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終焉と英雄と  作者: Slonay
1章1節『終わりの始まり』
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7.『どん底』

 ──交差点の四方向、そのすべてが地獄へつながる道になっていた。


 「クソッ…どうすれば…」


 だが、叡人はそれだけでは諦めなかった。 

 彼は頭をフル回転させて、「生き残るための方法を」考えた。考えて、考えて、


 「いや、待てよ…?あの、地獄を、あの、地点を走り抜ければ…」


 そう、思いついた。だが、彼は気づいていない。


 彼はこの時、すでに弥生のことを考えていなかった。あまりにも非情な世界に彼は心を壊され、自分のことだけしか考えていなかった。

 それだけではなく、地獄を避ける選択肢も、頭から抜け落ちていた。彼の頭には今、地獄を抜け出し、自分が助かることしか脳裏になかった。* ()


 目的がいつの間にか、入れ替わってしまっていた。


 「弥生を助ける」から、「自分が助かる」へと。


 ──それ以外に原因はないだろう、あんなこと(・・・・・)が起きたのは。


━━━━━━━━━


 走る。走って、走って、走って、あの地獄を抜ける。そのために、走る。


 「ひ、へひ、ふひひっ」


 気づけば、気持ち悪い笑いが口の端から零れ落ちる。


 「──ん、────くん!」


 何か聞こえるが、そんなことより、あの地獄から抜けなければ。

 一刻も早く、あの地獄から抜け出さなければ。

 そう思い、とにかく走り続ける。走って、走って、


 ──また何か聞こえたが、適当に、無意識に何かを口走る。


 そしてまた、走り出す。


 ──その幕切れは、一瞬だった。


 背後に轟音が響き、トラックが衝突し、一瞬の後、静寂が訪れる。


 ──静寂が、訪れる。


 「や、ふひっ、やった、のか…?俺は、地獄から逃げ切った…のか?」

 「…、──、──、そうだね。」


 地面にうずくまって歓喜に打ち震えていると、とても固い声が降ってきた。


 「──。あぁ、弥生、ごめん、説明なく走り出しちゃって。ちょっと、嫌な予感がしたから」

 「──。────。──────。弁明は、それだけ?」


 ──返ってきたのは、感情の凍えた声だった。


 「──え?」

 「────」


 彼女は、俺に何も言おうとはしない。


 「ど、どうしたの、弥生」

 「──────」

 「お、俺は、弥生のためを思って…」

 「────────」


 その固い声に、凍えた眼に、俺は気づかないうちに、誰にも聞かれていないのに、言い訳を口走っていた。


 「なんで…なんで、そんな冷めた目で俺のことを見るの?」

 「──────────」


 俺はその冷めた目を、凍えた眼を、理解できない。

 自分は、何も悪いことはしていないはずなのに、一体何故。


 「ねぇ…何か…答えてよ…弥生…」

 「──先に、君が答えてよ」


 縋るように出した言葉は、その固い声に叩き落される。


 「え…?な、何を、答えれば、いいの…?」


 だが、返答は返答。俺は、その内容に縋り、それさえ答えられれば、元に戻ると思い込んでしまった。弥生の声に、縋ろうとした。


 そしてそれは、後から考えると、あまりにも愚かだった。


 その愚かな考えは、藁に縋る叡人は、その直後、藁ごとその考えをぶった切られた。


 「────。────。────、なんで、君はあの子を見殺しにしたの?」


 ───。────。─────。今、弥生はなんていった?

 そう困惑しフリーズする俺に、彼女はトラックのほうを指さす。

 つられて、その彼女の指の先を見る。


 ──そこには、グチャグチャの肉片と、引きずられたような──否、子供がトラックに引きずられた、跡があった。


 「う、ぼぅえ」


 あまりの惨さに耐え切れず、吐いた。吐いた。吐いて、胃液を路面に撒き散らした。

 だが、吐く叡人に向けて、彼女は淡々と問いかける。


 「────わからないの?」

 「────」


 わからない。弥生が何を言っているのか。


 「本当に、わからないの?」

 「────」


 わからない。なんで、弥生は俺をにらんでいるのか。


 「──わたしが、あの子を助けようって、手を引っ張ったとき、君、なんて言ったか、覚えてる?」

 「────」


 ──覚えていない。俺は知らない、そんなこと。


 「君は…君は、こういったんだよ?」


 淡々と──否、彼女は震える声で話を続ける。

 その震えた声を聞き、凍えた目で見られる叡人は、


 なんで、そんな悲しそうな声で、凍えた目で、責められなきゃいけないんだ。

なんでだよ。いやだ。もう聞きたくない。やめてくれ。


 気づいたら出てきていた彼のその懇願は、しかし言葉になっていない。


 だから、いや、もし言葉になっていたとしても、弥生はそれをやめなかっただろう。彼女は罪人を、咎人とがびとを許しはしない。断罪を、するために。


 そして──、


 「君は…『そんなガキ、殺しちまえばいいんだ』って、そう、いったんだよ?」



 「──は?」


 ────彼女は、俺を弾劾する。


 その言葉が発せられた瞬間、俺は思考が、完全にフリーズした。


 「君は、間違いなくそう言ったんだ。それだけじゃなく『どうでもいい』って…」


 言ってない。俺はそんなこと言ってない。


 「振りほどこうとしても、君が強くつかんでたから、助けることもできなかった!!」

 「────」

 「あの子は…まだ、ちっちゃい子供だったんだよ?」


 泣きそうな声で言われる。


 「助ける時間は十分にあったのに…!」


 悲痛な声で叫ばれる。


 俺は、違うと、俺はそんなことは言っていないと、無気力に首を横に振る。


 しかし、弥生は震える声で叡人を糾弾するのをやめない。やめて、くれない。


 「あの子は…あの子は、君のせいで死んだんだ」


 当たり前だ。間違いなく、彼女の中で──否、叡人はまごうことなき罪人なのだから。


 「君さえ…君さえいなければ、あの子は助かったんだ」


 違う、そう叫ぼうとした。そうしたら、弥生が死んでいたんだ、と。

 だが、その言葉は喉の奥でつっかえ、出てこなかった。


 だから──、


 「だから、君に生きる価値はない」


 聞こえたのは酷く冷たい声だった。


 ──そう、酷く、冷たい声だった。


 「ちょっ、ま──」


 ──やっと出た言葉は、弥生には届かない。


 ──何故なら、彼は次の瞬間、弥生に(・・・)刺し殺されていたからだ。


 意識が急速に薄れゆくなか、弥生が自らの首を刺して死んでいくのが見えた。


 ──涙を、流し、


 「なんで…叡人くん…叡人くん…」


 そう、つぶやいて。


 その声は、残念ながら叡人には届かなかった。



━━━━━━━━━



 ──弥生には見限られて殺され、自殺される。無様だ。情けなくて、でも涙すらでてこない。


 俺は罪人だ。ひとりの子供を見殺しにして弥生にあんな顔をさせた、罪人だ。




 ──そうして彼はどん底に堕ちた。

()補足のために付け加えておくが、何もこれは叡人がクズだからこうなったわけではない。誰だって幼馴染が目の前で血飛沫を撒きながらピクピク動くだけの肉塊となり、その一方で自分が手首を切断され、その後暗闇に投げ込まれ、何が起こったのかを把握させられ、それをたったの(・・・・)3度だが、見せられたのだ。誰だってああなっておかしくないだろう。だが前述したとおり、たったの3回。つまり再演は2回だ。そこで、心が折れたのは彼自身の責任だろうが。


──。あれ?なんで自分で書いて自分で擁護してるんだ?


 それはさておき。たったの2、3回でもう心をタコ殴りにされた叡人くん。はたして、彼は再起を果たすことができるのか。 次回もお楽しみに。(読んでくれてる人いるのかな...)

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