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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

【短編版】トラック事故で消えた幼馴染が騎士団長になっていた

作者: 氷雨そら

お越しいただきありがとうございます。ブクマや★評価して下さった皆さま。とても励みになります。ありがとうございます。

✳︎ 3/15から連載版開始。ぜひご覧ください。広告下にリンクもあります。https://ncode.syosetu.com/n7941gv/

「ふぅ。この一杯のために生きている」


 斉藤七瀬29歳は、終電間近の電車を降りて、コンビニで買ってきた缶ビールを煽った。くるりとまとめていた髪の毛からシンプルなコームを引き抜くと、緩くクセがついたロングヘアが揺れる。


 七瀬の仕事は、総合病院の看護師。


 今日も仕事は忙しく、最近主任になった七瀬は、またしてもこんな時間まで働いてしまった。このところ病院も残業にうるさくなり、いつまでも残っていると看護部長に叱られる。


―――しかし、このご時世。記録の必要量は増えるばかり、患者様の高齢化も進むばかりで仕事が減る訳はないのだ。


 もちろん、多くの仲間がそうなりがちであるように、七瀬もやりがいある仕事が恋人となっている。


「木下くん…」


 七瀬だって、今まで好きな人がいなかったわけではない。幼なじみへのほのかな恋心ではあったけど。


 高校の卒業間近、「今から伝えたいことがある」と電話があったきり、彼は消えてしまった。あれから11年。


 混乱した様子のトラックの運転手と通行人たちから、『目の前でトラックにはねられた。』という証言はあったが、現場には彼の携帯電話が落ちていただけでその痕跡はどこにもなく、失踪として片付けられた。


(私たちは、なんでも話し合える仲だった)


―――あんな風に、「伝えたいことがある」と言ったまま、彼が何も言わずに目の前から消えてしまうのはおかしい。


「どう考えても、おかしい」


―――ズキンッ。

 最近は、いつも頭痛がする。仕事は、最少人数で回しているから、主任になった七瀬は夜勤もこなし、もちろん休めない。


 しかし突然、後頭部をハンマーで殴られたような痛みが七瀬を襲った。

(木下くん…)


 そのまま世界が暗転し、七瀬の意識はそこで途絶えた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


―――いつのまにか柔らかいベッドに寝ていた。


 気がつくと、七瀬はベッドらしきものに仰向けで眠っていた。パチリと目を開けた七瀬のことを、茶色の髪に青い目の女性と薄茶色の髪の毛と瞳の男性が覗き込む。


(外国の方たち?この人たちが、助けてくれたのかな?)


「ジーナ。ほら、目を開けたよ。君の瞳と同じ、青色だ」

「可愛いわね、アベル。髪の毛はブロンドだわ。リリアの髪はお義母様と同じね」


 七瀬は起き上がってお礼を言おうとしたが、体が思うように動かない。

(頭がひどく痛んだから、もしかしたら後遺症で動けないのかも)


 一瞬強い絶望感がよぎったが、どうも様子がおかしい。パタパタ動く手がチラリと見えるが、とても小さいのだ。


 2人は、とても大切にリリアを慈しんでくれた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


―――異世界に転生したらしい。


 そのことが判るまで、6年かかってしまった。ずっと生まれ変わったのだと思っていた。


(でも、この世界には魔法がある)


 父と母は、魔法が使えなかったため、七瀬の記憶を持つがまだ幼いリリアは、魔法があることに気がつかなかったのだ。


 それは、怪我をした小さな小鳥が迷い込んできた時のこと。かわいそうに思ったが、助かりそうにない。悲しくなったリリアが泣いていると、不思議なことに傷ついた小鳥が元気よく飛び立っていった。


 それからも、不思議な出来事が続く。リリアが6歳になった時、とうとう、大人たちの前で、一緒に遊んでいた子どもの膝小僧の傷が綺麗さっぱり消えた。


 数日後、物々しい迎えが訪れ、リリアと両親は神殿へと連れて行かれた。


―――この子には光魔法が宿っています。


 その言葉を聞いた両親は、喜びよりも青褪めていた。母親のジーナは、涙まで流している。


 光魔法はとても希少。庶民であっても進む道は定められてしまう。


(神殿か騎士団の癒し手となる)


 貴族であれば、高額な寄付金を支払い、神殿に所属しながら普通の生活ができる。


 でも、庶民ならそんな大金払えるはずもない。殆どの子どもたちが、16歳になると選ばなくてはならないその進路を、窮屈でも安全な神殿へ決める。


 けれど、リリアは確信していた。

(もしも、木下くんがこの世界にいるのだとしたら、絶対進むのは騎士団だ)


 そうでなくても、救命救急や集中治療室で働いていた七瀬にとって、神殿よりも騎士団の方が魅力的に感じた。


 リリアは、神殿に通い光魔法の習熟に励んだ。光魔法の才能が高く、努力家。それに加えて、七瀬として過ごしてきた医療に対する知識と怪我や病に対する心構え。


 包帯を巻くのも、誰よりも早く綺麗だと自負している。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 全てが噛み合って、リリアは16歳になる頃には同世代の中でも抜きん出た存在になっていた。


 神殿の神官たちには引き留められ、とても惜しまれたが、リリアの決心は揺らぐことはない。


(騎士団に入ればいつかきっと木下くんに会える)


―――リリアはそう信じて、騎士団の癒し手の道へと将来を定めた。


「ここがリリアちゃんの部屋よ。騎士団は、女の子少ないからね。女子寮も今使ってるのは3人だけ。相部屋はいないけど」

 一昨年入団したというパール先輩は、親切に女子寮の中を案内してくれた。


 騎士団の食堂は、とても量が多くて美味しいし、結構いいところに来たのかも。と、初めのうちは思った。


 そう、甘かった。癒し手とはいえ過酷な騎士団の基礎訓練には参加しなくてはいけなかったからだ。


(少しは鍛えてきたつもりだったのに)


「初めはついていけなくて当たり前、鬼団長が作ったメニューだから。無理しすぎないで良いよ」

「うぅんっ。戦場でそれは言えないから!」


 とても辛いけれど、不思議とそのトレーニングメニューは効率的で科学的だった。


 リリアは、毎日の過酷な訓練にも、弱音を吐くことはなかった。そのうち、訓練しながら光魔法の身体強化も練習しはじめると、騎士団の仲間には及ばないまでも、なんとか基礎訓練を最後まで終えることができるようになった。


「あ、騎士団長が来たよ。団長、遠征から帰ってきたんだ。まだ、挨拶できてないでしょ?」

 他の人たちも背が高いが、それよりも少し大きな男性が向こうから歩いてくる。190cmくらいはありそうだ。


「新入団員の癒し手リリアです。よろしくお願いいたします」

「ああ、期待の新人だってな?リリア。期待してる。俺は団長のレオンだ。よろしくな」


 黒髪にピーコックブルーの瞳。私よりずっと大人だし、見た目は全く違うのに、その眉を寄せる困ったように見えてしまう笑い方が妙に気になってしまう。


 リリアはつい、握りこぶしを作って人差し指の部分を口に当てて眉を寄せたまま首を傾げてしまった。


 ピーコックブルーの瞳が、見る間に大きく開いて、大きく剣だこのあるゴツゴツした手が、リリアの握りこぶしを掴んだ。

「……なな、せ?」


 その懐かしい音を聞いた瞬間、もう涙が止まらなかった。パール先輩や他の騎士団員たちが唖然としている中、団長に抱きしめられる。


「きのした…くん」

「本当に…。七瀬なのか。なんで、ここに」

「光魔法の適性があるって言われた時に、神殿か騎士団を選ぶように言われて。きっと木下くんならこういう道に進むんだろうって思ったから」

「……。そうか」


 それからは、団長を宥めるのが大変だった。木下くん改めレオン団長は、リリアが自由になれるよう、寄付金を払うと言って聞かなかったのだ。


 最終的に怒ったリリアに、団長が叱られる形で決着がついた。

「勝手に決めたらダメだよ。初めの動機はともかく、ここまで努力してきた。今はここで働くのが、私の夢なんだから」

「分かった…。ごめんな」


 あの鬼団長を新人が謝らせている!と、周囲からの驚愕の視線は痛かったけど、ダメなものはダメなのだ。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


―――しかし、団長の暴走は止まらなかった。


 リリアは、何故か精鋭ばかりの団長直属の部隊に配属された。


(……完全に職権濫用だよ)


 戸惑うリリアに、優しそうな見た目の少しクセがある茶色い髪の毛が印象的なルード先輩が声をかけてくれた。


「直属部隊にも癒し手が必要だって話は以前からあったんだよ。ただ、ついてこられる人材がいなかっただけで。リリアちゃんならできるって、みんな言ってるから」

(ルード先輩。いいヒトだ)


 そんなふうに感心していると、後ろから急に抱きしめられた。


「ルード副団長。リリアに話しかけるな」

 ガルルル…って聞こえそうな勢いの声が耳元から聞こえる。


「みんな見てますよ。…それに、幼なじみのノリのままだと、婚約者さんや奥さんに勘違いされちゃうよ?」

 後半は小さな声で、リリアは言った。


 この世界では、殆どの人間が18歳前後で結婚する。もちろん団長まで上り詰めている上に11歳も年上になっているのだから、当然だと思いつつもズキンと胸が痛んだ。


「いない!…リリアは、俺がこんなことをしたら怒る相手がいるのか?勘違いされたくないか?」

「えっ、いないけど?!再会した日、話したでしょ?前の世界でも恋人いない歴29年の看護師してたって」


 レオン団長は、それでも私のことを離さず、ますます力を込めてくる。

「見たかったな。ずっと、会いたくて。あの日、伝えたいことあるって言っただろ。伝えることもできないままに、誰か他の人間なんて考えられない」


 レオン団長の言葉は、少し重い。でも、純粋に嬉しかった。

「そっか…。でもね、団長。今は仕事中ですので、職務に戻ってください!」


 ルード副団長に引きずられていく姿は、私と帰りたいがため、部活をサボろうとして失敗した遠い青春の幼なじみの姿に重なった。


最後までご覧いただきありがとうございました。

感想やブクマ、★評価いただけると嬉しいです♪


✳︎お知らせ✳︎


連載版を開始しました。ぜひ、応援お願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 木下くんは転移ではなく転生だったのでしょうか? [一言] 面白かったです。この後が気になる2人です。
[気になる点] 木下くんはどんな男の子?七瀬とはどんな関係? いろいろ想像して楽しんでいます^_^ [一言] 新作ありがとうございます♪ 今日のご褒美です^_^
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