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終焉と英雄と  作者: Slonay
1章1節『終わりの始まり』
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1.『好きな人』

 俺の名前は(きずな) 叡人(えいと)。ただの、本当にただの、普通の高校生だった。


 人より本好きで、ファンタジーものが好きで、ラノベが好きで、好きな女の子がいて、ただそれだけだ。

 妄想が少し激しかったり、勉強の理解力だけが高かったり、少しだけ周囲より違うことがあっても、それは「普通」の範疇に収まる。


──これは、そんな俺が普通じゃ、「ただの高校生」じゃなくなる、「英雄譚」。


━━━━━━━━━━━


 俺には、好きな女の子がいる。とっても可愛くて、普段は眼鏡をかけているが、眼鏡をかけていてもいなくても、彼女の笑顔は変わらず可愛くて、俺はその笑顔を見せている彼女が一番好きだ。


 俺は、彼女にぞっこんだ。俺が彼女を好きになったのは忘れもしない、小学生の時のあの日のことだ。あの時は、まさか自分がこんな恥ずかしいセリフを言うことになるなんて、想像もしていなかったが。


 あの日、俺は、塾に行くのにあまり乗り気ではなかった。特に理由はなかったが、とにかく行きたくなかったのだ。小学生を想像してもらえれば分かるだろう。ただただ面倒で嫌だったのだ。

 あの日は家に着くなり塾に行きたくないと駄々をこねていた。が、当然のことながら親に叱られ、渋々家を出て塾へ向かうことになった。

 その途中で、交差点で横から女の子が自転車で渡ってきたのだ。


 最初はそもそも気分が落ち込んでいたのもあり、特に気にも留めなかった。さらに言えば、そのころ俺はいじめにあっていて(完全に自業自得ではあったのだが)、女子にも嫌われていた状態だったため、余計に女子などという存在とは関わりたくはなかったのだ。


 しかしながら、スマホも持たせてもらえない年齢だったが故に、意識を他に集中させるようなものなど特にある訳もなかった。そんな状態で人が近くに来たら、一瞬とはいえ気にはとめる。軽くそちらへ目を向けると、同じクラスの子の「優等生」だということだけがわかった。

 しかし、だからと言ってどうということもなく、俺はすぐに意識を信号に戻した。

 興味など、欠片もなかった。


 ──だからこそ、そうしてただ信号を待っていた俺は、次に聞こえてきた音に気づくのが遅れた。


「私、塾に行きたくなくて、家で泣いてたの」


 ──それは、完全に俺の想像の外から入ってきた。


 最初は、独り言かと思った。俺も独り言が多いから、そういった類の人かなと思ったのだ。

 それに、俺は今、クラスで一番嫌われているといっても過言ではなかったが故に、自分に話しかける人などいないと思い込んでいたのもある。


 ──なのに、彼女はこちらをみて、微笑みかけてきていて。


 彼女の頬に言葉通りに涙の跡があるのを見た途端、俺がこれまで彼女に抱いていた「優等生」という、自分が関わりたくない感じのイメージは消え失せた。

 彼女の微笑みから、俺は一瞬にして目を離せなくなった。


 あとから、彼女の名前が弥生ということを知った。


 そしてなんと、クラスメイトの女子の名前を知ったのはこれが初めてだった。ああ、思い返してみても自分にあきれてしまう。俺は、女子に嫌われているからといって、女子の名前をこれまで一人たりとも知ろうとしてこなかったのだから。



 ──そうして俺は、彼女の、弥生のことが好きになった。



 その日から自然と塾の帰り道には毎日彼女と話をしながら帰るようになった。塾に行く途中で会えば、当然のように話をしながら塾へ向かった。彼女と話すためと思うと自然と胸が弾み、塾に行くのも苦ではなくなった。


 ただ、その一方で、恋愛的なものに関して言えば、特に進展などはなかった。彼女とはそのまま、学年が変わっても何かが変わるわけでもなく、「塾の帰り道に話す」という関係がずっと続いていった。


 なお、こんな感じで彼女と話すことができるようになり、更に学年を経るにつれて自分の悪評が薄れ、いじめが収まってきても、結局他の女子の名前は全然覚えることはできなかった。トラウマは消えず、他の女子と関わることは授業など以外では自分から避けていた。あまりいい印象は持たれなかっただろうが、これに関しては仕方がない。


 そして中学も、高校も彼女とは学校が同じで、離れ離れということはなかった。もちろん、進展も一切なく、変わらぬ日常を、変わらぬ毎日を送っていた。


 俺はそのことが幸運であるということに気づいていなかった。


 ──だから、あんなことが起こったんだろう。


━━━━━━━━━━━


 ──終わりは、唐突に訪れた。

 ある日の帰り道、彼女が塾をやめるといったのだ。どうやら塾のせいで友達と遊べないことが多く、人間関係がかなり悪化しているようだった。他にも、塾の授業の質が悪いとも彼女は言っていたが、それには全面的に同意したい。俺がこの塾を続けていた理由は、弥生がいたから、というだけなのである。

 最後に彼女が塾に来る日はクリスマスとなるらしく、それを聞いた俺はちょうどいいと思った。せっかくクリスマスなのだから、塾のこの関係が途切れる前に告白をしようと、そう思ったのだ。

 俺は、その日までに絶対に告白を成功させようと思い、様々な告白方法、プランを、本当に色々考えた。考えて、考えて、――。

 

 しかし、どれだけ考えても「あれがいい」「これがいい」という案だけがひたすらに思い浮かんできてしまい、決めきることも、まともな準備をすることもできず、そのまま俺はいつも通りの幸せだが無駄な時間を過ごし続けて、そして、ついに当日を迎えてしまった。

 しかし、今日こそ何もしないというわけにはいかない。俺は絶対に今日、ロマンチックとか、理想とか、そんなものは二の次にして、まずは告白すると決意した。


 「なぁ、弥生」


 そういって俺は差しさわりのない会話から入る。


 いつも、いや、ここ数週間ずっとやっていることだ。告白しようと思って、このようにしてやって、じゃあ本題に入ろうと思っても勇気がなく、最後まで結局何も言えずに終わる。


 そう、俺のヘタレが原因で、もう約3週間もの間、最後に何かを言おうとして誤魔化すということが続けられている。


 幸い(?)彼女はこの手のことに究極に鈍感なので気づかれないで済んでいるが、今日は最後のチャンスだ。


 ──これを逃せばあとはない。それなのに、それが理解できていても、どうしても言葉が出てこなかった。


 「――。」

 「――。――?――――!」

 「―――。」


 会話は続くが、決意は続かない。勇気は結局出せず、ズルズルと会話だけが引き延ばされていく。何度も、何度も告白しようとするが、喉元まで出かかった言葉は、別の言葉にかき消される。

 そうこうして話しているうちに、帰り道の、彼女といつも別れている地点が近づいてきた。


 このままで終わるのは嫌だ。ようやく本気でそう思えた俺は、とっさに彼女を呼び止めた。


 「──? どうしたの?」


 そう言って振り向いた彼女は可憐で、全てがどうでもよくなるぐらいに可愛くて、


 ――だからこそ俺は、一切迷わなかった。


 「好きだよ、弥生。」


 そう、一息に言い切った。言い切ることができた。

 すると、彼女は一瞬驚いた顔をして、


 「──ありがとう、…私も、叡人くんのこと、ずっと前から──、


 一瞬の停滞の後、彼女の驚いた表情はすぐに喜びへと染め上げられた。

 彼女は感極まったのか、嬉し涙を流しながらこちらに走って近づこうとして、


 ──その、次の瞬間だった。


 「───え?」


 叡人の目の前が、真っ赤に染まった。

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