十八話 本音
十八話です。
よろしくお願いします。
「コスモス、」
「や、やめようか、君達。陛下の御前に私情を挟むなんて無礼極まりないよ。ましてや血で濡らすなんて。アザミ、相手を変えて。ここは君の憂さ晴らしの舞台ではないはずだよ。」
震えた声もそうだが、本気で怒るアザミの前にコスモスは足が震えていた。
アザミはしばらく真っ直ぐ私を庇うコスモスを睨みつけていたが、ビビリ散らすコスモスの精一杯の止め方が効いたのか、目を逸らし背を向けた。
「では、一つ言いたい」
「なんだよ」
「え、ちょっと」
また何か始まりそうな予感がしたのか、コスモスは何も言うなというように、私の頭をこついた。
「戦神と言われた過去に自惚れるな」
「、、、お前に何がわかる。」
アザミは冷静になっていないのか、そんな喧嘩を売るような言葉が私にそう言わせたのか、変に嫌味がこもった。
そういえば、前にも同じこと言ったな。バリス戦後にコスモスに再会した時だった。
(妙に刺さるんだよなぁ、それ。前はもっと荒っぽかったけど)
『お前に何がわかるってんだよ!』
コスモスに発せられたわけではないが、本人は突き刺さったようで、胸元あたりを抑えていた。
アザミは私の言葉も、コスモスも無視して言った。
「お前の言う通り、戦がなければお前は無価値だ。戦神も昔話であって、戦場で剣を振るだけのお前はいらない」
尽く、アザミはこれまでの言葉を撤回し始め、同時に英雄の存在価値をズタズタに切り裂くようなことを言う。
確かに、私が初めにそう言ったけれども、こうも肯定されるととてつもなく傷つく。
「何言ってんの、あの子!」
どうやらコスモスも同じことを考えていたらしい。
「戦場を捨て剣を捨てたお前に、もはや帰る場所などどこにもない。」
そんなのは端からわかりきっていたことだ。バリス大戦の敗戦合図と共に失踪した時から、ずっと。
お姉ちゃんのパン屋に居候しても、それが私に向いてることだとは思わない。私が1番に向いていることは、剣を振ることだと知っているから。
だから、本当にわたしには居場所がない。
「しかし、お前が帰るのを私たちはずっと待っていたことに変わりはない。これからだって、いつまでだって待っていてやる。だから、私たちがいるのここを帰る場所だと言ってはくれないか。」
そんな言葉を疑った。そんなアザミを疑った。
「どこへだって自由に行けばいい。だが何も言わずに行くのはやめてくれ。それだけは。」
さっきまで怒り狂っていたやつとは思えないほど、それはあまりに優しい言葉だった。
コスモスがついていけてなくて、眉間にシワを寄せたまま固まっていた。
それで、私は聞いた。
「剣のない。英雄では、戦神ではない私がお前らのもとへ戻って、それでお前らはこれから何かいいことはあるのか。」
「これまで何かあった覚えはないし、これからに期待もない。昔、休日私の家でダラダラと過ごされてストレスしかなかった。これからもなると思うと鳥肌が止まらない。でも、楽しかったと思うし、楽しみだとも思ってる。」
いつもと同じように、ただ淡々と言うその言葉はいつだって、嘘偽りがなくて、それで私の癪に障ることもあったけれど、今日の、この言葉だけはえらく落ち着いて聞いていられた。
そうか、そう思っていたのか。ストレスだったか。それでも楽しかったと言ってくれるのか。
コスモスを見ると、お前が言ったわけでもないのに照れて赤くなった顔で、こちらを見て今にも泣きそうだった。
なんだ、お前もか。
なら最初からそう言えばいいのに。英雄なんていらないって。そしたらもう少し早くここに来れたかもしれないのに。
「悪かったな。お前の家は広くて、居心地がよかった。それだけだ。」
そう返すと、アザミはそんな応えられ方は求めてないって、ムッとしていたから、そんなのは知らないと伝えるつもりで、頭に浮かんだ言葉は無かったことにして、言った。
「試合の続きをしよう。体を慣らすのに時間がかかった。」
「え、まだやるのかい?」
コスモスは心配そうに腕を引いていたけど、軽く解いた。またビビってんな、こいつ。
「大丈夫だ。もうちゃんとやれるから。」
今はなんとなく気分がいい。
お疲れ様でした。
次話もよろしくお願いします。




