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その手中に収めるものは  作者: 小葉石
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出立準備2

 パン、パン、騒然とし出した部屋の中で、乾いた音が響き渡る。


「下がりなさい、スザンナ!シエラ様もお行儀が悪うございますよ。」


 落ち着いた声で、けれども、はっきり、しっかり釘を刺してきたのはアミラだ。 

 躾けに厳しかっただけはある。サウラに対しては王命でもあるので寛容だが、侍女であるスザンナに対し、容赦はない。


 主人に掴みかかるなど言語道断。はっきり言って目が笑ってはいない。事と次第によっては罰則もので、その権限をアミラは持っている。


 一瞬にしてスザンナは我に帰り、サウラの側を離れ礼を取る。後は、アミラと主人であるサウラの裁量を待つばかりである。


「ごめんなさい。アミラ。ついつい嬉しくて。」

今にも泣きそうなシエラである。


 訃報続きの王室は、喪が明ければまた喪に服す、をここ数年繰り返してきたのだ。それを思えばこんなに嬉しい事はない。


「あの、ちょっと、ちょっと待って下さいね、私、まだ何も答えたわけではないんです。」

 

 騒動の中一人取り残されているサウラは困惑している。


 アミラは鬼の形相でスザンナを見てるし、スザンナは伏したまま動かないし、シエラはニコニコしながら泣いているし、収拾がつかない。


 コンコン、コンコン

「姫様、どうかされましたか?何やら騒がしい様ですが?」

 

 部屋の中の騒ぎを聞きつけ、部屋の外の護衛騎士が声をかけてくる。


「何かありましたか?失礼します!」

部屋の外から見知らぬ女性の声がすると思ったら、ガチャリと扉が開かれる。 


 扉を開けたのはカリナであった。

明日からの遠征に同行する為に、サウラに挨拶にきたのだが、中から騒がしい気配がする為、扉の前の護衛の近衛と共に声を掛けた後、中に入ってきたのである。


 カリナが中に入って来た時には、アミラ、スザンナはすぐに体勢を正し、礼を取るも、サウラはシエラに抱きしめられたまま、困った様にこちらを見ていた。


 一瞬呆然とはするものの、カリナも直ぐに我に帰り、騎士の礼を取る。


「姫君、お初にお目にかかります。私目は西の辺境伯、ブルック・レン・タンチラード辺境伯が4女、カリナ・レン・タンチラードと申します。お寛ぎの所、許可もなく入室しました事大変申し訳ありませんでした。お叱りは如何様(いかよう)にもお受けいたします。」


「カリナさん、こんにちは。出来ましたら、助けてください。」

 サウラはシエラの胸に抱きこまれ、ほとほと困り果てた顔でカリナを見ている。


「あの、シエラ様、その、姫様に出発前のご挨拶をばさせて頂きたいのですが?」

 まさか、姫君の部屋でこんな事が起きているとは梅雨と思わず、カリナも困惑気味だ。


「ああ!聞いて頂戴カリナ!ルーシュにお嫁さんが出来るのよ。サウラちゃんはうちの娘だからね。」

 シエラの問題発言にまたもサウラが慌て出す。


「ええ!違いますって!シエラさんお願い聞いてください。私まだ答えていないんですって!なんて答えていいか分からなかったんですって!」

 もう、少し泣きそうなサウラである。


 なんでこんな事、見ず知らずの人の前で、言わなくてはいけないのか、どうして口走ってしまったのか、恥ずかしくて居た(たま)れない。



「自分の気持ちがまだ、分からないんです。」


 どうにか、皆落ち着いて、ソファーに着いたところで、アミラ、スザンナは来訪者のために新しいお茶を入れ始める。

 スザンナは他言無用、とアミラから厳しく言い渡された上で罰は免れたらしい。


 お茶を飲みつつ、サウラが外出時の経緯を簡単に話す。


 よくよく話を聞いていけば、サウラの心の問題で、周りが兎や角言えるものではなく、本人の心の成熟と共に答えを見つけていくしか無いものの様だ。


「ごめんなさいね。早とちりしちゃって、嬉しくて、つい。」

 誤ってはくれているものの、シエラの顔はニコニコだ。

 ルーシウスが何らかの行動に出た事が殊の外、嬉しかったらしい。


 シエラの顔を見ているのも、恥ずかしくなってしまう。なんで話しちゃったのかな…


「いえ。」


「あの、立て込んでいる所に訪室してしまい、申し訳ありませんでした。」


 いえ、もう謝らないでください。

 フルフル首を振ってカリナを見つめる。


 カリナは長身でスラッとしている。赤い髪に、褐色の肌がとても健康そうで、男性の様な服装はしていても、素敵な女性だとわかる。今は長身の背が、縮こまって見えるのはなぜだろう?薄茶の瞳も罪悪感でいっぱいの様です。


「あの、明日はご一緒してくださると?」

 先程の話題から逃げたい一心で、話題を逸らす。


「はい。明日から数日間、タンチラード領に着くまでは私が共に行動いたします。兵ばかりの男所帯となりましょうから、何かご不便ありましたら私の方になんなりと仰って下さいませ。」


 どうやらサウラの世話役も兼ねているらしい。

有難いことに、よろしくお願いします、とサウラは頭を下げる。

 

 姫君がそんな事をなさっては行けません、と慌ててカリナに止められてしまったのだが。




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