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その手中に収めるものは  作者: 小葉石
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公爵からの手紙

 アレーネから預かった手紙を執務室で難しい顔の面々で囲んでいる。


 ルーシウスは勿論のこと、シエラ、シガレット、アラファルトと揃い踏みだ。


「事の詳細は未だに?」

 シエラが手紙を受け取りつつアラファルトへ視線を向ける。


 誘拐失踪事件に関し、早3日は経った。命を受け、現地に潜入していた(おと)り騎士、その護衛達は全員帰城している。一人意識不明となったソウも翌日には回復し現在王の希望により、部屋で待機となっている。


「まあ、公爵が絡んでいると成れば直ぐに結論付けることは出来ないでしょうね。しかし、今回ばかりは知らぬ存ぜぬでは通らないでしょうが。」

 その為にもアレーネをサウスバーゲンに寄越したようなものだ。何も知らないだろう素直そうな令嬢を思えば少し心に影が落ちるシガレットではあるが、自分がパザンの王であったとしても当事者を裁くことを躊躇(ちゅうちょ)しないだろう。


「しかし、何でございましょうな?ここまで認めてしまっているのにパザンからは報告がないのは…」

 国を挙げての宣誓布告か?アラファルトの瞳に不穏なものが光る。


「いや、パザン王は腑抜けではない。自国の利にならぬことを進んでする方ではない。どう見ても今回は悪手だ。」


 アッパンダー公爵の手紙には孫のアレーネの事を頼む事と責は己れに有り、そして王家に目を向けよと記されている。今回の事件の首謀者を自白したようなものだが、何故手紙でサウスバーゲンに?パザン王へ告白すれば自国で恩赦付きで裁かれる事も出来たはず。わざわざ被害国へ告白とは…攻め入られても文句は言えない。


「アッパンダー公爵独断で、これは誠意のつもりか…又は自国の滅亡を謀ったものか…」


「滅亡とは穏やかではありませんね。滅亡を願う者は王家に刮目せよとは書かれないものではありませんか?滅亡までいくと王族も絶たなくては行けなくなりますから。」

 シガレットも穏やからしからぬ事をさらっと口にする。それに肯くルーシウスだ。


「王家に刮目せよ、ね。時間稼ぎかしら?」


「シエラ様もその様に思われますか?」


「ルーシュの言う様にこれ位の事件なら自国の裁きで十分でしょう?公爵からこの手紙が来たって事はパザン王はまだこの事を知らない為に未だ調査中なのでしょうね。」


「何の為に時間稼ぎ等と?」

 アラファルトが少し身を乗り出す。首謀者はこんなにはっきりしているのに。


「そうね。公になったら公爵は身動き取れなくなるでしょう?アルト貴方だったら時間稼ぎをする時はどんな時?」


「情報収集、此方の体制の強化整備、罠を貼る、隙をつかせる、誰かの囮りになる、でしょうか?」

 平常時の時間稼ぎで無いのはこの際置いておこう。


「そうね、何かするためよね?」


「どうやらアッパンダー公爵は此方に手を貸して欲しいのだろうな。」


「王室に何かあり、此方から手を出せと仰っているのですか。」


「手を出す、出さないかはもう少し情報を集めましょうか。アレーネ嬢も来ておられる事だし。王室に近しい方なので何か知っている事も有るでしょう。」


「間違えないでくれ。手を出す、のでは無い。やるとしたら手を貸すのだ。」


「御意。」


 悪魔でも他国のいざこざは他国のもの。外から入って来た者が主導権を握ってはいけない。パザンは友好国だ。属国では無い。


「それでは早速歓談の席でも設けましょうか?」


「待て、シグ。それは俺が出るのか?」


「この中で貴方以外にアレーネ嬢と歓談をして釣り合う者がいますか?」

 しれっとした顔でもってシガレットが答える。


「まさか私?南の魔女と呼ばれてるのに、いきなり他国の御令嬢と2人切りとか無いわよ?面識ないし。」

 お嬢様がきっと怖がるわ。


「成人していないと言っても未婚のご令嬢ですからね。騎士である自分も不釣り合いでしょう。」


「あい、分かった。身分等は時に自分の首を絞めるな。」

 クッとルーシウスの眉が寄る。降参と言う様に両手を上げて了承する。


「この事、サウラには話すなよ?」

 ルーシウスは未だサウラに求婚中なのだから、他の令嬢を伴って食事の席や共に過ごす時間を作る事は避けたいのだ。仕事の時間も惜しい程にサウラの側に居たいと思っているのに。


 女々しい事この上無いが、意識無く帰国したサウラを見てはただただ後悔しかなかったのだ。労いの言葉もやっとの思いで紡ぎ出した。生きていてくれた事がたった一つの救いで、他の全てのことは後悔に飲み込まれてしまった程だ。

 こんなにも自分の中で掛け替えの無いサウラに苦しみや悲しみ、寂しさなど微塵も感じさせたくは無い。


「あら、正直に仕事の一つと言ったほうが良いわよ?変な誤解が生まれても嫌でしょ?」

 

 勿論嫌だ。眉間の(しわ)が、また深くなる。誤解など以ての他である。


 クスリ、と隣で含み笑うシガレットをジトリと睨めば、今度はシガレットが降参の両手を上げる。


「それでは姫様とご一緒の席にご招待しては?」

 シガレットが妥協案を提案するが、ルーシウスは目を(つむ)ったまましばし考え込んでしまった。


「いずれ、サウラ様が隣にお立ちの際には陛下と共に又はお一人で御公務にお出ましにならなければならないのですよ?」

 その、一つ一つに陛下は気を使われるのですか?


 シガレットの何と絶妙な説得であろうか。

 隣に立つ、共に歩む未来、未だ欲しくても手に入れる事が出来ていないものだが、約束されたものの為と思えば嫌な気はしない。


「全面降参だ。シガレット…」


 若くしての宰相の座は伊達では無い。








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