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お題小説【とある陰キャの肝試し】

作者: 安雄

お題を元に作成しました。

・学校

・恋人

・流れ星

・ドラゴン

・羽

僕の名前はマトン。国立魔法学園中等部に在籍している。でも今はすごい憂鬱な気分なんだよね。もうすぐ中等部全体で3泊4日の林間学校に行く。行く場所は山の中腹にある学園所有の宿泊施設で、そこの敷地内を中心にフィールドワーク等を行なっていくみたいだ。

だけど、その山の奥地にはドラゴンが生息しているとも言われている。僕はどうしてわざわざそんな危ないところに行かなきゃいけないのかすごく疑問に感じる。もちろん、学園側の目的としては学園内では味わうことが出来ない自然環境…動植物や風土を体験するというものがあるのは知ってるけど…ドラゴンのことはさておき、そんな体験しなくてもいいから本を読んでたいなぁ…。


「はぁ…心配だなぁ。ドラゴンなんて本の中でしか見たことないけど…。実際に会ったら嫌だなぁ。」


「ははは。そんなに心配する方が杞憂だよ。今まで林間学校に行ってドラゴンが出没するということはなかったし、奥地にさえ行かなければ大丈夫さ。」


彼の名前はシェル君。1年前までは僕と同じく書籍や文献を読み漁るのが好きという陰気な者同士仲良くやっていたつもりなのだが、1年前に同年代の恋人が出来て…仲良くやっているみたいだ。学園の男子学生が校舎の屋上から落ちるという不審死をした時に、その彼女がその男子を好きだったようで傷心を慰めたのが付き合うきっかけらしい。

最近シェルくんの恋人自慢などがすごくウザく感じるようになってきており、今まで通り読書好きのシェルくんではあるが…彼と話すのも時折嫌になることがある。


「どうしても心配なら…いい方法があるよ?」


そうしてシェルくんは学園にまつわる噂を話す。第二校舎の図書室にいるという不思議な妖精の話を。その妖精とやらに心配なことやお願い事をすると解決してくれるという。

ただお供え物として弁当などの食べ物を持っていかないといけないらしく、僕はあいにく料理なんて出来ないので持ってくとしても購買で買ったパンくらいだろう。

妖精なんてくだらない…。でも林間学校も憂鬱だし、ましてやドラゴンなんて不安でたまらない。ダメで元々だし、シェル君が自信満々に話すくらいだから1度試してみてもいいだろう。



そうして図書室に行って、購買で買ってきたパンを3つ供えて、翌日また訪れるとシェル君の言った通り妖精とやらはいた。でも絵本に出てくるような妖精っぽさはなく、どちらかというと騎士のような風貌をしていた。鎧も着てるし。


「パン3つか…。随分しけてやがるな。それで?お前の願い事はなんだ?言ってみろ。パンに見合うものか、もしくはそれ以上になるなら供え物を要求するからな。」


腕組みをして、長机に腰掛けるガラの悪い妖精。

僕はもうすぐある林間学校が不安なことと付け加えてドラゴンも出没するからすごい気持ちが不安なことを伝える。


「……?それで?俺にどうしろと?ただ単に相談したいってなら俺はそんなに役に立たんぞ?俺は恨みつらみの類が得意だからな?」


「えっと…じゃあ、僕の警護をお願いします。もしも林間学校の間にドラゴンが出ても…周りの人はともかく、僕だけでも助けてください。」


「自分だけ助かればいいと?なるほどな、実に人間らしくていいと思うぜ?まぁ、ドラゴンなんて早々出ることはないと思うから、数日お前のお守りをするだけで供え物が食えるなら今回は楽な仕事だな!」


僕の必死な願いは妖精にとって、随分とおかしなことだったらしくすごく笑われた。妖精はライと名乗り、本名ではないらしいが、そう呼ぶように言われた。

ライは本来学園の敷地からは出られないらしいが、僕に付かず離れずという条件付きなら敷地外に出ることが出来るらしく、僕の警護をしてくれるようだった。


そうして林間学校の当日。いくつかの班に分かれて、現地の施設へ途中まで馬車で行き、山が近づいてきたら徒歩で山登りをするようだった。

全部馬車で行けないのかよ…と思ったんだけど、先生たちは山登りをして自然を感じて欲しいらしく、また僕みたいな活動的ではない生徒に少しでも体力をつけて欲しいとの事らしい。余計なお世話だよ…!

馬車に揺られながら山のふもとまで来ると、その後は当初の予定通り宿泊施設まで山登りを行う。山登りでは集団行動を大事にしているらしく、僕以外の班員はそれなりに体力があるようだが、僕はもう…辛くて辛くて何度も休憩して他の班員にため息をつかれていた。

後から来た数班にも追い越されてしまい、幾度目かの休憩の際、班員達は僕を除け者にしてカード遊びをしだしていた。

くそ…バカにしやがって…!!


「ライ。あいつらを…」


「それは契約外だ。お前の警護はしてやるが…そこまでは面倒みきれん。まぁ、もしもクマやウルフに襲われることがあったらそん時はお前だけは助けてやるよ。」


僕が常日頃から持ち歩いている鉛筆に憑依?しているライはため息混じりに言ってくる。

その後も何度も休憩を挟みながら、当初の予定からだいぶ遅れてしまったが宿泊施設までたどり着いた。

宿泊施設の敷地に着いた途端、班員は僕を置いて走って中に入っていき、僕はというとここまでの道中の疲れが溜まりきり、中に入るまでに彼らの数倍は時間をかけてしまった。


到着したことを示す名簿に本人の直筆でサインをするという面倒臭いことをやり終えたあと、僕はそのまま部屋へと戻り夕食まで休むこととした。

部屋は一人部屋という訳ではなく、4人部屋となっていた。班員達と同じ部屋ではないのが唯一の救いであり、またシェル君も同じ部屋だった。僕が部屋に入った時シェル君は部屋に備え付けられている2段ベッドの上側にいた。


「やぁ、マトン。随分遅かったね。さっきミリーが君のことを追い抜いたって聞いたから相当休憩してたみたいだね。」


「僕みたいな貧弱がいることを考慮して、山のある程度までは馬車を用意するべきだ…!体力をつける云々なんてただの屁理屈だ。馬車代の予算をケチっただけだろう!」


「随分と卑屈だね。僕みたいに恋人を作れば、少しは気持ちに余裕とゆとりを持てるようになると思うけど…。」


本人に悪気はないのかもしれないが、シェル君のこういう言い草がかなり嫌だ。昔は仲良くしてたのになぁ…以前はトゲのある発言をされても特に気にする事はなかったのに…。

シェル君の下のベットで数十分横になっているとだいぶ疲れを癒すことが出来た。夕食まで休むつもりだったんだけど、僕が休んでいる間にもシェル君は恋人であるミリーさんの話をしてきて、僕がさん付けを忘れてミリーと呼んでしまうと、シェル君はネチネチとミリーに対して失礼だのなんだの言い出していた。

だから部屋を出てきて、宿泊施設の屋上にある展望台へと来た。展望台といっても一面森なんだけどね。遠くの方に湖らしきものは見えるが…もう日が沈もうとしてるくらい暗くなってきてるからほんとに湖なのかは判別がつかない。

僕以外には人はおらず、部屋とかラウンジで思い思いに過ごしているのかもしれない。

僕が物憂げに変わり映えのしない景色を眺めていると、ライが話しかけてくる。周りに誰もいないせいか憑依はやめて実体だった。


「…人間ってのは随分と都合のいい奴が多いな。無論お前も含まれてるぞ。それとお前と同室のシェルのやつだが、あいつもかつては俺に願い事をしに来たもんだ。」


「だから自信満々に話してきたんだ…。彼女が欲しいとか願ったの?」


「ご名答だ。まぁ…愛しの彼女はそん時は別の男にご執心だったわけなんだが…。(シェル)は守秘義務はあるとか抜かしてたが…それはちゃんと供え物を続けていればの話だ。

まぁ守秘義務にも供え物が発生するなんて説明してねぇから奴からしたら驚愕もんだがな。

まぁ端的に言うと、恋敵の男を殺してくれって感じだな。」


僕はライの言葉に衝撃を隠せなかった。あの頭が良くて優しくて…たまに憎まれ口も言うけど僕の1番の親友であるシェル君がそんなことを願うなんて…。

信じたくない…信じたくないけど、本人(ライ)が言うのなら本当のことなんだろう。恋人のために人さえも間接的に殺すことが出来るなんて、やっぱり僕は恋なんて経験したくない。

将来的にしなくちゃいけないとしても、学生の間はしなくてもいい。

恨みつらみ妬みのお願い事というのは意外というかやっぱり圧倒的に多いらしい。ライとしても命を奪うのはいいが、それで学園などが閉鎖になっては元も子もないので、怪我をさせる等の願い事に対しての落とし所を見つけて実行していったらしい。それでもなおシェルくんは相手の命を奪うように固執したらしい。

色々と考えているうちに夕食の時間が近づいてきたので、食堂へと行く。


シェル君は恋人のミリーさんと一緒に食事を食べており、僕はさっきの話を聞いて何となく気まずかったので、軽食をそそくさと食べて残りは部屋に持ちかえることにした。

その際にライ用に多めに持ち帰る。

部屋に帰った後、ライは僕の目の前で軽食を食べていく。


「山奥だから美味い山菜があると思いきや、そうでもないみたいだな。まあこれはこれでうまいから良しとするか。」


「このまま何も無いといいなぁ…。」


翌日、朝の運動として全員集まっての体操を行い、敷地内でこの山にしか生えていない植物の観察や育てている花などを眺めたり…。近くの洞窟に地質調査の勉強をしたりとタメになることも多かった。

夜には擬似的な野営として、みんなでテントの準備をして敷地内という安全な空間とはいえ野営の気分を楽しんだ。

一部の生徒は女性陣のテントに遊びに行ったり、テントを抜け出して逢瀬(おうせ)を楽しんでいた。


問題が起こったのは3日目のことだった。

3日目は1日中、自由行動として宿泊施設の敷地内にいてもいいしもしくは近くにある湖で釣りなどを楽しんでもいいらしい。初日にうっすら見えた湖のようなものはやっぱり湖だったらしい。

僕は自由行動ということで、部屋の中で過ごす…という訳でもなく宿泊施設に備え付けられてる読書スペースで薬草図鑑や地質学書などを眺めていた。

そうして何時間経過したのか分からないが、いきなり肩を思いきし叩かれた。


「おーい!マトン!今夜の肝試し、お前も来いよな!」


「へ?肝試し?」


「そうだ!夜になるとこの近くの湖にドラゴンが水浴びに来るっていう噂もあるし、肝試しには持ってこいだ!

昼間のうちに湖の近くにこの鳥の羽を入れた箱を置いておいたから湖まで行ったって証明に羽を持ち帰ってこい!」


僕がここに来る山道を登る時に一緒だった班員…僕と違って筋肉質でどこか汗臭い班員、ジェイコブが僕に参加を促してくる。僕が返事をする前に


「おーい!マトンの奴も参加するってよー!」


と言ってそそくさと行ってしまった。僕の意見なんて無視か。まぁでも誘われたとしても行かなければいい話だ。


と思っていたら、どうやら同室の人達…シェル君も含めて参加するらしく強制的に連れ出されてしまった。

集合地点には数十人集まっていた。話を聞くに、2人1組で行くようで、シェル君は当たり前のように恋人と一緒に行くようだ。

僕は誰と組むのかと思うと、ちょうど集まった人数が奇数ということもあり、更に山登りの最中に僕の体力のなさは露呈していたので足を引っ張られたくないもとい、自分のペースで行ったらいいんじゃない?という理由で1人で行かされることとなった。そして当たり前のように僕の意見は全て無視されて殿(しんがり)として1番最後に行かされることに。


そうして順番を待って、次々と羽を持って戻ってきたが…ジェイコブやシェル君、いくつかのペアが戻ってきていなかった。

その時点でなにか違和感を感じたけど、戻ってきた人達に押し出されて僕も湖まで行くこととなった。

湖に行くまでの間、ふと空を見上げると流れ星が見えた。

そうして見上げていると、また落ちてくるのが見えたので気休めでもいいので、無事に終わりますようにと願う。

誰もいないからライも実体化してくれればいいのに、何故かしてくれず僕はビクビクしながら森の中を進む。

ライが守ってくれるというのが僕が歩を進めるわけであり、この大前提がなければ僕の足は動かなかっただろう。



「うわぁ…綺麗だな。」


湖に着くと月明かりと夜空が湖に反射してすごく幻想的な光景となっていた。辺りを見渡していると、ジェイコブが言っていた箱が見えた。僕はそれに近づいて、中にある鳥の羽を取ろうとするが…中に羽が入っていなかった。

このまま帰っても臆病者扱いされるだろうし、この箱ごと持ち帰ろうかな。重さもそれほど無さそうだ。


「ん?なんかいきなり暗くなった?」


周囲がいきなり暗くなった。月が雲に隠れて暗くなったのか?と思い、辺りを見渡すも…どうも僕の周囲だけ暗くなってるみたいだ。そして上を見上げると…



──僕の身長の10倍はあるであろうドラゴンがいた。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


僕は思わず駆け出す。だけど走ったところでどうにもならず直ぐに僕はドラゴンの右足に押さえつけられてしまう。

このまま食べられる…!と思いきや、


「楽な仕事かと思ったらコレか。ほら!なんとかしてやったからとにかく走れ!」


ライがどうやったかは分からないけど、ドラゴンの右足をどけてくれたみたいで、その隙に僕は来た道を戻ろうとする。


「来た道を戻るな!木々の間を縫って走れ!バカでかい図体じゃ追いかけられないところに逃げろ!」


ライが指示してくれた通りに木々の間を通り抜けながら走る。普段の僕ならとっくに疲れきって走れなくなるはずなのに恐怖心というのは限界を超えさせてくれるようで、延々と僕の足を動かしてくれた。

それでもしばらく走っていたら限界が来たわけなんだけど…後ろを見るとドラゴンはどこにもおらず、どうやら逃げ切ったようだ。

その後集合地点にとぼとぼ歩いていくと、僕の後ろのペアも湖に行ったらしく、集合地点には誰もいなかった。


部屋に戻ってみても、僕以外は誰も帰ってきていなかった。


「え。僕だけ逃げ切れた…?」


他のみんなは食われたのかと内心穏やかではなかったが、そんなことを考えると悔やんでも悔やみきれないし、僕だけは助けて欲しいと願ったのは他でもない僕自身なので…。

深く考えたくは無いので、今日はもう寝よう。

明日になったらみんな戻ってるはずだ…。


そうして翌日の朝、結局他の人は戻ってきていなかった。

朝食を食べる為、身支度を整えて食堂へ行こうとしたら、食堂の手前の廊下に人だかりができていた。なんだろうと興味本位で覗いて見ると、


昨日肝試しに参加した人達が食堂の手前の広場で正座させられていた。

そうして肝試しについてのネタばらしが近くの看板に書いてあった。


***

※ドラゴンはいません。とうの昔に討伐されており、周辺の生物調査でもいないことは証明済。

林間学校という行事において、どれだけ皆さんが規則を守れるかを試すべく毎年ドラゴンが出るという噂を広めています。

夜間外出した生徒を自動で捕獲してくれる自動で動くドラゴンの人形を配置しており、ここに並べられたものたちは、そのドラゴンによって捕まえられた者です。


こうした慣習も今年で数十回目を迎えます。そうして来年再来年も君たちの後輩たちの誰かが捕まることでしょう…。


***


「僕の心配は全部空回りしてたのか…。」


「あ!先生!そこにいるマトンも昨夜肝試しに参加してました!」


僕の姿を見つけたシェルくんが、近くにいた生活指導の先生にチクるも、僕に体力がないのは周知の事実であり状況的に考えても1人だけ逃げ切れるとは考えられなかったので、友人を巻き込もうとしたとしてシェルくんはさらに厳罰が加えられていた。


シェルくん含む罰則を与えられた人達は宿泊施設での後片付けをした後、学園に戻らされるみたいで僕らは一足先に学園へと戻ることとなった。


「帰りも途中まで歩きか…。でも山登りに比べたら楽かも…。」


今回の班員の人は僕に合わせてペース配分してくれて、休憩もそこそこに馬車乗り場に辿り着くことができた。

馬車に乗りながら、いつものように読書をしていた訳なんだけど、山を降りるときの班員の子が話しかけてきてくれて本の内容なども含めて大いに盛り上がった。

いつもシェルくんとばかり話していたのだけど、自分でも気づかない間に自分自身で他の人と関わるのをやめていたのかもしれない。

学園に到着してからも話し続け、その子たちのグループに入れてもらえて林間学校はあまり良いとは言えなかったけど最後の最後で友達が出来て良かった…。


翌々日に罰則を与えられた面々が学園へと到着して、みんなから笑われている中、僕の部屋にシェル君が訪れた。

凄く怒っている。それこそ恋人のミリーさんを呼び捨てにされた時以上に激怒していた。


「マトン!君は…君は!!僕らを裏切ったのか!君程度の人間が僕たちでも逃げられなかったやつに逃げ切れるわけが無いだろ!大方ライに助けられたんだろうが!君とは今日限りで絶交だ!!!これからの学園生活1人で寂しく過ごすんだな!」


「そんなこと言われなくとも僕にだって君以外に友達はできたよ?」


「はっ!!そんな見栄張ったって無駄だ。現実を見ろよ。ちょっと仲良くされたぐらいで馬鹿だね。向こうは友達だと思ってないよ。」


僕とシェル君が揉めていると、この間馬車の中で話しかけてきてくれたタイガ君がちょうど通りかかって、何事かと話しかけてくる。


「どーしたんだ?マトン。…ん?お前は罰則組のシェルか。そーいえばお前たち仲良かったな。」


「タイガくん。このマトンは君のこと友達だと思ってるらしいよ?違うよね?こんな人付き合いが悪くて人の感情を逆撫でするやつが友達なわけが無いだろ?こいつに言ってやってくれ。」


「は?友達だよ。お前こそなんなんだよ。仲がいいからって言っていいことと悪いことがあるのが分からねえのか?

…マトン。こいつなんかに構うな。話が少し聞こえたんだがこいつの方から絶交ってならちょうどいい機会だ。」


その後、タイガ君に連れられてタイガ君達のグループと一緒にご飯を食べて…その後に講義にも一緒にでた。

こんなに友達と過ごす時間が楽しいなんて思いもしなかったなぁ。思えばシェル君と仲良くしだしたのも、向こうから話しかけてきてくれたことだけど、その時からシェル君は僕のことを…見下してたのかも…。少なくともシェル君と一緒にいた時とはなんだか…暖かさ?が違うように思った。


次の日の夕方、僕は実家から届いた祖母の手作りの魚パイを持って、ライがいる図書室へと来ていた。

ライがよく座っている長机に魚パイを置くと、すぐにライが姿を現していた。


「おー。わざわざご丁寧にありがとな。願い事が終わっても供え物をしに来るなんて最近じゃお前ぐらいだよ。」


「いや…ライのお陰で結果的に友達できたからそのお礼だよ。こちらこそありがとう。」


ライは祖母特製手作りパイを右手で掴むと口に頬張る。そして何か考え込む仕草をする。


「ん?口に合わなかった?魚もしかして嫌いだった?」


「いや魚は好きだ。そういう訳じゃなくてな…。そうか…この味は…。お前さん、ラムの息子か?もしかして。」


「え……?か、母さんを知ってるの……?」


「あー、そうだな。ちょうどお前くらいの年の時に、お前と同じようにドラゴンがどうの言ってたな。そん時は俺も本当にドラゴンが出るのかと思ってたんだが…。まぁ学校が作ったハリボテだったもんで拍子抜けしたな…。要はお前のお願いを受けた時点でハリボテだってことは知ってた。だからお願い事を聞いてやったわけだ。」


そうなんだ…。母さんも僕と同い年の時に同じことを思って…悩んでライに相談しに来たんだ…。


「んで、ラムは元気か?そういやあいつも願い事を終わったあとも俺に供えに来たもんだ。卒業してからそれっきりだからな。」


「母さんは…僕が2歳の頃に病気になって…。その翌年に…。」


「…そうか。月日が経つのは早いもんだ。」


なんだかしんみりしちゃったけど、でも一つだけ言えることはあった。


「ライ。またお願いごとをしていいかな?」


「なんだ?新しいお友達と仲良くする為のネタを探してこいってか?」


「そんなんじゃないよ。母さんの話を聞かせてほしいんだ。この学園で過ごしていた時の話をしてほしいんだ。」


「ま、俺もそんなに過ごしてた訳でもないんだがな…。お前よりかは早く一月(ひとつき)前から相談はしてたからその間の事だったら話してやるよ。」


それから毎日…ではないけど数日おきにライのところへ通って、母さんが学生の時の話を聞いた。

うちに伝わる魚のパイは元々栄養こそあるが味はイマイチだったらしく、それを改良したのが母さんでそれに至るまでの失敗作の料理を処理していたのがライらしい。

供え物と称して、かなりの数を食べさせられたみたいだけど、魚のパイが完成してからは母さんが卒業するまで供え物として魚のパイを持ってきていたようでなんだかんだ楽しみにしていたみたいだ。

母さんが魚のパイを親族に広めて、そこからも更に改良が加わったみたいでその事をライに話すと、


「なるほどな。あいつが克服できなかった僅かな苦味もなくなってるし、これは美味いな。ラムのやつよくやったもんだ。」


母さんが褒められてると僕も嬉しくなる。その後、祖母に頼み込んで魚のパイを作る練習をして…何日かした後には満足のいくものを継続して作れるようになり、

ライからお墨付きを貰った後に、タイガ君や他の友達にも振舞った。

みんな美味しいって褒めてくれたし、元々料理ができないことで読むことがなかった料理本も読むようになり、僕の周りに僕の料理を食べようと人が集まるようになった。

相変わらずシェル君とは仲直り出来ていないし、僕の料理をこの間は思い切り捨てられた後に踏んづけられた。

タイガ君は怒ってたけど、いつか…前みたいに仲直り出来たらいいなぁ。

まぁ、今は以前と比べて充実しているし、ライのお陰で憂鬱だった林間学校も終えて…今はすごい人と人との繋がりの温かみを知ることが出来た。

動機はどうであれライには感謝しかないし、母さんの話も沢山聞かせてくれてるから…。


まだまだ卒業まで時間はあるけど、僕は…母さんみたいに身近な人たちを料理で笑顔にしてあげたいと思ったから料理人になるべく勉強をして、いつか母さんの魚のパイが看板メニューの食堂を開くんだ!

以前短編で出した【図書室の妖精?】の設定をまんま流用してます。そっちを読んでなくても分かるようにはなってると思います。

世界観を固定した方が自分的に書きやすかったり、キャラもせっかく作ったからには短編1回で終わらせるのは勿体ないと思った次第。

お題のひとつである羽は辛うじて1回使ったぐらい。


実際こんなふうに、ふとしたきっかけで仲のいい友達が出来て、将来を目指すきっかけになることもあるといいですよねー。

筆者は前者はあるけど後者はないです〜。

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