6.『絶望』
──時を遡った先に、彼女の存在がある。
だから、何をすればいいのかわからなくても、
──俺は、彼女を守る。
そう、決意を新たに、彼は遡っていく。
──その決意が、悪意によって、その悪辣さをもって、踏み躙られることを知らずに。
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「──お待たせ、じゃ、行こうか」
「──、ああ、行こうか」
その声に一瞬喪失しそうになった自我が現実に戻ってきた。
──どうやら俺には、運命を打開することを求められているらしい。
まだ完全にはわかっていないが、俺は某ラノベ主人公のような権能、「死に戻り」のような力を手に入れたらしい。しかも現実世界で。これだけ聞くと希望が見えるかもしれないが、
──その権能のトリガーはみなさんご存じ「死」だ。ただただ受け入れるわけにはいかず、さらにその権能には、いくつかの違いがあったのだ。
つまり俺が何を言いたいかというと、
──「怪しい」。または、「危険」。
こういうモノに違いがあったら、さすがにペナルティがついてくる危険性がある。便利は便利だが、頼り切りにはならない。劣化版持ちの某主人公もそういっていたし。
──だが、そうと決めていても「劣化版」と言っている時点で、優越感があることに彼自身は気づいていない。気づいて、いなかった。
──その優越感から生まれた、わずかな余裕が、「絶望」を呼び寄せる。
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──弥生と話しながら、いつもと少し違うルートをとり、あの場所から離れていく。
離れれば脅威がなくなるのは実証済みだ。
もう彼女があのようなことになるのはごめんだし、当然自分も死にたくない。
そんな思いを抱きながら弥生と話していると、ふと周囲の違和感に気づく。
「何か、道に見覚えが……」
その道はまるで──、
「あっ!!」
「きゃっ!」
あることに気づき、立ち止まる。
背中にぶつかった弥生が悲鳴を上げるが、構っている場合ではない。
道が、同じなのだ。
──彼女が死ぬところへ向かう道と。
俺は確かに間違いなく、普段は行かない道へと行ったはずなのに。
それが、どうして──
「──人くん?叡人くん!」
気づけば俺は反対に向かって走っていた。
弥生の手をつかんで。
走って、走って、走って、走って────
「ねぇ、叡人くん!聞いてる?ねぇ、叡人くんってば!」
そう言われ、強引に引っ張られて、俺はようやく弥生を引きずるように走っていたことに気づいた。
説明もなく、いきなり手をつかまれて反転して走りだされたのだ。彼女も困惑するだろう。
「あ、あぁ、ごめん」
「私は別にいいけど…、どうしたの?なんか今日の叡人くん、変だよ?」
「そうだね…ほんと、
ごめん、と言おうとして顔をあげて、言葉を失った。
──地獄への道が、またも目の前に広がっていたからだ。
「──ッ!弥生、ごめん!説明は後でする!」
そう叫び、右へ左へ、とにかく行けるところへ、行ったことのない場所や、路地裏まで行った。
そのおかげか、いつの間にか交差点に立っていた。交差点は帰り道にない。だから、そこで安心して、心を落ち着かせようと、周囲を見渡して──
──だが、運命は、世界は非情…否、悪辣だった。
「──うそ、だろ」
──交差点の四方向、すべてが地獄への道になっていた。