九話 お話をしようか
九話です。
よろしくお願いします。
その日の夜、私はなぜだかダリアの家を訪ねた。自分でもよくわからないけど、着替えと花流しで流そうと思っていた花を数本持って、閉店の札をかけた扉を叩いた。
「あれ、コスモスちゃん? ダリアに用事?」
ダリアのお姉さんのガーベラさんが出てきて、多分遅い時間に来た客を容赦なく追い返すつもりだったのか、ケーキでも切るような長い包丁を肩に引っ掛けていた。
「はい。夜分遅くにすみません。」
と、ぎこちなく笑っていると、聞きつけたダリアがひょっこり顔を出した。
「は? 何?」
「今晩泊めてくれないかな、」
どうしてか、えらく緊張していて頬が熱かった。真夏のせいではないらしい。
結局、不思議そうな顔をしながら、ダリアは自室に案内してくれた。
「前も言ったけど、お前みたいに家族でも何でもないから、家は狭くて満室なんだ。また私の部屋になるからな。」
「いいよ、君の部屋結構落ち着くんだ。」
ダリアは意味をわかっていない顔をしていたけど、割と本当のことで、ダリアの部屋はいい匂いがした。例えるなら、そう。石鹸を10倍薄めたような、濃すぎなく爽やかな匂い。
「スカウトの再開か」
あまりにいい匂いで、気を落ち着かせていたから、いきなり聞かれても何も言えなくて、ふいにソファーにあったクッションに抱きついた。
ダリアは続けて、
「戻りたくないとは思ってない。けど、今は戻る理由が無いんだ。どうすればいいかわからない。」
それは、戦神といわれた英雄にしては、なんだか弱く聞こえる言葉で、側から見たら腑抜けに思われるかもしれない。そして、私は悲しくなって、また何も言えなかった。
「前は、いや三年前までは、平和になるための戦いだから、今は生き抜こうとか、目の前の仲間を守ろうとか思って剣を持ったけど、数年も戦いがない今が続いて、もう自分がいなくてもいいと思ったんだ。私が戻って、昔のような時代をわざわざ思い出させなくたって、きっと平和になるんだ。」
なんでかな、ダリアが言葉を発すればそうするほど、昔のことばかり思い出してしまう。今と比較してしまう。
私は、ダリアとアザミとウォートと、戦いばかりの世界で生きてきて、辛いことだって山ほどあったけど、それでも楽しいことだってあって、それを分かち合っていたことを幸せに感じていたんだ。
なのに、今のこの平和になりつつある世界を幸せだと、ちっとも感じないんだ。
___あぁ、そうか。それを真逆に捉える(捉えようとする)ダリアが、私は悲しかったんだ。
話を聞いている途中、泣き出したくなったけれど、花流しに使う花を触って、誤魔化しながら出来るだけ優しく聞いた。
「じゃあ、理由が見つかれば、戻りたくなるのかい?」
「ああ」
ダリアはこっちなんて見向きもせずに、窓から見えた星、とまるで違う話でもしていたかのような軽い返事をした。
そんな返しをされて、私はすっかり事の真相を暴いてやろうという気持ちが薄れたから、
「もういいや。今日徹夜したからもう寝たい。」
なんて言って、借りたベッドに寝転がった。
「明日早く帰れよ。」
「わかってる」
お疲れ様でした。
次話もよろしくお願いします。




