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6-7.可愛らしい生物

「くぅ~ん」


 目の前で繰り広げられる行動に俺は驚愕していた。

「キャン、キャンキャン」

 目も開いていない、子犬が3頭。

 母親を求めて、つたない足取りで動こうとする。

「キャン」

 一匹、間違えて俺の方に来たので口で首元を優しくかんで持ち上げてやった。

 そのまま母親の側まで持って行った。

 母親も一切警戒していない。

 子供を舌で舐めて、きれいにしてやっていた。




 なんだこの可愛い生物!!








 長らく、猫派だった自覚はあるが、犬もいいものだ。

 生まれたての子犬ならなおさら。

 ってそういえば種族名はスノウウルフだったっけ。

 狼だったわ。こいつら。

 犬って、どのくらいで目が開くんだっけだっけ。

 10日とか15日とかそんな話を見た気がする。

 たしか、猫の方が目が開くのは早いんだよな。

 実家の猫が子供を産んだときは5日くらいだった気がする。



「いやはや。無事に生まれて何より」

 冷静な風を装っているが、じぃやさんが産まれた報告を聞いたすぐ後に、とんでもない速さで飛んで行ったのは見ている。

 無言で手を後ろに組んだまま、衝撃波でも出ているんじゃないかと思うほどの速度で走るナイスミドル。

 絵にはなるんだが、なんというかいつも冷静なナイスミドルなじぃやさんのイメージがとんでもない音を立てて崩れていく。

 この人、絶対、動物大好きだよな。

 俺を撫でる時もなんとなく微笑んでいるような気もするし。




「くぅ~ん」

 それにしても、可愛い。


「なんてだらしない顔をしているんだ」

 ひょこっと、俺の首元からゴルディが顔を出した。

「うっせぃやい」


 この2日はこのスタイルで落ち着いている。

 本人曰く。

「ヒロといた時はこのスタイルが多かったからな。懐かしい」

 どうも親父といた時は肩に乗っていたらしい。

 ますます、子供向けアニメのロボットみたいだな。

 子供向けアニメといえば、ノブナガやバロンのようなアンデッドって、ゴルディ的にはどうなんだろう。

 アニメでは大概、悪役だよな。

「なぁ、ゴルディ」

「ん?どうした?」

「お前的には、ノブナガとかバロンってどうなんだ?人類の敵!みたいな感じで嫌悪感があるんじゃないのか?なんかそれなりに仲良くやってるみたいだけど」

 昨日、エリザベスの巣作り手伝ってたのは見たんだよな。

「あぁ。そのことか」

 ゴルディが空を見上げる。

「確かにわたしの存在意義は悪を捕獲し、世界の安寧を守ることだ。地球にいた頃は、地球の生命体、人間や動植物そして地球の環境を壊すものが悪だとして、人と協力し戦った。しかし、私はその戦いのなかで、悪にも色々あると知ったのだ。月並みな言葉にはなるが、正義の反対は悪ではなく、また別の正義の形なのだと」

 ゴルディは空を見上げたまま続けた。

「だから私は、こちらに来てからもまた、アレクシスと共に戦う道を選んだ。当時、魔物や魔族は全て悪とされていた時代に、一石を投じる彼の考え方に感じるものがあってな。当時、支配階級であった魔族とも争わず居られる道を常に模索していたな」

 へぇ。アレクシスってそんな人だったのか。

「結果、大きな戦争に3度立ち会うこととなったが、彼の考え方に賛同した多くの民や国が、彼に従ってアレクシス派閥という一大勢力となった。城の書物を見る限り、私が休眠についた後にアレクシスが建国したのがこのドリス皇国のようだな。この都市はいいな。魔物も、人間も、魔族も、エルフやドワーフたちも皆、同じように生活している。まさにアレクシスの理想のままの国だ。だから、ここに、彼らがいても今の私はどうとも思わないな」

 なるほどなぁ。

 ま、人には人の考え方があるしな。


「ほれほれ、小機人殿もこちらに来ぬか。なに、触っても噛まれたりはせぬよ」

 ノブナガがゴルディを誘う。

「う、うむ」

「なんでちょっとビビってんだよ」

「いや、なんせこのサイズだからな。子犬にとっては完全なおもちゃだろ」

「ふふっ」

「おい。笑うなよ」

「いや、ごめんごめん。二つの世界を渡った機神様でも苦手なものがあるんだって思ってさ」

「……君の苦手なものがあったときには同じ言葉を送ってあげよう」

 ははは。こやつめ。

「ほれほれ。なにをしておるか」

 ノブナガが俺の背中からゴルディを引ったくって子犬の元に連れていった。

「お、おいこら。何を勝手に……、あぁー!?噛んでる!吸われている!足がぁ!足がぁ!」


 ……若干、キャラ崩壊を起こし始めたゴルディを尻目に、俺は暖かな陽気に誘われてやって来た眠気に身を委ね、静かに目を閉じたのだった。










「失礼します!」

 あれからさらに2日。

 アドマが独特のイントネーションで戸を開いた。

「姫様!ドワーフ鍛冶師の!ゲオル殿が!いらっしゃいました!」

「え?ゲオル老?」

 その会話を終える前にバタンと扉が開かれた。

「突然に失礼!こちらにドラゴンが三頭、来られたと聞きましたが!」

 突然入ってきた男、老人は大きな声で怒鳴りつけてきた。


 ゲオル老。

 ちょいちょい名前だけは出ていた人物だ。

 身長は140cmくらい、大きな頭に太いからだと手足、大きなひげを蓄えたザ・ドワーフといった見た目。

 皇都の職人街のはずれに鍛冶場を構えておりヴィゴーレや妹エルフ氏の武器を打った人物、だったかな?

 でそんな人物がなんでここへ?

 俺、ぼちぼち昼寝しようとしてたんだが。

 というか、何をそんなに慌てているんだ?

「ゲオル老。どうされましたか」

「おぉ!姫様!ここに竜種が飛来したとの話がありまして!是非お目通りできないかと参った次第です」

「竜種?あぁ。あのお二人ですね。少々お待ちください。アレク、二人にご動向をお願いできないかしら?」

 えぇ。お使いかよ。

 まぁ、あの二人は城にいても俺への生贄……、というか他の人の頼み事はあまり聞いてくれないんだよな。

 頼まれても不器用というか、多分文化の違いなのか料理や洗濯なんかの家事も苦手だった。

 昨日からカテーナさんに教わっているみたいだけど。

 唯一彼女たちが役に立ったのは、港町からの物資の運搬。

 これも頼むのには苦労したのだが、何とか納得してもらった。

 で、この物資運搬ができるようになると、逆に運搬されてくる物資が足りなくなった。

 まぁ、ドラゴンだしな。そりゃ飛べるし運べる量も多い。

 これにより皇都の食糧事情が一気に改善された。

 そもそも皇都の食料は周辺の村や町に頼っているため、皇都内の食料生産は牧場のみ。

 これが食糧不足の一番の原因だった。

 そりゃ、地力生産できないのだから、不足する。

 結果としてあの2人の来訪は歓迎されたわけだ。

 そして、何もできないと落ち込んでいた2人の威厳も頼られることによって保たれた。

 あとは……、余計なプライドを捨てて、仲良くやってくれればいいんだけど。

「アレク?」

 あぁ、はいはい。

 ニャーンと一鳴き。


 ドラゴン達は今は休憩の時間だったかな。

「しかしドワーフか。ドラゴンが目当てと言うことは、ドラグライトかミスリルか、はたまたオリハルコン辺りが目的か」

「ん?どういうことだ?」

「あぁ。そういえば君は知らなかったのだな。彼らには代々伝えられている鉱物の錬成法があるのだが、その中でも特に難易度が高いものがドラゴン達の協力をなくしては精製できないものなのだ」

 へぇ。

 そんなものあるんだ。

「オリハルコンはフィルボルが聖別した神の祝福を受けた鉱石をドワーフの錬成技術で鍛えエルフの清水で冷やしてウィンディアの秘術を用いて数年かけて完成させるもの。ミスリルは鍛える際に竜の息吹で鍛えるものだな」

 ふーん。

 なんだ?この世界、鍛冶をするのにドラゴンの協力がいるのか?

「なぁ、ゴルデ……」


 がっしゃーん!!


 大きな音が辺りに響いた。


 ……またか。


 音がした方に行くと、周りには木箱が散乱していた。

 近くにはこけたと思われるハグレオン。

「い、いたいです」

 さては、またこけたな。

「こ、これは神獣様。お恥ずかしいところを」

 うん。

 恥ずかしいのはまぁ、良いから。

 ってかパンツ見えてるから。

 純白の宝物が見えてるから。


 ばっさばっさと風を鳴らして、もう1頭が姿を現した。

「主様、今日の分はこれで全部だ」

 トラキスがやってきた。

 ドラゴン姿から人の姿へ……って、ちょっと待った!

 そのままだと真っ裸の少女が……。


 ……そんなことなかった。

「『魔力法衣』というスキルがあるから平気ですよ?というか、人間がこだわり過ぎな気がします」

 そんなスキルがあったのか。

 くぅ。今までの俺の苦労は一体……。

 流石ファンタジー世界。

 今度、テレパシーと一緒に教えてもらおう。

遅くなり申し訳ございません。

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