五話 ウォート=アモネ
五話です。
少し長めです。
あれから王城を出て、広場に出た頃、ダリアは空を仰ぐような伸びをして、言った。
「我ながらいい案だ」
「君にとってはね」
ああ、いけない。つい嫌味っぽくなってしまった。あまりに無責任なことを言うもんだから、ため息とついでに声が溢れてしまったようだ。
「考えてはみたけど、やっぱりまだ戻れない」
前を歩いていたダリアがそんなことを言って振り返った。私が何回も勧誘しても来ないし、陛下を前にしても嘘をついて避ける。これは本人なりの自己防衛なんだろう。それをこじ開けようとするのは友人として、よくないことかもしれない。
「はぁ、もういいよ。しつこくしすぎたね。もうつけ回すのはやめる。ごめんね」
「そうか、、、ん」
ダリアは城をぐるりと囲む長い石碑が目に飛び込んできたようで、それに手をかけた。
「はは、懐かしいな。どこに名前あったかな」
(え、今こいつ話逸らしたの?ねぇ?)
人が目の前で諦める決心をようやくした側で、よくもまぁヘラヘラと、、、。
ダリアが手をかけたその石碑は、騎士が見習いを終えて、正式入隊した時に職人がその者の名を刻むものだ。城を囲むほどに長く、高さも大人二人分くらいでなかなかに大きい。当然、私の名もダリアの名も、アザミの名も、そして、彼女が陛下に名乗った《ウォート=アモネ》の名も刻まれている。
まだ自分の名を探しているのか、石碑をペタペタと触っているダリアを横目で見ていると、ダリアが溢すように言った。
「三年って長いな」
「そうだな」
ダリアが不意にそう言った趣旨を私は理解している、と思う。彼女がまだ騎士団に戻りたくない理由も。
突然と吹いた風がダリアの長い前髪を引っ張った時、ダリアは少しだけ寂しげだった。
三年前のバリス対戦、当時戦神であるダリアの影響で名を馳せていた祖国クリスタンが負けた。国民の生活は大打撃を受けたが、私たちにとってはそれだけじゃなかった。友人、ウォートが戦死した。
いつも私、ダリア、アザミ、ウォートは行動を共にしていた。元々同年代で女騎士は少ないのを気にした騎士団が私達を一つに集めたようで、ダリアは後から移籍してきた。
目つきが悪く、無愛想。いつも行動を一人で取っていたし、騎士団の配慮など構いもしなかった。私もアザミもダリアに話しかけようとはしなかったが、ウォートがその一歩を踏み出した。温かい声と陽だまりのような笑顔はすぐに距離を縮めたようで次第に私達との間も埋まっていった。
『一緒にご飯食べよ』
が初めてウォートがかけた言葉だ。今思えばやっぱり14の娘の言葉は子供っぽい。言われたダリアも少し恥ずかしがっていたけど、それが無かったら私たちの関係は始まらなかったのだ。だから、私もアザミも大事にしていた絆だったし、ウォートが大戦後冷たくなって城の門に座り込んでいた時は本当に悲しかった。
お疲れ様でした。
6話もよろしくお願いします。