父親を殺しても、おまえさんは癒されない
僕は父を殺さなければならない。どうしても。僕はきらきら眩く光るネオンの下を走った。黒い人影の群れを僕は走りぬけた。男たちの酒の臭いと女たちの香水の臭いが僕の鼻を通り抜けた。僕は、構わず走った。僕の横をにやにや笑った汚い男が声を掛けた。
「にいちゃん。なにを焦っているんだ。夜はこれからだろう?」
僕は無視して、走った。僕は今日、どうしても父を殺さなければならない。ゆっくりしている暇は無かった。
僕は今日の夜12時に15歳になる。その前に父を殺す。
僕は、一人の少年にぶつかった。少年はこっちを向いた。少年はグループの一員だった。他の少年たちが笑っていた。
「おまえ、なにしてんだよ。」
少年は僕の胸倉を掴んだ。僕は何も言わなかった。少年は苛立っていた。手がブルブルと震えていた。
「なに、黙ってるんだ。」
少年は一発、僕の頬を思い切り殴った。僕は歯を食いしばっていたせいで、歯は折れなかったが、口の中を少し切った。鉛の味が口の中を広がった。僕は血を吐き捨てた。そして、バッグの中から銃を取り出した。少年は少し怯んだ。他の少年たちがざわついた。
「どけ。」
僕は銃を少年の頭を狙った。
「にせもんだろう。」
と少年の仲間が叫んだ。僕は撃鉄を引いた。
それでも少年は逃げなかった。少年の口元には笑みが引きつって張り付いていた。
僕は少年の耳に向って、引き金を引いた。大きな音がして、銃弾が少年の耳たぶを吹き飛ばした。あっと少年は叫んだあと、その場にうずくまった。耳を押さえる手の間から血が零れ落ちた。硝煙の臭いがその場に漂った。少年たちの仲間は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。僕は追いかけず、銃をタオルに巻いて、カバンの中に入れた。そして、また走り出した。
「ちょっと待ちな。」
とおばさんの声がした。僕は振り返った。紫色のマントを羽織った女性が椅子に座っていた。
「おまえ。父親を殺す気だね。」
とそのおばさんは言った。僕は黙っていた。
「やめときな。父親を殺しても、おまえさんは癒されない。むしろ、病むだけだ。」
僕はそれでも黙っていた。おばさんは軽く首を振った。僕は駆け出した。