3 兄視点
今回は兄視点です
母を奪った大嫌いな妹が断罪した日に目の前で自殺した。
間違っていたのは誰だったのか。
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私は優しくて明るい母が大好きだった。多くは語らなくとも頼りになる父、愛らしく私が守るべき妹。貴族の中では珍しい恋愛結婚で結ばれた母と父は仲が良く、幸せな家庭だった。ルイーサが生まれたあの日までは。
私たちは家族が増えることをとても楽しみにしていた。しかし、助産師の人が慌てて父を呼ぶ。いつもは冷静な父が慌てる様子を見て嫌な予感がした。
そして、母は私たちを置いて死んでしまった。
ただただ悲しかった。もう優しく褒めてくれる母がいないということが。そんな時、ルイーサが泣いた。赤子なんだから泣くのは当たり前だったのに。それが無性に腹が立った。それは私だけではなく、泣き喚くルイーサを家族だけでなく、屋敷にいる誰もが疎んだ。
妹はとても優秀だった。兄や姉であるクラーラよりも理解が早く気味が悪かった。本来ならば喜ばしいことのはずなのに、母を殺した罪人が優秀であるということがどうしても許せなかった。
だから、婚約者になる殿下に嘘を教えた。彼女が誰にも愛されることがないように。だって母を殺したんだ。それくらい当然だ、そう思ってた。
歯車がゆっくり狂い出した。
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私の後に殿下や妹たちが入学した。将来仕えるべき王と2年だけだがともに学園に通えることは幸いだった。あいつがいるという一点さえ除けば。
そんな黒い感情が私の中で溢れていた時、アイリスと出会った。彼女と話しているときだけ、私は心が休まった。優しく明るい彼女と話していると死んでしまった母を思い出す。だからこそ、私は彼女を守りたかったのかもしれない。
愛しい守るべき彼女が虐められている。それを殿下から聞いた時、私は血が沸騰したように怒った。それは自分自身に。守りたいと思っていたのに、母の時のようにまた失ってしまうのかと怖くなった。しかしそんな感情も殿下の次の言葉を聞いた瞬間消えてなくなった。
犯人はルイーサだという。あいつは母だけでなく愛しいアイリスさえも排除しようとするのか。そう思うと、今まで自分に対して憤怒していたが、それが全てルイーサに向けられた。
アイリスのような人間こそが人の上に立つべきなのだ。殿下も彼女を愛している。彼ならきっと幸せにしてくれるだろう。ルイーサは王妃の器じゃない。そう殿下と側近たちが思うようになった。だが、あいつは小賢しくも陛下や王妃の前では猫を被り信頼を勝ち取っている。陛下たちに頼んでも婚約破棄は叶えられない。だからパーティーであいつの罪を全て暴露しようとしたのだ。
そのパーティーの前日にもアイリスが襲われた。もう許すことはできない。母を殺しただけでなく、アイリスをも害そうとしたのだ。
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殿下が婚約破棄を言い渡す。それなのにあいつは焦るどころか表情一つ変えずに、なぜなのかと聞いてきた。殿下が冷静さを失ってしまっているが、こればかりは仕方がないだろう。
自分の罪を一切認めようとしないルイーサにもアイリスは謝るだけでいいと言っている。彼女は本当に優しい。ルイーサが愛称を呼ばせていることを指摘した。あいつには愛称を呼んでくれる友がいないからただの逆恨みだろう、そう思ってた。
彼女が殿下に自らの気持ちを打ち明けた。そして私にも。
「・・・お兄様、お母様を奪った私が憎いのでしょう。今まで家族らしい会話などしたことはありませんでしたが、殿下の側近として側でお支えしていた姿を見て、尊敬しておりました。・・・」
一瞬何を言われたのかわからなかった。ただ、一つ分かったことは、この時初めて私はルイーサの、妹の顔をみた。私が悪質ないたずらをしていた幼い頃に悲しい顔をした母と同じ顔をしていた。あぁ、最後に話しかけたのはいつだろう。思い返しても、彼女と会話をした記憶などない。あまつさえ、名前を呼んだことすらないのではないか。なぜだろう。何よりも大切にするべき家族だったのに。クラーラも会場で泣いている。取り返しのつかないことをしてしまった。今更後悔しても全て遅いというのに。
彼女は今何を思っているのだろう。将来支え合おうとした婚約者に裏切られ、家族で守る側にいるべき兄である私に見捨てられ、好敵手だと思ってたライバルたちに蔑まれる。本当はそんなことあってはならないはずなのに。彼女は誰よりも愛される権利があったはずなのに。母にも顔向けができない。
「パーティーに来てくださった皆様。私ごとでお祝いの場を騒がしくして申し訳ございません。」
そこには、会場の人に気を使う、妹がいた。
そして、ナイフを持ち出して私が大好きだった母と同じように微笑んで
私の前で死んでいった。
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あれから何時間たったのだろう。父もクラーラも屋敷の使用人もみんな呆然としている。今までろくに会話もしてこなかった私たちを彼女は恨んでいるだろう。十六年間彼女が生きていた中で、何回名前を呼んだだろう、家族らしい会話は何回しただろう、一緒に出掛けたことはあっただろうか。どんなに記憶を振り返っても、彼女との記憶はないに等しい。母を奪われたと勝手に逆恨みして、誕生日を祝うことはなく、その日は彼女にひたすら暴言を吐いていた。
どんなに後悔してももう遅い。私たちは家族を殺してしまった。
妹を人殺しと罵ったが、本当の人殺しはどちらだろう。
漠然とした日々を過ごしながら、気持ちの整理をつけるため、彼女の部屋を訪れた。
後悔だけが募っていく。
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次回も他視点です!