゲーム。
そのゲーム開発元はDREeM社の小会社が、フルダイブデバイス開発はDREeM社が全てを担っていた。
フルダイブサービス開始の前後に跨がって始まった新しいイベント、獲得できる呼吸法スキルや資質スキルがかなりきな臭いと察したルシフェルはアイに調査を依頼していた。
結果、全容は明らかではないがDREeM社はフルダイブデバイス開発開始前後から経営者が変わり、飛躍的に技術が進歩、驚愕の速さでデバイスを完成させるに至っていた。
そしてその経営者は名前こそ上がっているが実態が掴めておらず、稀にゲーム内にアバターで現れる事だけが知られていた。
アイ曰く、開発現場の従業員は存在するが上層部が雲にかかった用に見えないまるで幽霊会社のような企業との事だった。
今回の惑星規模の異変の首謀者が望みはその仮想世界から始まると伝えてきたのだ。
目の前に現れた異世界と非現実、そしてそこでは力と望みが手に入るとプレートには記されている。
人々は困惑し恐れつつも世を憂う人々からは歓喜の声も大きく上がった、異世界狂いの日本では特に。
人々に知れ渡ったのはプレートの公表を渋っていたDoSを出し抜いて、他の地で1層を攻略した者が同じプレートを獲得し、攻略した動画と共に世界中に公表してしまったのだ。
様々なお面を付けた彼らは恐るべき身体能力を示し、魔法を駆使し、不思議なドロップ品を持ち帰った。
目の前に広がる異世界ファンタジーに惹かれ、ゴールドラッシュ宜しく人々はこぞって仮想世界のパンゲア創世記へと集まり、関係あるとされている新しいイベントスキルの獲得に動き始めた。
想定済みだったのだろう、仮想空間フルダイブデバイス【ドリームダイバー】は売り切れる事なく供給し続けられた。
それに耐え得るサーバーも構築していたのだろう、パンゲア創世記オンラインは同接人数が億を軽く超えていた。
キッカケを与えたプレートを公表したお面グループは裏の世界では組織を追われた暴走者グループの仕業だと見ていた。
そしてアイの解析と推測によると、3度目の星で描いた魔法の目的は以下だろうとの事。
仮想世界を利用した世界を1ヵ所に纏めての改変可能な効率良い手引きの空間を提供。
裏の世界で常識であった古代の世界と能力や魔法の開示。
この為に古代世界のように世界各地にダンジョンが自然発生する世界に月をも利用し改変もしくは再現したのだろうと言う事。
そしてその目的は⋯⋯
【現世にはない魔石や鉱石、アイテム、報酬を餌に人々をダンジョンへ誘う事】
そしてこの首謀者はそれをスムーズに落とし込む為のツールとしてゲーム、異世界、漫画、ノベルを採用したのだろうと。
2025年2月28日は異世界ノベルの様な世界が現実と化し、世界が新たに廻り始めた。
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