1 ルイーサ視点
初執筆です!
わかりにくいかもしれませんが、最後までお付き合いください。
「ルイーサ・アードラー!お前との婚約を破棄する!!!」
(やっと、やっと解放される、、)
そして私は一本のナイフを、、、
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私はアウストロス王国の公爵令嬢としてこの世に生まれた。昔から物覚えがよく、一般的な子供よりも早くに成長した私を家族はもちろんのこと、屋敷にいる誰もが私を嫌っていた。本来であれば、貴族にとって優秀な子供は自領の発展にも役立ち家族から愛されることの方が多い。しかし私は、自分の母を殺してしまった。私が屋敷中から疎まれていたのはこの家の主人が溺愛していた妻、つまり私のお母様は私を産んだことで死んでしまった。母のことが大好きだった姉や兄は母を奪った私のことを名前で呼ぶことはおろか、視界に入れることもない。母は使用人たちの話を盗み聞きしたことによれば、貴族の娘とは思えないくらい優しく、まるで太陽のような人だと話していた。だから余計にその存在を奪った私が気にくわないのだろう。もしも、もしも私が母のように、いるだけで場を明るくできるような存在であったのならば結末は変わっていたのだろうか。
まだ私が幼く、家族に愛されると信じて止まなかった3歳の誕生日。私は前世の記憶を思い出してしまった。思い出したと言うよりも、≪それ≫が前世の記憶であると理解できてしまったという表現が正しいが。
私の前世は、今世とは180度違う人生だった。唯一同じだったところは、前世の母も私を産んで死んでしまったということだ。しかし、母を奪った私に家族は惜しむことなく愛情を注いでくれた。社会人になり、今まで家族にお世話になった分恩返しをしようと思っていた矢先、私は信号無視をした車に轢かれ、あっけなく死んでしまった。
そして、私は気づいた。この世界が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界であり、私が悪役令嬢であるということに。しかし既に物語は変わってしまっている。それは私の母が私が生まれた時に死んでしまったということ。そして私が家族から疎まれているということだ。本来のストーリーであれば、悪役令嬢であるルイーサ・アードラーは家族から溺愛された故に我儘な娘となり、自分の気に入らないものは排除すると言った、テンプレ的な悪役令嬢であった。それは、彼女の母がルイーサを可愛がり自分が死んだ後も子供達を大切に育てて欲しいと願ったからだろう。しかし現実では母は私を産んですぐに死んでしまい、私は家族から嫌われるようになった。今後のストーリーが通常通りに進むのであれば私はヒロインをいじめ、暗殺しようとした罪で斬首刑になるだろう。
しかし、この世界には魔法がある。私は、知覚していなかったとはいえ前世の記憶が感覚的にあったため、早い段階から魔法の練習をしていた。その甲斐あって、ゲームとは違い魔法の得意なルイーサ・アードラーが誕生した。
ゲームでは私が父にお願いをしたため王子と婚約者になったが、今回の私は嫌われているから大丈夫だろうと思ったが、そうはいかず王子の婚約者となってしまった。しかも、兄が王子にあることないことを既に吹き込んでいるため、よくノベルにある幼少期に婚約者の心を射止めるというのも無理だろう。だからこそ私は16歳で学園のパーティーで婚約破棄される時のために準備を重ねてきたのだ。
私の家族は前世の私を愛してくれた家族であって、今世の家族ではない。家族と呼べる関係なのかどうかも怪しいところだが。
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「一体なぜ私が婚約破棄されるのでしょうか」
意味がわからないと言わんばかりに首を傾げ、扇を口に当てた。ここでボロを出すわけにはいかない。
「巫山戯るな!お前はアイリスに嫉妬し、彼女を虐めていただろう!」
と私の婚約者のアダルヘルム・フォン・アインホルン様が騒ぎ立てる。彼は王学である、「いつ如何なる時も冷静に」という言葉を忘れたのだろうか。
「いいのです、アダル様。私はただ謝ってくださるだけで、」
ウルウルと悲しげな表情をしているのが乙女ゲームのヒロイン、アイリス・マイヤーだ。十中八九彼女も転生者なのだろう。そうでなければやってもいないのにいじめの主犯格として私が立たされることはない。もっとも、彼女の淑女らしからぬ言動で王族や高位貴族に近づき嫉妬していじめを行った者が王族から睨まれないために私の名前を出したことも理由の一つではあると思うが。
「なんと優しいのだ、、それに比べてルイーサ!お前は彼女に嫉妬し持ち物を壊す、話しかけても無視をする、挙げ句の果てに裏の人間に彼女を襲わせただろう!私たちがあと少しでも遅かったら彼女は殺されていたぞ!」
なぜ家族に疎まれているとはいえ高位貴族である私がわざわざ平民であるアイリスをいじめる必要があるのか。どうせ彼は私に好かれていると思っているのだろう。大方、捨てないでと泣きついてくる私を見下したいのだろう。アイリスの隣にいる兄のオーディスも彼女に惚れているかは別として、私のことを嫌っていたし、邪魔な私を排除するのにちょうどいいと思ったのだろう。宰相の息子であるヴィド・シュルダーも試験で私に1度も勝てたことがないことで恨んでいた。騎士であるヨハン・ヴォルフもそうだ。
乙女ゲームをしていた頃彼らをかっこいいと思っていた私が愚かだったのだろう。誰一人≪男より劣っているはずの女≫の私に勝てないのだから。
まだ彼らは私に何か言っているがもうどうでもいい。こんな場所から一刻も早く私はいなくなりたいのだ。
「私はアイリスさんにそのようなことをしたことはございませんわ。」
「嘘をつくな!お前以外に誰が彼女にそんなことをするか!」
やはり、アイリスの証言しかないのだろう。分かってはいたが彼らは私の話を聞くつもりはないらしい。なら私も私ができる最大の復讐をし、彼らの心に一生消えぬ傷をつけよう。
「そうですか、、信じてくださらないのですね。いいえ、わかっておりました。殿下が私の話など聞いてくださらないということを。婚約者である私でさえお名前を呼ばせていただいたことはないのに、アイリスさんとは愛称を呼び合う仲なのですね。」
私は悲しげに彼らに問いかける。少しでも相手に傷をつけなくてはいけない。
「アダルヘルム・フォン・アインホルン様たとえ、嫌われていると分かっていても5歳に初めて会った時から殿下のことをお慕いしておりました。将来貴方様のために王妃教育も10年以上続けてきましたが、それも全て無駄だったようですね。
お兄様、お母様を奪った私が憎いのでしょう。今まで家族らしい会話などしたことはありませんでしたが、殿下の側近として側でお支えしていた姿を見て、尊敬しておりました。
そしてヴィド・シュルダー様、ヨハン・ヴォルフ様。お二人のことは良きライバルだと思っておりました。あなた方の存在があったからこそ、私は慢心せずここまで精進することができました。」
私の言葉に反応して彼らが驚いたような顔をする。それはそうだろう、彼らは今まで私の話など聞いたことがないのだから。しかし、言葉にすると人は、そうだったかもしれないと思うようになる。きっと私が今まで取ってきた態度を思い返して、そうだったのかもしれないと思っているはずだ。私はこの時のために、思い返してみて初めて気づくような些細な反応を残してきたのだから。
最後に私は泣きそうな、悲しそうな顔をする。
「パーティーに来てくださった皆様。私ごとでお祝いの場を騒がしくして申し訳ございません。」
と、会場にいる人に挨拶をする。
これで終わった。私はやっと解放される。
慣れた手つきで私は、太ももに括り付けておいたナイフを手に取る。殿下達がナイフに気づき驚いた顔をする。私が何をしようとしているのか気づいていないのだろう。
一生の傷跡を残すために、私は静かに微笑んで
自分の心臓にナイフを突き立てた。
彼らの顔が絶望に染まった。
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その日、一人の公爵令嬢が亡くなった。
読んでくださりありがとうございます。