二十二話 夢を見た。
二十二話です。
よろしくお願いします。
その日の夜、ダリアは夢を見た。それこそ昔の、バリス大戦が始まる前に、友人ウォートの言葉を胸に刻んだ、あの日の夢を。
「きっと、ダリアは自分の好きな人が戦争で死ぬことがあれば、戦えなくなるよ。」
「え、なんて?」
ウォートはそんな言葉も無視して続けて言う。
「だから、その時は一度騎士を辞めて、全ての責任を捨てちゃおう。そしたら絶対誰か救ってくれる人がいるから。」
バリス大戦だって、その時開戦されることも知らない、ただの訓練の休憩中、ウォートはそう言った。
屋外で、太陽が反射した眩しい金髪の、前髪の隙間から見える金色の瞳が、僅かに細まって微笑むのをダリアは見ていた。
「ダリアの好きな人は例えば、コスモスとかアザミとか、私? みたいな友達もそうだけど、団長みたいなお世話になった人もありえるね」
「はは、誰があんなオヤジ」
目を逸らして、めんどくさそうに言う。後にそんなのが現実になるなんて思わなかったから。
けれどウォートは、そう聞き流すダリアに構わず再び言う。
「救ってくれる人は私かもしれないし、コスモスやアザミかもしれない。でも、その時のダリアは今みたいに助けを借りようなんてしないと思うから、その1回だけは使ってほしいな。」
ウォートは地べたに寝転がるダリアの顔を、屈んで覗き見た。ずっと目を逸らすダリアはそれに気づくと驚いて、すぐに立ち上がった。
ただからかいたかったウォートは、驚いたダリアを確認するとすぐに離れて、背を向けた。
「英雄でも、戦神でもない、代わりなんていないダリアをいつまでも待っててくれる人がいるから、信じてあげてね」
ウォートはその時すでに自分が死ぬことを知っていたのかもしれないし、ダリアがいなくなることも知っていたのかもしれない。
この時ウォートは最後に、みんなには内緒ね、と人差し指を口の前で立てた。
当然、ウォートもダリアもこの時のことを誰かに話したことはない。
だからアザミが言った、『いつまででも待っててやる』はダリアにとって、響いた言葉だった。ウォートが言っていたことは、当にこのことを指していたからだ。
その時初めてダリアは救われたのかもしれない。今後騎士に戻っても英雄だ、戦神だという者は当然いるだろう。けれど、ただ友人としての存在価値をくれる者がいるなら、きっと昔より幾分かはらくにして過ごせるだろう。
そんな夢を見た朝は何だか寝た気になれず、体も重かった。しかし、今日から騎士に復帰と言ったからには無理矢理にでも体を起こさなければ、とベッドから降りた。
数年ぶりに身に纏った隊服は以前よりもサイズが小さくなった気がした。伸びた髪の毛を高い位置でまとめると、まぁまぁ違和感は減った。日が昇り始めたのを見て、下に降りるとガーベラはすでに朝イチようのパンを焼いていた。
「なんか手伝う? みんなまだ寝てるし」
「いや、いいよ。今日からまた働くんだから、体力は温存しときな。ほら朝ごはん」
「ありがとう」
ガーベラはダリアに2切れのカツサンドの乗った皿を手渡した。まだ暖かくて、音もする。
「朝から重いかも」
「豚肉にはビタミンB12が沢山入ってるから、疲労回復にはいいんだよ。どうけ明日筋肉痛になるんだから」
眠気が残った手で首をかいて、今思えばそうだなぁ、とぼやいた。体力には多少自信はあるけれど、いきなり再開すれば避けきれないことだ。
そんなことをかき消すように、急いで食べて皿も洗わずに飛び出した。街はまだ寝ていて、前日までの建国記念日のための装飾がまだ外されていなく、静かなのに風景はうるさかった。前日の疲れで歩いてる人も少ないので、ダリアが走るたびに聞こえるブーツのかかとの音が綺麗に響いた。
お疲れ様でした。
次話もよろしくお願いします。




