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その手中に収めるものは  作者: 小葉石
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王の手紙

「ふう。」

 久しぶりに良い運動をした。


 サウラが鍛錬場で、ひたすら空を切っていた時に声をかけてくれたのは騎士団所属、バートと言った。


 赤髪、褐色の肌、茶の瞳、長身で中肉、均衡の取れた綺麗な筋肉が付いている。

 白いシャツを腕まくりし、7分丈のカーキのズボンにブーツ、身軽で動き易そうな装いだ。


 サウラとはかなりの身長差があったが、手合わせをする分には十分に手加減をしてくれたようだ。


 どこに打ち込んでも全てさらりと受け流してくれる。気を使わなくて良いほどの実力差が今は嬉しい。好き勝手に一心不乱に打ち込めば、落ち着かなかった心が落ち着いてきたように思う。


 うん、スッキリした。 


 未だに投獄されていないと言うことは、王の前から何も言わずに走って逃げると言う行動は、不敬には当たらない事になる? アミラに聞いてみよう。

 

 手合わせ中他の事を考えていたサウラは、もう一つバートにお願い事をし、更に体を動かす事に集中するのだった。





 部屋の中にお風呂がある。使いたい時に使えるなんて、なんて贅沢で気持ちの良い事なんだろう。


 村のお風呂は部屋の外。小屋を作って湯船を置き、小さくなって入っていた。

 仕事や体を動かした後は、そんな小さなお風呂でも十分気持ちが良かったし、1日仕事をした充足感があってサウラは好きだったし、満足していた。


 しかし王城のお風呂は別世界だ。足が伸ばせるし、侍女が時折お花を浮かべたり、香油を垂らしてくれたりと、とても良い香りがする。


 肌を見られるのは恥ずかしいので一人で入ってはいるが、湯上りにマッサージやら、クリームやらを塗ってくれる。

 こんな贅沢を覚えてしまっては、人間ダメになりそうな気がしてならない。


 自立出来てこその大人である。人の手を借りている自分が、面倒を見られている子どもに思えてならなかった。


 室内着に着替え夕食を取る。朝の回復魔法のお仕事が終われば全て自由時間なサウラは、読書などの好きなことの他に、アミラから礼儀作法を習っている。

 1日を通して疑問に思った事などを、夕食後のひと時にアミラと話し合うのも日課であった。


 今日も、王の前から逃げ出した事は不敬にはならないのか、とアミラに確認を取る。詳細は省くが、顔を合わせ難かったとだけ話した。


「…逃げ出したのでございますか?」


「そうなの。やはり不敬に当たりますよね?」


 肯きながらサウラは身を乗り出す。

 出来たら一生牢暮らしは避けたいのですが、と真面目な表情でサウラが続ける。


「その前に、姫様。使用人に敬語は必要ありませんよ。」

 少し困ったようなアミラが更に続ける。


「もし、陛下が不敬を問われるならば、その場で問われましょう。陛下は問題ないものとのお考えであると思います。姫様に関しては非常に寛大に対応せよとの仰せですので。」


「では、怒られはしませんね。」


「怒るも何も、きっと陛下は姫様が引っ叩いてもお怒りにはならないでしょう。」

 にこやかにアミラは笑って言うが言っている内容は恐ろしい。


「引っ叩くのですか?」

 そんな事は絶対にしないと、嫌そうな顔になるサウラである。


「陛下には負い目がございますもの、引っ叩かれても文句も言えぬ立場ですわ。けれど陛下は姫様と仲良くしたいと思っておいでです。お嫌で無ければ、話しを聞いてあげて下さいませ。」


 引っ叩かれても文句を言えない王様とは?

 王様を引っ叩いてもお(とが)めなしな私とは?


 なんだか立場が違うように思うのだが、私が間違っているのだろうか?

 教育係の一人であるアミラからの言であるから信憑性は有るのだろうが、[貴族共通礼儀作法]本は間違えであるのか?情報が古いのか?中、上級編を読んでみなければいけないかもしれない。


 サウラが明日は絶対に図書館に篭ろう、と考えているところに、アミラが一通の手紙を差し出す。


「陛下より、こちらを預かっております。」


 綺麗な柔らかい質感の封筒に入った手紙を受け取る。

 ほのかに良い香りがする。


 サウラの村には手紙のやり取りの習慣がない。先日、故郷に手紙を書きはしたが、侍女にあれこれ聞いた上でやっと書いたものだ。


 サウラが貰った手紙といえば、

[ぼくは、げんきです]と書いてきたサジの物からが最初で最後だ。

 手紙が貰えるなんて嬉しいと素直に思う。


 ルーシウスとは毎朝顔を合わせ、時には朝食も一緒に取りはするが、真面目で優しいと言う他、あまりよくわからない。手紙に書かれている事から、もう少しルーシウスの人となりが分かれば素敵だと思った。


 アミラが就寝前のお茶を準備し静かに退出していく。

この後は夜勤の侍女が別室に控えているが、呼ばねばこないので一人でゆっくり過ごすことができる。


 初めての手紙を開く。

 便箋を出す時に、僅かにバラの香りがした。


   [先日の昼食のお礼に

      我がサウスバーゲン城下町を

      サウラに見せたいのだが、

      いかがか?]


 短い文で終わった手紙だが、泣き顔を見せてしまった件に対して触れられていない事が正直有り難かったし、アミラが言っていたように、王の前から走って逃げた件は不問にされている様だ。

 

 そして何より、城下町に出られる?


 今まで一生を村で過ごすだろうと思っていたサウラが、思いもかけずサウスバーゲンに召喚されたことも信じられない事だったが、ここでも、自由に外になど行けないと思っていたのだ。


 なのに連れ出してくれると言う。

 年若いサウラにとって、新しい物が見られるチャンスはとてつもなく魅力的だった。


 小躍りしたいくらいに嬉しい!

 明日、行きますってお答えしよう!


 嬉しくて、きゃぁ、と叫び出したいのと、寝具にダイブしたいのも我慢して、今日も静かに、慎重に寝具に潜り込み休むのであった。






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