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終焉と英雄と  作者: Slonay
1章1節『終わりの始まり』
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2.『悪夢』

 ──目の前が、真っ赤に染まった。


 「──?」


 何が、起こったのかわからない。今、一体何が──


 「──弥生?」


 ────弥生が、血を噴くただの肉塊となっていた。


 「っぁあああああああ!!!!!」


 いきなり、何があった。俺は確か、弥生に告白して、それから───。


 唐突に訪れたあまりに受け入れがたいその惨状に、目の前の悪夢に、それ以上の思考は続かなかった。俺はひたすら絶叫した。絶叫して、絶叫して、吐いて、頭を打ち付けて、また絶叫して、ひたすらに意味のわからない現実を受け入れまいとした。意識がもうろうとしてもなお延々とそうしていて、決して現実を見まいと、頑なにすべてを拒絶しようとした。


 しかし、現実は見ようとしてみるものではない。たとえ現実から逃げたところで、結局最後には現実を見せつけられ、否が応でも受け入れなければならないのだ。


 ──やがて弥生であった「ナニか」が血を噴かなくなり、脈動すらもしなくなった頃に、俺は絶叫する気力すら尽き果てた。そうして現実を見て、受け入れて。


 「──。」


 涙が溢れた。もう、心が壊れそうだった。だって、目の前にあるのは今さっきまで会話していて、今さっき告白して、今さっき嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってきていた、あの、俺の大好きな、弥生なのだ。ああ、どれだけ血まみれになっていようと、弥生はやっぱり可愛かった。だからこそ、動かない弥生を見て、血まみれになった弥生を見て、涙が止まるはずがなかった。

 しかし、呆然とする段階はもう過ぎ去ってしまった。俺は現実として、死んだ弥生を見た。見てしまった。そして、何をどう考えても現実であると、そう受け入れてしまった。

 だからこそ、これが現実ならば、せめて弥生を。

 そう思い、「そのあと」どうするかを考えず、ただ漠然とした衝動に従って俺は弥生に、弥生だった「ナニか」に近づき、手を触れようとしたのは当然のことだった。少なくとも、俺の思考の中ではそれは当たり前のことで。


 そうして、俺は彼女に手を伸ばして──。


 「───ぁ?」


 次の瞬間、俺の手首が血を噴いて宙を舞っていた。


 「っぁああああああああ!!!!!!!」


 絶叫した。


 あまりの激痛に、何も考えられない。痛みにのたうち回り、激痛をさらなる痛みで書き換えようとして、体中を様々なところにぶつけた。


 「痛い、痛い、いたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイ──」


 だが、そんな、痛みに脳が支配され、とにかく痛みから逃れたいと、とにかく痛みを何とかしないとと、それしか考えられない状態でも、俺は無意識のうちに弥生であったナニかに触れ、抱き寄せて────。


 次の瞬間、俺は暗闇の中に放り込まれていた。


━━━━━━━━━


 「──は?」


 ──暗闇しかない。ただただそこには闇が広がっていた。


 困惑した。ただひたすらに困惑した。様々な思考が一瞬にして脳内を駆け巡るが、特に解決策などが出るわけはない。


 さらに、何もわかっていない状態だが、これはマズいと頭の中でずっと警鐘が鳴り響いていた。マズい。マズい。これは絶対にマズい。その思考のみが他の思考を圧迫していく。


 何がマズいかといえば、自分が落ち着いていることだ。直前まで自分は激痛に泣き叫んでいたはずなのに、今は落ち着いている。直前までの狂乱っぷりを鮮明に思い返せるのに、今はそれで特に感情が揺れ動くことがない。そう、自身の状態を鑑みるだけでもう十分以上に状況がおかしかった。


 だが、そんなことよりも不可解なことがある。


 「ここはどこだ…?」


 ──そう、この場所に至る経緯が一切ないのだ。分かりやすく魔法陣などが出て転移、のような現象があったわけでもなし、落とし穴に落ちた、のような分かりやすい移動もなかった。加えて、あらためて自分自身を見てみれば、体は存在している。体を(つね)ってみれば痛みはあるし、きちんと実体として存在している。幽体離脱したわけでもなければ、夢や気絶という説もない。

 つまり、ここに至るまでの経路、およびここに関する手掛かりは一切ない。


 意識の断絶、あるいは転移の予兆すらも感じ取れなかったのは、ほんの数刻前まで自分が痛みに狂っていたのも原因のひとつだろうが。


 「クソ…なんでこんなことに…」


 だが、悔やんでいても、考え続けても、埒はあかない。だからといって、下手に動いて何かあったら…と考えた俺は結局その場で待機することにした。


 ──しばらくしたら、目も慣れるはず。

 ここが「暗闇」だからこそそう思った叡人はしばらく待ったが、いくら待っても目が慣れない。よくよく考えれば思い至れたはずだが、元々自分の体を目視できていた以上、ただ単純に光がないだけの「暗闇」ではないことは明白だったのだ。しかし、焦燥もあり、そこに考えが至ることはなかった。


 叡人は暗闇に目が慣れないことに若干いら立ちを覚え始めた。しかし、目が慣れなければ、この空間から抜け出そうとしても、このような暗闇では何もできない。


 つまり、このままではこの空間に入った理由も、出る方法もわからない。


 そこまで考えた叡人は、やはりこのままでは埒が明かないと、目が慣れるまでその場で待つのを止めると同時に、ここに放り込まれるまで何があったのかを考えることにした。



 ──それが、さらなる絶望を呼び寄せることになるとも知らずに。


━━━━━━━━━


 ──ゆっくりと、記憶の海に潜っていく。


 「まず、普通に会話してたはずだ」

 「確か、俺は弥生に告白して、それで」

 「──ああ、そうだ、思い出した」


 ──目の前で弥生がトラックに轢かれ(・・・・・・・・)、吹き飛ばされていたのだ。

 あまりのショックに、しばらくそれ(・・)がトラックであると気づかなかった。


 「信じたくない…だけど、だけど…」

 「現実は、認めるしかない」

 「弥生は…弥生は、俺の目の前で──」


 ──死んだ。


 周りに誰もいない状態での独り言とはいえ、やはりその言葉は口から出てこなかった。が、認めたくなくても、それは現実だ。そう、叡人自身がそれを間違いなく認めたのだ。 


 そう、間違いなく、弥生は叡人の目の前で死んだ。

 が、言ってしまえばそれだけである。冷たいようだが、状況を俯瞰すれば、あくまでもただ単純にトラックに轢き殺されただけだ。こちらの精神的ダメージはさておいても、弥生が死んだことに別に不可解なことはない(・・・・・・・・・)


 ──がしかし、問題はその後なのだ。


 「俺は…そう、確か死んだ弥生に触ろうとして、それで…」


 ──手首が吹き飛んだのだ。


 なぜ、手首が吹き飛んだのか。考えれば考えるほど不可解だ。なぜなら叡人はただ弥生だったモノに手を伸ばし、触れようとしただけなのだ。絶対に何かがおかしい。弥生に刃物がついていたわけでもなし、トラックの破片が転がっていたわけではない。たとえ骨が折れて刃物のように先端が鋭くなっていたとしても、手首がきれいに断面を(・・・・・・・・・・)晒しながら吹き飛ぶ(・・・・・・・・・)事象など、起こりうるわけがない。


 そうして自身に起こった不可解な現象について考えを掘り進めていこうとすると────。


 「──ぁ?」


 ──急に目の前に、強い光が現れた。


 何故現れたのか、その理由はわからない。

 だが、そんなものはさほど重要ではない。それよりも重要なことがあった。

 

 その光には、色があり、動きがあった。

 そう、それを形容する言葉があるとしたら──



 ──それはまさに、現実世界の光だった。

さて、ここから主人公の苦しみが始まります。もうこの時点でだいぶヤバいですが。

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