王座に座るもの2
「私が…召喚士よ。」
この人が!術を発動させた召喚士!
なぜ?なぜに私を?
びっくりしすぎて声が出ない。あの魔法陣を一瞬と言ってもいいほどの短時間で発動させた人。信じられない思いで目の前の柔らかい笑顔を見つめる。シエラからは悪意は見て取れない。
なぜ?純粋な疑問が溢れてくる。
「あそこの王座に座るのがサウスバーゲン王国14代国王ルーシウス・モーラス・サウスバーゲン。」
シエラはサウラからルーシウスの方に目を上げ王座に座る青年の名を告げる。シエラの視線を追ってサウラも王座に目を向ける。艶のある黒髪の上に王冠は無く、ぐったりと体を背もたれに預けている。
先程よりも呼吸が落ち着いて見えるのは気のせいだろうか?未だしんどそうに見えるが、しっかりと首を起こし此方を向いている。恐ろしい考えだが今直ぐにどうにかなる様な状態で無くて良かったと胸を撫で下ろす。
まずは自分のことを考えてもいいだろう。
「なぜ、私をここへ?」
ルーシウスからシエラに視線を移しつつ疑問を投げる。
「長い説明になるわ。まずは場所を移しましょう。ルーシュ坊やも休憩が必要でしょう。」
シエラの一声にシガレットが肯き、騎士たちが動き出す。
今、無視できない何かが聞こえた様な気がするが…
にこやかなシエラのエスコートに、サウラは抗う術もなく導かれるまま従うしかなかった。
案内された所は応接室と聞いた。サウラの村には勿論接客用の部屋などない。豪華な椅子と調度品が並ぶ部屋と理解するしか無かった。
柔らかな黄土色の絨毯に葉を象った紋様が編み込まれている。扉から正面の椅子にルーシウス、右手ソファーにシエラとサウラ、左手ソファーには騎士とシガレットが座る。
ずっしりと存在感がある椅子やソファーは鮮やかな緑色の布が張られすこぶる手触りがいい。先程の深紅の絨毯といい王城には手を喜ばせる物が沢山ありそうだ。
本筋の疑問から思考が離れて行く。今日起こった一連の事について、命の危険はないとは解ったが、緊張が続いていた事もあり精神疲労が強い。違う方へ違う方へ、サウラの考えがフワフワと流れて出て行く。
サウラは促されるまま乾いた喉に紅茶を流し込む。喉を通る水分の甘さにどれほど喉が渇いていたのかを知る。一息で飲み干してしまったサウラのティーカップに、シガレットは2杯目の紅茶を注ぐ。
本来ならば侍女が給仕をする所だがこの部屋は人払いがしてある。部屋にいるのは給仕に勤しむシガレット他、サウラ、シエラ、騎士が一人、そしてベッドで横になっていた方が良さそうなルーシウスである。
騎士は近衛騎士団総司令官と紹介された。アラファルト・ドーラン、近衛騎士団を統括する任にある。歳は20代後半だ。金髪に透き通った青い瞳は暗い色が多いこの部屋では素晴らしく目を引くものがある。長身で騎士というだけあって体格は素晴らしく良い。
2杯目の紅茶は素晴らしい香りがした。喉の乾きが癒えた分、味わず飲み干してしまった1杯目がもったいなく感じる。
ホッと息をつきながら周りを静かに観察する。
シガレットは資料やらを配りつつお茶を入れ忙しくしているし、他の人は時折紅茶に口を付けつつ配られた資料に目を通す。
テーブルの上に置かれた目にも鮮やかなお菓子は食べてもいい物だろうか?しばし逡巡するが大人しく座っているだけにしよう。
部屋の様子を伺っていると、時折ルーシウスと目が合う。配られた資料に、目を通すでもなくサウラと目が合えば深いエメラルドグリーンの瞳が優しく微笑み返す、を繰り返してくる。
横にならなくてもいいのか?心配がよぎるが、今は広間にいる時より顔色もいい。呼吸も落ち着いており問題ないように見えた。さっきはあんなに儚げだったのに。
「まず、自己紹介だけど私はこの国の魔法監督官をしているの。魔法の事なら私の所にに全てくるわ。そして、あなたを呼び寄せた召喚魔法士でもある。」
一通り喉を潤した所でシエラが口火を切る。
「名前を教えてもらっても?」
「サウラです。」
「歳は?」
「15歳です。今年16歳になります。」
自分の欲しい答えを得るための話し合いが始まる。
「サウラ、これは確認だけど、あなた癒しの魔法が使えるわね。それもかなり強力な。」
なぜ知っているのだろうか、ともう問うまい。それを知るためにここにいる。シエラの質問に目を見張りつつ首肯するしかなかった。
サウラの様子にシエラもそっと頷き返し長い昔話が始まる。