流れる血が怖いんだ
僕は自分の家の前にいた。僕は門を開け、家の中に入った。家の中は暗かった。僕は電灯のスイッチをひねった。でも、電灯はつかなかった。僕は暗闇の中、書斎へ向った。父親はそこにいた。
父親は暗がりの中、蝋燭に火を灯し、本を読んでいた。カントの「純粋理性批判」だった。火が揺れた。父親は視線を本から僕に移した。
「なあ。お前は俺を殺しにきたんだろう。」
僕はバックの中から銃を取りだした。そして銃口を父の眉間に向けた。
「俺を殺しても、お前は変わらん。何一つな。」
僕は言った。
「僕は父さんを殺さなければならない。どうしても。父さんを殺すか。自分で死ぬしかない。」
僕は銃口を自分のこめかみに向けた。
「なぜ、俺を殺したい?」
父は笑った。笑い声が闇に広がって消えた。
「血だよ。僕の身体の中を流れる血が怖いんだ。段々、父さんに似ていく自分が怖い。」
「そうさ。お前は俺の子だ。」
「だから僕は父さんを今、殺す。そうしなければ僕が危険なんだ。僕は自分が支えきれない。この血だよ。」
僕はカバンの中から、ナイフを取り出し、手を切った。僕の血は床に滴り落ちた。赤が床に広がった。
「ははは。殺したければ殺せばいいだろう。だが、病むのはお前だ。」
と父は言った。蝋燭の火が揺れた。僕は銃口を父に向けた。
「なあ。父さん。僕を愛してくれたことがあったか?」
僕の目からは涙が零れた。
「ああ。愛していたさ。」
僕は引き金を引いた。