王座に座るもの4
魔力を持つ植物、動物、勿論人間も…どうしても生かしておいてはならない存在でしかない。
「そこまで、魔力持ちの私達は恨まれないといけないんですか?」
未だに結界の中で暮らし、外に行くにはほぼ命を賭けなければいけない現状を良く知るサウラが呟く。幼い時より皆忠実に村の掟を守って来た。時には帰ってこなかった者がいた事も知っている。きっと、暮らしやすい所を見つけて家族を作って幸せに暮らしていると、自分は盲目的に信じようとしていた。彼らが一度も故郷に帰ってこない事実からは目を逸らし続けて。
「解らないの。なぜか、がまだ解らない。どうして魔力持ちを嫌悪するのか、なぜ魔力持ちと分かるのかも。」
これでもすごく凄く調べたのよ?と苦笑を浮かべるシエラ。
解らないものは仕方がない。原因を解決出来ないのならこちらは守りに入るしかない。ゴアラ人が関わっていることは分かったが、国家としての関与が明らかにされなければただの事件で済まされるものだ。その国で罪人のみを裁くしか無くなる。
だから新たな建国に踏み切ったのだ。魔力持ちを集め、守り、力をつけさせる為に。その為にのみここ数百年を費やして来た。ある人の意志を受け継ぐものとして。
シエラの深紅の瞳はサウラの視線をしかと捉え、ゆっくりと一言一言噛みしめる様に告げて行く。その真摯な様は絵空事ではないとサウラの心を揺さぶるのだ。
当時ゴアラ人の総べる大陸北西部の南側には最西端から大陸中央に向かって3/1程の距離を山脈が走る。さらに下、西から東にかけて小国が乱立していたのだが、ゴアラ人に対抗すべく最南端の位置に国を定めた。小国の中から魔力の著しく高い王室後継者を選び、合意のもとで数カ国を併合しいくつかの条件の元、平和的にサウスバーゲン王国建国となったのである。
初代国王となる条件は、番となる者を娶ることであった。
魔力持ちは総人口が元より少ない。ゴアラとの確執が発覚するよりも前からその希少性、力に目を付け、権力を有する為には持つに越した事はない能力の一つであった為に、各王家は魔力持ちを多く取り入れ、婚姻によって更に魔力を強め維持しようとする倣いがあった。
結果能力の高い者が産み出されるが、弊害も生み出されてしまった。操る魔力量が膨大であればあるほど、本人の命を容赦無く削ってしまうのである。
鍋に水を入れて火に焚べてみる。鍋は自分、水は自分の命、下に燃える火が操る魔力量だ。蓋もなく、継ぎ足す水もないのなら鍋の水は蒸発しすぐに無くなる。
王族の魔力使用量は火に鍋を当て水を温める程度ではない。鍋ごと燃え盛る火に焚べる勢いである。故に、使えば使うほど回復も間に合わず命尽きてしまう恐れがあるのだ。
番とは魂の波長がぴったり合う者のことを言う。個々に持つ魂の色、輝き、体内を隅々まで巡り渡るその起伏に合致する者の事である。
番を得る事、それは鍋に蓋を、無くなる水を注ぎ足す術を得る事になるのである。もはや膨大な魔力使用にも生命の危機はない。ゴアラより魔力持ちを守り、魔物より民を守り、確固たる国家として成り立たせる為には、魔力を持たない王、短命な王ではなし得なかったのだ。
初代サウスバーゲン国王トランジェスは番いと共に王として立った。王国全域に広大な結界網を張り、国境付近に強力な魔力を有する貴族を領主として置き、大陸の南側周辺の国々をも守り固める基盤を作り出したのである。
王国を守る結界網の基盤は王家の血族にのみ発動するように組み込まれている。外部の干渉を受けない様にするためのものだが、これが後の問題となり今日に至るのである。
結界が王家の血族にのみ発動するという事は、王家の者が魔力を有していることが大前提となる。王家には強い魔力持ちが産まれる事が多いが魔力を持たない者も産まれる事がある。
結界を次代に繋げるため、魔力持ちが必ず出るように王は子を沢山残す事にした。例え次期国王に番が現れずとも、短い命を継ぎながら結界の効力を失せぬ様に守って来たのだ。
ルーシウスの父、11代国王は魔力持ちではない王妃を番とした王であった。代々の番は魔力持ちであったため前例の無い番の妃となったが、歴代の番同様王の良き賢妻となり沢山の子を残したのである。不慮の事故にて父王と共に儚くなり、残念でならない。
12代、13代を継いだのはルーシウスの兄王である。魔力持ちであって結界の維持に努めた彼らだが番を娶る事が出来ず20代前半で儚くなっている。
ルーシウスもまた兄王の跡を継ぎ現国王として立ったがやはり番は現れず、22歳となる今年いよいよ兄王と同じく命の火が消えかけていたのである。