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終焉と英雄と  作者: Slonay
1章1節『終わりの始まり』
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4.『理解』

 ──時間を遡っていく。どんどん遡って、遡った先に───、


 「お待たせ、じゃ、行こうか」


 「──え?」


 意識が覚醒した直後、愛おしい声に鼓膜が揺さぶられる。つい、呆けた声を出してしまった。


 「──?どうかした?」


 「──、──、いや、何でもない。それじゃ、行こうか」


 とりあえずまだ、頭の中には困惑が渦巻いている。いや、困惑どころではない。だが、そこは一応高校生、とりあえず目の前の状況に対応することを優先した。


 今さっきのことを夢と割り切って、弥生と話をしようと。


 しばらく歩いたあと、


 「なぁ、弥生」


 そういって、叡人は益体のない話から弥生と話し始める。そう、くだらない、アニメの話や、小説の話。だが、叡人は困惑を自らのうちに抱えたままだった。


   当たり前だ。


 つい今さっき、弥生の「死」を見せられ、己の「死」をも見せつけられた後の状況なのだから。だが、そんな事情を弥生は知らない。知るわけがない。しかし、


 「──?叡人くん、どうしたの?今日、なんか変だよ?」


 流石に割と鈍感な彼女でも、叡人の異変に気付いたようだった。


 「あ、あぁ、ごめん、ちょっとボーっとしちゃった」


 とりあえず叡人はそういって誤魔化そうとするが、


 「本当に、大丈夫?本当に、本当に大丈夫?」


 彼女はその優しさをもって自分を心配してくれる。


 「大丈夫だって、ありがとう、心配してくれて」


 そういうと、彼女は「そ、そう?」と、すこしうつむき加減になって、


 「ところで叡人くん、あ、あの、その、ええっと、」


 その状態で、何かを言おうと叡人に話しかけてくる。


 「?何?」


 そう返すと、彼女は上目遣いで、モジモジしながら、


 「その、私、叡人くんのこと、ずっと前から──


 それは、状況を正しく把握しなかった自分の罪なのだろう。現実逃避をし、目の前のことだけに集中をして、すべてを忘れ去ろうとした、自分自身の。


 ──そしてその罪は鮮血の結末となって、襲い来る。


 目の前で弥生がトラックに轢かれ、路上に鮮血がぶち撒かれる。

だが、目の前で起こる現象に、悪夢に、俺は、何もできなかった。


 ──否、なにも、しなかった。できることは、あった。でも、俺は、なにもしなかった。


 弥生の死に絶叫を上げるでもなく、ただ茫然と立っていた。



 ────ただただ、立っていた。



━━━━━━━━━



 またも暗闇に放り込まれ、叡人は事ここに至ってようやく状況が把握できて来た。


 ──自分は、失敗したのだと。


 自分に何が起こったのかは、手遅れだが理解できた。名づけるなら「死に戻り」といったところだが、今回のケースは叡人の知る「死に戻り」とは少し違っていた。


 ラノベ好きな叡人は、「死に戻り」が登場する某ラノベを特に好んで読んでいたが、その「死に戻り」とは決定的に違う点が、今回のケースには多く存在する。


 まず挙げるなら、ここが「現実世界」であること。


 その某ラノベの主人公は、例によって異世界召喚され、その際に「死に戻り」を獲得していた。ここは、現実世界だ。考えられるパターンとしては、


 「俺が生まれたときに備わったか、じゃなければ」


 ──何者かの意図によって付けられたか。


 そしてその次に挙げるなら、猶予時間と、確認時間があること。


 その某ラノベの主人公(以下、某主人公)は死んだ直後に、特定のセーブ地点に戻されていた。(セーブポイントがわからないというのは同じだが)、自分のように暗闇の空間に放り込まれ、何が起こったかを客観的に見ることはできていなかったはずだ。もちろん、考える時間も。


 さらに挙げると、痛みがないこと。


 某主人公はそもそもこんな空間には放り込まれていないのであまり参考にはならないかもしれないのだが、少なくとも自分は痛みなどもらう前にこの空間に放り込まれた。直前の痛み(手首切断)は抜きにしたとしてもだ。ただ、これに関しては自分を殺した相手の技量が高い可能性もあるが。


 そうして考察を続けていると、最初とは少し違う映像を見せられる。


 ──今さっき、失敗したときの映像だ。


 しばらくして映像が終わると、巻き戻しが始まる。


 直感的に、時間遡行に必要なプロセスなんだろうと理解した。どういうことかはわからないが。


 そうして適当なことを考えながらも、時間は遡り、叡人はまたもループへ入っていく。


 そこで、なんとなく、例の某主人公が使っているセリフを使ってみたくなった。


 たしか、


 「俺が、必ずお前を──


  ──救ってみせる。


 そのセリフは、カッコつけのために、自己満足のために吐いた言葉だったが、


 ──案外、頑張れそうになるもんだな。


 そう、言葉にならない言葉を心の中で呟きながら、彼は時間を遡行していった。

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