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その手中に収めるものは  作者: 小葉石
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西へ

 出立の朝、サウラはゆっくりとしたものだった。

ほぼ準備は侍女がしてくれているし、自分の身支度と体調管理、ルーシウスへの回復魔法をかける事で、出来る事は終わってしまった。


 昨日に引き続き、サウラの心の中はグルグルしているものの、ルーシウスのさっぱりした笑顔からは、何ら気にしてもいない様にも見えて、拍子抜けしてしまったくらいだ。


 あえて、話題にも出さなかった。


 サウラの朝の仕事が終わると同時に、打って変わって忙しそうなルーシウスは、また後でと部屋を出て行ってしまう。


 出発までまだ時間がある。お茶を飲んだり、庭に出たり、出立準備の見学にと邪魔にならない範囲で見て回る。


 昨日乗車した様な馬車数輌と、更に大きな荷を運ぶ荷馬車がある。忙しそうに荷を積み込んでいる所を見学していると、布で包まれた荷の他に、何故か大きな鍋やら食器類まで積まれていくのだ。


「おや、姫様ご機嫌よう。」


 聞いた事のある低い声がサウラを呼び止める。


 何時(いつ)ぞやは、剣の撃ち合い、昨日はルーシウスとの城下町の護衛にと、この頃サウラと顔を合わせることも多いバートである。

 今回の遠征に参加予定なのだろうか?帯剣し、マントの下には、上下黒色の揃いの衣装だ。


「こんにちは。昨日はお世話になりました。」

 昨日はサウラの為に、ルーシウスが城下に出る事を決めたので彼らも駆り出されたのだ。


「あれ?聞いていないのかな?俺ともう一人、ガイが姫様の護衛に付く事になってる。後はカリナ嬢か。」


 ガイ、と呼ばれた青年も昨日共にいた。金に近い明るい茶髪に草色の瞳、少し日に焼けた肌は健康的な感じだ。ルーシウスと同じ歳くらいだろうか?やはり、良い筋肉質の体格をしている。


 綺麗な顔立ちなのに、少し眉を(しか)め難しそうな表情なのは何故だろう?少なくとも昨日はこんなに仏頂面では無かった気がする。

 こちらもバートと同じ出で立ちである。護衛の制服なのかもしれない。


「御挨拶申し上げます姫君。ガイとお呼びください。」

 バートは砕けた感じだが、ガイは丁寧に礼を取ってくれる。


「よろしくお願いします。」

と、サウラも返事を返した所で、

「昨日は楽しかったですか?」

 とニコニコの笑顔で質問してくるバートである。


 一気に昨日のあれこれが思い出され、う、と詰まるサウラであるが、動揺を見せまいと踏ん張って笑顔で持って答える。


 その後もガタガタと騒ぎがあって、その為かサウラの元に来た訪問者たちは、護衛である彼らの事を伝え忘れている様であった。


 人懐こいバートと違い、ガイは眉を顰めたままの不機嫌そうな顔つきだ。少し、近寄りがたい雰囲気がある。


「姫様、城内であっても、お一人での行動はお控え下さいね。これから行く所は、此処とは違いますから。必ず、バートか私をお連れください。」


 いつも一人で行動しているサウラであるが、護衛どころか侍女の一人もつけていない事をガイが(いさ)める。


 誰にも注意もされずにここまで来てしまったが、誰かと常に一緒にいなくては行けないものとは露知らず、キョトンとしているサウラである。


「ガイ、相変わらずだよな。姫様だったら多分大丈夫だぞ?」

 やれやれ、とでも言いたそうなバートに向かって、


「その多分で、皆んな命取りになるんだろうが。」

と吐き捨て、サウラには一礼して踵を返し行ってしまう。


 もしや、仲が悪いのだろうか?ガイはこの仕事嫌なのでは無いの?とても嫌な顔していたし…?

 ポカンとしながらサウラは見送るしか出来ない。


「すいませんね、姫様。あいつ、優しい男なんだけど、護衛の任務だけはまだダメなんだよなぁ。昨日は平気そうだったのに…」

 バートはサウラに誤っているのか、独り言なのか小さく呟く。


 きっと人には得て不得手がある様に、ガイにとって今回の任務は苦手な部類に入るんだろう。余り手をかけない様にちゃんと言う事を聞いておこう。


「分かりました。お手数かけない様に頑張ります。」


「姫様の所為じゃ無いし、気にしないでいて下さい。姫様はいつものままで大丈夫ですから。」

 ニカッと言うのがぴったりの笑顔を、バートは向けてくる。


 自分の周りにいる人は基本、良い人が多い。明らかな悪意を感じた事は無いし、気を使ってくれるし。居心地良くしようと心を砕いてくれている。


 ならば自分もこちらに合わせなければ、言いつけは取り敢えず守ろう、とサウラは心に決める。


 その後、全ての準備が整った知らせを受けた。


 各自昼食も早めに取り集まって来ている。西の結界領までは片道数日の行程である。彼方での行事も含め全2週間程城を離れることになる。

 恋人とのしばしの別れを忍ぶ騎士もいれば、彼方(あちら)が故郷の騎士もおり、王都の土産を馬車の隅に積んで貰っている者もいる。

 

 サウラも部屋付きの侍女達、シエラに挨拶し、


「行ってきます。」

 

 と、部屋を後にした。勿論、ガイに言いつけられた様に、カリナを伴ってである。







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