1-8.スキルってなんだ※
「だれだ!!」
兵士が振り返り、俺がいる影を睨み付ける。
やばい。このままじゃ気づかれる。
なにか、何かないか!?
このあたりは薄ぼんやりとしたライトが等間隔で並べられており、明るいところもあれば暗いところもある。俺が今いるのはちょうど暗くなっている部分だ。
ふと、俺の頭に先ほどのスキルの件がよぎった。
そういえば気配寸断ってスキルがあったはずだ。もしかしたら気づかれないかもしれない。いや、油断は禁物だ!なにか、他に隠れられそうなものはないか!?
影魔法。そうだ、影魔法だ。
影魔法といえば、RPGや小説では影にもぐったり、影から移動したり、影縫いで足止めをしたり、テクニカルな魔法だったはずだ。
で、どうやって使うの?
いや、まじであの女神大概にしろよ。
説明文もなければチュートリアルもない。
うーん、どうするか。頼む何とかなってくれ!
そう思うと、ズブズブと体が沈み込んでいた。
なんだこれ!?あ、影魔法か!?
兵士の足音がすぐ目の前まで迫ってきていた。
そのタイミングで俺の体の沈み込みが止まった。
首から下だけが影に沈みこみ、俺は影の中に生首状態だ。
軽いホラーじゃねぇか。
足元気をつけてください!生首があります!
「ん?なんだ気のせいか?」
気づいてない、気づいてないよこの人!
いや、気配寸断スキルが優秀なのか?
「明日の作戦のせいで神経質になってるのかもな。へへへっ」
いやいや、しっかりいますから。
あなたの感は間違ってませんから!
「まぁ、いいか。どうせ明日までだ。明日になりゃ、三公爵サマたちの大義名分の元であの姫さんどもを好きにできる。へへへ。これまでこんな生活で苦労したかいがあったってもんだぜ」
あぁ?俺こいつ嫌いだわ。
ってかなんでシャルロッテさんたちを好きにできると思ったの?
お前下っ端だろ?
いや、まぁいいや。とりあえず、ムカついたので殴ってやりたい気分になった。
が、今の俺は猫!
殴っても、猫パンチにしかならない!
ここはこいつに案内してもらってこの陰謀っぽいのをつぶしたほうが良いだろ。
にしても異世界人、俺の見た作品でもそうだったがなぜこんなにボロボロと悪事を口に出してくれるのか。
なんか俺たちと違いでもあるのかな?
それともスキルとかよくわからん力のせいか?
そんなことを考えていると兵士は再び振り返り、さらに先へと歩いていった。
それについていきながら、俺はスキルについて再度表示を出しながら考えてみた。
まず、俺の使ったと思われるスキルは2つ。
未使用のものが6つある。
とりあえず、一発でわかるものから考えてみよう。
まず、『薬剤耐性』。
字面からすると薬剤による効果に耐性ができているってことかな。
その効果だとすると、いわゆるパッシブスキルに該当するものだろう。
次に『盗む』と『気配寸断』。
おそらく、盗むという行為をできるようにする、もしくは効果を上げるものだろう。法律遵守の一般日本人倫理を持つ俺にとっては、使う機会は少ないだろう。
…ファンタジー世界だから無いとは言い切れないけど。
『気配寸断』に関しては効果を実感したとおり、気配の影響を最小限に抑えるものだろう。
で、『鑑定の魔眼』。
対象を鑑定できるとか、対象の情報が視界に見えるとかそんなところだろう。
だが、今それが使えてない理由がわからない。
これはぜひ使えるようになってほしい。どうにかならないものか。
次に効果が想像できないもの。
まずは『魅了の魔眼』。
あれか?ヴァンパイアとかドラキュラ、魔王が使ってるような、他者を操る系の能力かな?使い方がわからんから、どうしようもないけど。
次に『魅了』。
魔眼とかぶってない?効果がわからんからなんともいえんな。
次は『影魔法』。
これは今、発動したからおそらく俺が元々考えていたとおり、影を介した魔法だろう。ただ、どんな魔法があるかわからないからまともに使えない。発動条件もわかってないからな。
最後に『心身転魔』。
これはまったくわからない。
字面からすると魔に体も心も転じるということだろうが…。
魔って魔物のことか?
つまり、俺の猫になっている今の状態がこのスキルということか?
うーん。なんかピンとこない。
せめて説明文があればな…。何度も言うけど、このシステム初心者に不親切だろ。もうちょっと親切にしろよ、あの女神。
そう考えていると、表示に変化が出た。
なんか、スキルの名前部分が点滅している。
そして俺の視線に合わせて移動している。
俺は点滅部分が一番下にあった『薬剤耐性』の部分に合うように目線を下げてみた。
すると、また別枠で説明が出てきた。
スキル名『薬剤耐性』
効果範囲『パッシブ』
スキルレベル『EX+』
効果『薬品、薬剤、毒系物質によるバッドステータス効果を無効化する。』
説明『薬品、薬剤、毒系物質による効果範囲を有効成分のみに限定するスキル。主に虫系や不定形の魔物が持ち、効果の範囲もレベルによりさまざま。』
出た!もしかしてこれが『鑑定の魔眼』の効果か?
ってかこれ相当有用なスキルじゃない?
ただの猫が持っていていいスキルじゃないよな。
ってそうか俺、ポーションイーターとかいう種族だっけ?
体はただの家猫にしか見えなかったけど。
そうだ、ついでにポーションイーターも見ておこう。
俺は視線を種族欄に合わせた。
種族名『ポーションイーター』
系統『魔猫系統基本種』
ランク『Hランク・猟種』
種族スキル『影魔法』『気配寸断』『盗む』『魅了』『薬剤耐性』『寄生生殖』
説明『ポーションを好む猫型の魔物。普通の猫のように振る舞い人間に近づき、相手を油断させてから手持ちにあるポーションを盗んで飲んでしまう魔物。町の中のほかに洞窟の奥や平原のど真ん中でも出現するため、冒険の前や冒険中、戦争前には注意が必要』
だそうだ。
しかし、この『寄生生殖』って言うのは昼間の勉強会であった生殖方法か?
種族スキルの欄に載っている割には俺のスキル欄には存在してないようだが…。
スキルって言うより特徴って感じなのかな?
そうこうしているうちに兵士は地下の扉の前についていた。
兵士は扉にかけられた大きな南京錠を開けると、扉も閉めずに入っていく。
俺は後ろからこっそりと扉の中に入っていく。
中は倉庫のようになっており、大量の木箱と樽、棚の上に並べられた袋、壷などがなどが並んでいた。兵士は入り口の近くにあった樽の上に点灯していないランタンを置くと、木箱に手をかけた。
どうやら天井部分が開くタイプのようで、中にはびっしりと小瓶が詰まっているようだ。
さっき言ってた、鬼殺しってやつか。
なんだっけ?レベルアップポーションとか言ってたっけ。
名前からしてレベルアップしてくれるポーションかな?
ふむふむ、でそれをどうやって使うのか。
考えていたらまた兵士が勝手に喋ってくれた。
「あの妹の方には散々吹き飛ばされたからな。今までの恨み返しってやつだ。いい気味だぜ。大人を舐めてるとどうなるか、分からせてヤるぜ。こいつを使えばあの集めた兵士どもが、兵士も250人はいる。薬も250回分はある。このクソみたいな皇国を俺みたいな英雄サマが救ってやるぜ。へっへっへっ」
あ、今気づいた。こいつ、昼間マリアゲルテさんに吹っ飛ばされてたやつだ。
どうやってわかったかって?においが一緒。においなんて人間の体だったときは区別できなかったけど、今はにおいだけでも人物をかぎ分けられる。
なんで?って言われても困る。分かるものは分かるのだ。
たとえば、シャルロッテさんのにおいだったら一発でシャルロッテさんと分かるし、じぃやさんなら何の疑いも無くじぃやだと分かる。
ただ、まだ結構近づかないとにおい自体が嗅ぎ分けられない。
猫って確か人間の10万倍以上の嗅覚持ってるって言ってたな。
あれ?そういえば猫って視力はそうでもなく、かつ色を見分けるのが苦手なんじゃなかったけ?なんか普通にカラーに見えるんだが。いや正確には暗いところでもはっきり見える。なにこの高性能の体。人間と猫のいいとこ取りのハイブリッドな体なのか?そういえば脳みそが人間ほど大きくないはずなのに普通に人間のころと変わらないように考えることができる。……若干、本能に負けてる気がしないことも無いが。
そうこう考えているうちに、兵士はなにやら箱の中身を数え終え、点いていないランタンを手に持ち、移動を始めた。
俺は、一瞬一緒に出ようと思ったが思いとどまってそのまま木箱の陰に隠れた。
影から見上げると、天井付近に鉄格子のされた換気口のようなものがある。
ここは地下のはずなので明かりが見えるということはあそこは外につながっているはずだ。
人間であれば不可能だが猫の身体能力ならあそこから抜け出すことは造作も無いだろう。というか、改めて見渡してみると、壁に鉄製の輪のようなものがついていたり、扉に鉄格子とのぞき窓とがついていたり、ここは元々牢屋のような場所だったのだろう。
正直根拠の無い自信だが、見た感じ今の体なら通れそうだから鍵をかけられたところで心配するほどではないだろう。
兵士が扉から外に出る。
ガチャリ。
異様に響く鍵をかける音とともに、俺は活動を始めた。
ついでにこの倉庫になにがあるのか確認しておこう。
9/1 改稿
一段下げの機能を教えていただいたので、全文改稿いたしました。ありがとうございます。