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6-4EX.冒険者『閃光』の氷室彩音、強敵

「おいおい。嘘だろ……」

「本当に最悪……!よりによってディベアだなんて!」

 私達は慌てて茂みへと逃れた。幸い、こちらを認識できなかったようだ。


 本当に最悪だ。

 池血獣ディベアはその通り名の通り、血の池に佇む獣。

 狩った獲物の鮮血の中心で佇む獣。


 その凶暴性は魔獣の中でも指折りで発見次第、討伐令が出るほどだ。

 そのランクは、『災害級』とされている。


 熊のような体に鋭い爪や牙をもち、他の熊型の魔物に受胎させる魔獣。

「おいおい、この辺りでディベアが出るなんて報告、聞いてないぞ……!」

「多分、帝国の方から逃げてきたんじゃないかしら。最近、帝国軍の動きが活発みたいだから」

「そういうことか!」

 ディベアは賢い。

 基本的にはこの魔獣は動くものを追いかけるが、あまりにも数が多い個体は襲わない。

 手痛い反撃に合うと知っているから。

 人間であれば15人程度の団体なら一瞬で壊滅させるが、それ以上になると消極的になる。

 あと鉄と火薬の匂いにも敏感で、鉄のフルアーマーを着ている人がいるとまず襲わない。

 どうも、奴らは血と鉄の匂いをかぎ分けれるらしい。

 まぁ、そんな装備を着ている人は今、居ないんですけど。

 今の私達で勝てるかしら?

 無理かも。

 せめてガラハドさんのパーティーがいればわからないけど。

 どうしたものかしら……。


「どうする?閃光殿?」

「撤退して報告、これしかないでしょうね」

「しかし、もし撤退して奴が人里に降りたら大変なことになりませんか?」

 確かに、その危険性はある。

 けど、このままここにいても打開策がないのも事実なのだ。

 さて、どうしたものかしら。

 せめてあと一人『災害級』がいるか、この子達がいなければ、やりようもあるのだけど。

「仕方ない。教官、彼らをつれて町に逃げて応援を呼んできてちょうだい」

「出来るのか?」

「任せなさい。何とかしてみせるわ。ただ、出来れば早めに応援を寄越してちょうだい。ガラハドさん達のパーティーがいればそれが一番いいわ」

「わかった」

 私の言葉に教官が頷いた。

「そんな!閃光さん一人であの魔獣とだなんて!」

「聞き分けろ。俺たちでは足手まといにしかならん」

 意図も理解してくれているようだ。本当に頼もしい。

 ふと、ディベアを見ると鼻をフンフンと鳴らしていた。

 っ!?気付かれた!!

「時間がないわ!急いで!あいつ、私達がいることに気づいている!」

「わかった!おまえら!ついてこい!」


 教官が走り去った方向を見て息を整えた。

「これで、全力を出せる」

 少なくとも、彼らを守ることを考えなくても良くなった。

 ここが見つかるのも時間の問題。だったら、ギリギリ目一杯まで、準備させてもらうわ。


 私達が倒した飛兎を見る。

 これを使おう。

 飛兎の下には血抜きの時に掘った穴がある。

 私達はそのなかに持ってきたパンを浸し、近くにあった花を刻んで混ぜる。

 ここまでで20秒位。

 簡易的な毒団子だ。これが3個。

 ネズミやゴキブリ退治に使うあれ。

 後はバックの中の縄を出して腕の部分に巻いておく。

 噛まれたときの対策だが、ないよりはマシだろう。

 毒団子を2つ置いて飛び兎への誘導路を作る。これで、準備はok。

 後は最後のひとつを遠くから投げつけて毒団子へと誘導すればいい。

 まぁ、こんなものでどうにかなるとは思わないけど。


 私は覚悟を決めて、木の上に登る。

 飛兎とは違う木の上で身を潜めて機会を伺った。


 ディベアが振り向く。

 来た!

 そのタイミングに合わせて毒団子を投げつける!

 団子はディベアの肩の上に落ちた。


 gyaaaaaan!


 つんざくような、怪獣の声が私の耳を打った。

 何て声量よ!!


 奴は一直線に毒団子のある茂みへと駆け寄る。

 狙いどおりだ。

 後はかかってくれれば……。

 ディベアが毒団子に気づき、器用に手で持って匂いを嗅ぐ。

 そのまま口に運んだ。


 かかった!

 そのあと、二つ目の肉団子、そしてそちらにある飛兎へと飛び付いた。


 あらら……思ったよりあっさりで拍子抜け。

 後は毒が回って麻痺したところを倒すだけね。



 おかしい。

 あれから、1時間くらいたつが一向に毒が回った気配がない。

 どういうことかしら?

 わずかに身を乗り出したとき、奴が振り向いた。

 にやり、と熊が笑った気がした。


 しまった!

 もしかして、罠に嵌めたつもりでこちらがあぶり出されたの?

 gyaaaaaan!

 奴は再び咆哮を上げながら私のいる木に体当たりをかましてくる。

 足元が不安定になり私は地面へと投げ出された。

 くっ!何て失態!

 ディベアが牙で襲いかかってくる。

 それを盾で受け止めていなす。

 体勢はこちらが圧倒的に不利。

 私はのし掛かられた状態だ。

 夜は獣のような男が趣味とは言ったけど、こんな本物の獣にのし掛かられる趣味はないの!!

 私は右手に持った剣で奴はの顔を切りつける。

 剣は浅く、皮膚を切り裂くが、相手は動じる気配はない。


 これは、ちょっと不味いかも。

 そう思ったそのときだった。

 背後から石の礫が飛んできた。


「閃光さんから離れろ!この化け物!」


 ちょ、新人君たち!?

 何してるのよ!

 というか、石の礫って!

 もうちょっとマシな投擲物はなかったの!?

 ディベアが新人たちの方を向く。

 gyaaaaaan!

 注意だけは引けたようだ。

 注意だけは。


 ディベアは彼らの方に少しだけ気を取られた。

 拘束が、少しだけ緩んだ。

 その隙に奴の股下から滑って抜ける。

 何とか抜け出せた。

 それにしても……。


「ちょっと!なんで戻ってきたのよ!馬鹿じゃないの!」

「えぇ!?それは本当のことでも言い過ぎでは?」

 本当のことよ。って、認めるんだ。

「僕達も冒険者の端くれ!こいつを放置するわけにはいきません!」

「あぁ!その通りだ!よくいったぞ!平民!」

「私は止めたんですけど……」

「まぁ、仕方ないですね。皆さん、気を引き締めていきましょう」

「そういうことだ。帰るより、こちらの方が生存率が高いと判断した。他の足に長けたもの達はそのままドリステリアに向かわせた。今回は臨時パーティーでこの局面を乗り越えるしかない」

 戻ってきたのは教官を含めて5人。

 なかなかの面構え。

 けど、正直邪魔なのよね。

 さっきは助かったけど。


「そうだ、教官。確か閃光石もってなかった?」

「ん?あぁ、そういえばいくつかあったな」

 教官が取り出したのは閃光石、これは強い衝撃を与えることで短い時間、強烈な光を放つ石だ。

「閃光石が3つ、それに火炎石が2つか……」

 そんな便利なものがあるなら置いていきなさいよ。

「誰かハンティングシューターは持っていない?」

「いえ、誰も」

 ハンティングシューターは手に装着する小型のボウガンのようなもの。あれがあると簡単に衝撃を与えられるのだけれど。

 ないものは仕方ない。

 私はバックラーを着けてるからあまり使わないんだけど。


「仕方ないわ。このままやるしかないわね。来るわよ!!」

 戦隊物の悪役じゃないからこっちの都合なんて相手は待ってくれない。

 何とかして、この場を切り抜けなきゃ。







「こっちだ!熊やろう!!」

 新人くんが盾を構えてディベアの気を引く。

 ディベアがそちらに気を向けた瞬間。

「もらった!!」

 貴族風の男が背後から切りつける。

 あまりダメージは通っていないようだけど、そこに隙が出来る。

 彼はダメージを与えることを即座に諦め、回避行動を行う。置き土産に火炎石を投げつけて。

「さぁ来い、雷撃!敵を射抜け!ライトニングバレット!」

 私は正面から雷魔法を使う。

 これは、ダメージを与えることを目的とはしていない。

 衝撃を与えることだ。

 衝撃を与えると火炎石は燃え上がり、近くにあるものを燃やす。


 燃え上がった奴は腕を乱暴に振り回し、火を消そうとする。

 ダメか。

 まぁ、これでやられてくれたら、災害級なんて言われていないか。

「攻撃を緩めないで!畳み掛けて」

「「「「「おう!」」」」」

 左から右から後ろから、剣で盾で弓で、絶え間なく攻撃を加える。

 波状攻撃。

 あらかじめ、彼らには回避を優先するよう、 言い含めてある。

 無理はしないよう。命大事に。と言うことだ。

 なんとか、気を引ければ、その隙をつくこともできる。

「うわっ!?」

 青年が、腕による攻撃を受け止めることに失敗して、尻餅をつく。

「っ!?迅雷脚!!」

 私はスキルを使って疾風の早さで彼のもとへ向かう。


 迅雷脚。私の切り札のひとつだ。

 靴に仕込んだ魔法具を使用して、足を強化。強烈な蹴りをお見舞いする技だが、こういう使い方もできる。

 しかし残念ながら、もう一度使うには、靴の魔石を補充しなければならない。一度きりの技だ。

 今回は、移動に使うため左足の魔石を消費した。残るは右足だけだ。

「す、すみません。閃光さん」

「気にしないで。次が来る!」

 奴は振り上げた腕をそのまま下には振り下ろす。

 むちゃくちゃな破壊力だ。

 地面がえぐれている。


 なんとか持ってはいるが、このままではいずれこの子たちにも限界が来る。

 残る手札は閃光石3つと火炎石1つ。それに右足の魔石と『硝子の法衣』のみ。

 正直、災害級を相手にするには手札が少ないわね。


 ついでに、彼らの戦力を分析してみる。

 教官はロングソード一本でアイテムを多く持つ、軽戦士アタッカータイプ。

 市民風新人君は大きめな盾と短槍を持つ、タンクタイプ。

 貴族風新人君はバスタードソードを持つ、アタッカータイプ。

 さっきミミックリーに食べられそうになった女の子は、……ちょっとわからないわね。魔法を使うことは知っているけど。武器は短剣だし。

 で最後の眼鏡の優男は、魔法使いタイプね。

 悪いバランスではないけど、戦力不足。

 遠距離手段は魔法だけだし。戦闘経験不足。


 本当、どうしたものかしら。






 どうせなら、『紫煙の剣』か『黒鉄の騎士』が乱入してくれないかしら?

飛ばし気味で申し訳ない。

あと1話以内に収めたい……。

9/22 ×ライトニングボルト ○ライトニングバレット

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