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Los † Angels 【AI魔石とミトコンドリア】  作者: Amber Jack
第一章 紡がれた夢の祠へ
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紡がれる夢

 凛、と耳鳴りが聞こえそうなほど静まり返る古めかしいが荘厳な造りの道場。

 その中央に座禅を組みピクリとも動かない青年がいる。

 近付かなければ彼は悟りの極地にでもいるかのように見えるだろう。

 近付くとかすかに呼吸をしているのが聞こえる⋯⋯どうやら生きてはいるようだ。

 微かにも動いていない彼をよくみてみると、瞼だけがピクピクと高速で動いている。

 寝ている⋯⋯微動だにせず座禅を組んだままで。


 久世(くぜ) 十三(じゅうぞう)。若者など数人しかいないド田舎、その外れにある道場が隣接する神社に生まれたゲームやアニメ、考古学が大好きな青年。

 少し彼が見ている夢を覗いてみる⋯⋯



 † † † † † † † † † † † † †



 そこはまさに古代のファンタジー世界、もしくはゲームとでも言うべき光景。

 異形の魔物がうろつき、火や雷を放ち光る体で空を飛ぶ人。

 格闘アニメのようにオーラを纏い肉弾戦を繰り広げる獣人。

 翼の生えた人型から放たれる光の矢に打たれる魔物や人々、それを弾き返す者⋯⋯

 そんな中、宙に浮く漆黒の翼が生えた禍々しいオーラを纏う悪魔のような姿をした者に、赤いオーラを纏い突っ込んでいく自分。


 ドン! ズドン!


 と拳が交わる度に大きな衝撃波が円を描いて弾ける。


( 重い! ここまで強化をしてきたのにこの差! 腹は決めてたのに、もしかしたらいけるんじゃ⋯⋯なんて考えてた自分を殴りたい!)


 全力で繰り出す攻撃がことごとく止められ、いなされる。

 実力差は誰の目にも見たままだ。


(このままではやはり無理⋯⋯か、一気にあげるしかない!)


 自身の各所を取り巻く光輪が管楽器のような音と共に、錠を外されたように複雑に展開してゆく。

 と同時にとんでもない濃密なオーラが赤い色から白金へと変化してゆく。

 展開された光輪は背後から自身を守るように開き纏われていき、濃密なオーラが周囲の光や空間を歪め始めた。


 さすがに漆黒の翼の悪魔も目を見開く、が同時に自身の黒い光輪を展開させ始めた。

 今度は自分が大きく目を見開く。


(マジかよ⋯⋯これで勝てなきゃ⋯⋯!)


 しかしすぐに迷いを振り切り、遠く下から自分を見つめる周りの皆をチラリと見て笑みを浮かべる。


 漆黒の悪魔へと突っ込んでいく⋯⋯




 † † † † † † † † † † † † †




「ッ!! ぶはっ!?⋯⋯あぁ⋯⋯また夢か」


 ここ一年の間、何度もよく見るファンタジーな夢。


(ゲームの影響とかかな? 少し控えようかな⋯⋯)


 道着の下にはびっしょりと汗をかいている。


(ゲームの反省よりもまずは風呂か)


 道場を後にし、隣接する家の檜わ風呂場へとフラフラと歩きはじめ、そして檜の良い匂いが充満する風呂に入っていく。


(田舎に夢の専門家なんかいるわけないし、オンラインカウンセリングとか受けたほうが良いのかな⋯⋯後でネットで調べてみるか)


 20分ほど湯に浸かり、汗を流したら風呂から出てサッと作務衣を着て朝食を食べにキッチンへと向かう。

 中にはすでに母の十和呼(とわこ)が朝食を作り終えるところだった。


「あら、また朝からお風呂? 随分キレイ好きになったわねっ⋯⋯てッ! もしかして好きな子でもできたの!? ねえ誰!?」

「あのさー、 こんな田舎のどこにそんな対象がいるんだよ」

「都会!?  都会っ子!?  母さんオシャレと都会語の勉強しないと!」

「都会語って⋯⋯もはや外国感覚だな」


 テンション爆上がりの母をよそに黙々と朝食を済ませて部屋へ上がる。

 部屋にはキレイにズラリと並んだ世界と日本の考古学の本、化石や珍しそうな鉱石、ロゼッタストーンの縮小版レプリカ、ピラミッドの置物やマチュピチュのポスター。

 十三は大の考古学好き、特に超古代と言われる一万年以上前に遡るであろう物や伝承に強い憧れと興味を持っていた。

 その部屋の窓際にある机に座ってパソコンを起動させる。


(さて⋯⋯、同じ夢、繰り返しみる、相談⋯⋯と )


 カタカタと静かにキーボードを打ち込む。

 この閉ざされたド田舎に住む子供達の為に、オンラインで授業を開設する主旨で引かれた現代技術。

 当初の村では全員が集まって数日に及ぶ取扱い説明会が行われたが理解できた者は何人いただろうか?

 検索結果が並びだす。


(えーっと、強い感受性、葛藤の現れ、願望の現れ、トラウマ、閉ざされた同じ環境での睡眠か。

 オカルト的に前世の記憶の可能性も指摘されてたりしたけど、これは答えは願望と環境かな?

 願望はどうしょうもないとして、環境ね⋯⋯

 村を出る選択肢はまだ無いし、枕と寝る部屋でも変えるかな)


 ダラダラと考古学系サイトやSNSを見て居間へと下りると居間では母の十和呼が料理本を読んでいる。

 今日の献立で悩んでいるのだろう、ブツブツと言いながら本を読んでいる十和呼に十三は声を掛ける。


「ねえ、母さん。最近どうも夢見が悪くてさ、寝辛いからちょっと枕と寝る部屋変えたいんだけど⋯⋯」


 と、伝えたところ、


「じゃあ母さんの部⋯⋯」


 と聞こえたところで「却下!」と即答。


「俺は普通に眠りたいの! また昔みたいに抱き枕にされたらよけい眠れなくなるし!」


 はっきり自覚させる為にも過去の体験を添えて十三は伝えた。


 小さい頃は一緒に寝てたけど、十和呼(とわこ)が抱き枕の状態から馬鹿力でギリギリと締め上げる殺人技を放つ為、幼少の早い頃から一人寝をしてきた。

 十和呼はそれを聞いてグッと涙をこらえる。ウルウルプルプルと体を震えさせて耐えているその後ろから爺ちゃんがひょっこりと顔を出した。


「何をしとるんじゃ? 朝飯はできとるんか?」


 十三の父が若くして他界した後、十和呼を支えつつ十三に古武術を叩き込みながら育ててくれたこの神社と道場の主、正源(しょうげん)

 一目見たら誰もが「仙人」「老師」と口を揃えて言うだろう見た目は正源が意図的に作り上げたものだ、形から入るタイプらしい。

 遥か昔から継がれてきた伝統ある神社と道場、その主とは誰もが納得いくスタイルで在るべき! と60歳を超えた頃から意識して練り上げ、完璧に仕上げた。


「あ、あら、お義父さん、もちろん出来てますよ。皆で一緒にたべましょ。」


 十和呼はプルプル状態から抜け出してそそくさとキッチンへ消えてゆく。


「何じゃ?何かあったのか?」

「いつものやつだよ」

「ならええわぃ」


 どうやら母と息子の日常のやりとりの範疇だったらしい。

 二人は十和呼の後を追って良い匂いのするキッチンへと入っていった。

 白米、味噌汁、香の物に野菜の煮物と玉子焼き。素朴ながらも栄養とボリュームある朝食も終わりに近づいた頃、十三は例の件を正源にも伝えておこうと話を切り出した。


 話を聞いていた正源は話が夢の内容になったとたん、ピクリと肩を震わせ目つきが鋭くなり十和呼と目を合わせて頷く。


「十三や、後で道場にこい」

「え? 今日は稽古がない日だろ? 爺ちゃん」

「ええから後でこい」

「う、うん分かったよ⋯⋯」


(今日は稽古の無い安息日だったのにな、ゲーム⋯⋯お預けかな)


 朝食を終え、一旦部屋へ戻り道着に着替えて道場へ向かうとすでに正源は中央で正座をして待っていた。

 十三は何も言わず対面に正座する。


「先程の夢の事じゃが、いつからじゃ?」

「え? んー⋯⋯夢自体は1年前くらい、完全に同じじゃなくて色々な他の場面のもあるけど頻繁に見るようになったのはここ1ヶ月くらいかな?」

「そうか⋯⋯」


 そう言って少し黙り込む正源。そして意を決したように目に力を入れつつも優しく十三の目を見つめて話し始めた。


「十三や、お前は何故こんな人の少ない田舎の地に、ここまで立派な神社と道場が遥か昔からあり、限られてはいるが人が訪れ続けているか考えたことはあるか?」

「まあよくこんな田舎に人が来るなー、とは思った事はあるけどそこまで真剣に考えたことはないよ。

 都会に出てった俺の知らない元住人かなーくらい」

「ここ十石神社が正式な日本の記録に残っているのは飛鳥時代中期の書物、そこにはすでに遥か昔からあると。⋯⋯しかしそれは公式には、だ。

 ここ十石神社は表向きには神社じゃ、しかしその本体は地下最深部にある祠。

 そこにはエジプトにあるヒエログリフに似た文字でこう書かれている。


『星と平和を愛した神々、原初と最初の者達。

 遠き彼方の石と魔と、破滅と創造の物語。

 悲しくもその歴史は繰り返されるだろう。


 我らの中の命の源、小さき契約者に遺産を託す。

 途切れることなく巫女から巫女へ紡ぎ力を保て。

 全てを護り、全てをやり直す為に。

 強くあれ我らが子らよ、力なき我らを許してほしい』

 とな」

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