5-15.現状把握
遅くなりまして申し訳ございません。
「わはははっ!どうじゃ?かっこよかったじゃろ!儂らは!」
(まったく。こいつは驚いたな。死んだと聞いていたが。あ、俺も死んでたわ)
……なんだ、この状況は。
なんで俺の部屋が飲み会の会場みたいになってるんだよ。
しかも、ノブナガもバロンもアンデッドだし。
あれから結局、あの場はいったん解散となった。
問題は山積みだった。
まず、城。というか、皇都は空に浮いたままなこと。
元に戻すにはゴルディアンには、まだ魔力が足りないらしい。
移動の方が消費魔力自体は少なく下降の方が消費魔力は大きいらしい。
なんでも、下降はその後、定着化などいろいろしなければいけないらしく、消費魔力が大きくなるのだとか。
そういうもんなのかね。
じゃぁ、さっきみたいに魔力を注げばいいじゃないか。と思うかもしれない。
しかし、ゴルディアンは寝起き。それも2500年間寝ていた。
彼にとって魔力はエネルギーへと変換する物質、要は食事だ。
まぁ、寝起きに食い物を腹いっぱい無理矢理詰め込む、なんて誰でも無理だろう。
少なくとも俺には無理だ。
そして、街が浮かんだままなので物流が死んだ。
本来、小山の下まで水運が、そこからは荷馬車を引いて街まで入れるのだが、空中に浮かんでいることで荷物を搬入できない。
敷地内には一部牧場地帯や家庭菜園があるがとてもではないが食料を賄うことができないのだ。
幸い、在庫品や牧場で何とか30日程度なら全員が凌げるらしいが、逆をいえば食料は30日しかもたないということだ。
これは早急に対処する必要があるだろう。
シャルロッテさんたちも何か手はないかと、今必死に模索していることかと思う。
次に公爵達。
捕虜ではあるが、彼らは精神支配を受けている。
特に敵将なんて酷いものだ。
なんせ精神が食われているので、あひゃひゃ。とか、よだれを滴しながら意味不明な言葉を呟いている。
ちょっと、責任を取らせるのは絶望的。
じぃやさんが帝国に書簡を送っているらしいが、帝国の首都は遥か北西。
数日ちょっとでは物理的に無理な話だ。
ちなみに外交官をどうやって皇都から地上に降ろしたかというと、ウィンディア族の外交官を送ったのだ。
彼らは、種族特性として短時間であれば空を飛べる。
1日2時間程度らしいが、それでも重宝される。
じゃぁ、彼らに荷物を運ばせればいいじゃないか。
と思うかもしれないが、皇都だけでは人数が足りない。
彼らが過労死してしまう。
ガルアーノ公爵領の兵であれば、ペガサス騎兵団という騎乗飛行を得意とする兵士を持っているため、こういう時には重宝する。とヘンリーが言っていた。
しかし、このペガサスたちはそこまで強い魔物ではない。
だが、飛べる、というアドバンテージは大きい。
一方的に攻撃できるしな。
それを兵団として持っているガルアーノ公爵領は兵力の数字以上に強いらしい。
しらんけど。
攻めてきても、ノブナガたちもいるしな。
だが、先の公爵がそうであったように、他の二人の公爵も何かしら精神や思考に支障を来している可能性もあるそうだ。
全部ジェイムスの仕業なのだろうか。
そういえば、俺、人間とエルフとアンデッドと魔物くらいしか会ってないな?
いや、ドワーフはドラディオがエルダードワーフだったっけ?
なんかドワーフって感じしないんだよな。彼。
鍛冶屋じゃなくて執事だし。
ドワーフって身長が低くて等身が低い。
代わりに強い力と、手先の器用さ。
斧などの重量武器を得意としているイメージなんだけど。
ドワーフもだが、ウィンディアやフィルボルなんて全然見てない。
何か理由があるのかな?
単純に数が少ないとかか?
ちなみに人間は光の神様が作った種族。
エルフは水、ドワーフは火、ウィンディアは風、フィルボルは土の神様が作ったことになっているらしい。
オウガやヴァンパイアなどの魔族は闇の神様だな。
ざっくりと、人型で知性がある生き物はこの6種をまとめて人間種と呼ぶ。
正確には人間、エルフ、ドワーフ、ウィンディア、フィルボルの5種を人間種、魔族は魔族種として独立しているらしいが、ざっくりまとめて人間種と呼ぶことが多いらしい。
これは魔族というのは闇の神様が作った種族の総称で、夜目と強力な魔力……特に水属性の魔力に高い適正を持つヴァンパイア族、恵まれた体格と身体能力を持つラグナール族、強大な魔力を持ち様々な魔法を自在に操るハルマー族、竜の特徴を体のどこかに持つウロボ族など様々いる。
先ほどのゴブリンはそのどれにも属さないので、ジェイムスの言葉をそのまま借りて妖魔と呼称したそうだ。
ゴブリンやだいたらぼっちは妖魔。覚えた。
なお、この世界にはその定型に当てはまらない種族も多々いる。
竜種、精霊種、妖精種、天使族、悪魔族などがいるらしいが……。
まぁ、なんせ数が少ないのか文献がとてつもなく少ないらしい。
シャルロッテさんの教科書でもわずか一行、記載があるだけだ。
ちなみにドリアードのミリアさんは精霊種。
そういえば、ファンタジー定番のオークなんかの人型生物も見ていない。
オウガは居たけど魔族の一種だったな。
まぁ、その辺は追々分かってくるか。
当然、諸外国との関係も問題になる。
ドミニオ公爵には北の帝国が、ガルアーノ公爵には東の王国が、グレスノース公爵には北の神聖公国が背後についている。
北の帝国には先ほど書簡を送っているので何かしら反応があるのだろうが……。
まぁ、俺の考えることじゃない。
シャルロッテさんやじぃやさんが考えることだろうな。
「ところでのぅ。アレはなんじゃ?」
ノブナガのこの言葉にちょっと思考が現実に戻ってくる。
(アレは便利だよな)
バロンがうなずく。
「あぁ、アレはゴルディアン謹製の翻訳機らしいんだよね。ほら、俺ら今、意思疎通できてるだろ?」
「いや、まぁ。性能は認めるが、のぅ」
そうなのだ。
今、俺の部屋には先ほどゴルディアンから渡された翻訳機がある。
あるのだが……。
「何でコックピットなんだよ!?」
そう、この翻訳機、コックピットの一部を丸々移植したような形なのだ。
まぁ、コックピットと言っても、戦闘機の様にボタンの一杯ついた椅子といった感じではなく、立って乗るスタイルらしく、内部は空洞。
外郭は金属で出来ているでっかい球体の様な作りだ。
それが俺の部屋の1/5を占めている。
正直、邪魔だ。
いや、そりゃ家具を除けば広すぎる部屋だけどさ。
40畳の石の部屋の1/5といえば、8畳分くらいの大きさ。
マンションの部屋より少し大きいくらいの球体があるのだ。
邪魔にしかならん。
だけど、この辺りにいるとどうやらお互いに意思疎通ができるらしい。
範囲はこの部屋いっぱい程度。
多分、範囲は円形……いや、球形だろうから隣の部屋とかでも意思疎通ができるんだろうけど……。
「本当に、この金属の塊にそんな性能があるのかのぅ」
ノブナガがコンコンと叩く。
(俺も信じがたいな。……が、こうして会話ができているということはそういうことなんだろう。そういえばノブナガ殿、部下の者たちはどうしているのだ?)
「うん?あぁ、あ奴らなら、あそこじゃ」
ノブナガがクイっと親指で外を指した。
外?
あぁ、よく見たら庭にいたわ。
四天王の4人と公爵の子供たちが一緒に酒を飲んでいた。
なんというか、和気藹々として。
うん。楽しそうに飲んでいるな。
「儂らの国には酒や茶の席では、季節ごとに変わる花を愛で、鳥の声を聴き、風を感じ、月夜を楽しめといわれておってな。まぁ、人生のスパイスという奴じゃな」
楽しんでんなぁ。この幽霊。
ってあ、待てよ?
「なぁ、ノブナガ。あいつらって送還できないのか?」
「送還?あぁ、確かに。儂が使ったスキルで死者として復活したのじゃから空虚に戻せて然るべきじゃな。………が、」
「が?」
「やり方が、まっっっっっったく、わからん!!」
だぁ!!
バロンと二人でずっこけてしまった。
まぁ、俺もわからんしな。
引き取られていったし、もう還す気もないけど。
(それにしてもノブナガ殿、貴方方はずいぶんと強者に見えるが、どうやって鍛えたのだ?)
「ん?あぁ、まぁ。この体になってからずいぶんと潜在的な力は上がったが。そういえばレベルはいくつまで進んだのかの?」
(俺たちじゃ、さすがに神殿で調べてもらうわけにはいかないからな)
「え?ノブナガはレベル43だろ?」
「え?」
(え?)
え?
ちょっとまった。
まさかレベルって神殿でしか調べられないのか?
と、いうことは今俺はとんでもないことを言ってしまったのでは……?
(ちょ、ちょっとまて。お前、もしかしてレベルがわかるのか?)
「あ、あぁ。まぁ」
「ふ、ふははははっ!やはりとんでもないな!お主は!」
(ち、ちなみに俺のレベルはわかるか?)
バロンがグイっと迫ってくる。
近い近い!
骸骨が近い。
「ま、まぁ……わかるけど」
(いったい何レベルだ!?)
また一段と骸骨が近くなる。
だから近いって!
「れ、レベル28」
(二十八!?)
バロンが突然、頭を抱えてのけぞる。
「な、なんだ!?どうした!?」
呪いか何かか?
(百年鍛錬してたったの三しか上がってないのか!!)
違ったわ。
まぁ、100年鍛錬して3しか上がってないとな。
気持ちはわからんでもない。
俺もゲームとかでなかなかレベルが上がらないとやきもきしたものだ。
「お主、生前はいくつじゃったのじゃ?」
(……十八。アンデッドとして復活してから、百年前、流れの神官に鑑定してもらうまでに七ほど上がっていた……)
「ふむ。流石、『要塞の守護者』じゃのぅ。生前であれば是非とも引き立てたかったわ!」
ははは。
ノブナガが言うと洒落にならん。
洒落にならん一位は曹操、二位は秀吉、三位が信長って感じかな。
あくまで、俺の中のランキングだが。
「ところで、そういうお主はレベルいくつなのじゃ?」
え?
(そういえば、そうだな。あの強者を一人でいなしたお前のレベルは確かに気なるな)
えぇ。
それ聞いちゃうのか。
どうしようか。
黙ってた方がいいのだろうか。
「(レベルは?)」
グイっと2人が迫ってくる。
近い!
おっさんと骸骨がダブルで近い!
「……れ、レベル420……」
「んな!?」
(馬鹿な!)
まぁ、そういう反応になりますよね。
はい。知ってました。