5-11.悪霊の呼び声
-ノブナガ視点-
城から出た儂は、一足飛びに城門の上へと上がる。
霊体になってからできることが増えたのは良いことじゃな。
さすがに元の体であればこれほど跳ぶことはかなわぬじゃろう。
さて、敵兵は……。あれじゃな。
「おーおー。これはまた、ずいぶんとおるなぁ」
まさに森を埋め尽くすといった感じじゃの。
「ノ、ノブナガ殿……ようやく追いつきました」
ん?
あぁ。この国の兵士たちか。
これしきの事で肩で息をしておるのは……、なんだか頼りないのぅ。
「お主ら、今でそんな状態でこの先、ついてこれるのかの?」
「わ、私たちはこの国の兵です!この国の国防には私たちも地を這ってでもついていきます!」
なるほどのぅ。
さすがに兵の士気はそれなりを保っておるのか。
腐っても、大国じゃな。
「まぁ、ついてくることは構わぬが、今はここから動くでないぞ」
「は?」
察しが悪いのぅ。
「ほれ、踏ん張らぬか。大地が動くぞ」
「それは、どういう……」
刹那、地鳴りが響く。
なるほどのぅ。これが『先見の魔眼(時代)』が儂に見せた、面白いもの、か。
城のある台地が丸ごと浮かんでおる!
「はははっ!これはすごいのぉ!のう!」
「え!?えぇぇぇぇぇ!?」
儂は後ろに控える、なんと言ったかの……騎士、じゃったか?それに声をかける。
「ほれ!さっさと行くぞ。降りられなくなってしまうわ!わははははっ!」
首根っこをつかんで、一人だけ連れていくことにしようぞ!
このような祭りに乗り遅れるなぞ、祭り好きな儂としてはありえぬわ。
「ちょ、ノブナガ殿!まっ……」
何か言っておるが問題なかろうて!
儂の活躍を記録するものも要るしのぅ!
儂らは地面に着地する。
正直言うと、ちょっぴり怖かったぞ。
軽く三十マーテラくらいあったかの!
「ぜー、はー……し、死ぬかと思った……」
うむ。気持ちはわかるぞ。儂もこの体でなければ絶対やらんかったわ。
さて……。
「ところで、お主。名をなんと申すのじゃ?」
「えっ、あ、ロウフィス・グレイスノースと申します。ドリス皇国の騎士です」
「ふむ。では、ロウフィスよ。儂の活躍を見届けることを許すぞ。しかと記録せよ」
「あ、いえ。すみません。一応、私はバスティアン卿の命で参陣のためにここにいますので、記録するものは……」
なんじゃ、つまらぬの。
ミツヒデなら、ここでチクリと皮肉を込めるんじゃがなぁ。
まぁ、よかろうて。
「さて、では始めるかの」
目の前には森を埋め尽くす、騎馬の軍団。
こうしてみると先頭の陣営は黒い甲冑を纏っておるな。
これが、噂に聞く、黒鉄騎兵か。
まぁ、雑兵じゃな。
万全の状態であれば違ったじゃろうが。
む?あの先陣の奴はあの傑物か。確か、ルディオ・ドミニオじゃったか。
一応、挨拶しておくかの。
「おーい!そこの!確か、公爵じゃったろ。儂じゃよ儂。昔、貿易に来たノブナガじゃよ!」
「……」
手を振るが無反応。
まぁ、そんなことじゃろうと思ったわ。
「貴様!いったい誰だ!崇高な使命を持つ、私の邪魔をするとは!名を名乗れ!」
いや、じゃから名乗ったじゃろ。
聞いとらんかったんか。
めんどくさい奴じゃのぅ。
「あれはなんだ!城が宙に浮くなど!卑怯者め!正々堂々勝負もできぬか!」
「儂が知るわけなかろう。儂の姿を見よ。どう考えても東方の出じゃろ?こっちの情勢がわかるわけなかろうが」
「貴様ぁぁぁぁ!この私をそのような言で愚弄するか!私への侮辱は帝国への侮辱と知れ!やれ!愚図ども!」
戦闘のルディオが剣を振ると騎兵のうち、数体がこちらに突進を仕掛けてきた。
「っ!?来ました!ノブナガ殿!お下がりください!」
儂の前にロウフィスが剣を構えて飛び出す。
「愚か者が。下がるのはお主のほうじゃ。儂とお主の力の差もわからぬか」
さすがに、借りた将を傷つけるのは忍びないからの。
儂らの目前に黒い騎兵どもが迫る。
フンッ!!
軽く力を込めて魔力を放出する。
ただそれだけじゃった。
儂の魔力に当てられた兵士と馬は泡を吹いて倒れた。
さすがに万全の状態であれば、もっと苦労したじゃろうけど、察するに、奴が黒幕かの。
「なんじゃ。軟弱じゃのぅ」
「こ、……これは……。ノブナガ殿?」
「貴様!いったい何者だ!」
じゃから、ノブナガと言うておろうが。
耳が聞こえんのか。こやつは。
しかし、のぅ。
ここは儂の存在感をアピールしておくのも良いかの。
さて……。
「儂のことをしりた……。っとしまった。ゴホンッ!」
儂としたことが、忘れておったわ。
「余のことを知らぬか。よかろう!しかと心に刻むがよい!余の名はノブナガ!
心せよ、人間!汝の前に立つは地獄の体現者!……余はな、人の世を乱し、悪辣を笑う。つまりは……悪霊じゃ!」
決まった!
あまりのカッコよさに皆も言葉を失って居るわ。
「いや、あのノブナガ殿……。その。もう少し良い名乗りをしたほうがよろしいかと」
「えっ!?かっこよくなかったかの!?」
「すみません。美観の機微には疎いもので」
「なんじゃ。つまらんのぅ」
「悪霊だと……。しかし、だとしたら好都合だ!全体!ドリス皇国は悪霊に支配されている!先に捕らえられた兵たちも、おそらく悪霊に苦しめられているはずだ!解放に軍を進める!大義は我らにあり!進め!」
いや、別に支配などしておらんが。
にしても、無言で突入してくる騎兵共とはなんと気味の悪いものか。
まぁ、仕方なかろうな。
こんな状態では、な。
「ちょ、来ましたよ!ノブナガ殿!」
ロウフィスとやらが焦っておるが、焦る必要などない。
儂は魔力を体に巡らせ、新たに手に入れたスキルを意識する。
生前には、決して届かなんだスキルじゃが、意識が覚醒してすぐ、体得した。
「ふはははははっ!是非もなし!!」
体に巡らせた魔力を、思いっきり解放してやる。
物の怪の体というのは実に都合がよい。
魔力を複雑に構成せずとも、考えるだけで思った通りの構成で魔法やスキルを組むことができる。
これは人間やエルフ、魔族などの、人類が苦労するわけじゃ。
眩い光と共に、儂のスキルが発動する。
ドス黒い、紫の炎のような魔力の奔流が消えると、四つの影がその姿を現す。
儂の発動したスキルは「招魔」。
自らの系列の魔物や魔獣を呼び出すスキルじゃ。
莫大な魔力を消費する故、儂のような強者でないとまず、無理じゃがな!
「さぁ!出でよ!我が眷属……、四天王よ!」
影を割って姿を現したのは四つの亡霊。
いずれも、生前の儂に仕えた猛者たち。すなわち。
ラグナール族、シバタ・カツイエ。
ウィンディア、ニワ・ナガヒデ。
ヴァンパイア、タキカワ・カズマス。
そしてエルフ、アケチ・ミツヒデ。
儂に心酔し、儂に忠を誓う者たち。我が臣下。その亡霊たち。
「ふっ。かっこ良すぎじゃろ。儂」
そう、影に言ってみせる。
「さぁ!名も知らぬ、人間よ!己が理想を!野望を!その信念を!内に秘めた感情を輝かせよ!困難に立ち向かい、強敵に抗い!必死に生きてこそ、その生涯は光を放つと知るが良い!」
そう、高らかに宣言して見せたのじゃ。
-アレクシス視点-
あー。これ気づいてるわ。
ノブナガの影に潜ませた影魔法。かんっぜんに気づかれてますわ。
腐ってもAランクか。(アンデッドなのでシャレにならんが)
にしても、やばい名前がいっぱい出てきたな。
これ、あれだよな。
俺の世界でいうところの織田四天王。
柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益、明智光秀のそっくりさん。
この世界にもいるのか。
もしかしたらまだいっぱいいるのかな。
おそらく、日本人だけではないだろうから、ひょっとしたらアーサー王とか、カール大帝とか、サラディンとか、テムジン……チンギスハンとかいるのかな?
そういえばカロリング家はあったんだっけ?
あの女性、あれから会いに行ってないな。
今度、忍び込んでみるか。
ちなみにノブナガだが、薄らと影があった。
物理攻撃が通ることといい、この世界の霊体は俺のイメージする霊体とは違うのかな?
まぁ、その辺は分析か女神に聞けばいいか。
しかし、天空の城とは。
まさか本当に皇都ごと浮いているとは思わなかった。
「いったい何が……」
シャルロッテさんが狼狽する。
「どうだ?うまくいったか?」
「あー。うん。多分。なんていうか。すごいんだな。あんた」
「まだ、起動したてでこれくらいしかできないがな。後で魔力を少し分けてもらっていいか?」
「あー。うん。わかった」
正直、機械生命体と天空の城に織田四天王と、急展開過ぎて、頭が追い付いていない。
異世界、超怖い。
ノブナガの口調で一人称視点を書くには私には力が足りなかったようです。
霊体の説明に関してはまた今度。