5-10.天空の城
ちょっと急ぎ足です。
「ちょっと、あなた。いきなり何を言って……」
まぁ、そういう反応になるだろうな。
ぶっちゃけ、俺だって信用できない。
さっき、会ったばかりだしね。
が、名前がオダ・ノブナガってだけで、俺から見たら戦闘関係だけは、信頼しても良いのだろうと思う。
何せその名前は俺の知る限りでは戦国時代の覇王。
明智光秀に討たれ、豊臣秀吉や徳川家康に取って代わられるまでは、正に天下統一を目前にした英雄だ。
けど実際のところどうなんだろうな。
俺が知るようなノブナガなのか、それとも名前が一緒なだけなのか。
しかし、なんで同じ名前がいるのかな?
自分で覇王といっているから、おそらくこの世界でも、ノブナガはあまり役割としては変わらないのだろう。
まぁ、いいか。
多分、考えても無駄なものの類だろうな。
今度通信があったときに、女神に聞いてみよう。
「はっはっはっ!まぁ、任せるがよい!防戦は久しぶりじゃが、まぁ大丈夫じゃろ!二万五千までなら防戦も経験あるしの!」
「ご助力、感謝いたします。しかしせめて、幾ばくかの兵士と将校をお連れください。われらは皇城の防備を固めますゆえ」
「うむ。是非もなし!では行くとするかの」
バサッと、マントを翻し、歩いていくノブナガ。
こうやってみると、やはり風格と言えばいいのかな。そんなものを感じるな。
「……あぁ、そうじゃ!お主、地下には先に行っておいたほうが良いぞ」
「「地下?」」
地下?
地下ってもしかしてあの図書室の先の部屋か?
ってかなんで知ってるんだよ。
「地下って城に地下がありましたか?じぃや?」
「いえ、存じません」
「あぁ、お主らではない。そこの魔物のことじゃ」
俺のほうを指をさして名指しでいうノブナガ。
ニャー。としか聞こえないだろうが、一応返事をしておく。
「ま、儂の『先見の魔眼(時代)』ではそこまでしか見えなんだがの。きっとよほど面白いものがあるのじゃろうて」
へぇ。まぁ、実はもう行って円卓と巨大な魔石があることは確認してるんだけどな。
「主の家臣となったのじゃ。このあたりで、ちょっとかっこいいところを見せぬとな。わははははっ」
手を振りながら、去っていくノブナガを俺たちは見届け、図書室へと急ぐのであった。
「ここは……、図書室?」
「あの、アレクシス様、地下へ向かわれるのではなかったのですか?」
「姫様、バスティアン様、アレクシス様。ランタンと目録をお持ちしました」
君ら、なんでいるの。
ってそりゃいるか。
なんせあのまま来たんだし。
メイド二人は各所に連絡として走ったため、ここにはいない。
ただ、いつの間にかドラディオがいた。
この人、ほんと気づいたら近くにいるよな。
まぁ、3人はほっといてもいいか。
俺は組細工模様のついた本棚へと向かう。
その中から数冊の本を取り出し、天面の魔石を露出させた。
そこに魔力を流す。
すると、前と同じように本棚が移動を始める。
「なっ!?」
やがて現れた階段3人から驚きの声が漏れる。
「皇城にこんなものが!?じぃや!?」
「申し訳ありません、存じ上げておりませんでした」
「本棚の下段にこんな仕掛けが?なるほど、我々ではわからないわけです」
まぁ、そりゃ、この下段の天面、人間じゃわからないよな。内側にあるし。
大体、こんな下段にある本なんて普段取らないだろうしな。
ふと、出した本のタイトルを眺めてみる。
『バビブデビィ黙示録』
『ヴェイン侯爵の酒池肉林作成記(自署)』
『そんなバナナ!布団が吹っ飛んだ!』
『魔物による生殖補助活動・ゴーレム編』
逆に気になるわ!なんだこのタイトル!?
ってか、上から下まで本でビッチリって正に図書館って感じだな。
ちなみに本といっても、紙製ばかりではない。
羊皮紙、というのだろうか。そんな感じ。
どうも、ざっくり見てみると、何となく作者によって本の素材が違うことがわかる。
作者が〇〇伯とか〇〇男爵とか爵位が書いてあるものはたいがい、紙っぽい素材で書かれており、羊皮紙で書かれているものは○○伯付き〇〇研究官とかそんな感じで書かれている。木の巻物……木簡というのだろうか。そんな感じの巻物は作者欄には伯爵とかは何も書いてない。
ちなみに、西洋風の巻物、いわゆるスクロールもあるが、こちらは作者が表に書かれていないのでわからない。
おっと、そんなことより目的の場所に行かなければ。
「姫様。危険かもしれません。夜烏隊を呼びますのでこちらでお待ちいただいていたほうが……」
「いえ、ここは皇城です。たとえ危険でも、私も同行します。それに、アレクがいるのです。危険はありません」
「確かに。アレクシス様がおられるなら、安心でしょう。
それにバスティアン卿、我々もいるのです。無用な心配でしょう」
なんなんだよ。その自信は。
まぁ。いいや。
俺は階段の一段目を降りて、後ろを振り向く。
「着いてくるなら早くしてくれ」
まぁ、ニャーとしか、聞こえないだろうけど。
ドラディオが足元を照らしてくれる。
まぁ、そんな必要はないんだけど。
前に来たときはネズミがいたけど、今は蜘蛛の巣、埃一つない。
そういえば、前にここに来たときは帰りにディスられたんだっけ。
本で『シャイ』って。
よくよく考えたら、あれはシャイってディスられたんじゃなくて、『謝意』だったのではないだろうか。
いや、感謝される覚えはないんだけど。
階段を降りきると、そこにはあの円卓と巨大な魔石が変わらずあった。
しかし、前と違ったのは、俺たちが下に降りた瞬間、部屋が明るくなったことだろう。
「まさか……城の中にこのような空間があるとは……」
シャルロッテさんが嘆息する。
いや、うん。確かに、ここを始めてみたら、そうなるだろうけども。
それよりも。
なんか、魔石、光ってないか?
刀の時のような、うっすらとではなく、明らかに光っている。
なんか、嫌な予感が……。
まさかノブナガみたいなのがまた出てくるわけじゃないよな。
「ようやく来たか。小さきものよ」
「……っ!?誰です!!」
いきなり聞こえた言葉にシャルロッテさん達3人が反応する。
いや、俺も驚いてはいるんだが、なんか3人の驚き具合にちょっとびっくりしている。
「あのー。小さきものって俺のことですかね?」
ニャー。
一応、返事をしてみる。
「なるほど。向こうの言葉が通じるか。やはり、君は私と同じような存在なんだな」
あれ!?言葉が通じただと?
いや、それよりも。向こうの言葉?どういうことだ?
もしかして……。
「ちょ、ちょっと待て。お前はもしかして、日本から来たのか?一体、何者だ?転移者なのか?」
「転移者。まぁ転移者といえば転移者だな。私の名はゴルディ。宇宙機械生命体組織-ゾンベルト-の一員だ」
機械生命体ときたか。
機械生命体と言われてパッと思いつくのは、子供向けアニメやハリウッドで実写映画化された作品だろうか。
「もしかして、変形しちゃう系のロボット?」
「変形合体融合しちゃう系のロボットだ」
まじか!!
まじか。
まじかぁ……。
新しい転移者、まさかのロボットだった。
これは男なら燃えざるを得ないだろう。
いや、ごめん言いすぎだったかも。
「お前も女神に強制的に転移されたのか?」
「女神?なんだそれは?私が転移されたのは事故のようなものだぞ」
「そうなのか?」
「うむ。私は元々、日本という国で十和田家の世話になっていたのだ。しかし、宇宙帝国-ガイスト-の先兵であるシャドゥランと相打ちになってこの世界に飛ばされて……」
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!ちょっとまて!」
「ん?どうした?」
十和田?十和田って、言ったか?
自慢じゃないが、俺の苗字はそう一般的な名前じゃないと思っている。
もちろん、全国にはそれなりにいるとは思うが、俺の居た地域ではうちの家だけだった。
「一応聞きたいんだけど、その、お世話になってた人の名前って……」
「ん?十和田博司だが?」
「おやじぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
まさかの親父だった。
え、ちょっとまって。なに。うちの親父、機械生命体の世話してたの?
「親父?君は、まさかヒロの息子か?それにしては……その姿は?」
あぁ、うん。気持ちはわかる。
昔世話になった人間の息子が猫だもんな。
そりゃ混乱するわ。
「あの?この音はいったい?あなたは誰ですか?」
「声からすると、男性のようですが……」
「いったいどこから……」
しまった。そうだ。
シャルロッテさん達の事を忘れていた。
「あー。すまない。ゴルディとやら。ちょっと申し訳ないんだけど、積もる話はまた今度でいいかな?今はそれよりしなくちゃならないことがあるんだ」
「ふむ。わかった。察するに、君は彼女たちと話ができないのか。私も今は日本語で話しているからな。彼女たちは理解できないだろう。わかった。彼女たちにはこちらから話そう。今はドリス語は通じるのか?」
あー。そうか。言語の問題があったか。
「……たぶん」
「わかった。善処しよう」
「あー。すまない。言葉は通じるか?」
その声に、シャルロッテさんたちが反応した。
「これは……、古ドリス語?ずいぶん流暢に話されていますが、どこでこの言葉を?いえ、それよりあなたはいったい?」
古ドリス語?
やばい。俺の耳には同じ言葉のようにしか聞こえない。
まぁ、でも伝わるようだし、問題ないだろ。
「私は、アレクシスと共に邪神を討伐し、のちに眠りについた者。天空城、ゴルディアンだ」
「ゴルディアン?まさか、伝承に名前のみが語られる、七人目の英雄?」
「ふむ。そういう風に伝わっているのか。あれから何年たっている?私はどれだけ眠っていたのだ?」
「アレクシス様、……初代様からですと、最低でも二千五百年ほどかと」
「なんと。それはずいぶん経っているのだな。して、ここに来たからには何か問題でも起きたのだろう?」
「あ、あの。私はドルエス・アレクシス・ドリステリアの血を受け継ぐ、皇家の長女、シャルロッテ・エル・ドリステリアです」
「なるほど。アレクシスの家系か。いや、本当に。ここは懐かしい気持ちにしてくれる場所だな」
じじぃかよ。
いや、さっきの情報が正しければ2500年+α生きてるのか。
そりゃ、そんな気持ちにもなるか。
「失礼を承知で申し上げます。今、ドリス皇国は未曾有の危機に晒されております。どうか、そのお力を再びお貸しいただけないでしょうか?」
「ちょっと待て。……、おぃ。ヒロの息子よ。なんだいったい。この状況は」
あ、こいつ、わざわざ日本語に変えて来やがった。
まぁ、こんな悲壮に満ちた感じで頼まれちゃ、そんなもんか。
「あー、まぁ。なんというか。今、反乱されててな。皇都のすぐそこまで攻め込まれちゃっててな。俺が出てもいいんだが、どうも、俺の友達……って言っていいのかわからないけど、とりあえず戦いたいって言って出て行っちゃっててさ。なんとか援護してやりたいんだけどできそうか?」
「問題ない。では彼女らにも分かるようにするか……、わかった。今は魔力も潤沢だ。君たちを支援しよう」
その言葉に、執事2人が反応する。
「おぉ。これは。百人力、いえ万人力ですな」
「確かに。まさか、神話時代の方にご助力いただけるとは」
いや、変形合体ロボットの支援って。
本当に万人力になりそうで怖いんだが。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
途端、地震に襲われる。
これは……でかい!
「安心するがいい。ここは私の天空城。邪神の勢いすら削ぐ、鉄壁の城塞だ」
ひと際、地震が強くなる。
ちょ、これやばくないか!?
俺は知らなかった。
今この瞬間、この都市はまさに、天空へと浮かんでいたことを。
予想以上に長くなったので(文字数的には3話分くらい)、セリフ数や描写を大幅にカットしました。
前後のつなぎがおかしいかもしれません。
当然ながら、この世界の人間は日本語がわかりません。
アレクシス(多夢和)の声がなぜ聞こえるのかはまた今度。
なお、対アレクシスと対シャルロッテ(達)で口調が違うのはわざとです。
古ドリス語は現代訳すると古臭い言い回しになる、という設定なので意識してやっています。
次回はノブナガ側です。