5-8EX.シラクサ辺境伯ネルファスト・シラクサ
PCが壊れました。
なので、幕間的話ですみません。
幸い、データは無事でしたが、一部データが消えました。
なんだ!
なんだ、なんだ、なんだ!
何なのだ!あの化け物は!
上がってくる報告は、どれをとってもとても無視できるものではない!
あんな化け物が皇国にいるなど、聞いていない!
「どうなっている!ジェイムス!」
私は、苛立たしく当家の執事を呼ぶ。
「は。どうやら、最近になって皇国に住み着いたようで。あのような魔獣を使役できるなど、まったく皇国の底力というやつですかな」
「戯言はどうでもいい!さっさと対処しろ!」
ふぅ、と呆れたように息を吐くと、ジェイムスは下がっていった。
くそ!どいつもこいつも。
私の名前は、ネルファスト・カルバネン、改めネルファスト・シラクサ。
栄えあるオーグマ帝国の八人いる辺境伯の一人。
元は帝国近郊のカルバネンの村で文官をしていた。
その頃の功により、オーグマ帝国がシラクサ王国を編入した際に、貴族へと召し上げられた。
領地はドリス皇国にほど近い、旧シラクサ王国領。
残念ながら我が領からドリス皇国に直接向かうには、高い山脈を越えねばならず、進行ルートが限られる。
まったく、忌々しいことこの上ない。
そして先ほどの老執事はジェイムス。
私が領地を得て一年ほどした頃にこの領地内で見つけた執事だ。
今は幹部執事を任せている。
少し不気味な奴ではあるが、優秀な執事だ。
多少の欠点に目を瞑るくらいの寛容さはあるつもりだ。
私の家で元々働いていた者たちは、いつからだったか、気づいたら出奔していた。
まぁ、いい。ジェイムスが全て片付けてくれる。
あれほど使い勝手の良い男を手放したりするものか。
私はドリス皇国攻略のために、まず公爵の切り崩しを考えた。
一年かけて工作し、ついに去年、シラクサ辺境伯領の領都シラクスブルグとドミニオ公爵領のドミニスクで街道を設置することができた。
ジェイムスに用意させた魔道具をドミニオ公爵に贈り、奴の精神を支配した。
その結果、ドリス皇国への足掛かりができたのだ。
公爵の精神を支配し、皇国に反乱させ、その後支配した地域を丸ごとシラクサ辺境伯領に編入する。
反乱に成功しようがしまいが、皇国、そして公爵領の力は落ちるだろう。
いざとなれば、我が精鋭をもって力押しすればよい。
それができるだけの力が、今の私にはある。
……だというのに。
だというのに、反乱は遅々として進まない。
それどころか無理やり侵攻させた軍は撤退を余儀なくされたという。
くそが!
本当に役に立たない愚図め!
図体ばかり大きい癖にこの程度のこともできないのか!
黒鉄騎兵と恐れられたドミニオ公爵兵もこの程度のものだったとは!
手に持ったワイングラスを壁にたたきつける。
すこし、すっきりした。
改めて、すっきりした頭で考える。
やはり、あの魔物が最も警戒すべき相手だろう。
ほかにもドミニオの息子など警戒すべき相手はいくらでもいるが、あれに比べればかわいいものだ。
奴らはしょせん人間の域を出ていない。
しかし、あの魔物は別だ。
報告では皇国内に現れた未知の巨大な魔物を短期で討伐、その際転移魔法を使用。
地形を火の海に変えて、討伐したと。
ほかにも、無理やり侵攻させたドミニオ公爵領の黒鉄騎兵五百人、軽装騎兵千人、軽装歩兵二千五百人、工兵三百人そして、冒険者関係八百人、酒保商人関係五百人、娼婦関係二百人、そのほか国内の支援者や荷運び人など四千近くからなる、八千の軍団を一瞬で全滅させたと聞く。
なにより、問題なのは我が手勢三十名が陣を共にしていたことだ。
しかも、このうち我が手勢三十名を含む約百人は捕虜として捕らえられた。
末端とはいえ奴らも我が精鋭である兵の一部だ。
そうそう簡単に情報を漏らすことはないとは思うが、ドリス皇国には、あのセ・バスティアン公爵がいる。
あの陰険じじぃのすることだ。おそらく、彼らは口にするのも憚られるような目に合うに違いない。
私の兵であると、明るみになるのも時間の問題だろう。
とんでもないことを聞いた。
我がシラクスブルグに派遣官僚として、あのアナスタシア・カロリングとアイオス・ゴルバーグが来ていたというのだ。
アナスタシアは皇帝陛下直属の派遣官僚。
アイオスはその副官で、帝都の様々な武術大会で優勝したこともある武芸者だ。
ともに皇帝陛下の直臣で辺境伯である私とは陛下の信頼度も違う。
その二人が、シラクスブルグに来ていたというのだ。
なぜそれを先に私に伝えなかったのだ!
それがわかっていれば、シラクスブルグを留守になどしなかった!
くそが、どいつもこいつも役立たずだ!
さらにとんでもない報告を受けた。
アナスタシアはシラクスブルグに着いてすぐ、私の文官から、私がドミニスクへ向かったことを聞いたらしい。
そのため、馬を走らせ、ドミニオ公爵軍が陣を構えている
コルマン男爵領近辺の平地へと向かったそうだ。
つまり、あの全滅した軍と運命を共にしたのだろう。
いや、我が領地から向かったのであれば真っ先に我が紋章のついた旗のもとへ向かっただろう。
と、いうことは共に捕虜にされたか?
そのあたりの情報はまだ入ってきていないのでわからないが……。
くそ!無能め!
皇帝陛下の直臣が何を簡単に捕まっているんだ!
いや、まてよ?
捕まっているなら、陛下の配下を助ける名目で堂々と軍を動かす大義名分ができるか?
そうなれば陛下の覚えもよくなるだろう。
暗殺者を差し向け、死体に変えてしまえば、私がシラクスブルグにいなかった事実もなくなる。
そう、私は彼女を救いにすぐに軍を動かしたが、すでに彼女たちはひどい拷問を受けて死亡していた、そういうシナリオだ。
くくくっ。
あの女、最後に役に立ってくれたな。
精鋭三十名とあの女を失うのは少々痛いが私の復讐の礎になれるのだ。
さぞ、名誉なことだろう。
そうと決まれば、さっそく行動だ。
「ジェイムス!ジェイムスはいるか!?」
「はい。こちらに」
すぐにジェイムスが来た。
「暗殺者三十名を用意しろ。手段は問わん。皇国軍に捕らえられた三十名と派遣官僚を始末させろ。そして、可能であれば例の魔物も討伐させろ。多少の犠牲は構わん。徹底的にやれ。それから公都郊外に待機させた兵にすぐに動く準備をしろと伝えろ。あとは……シラクサ辺境伯領各地から関所の兵をのぞき、最大限の兵を準備しろ。兵糧はドミニオ公爵領から簒奪すればいい。可能な限り最大限の兵を動かせ。徴兵しても構わん」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
礼をしてジェイムスが下がる。
ふふふ。待っていろ皇国のくそどもめ。
自然と笑いが出てくる。
「ふは、ふははははははは!」
私の妻と子の復讐、果たさせてもらおう!
~ジェイムス視点~
ふぅ。あれはもうダメですね。
精神が崩壊を始めています。
もう、自分の思考を自分で制御できないのでしょう。
自分が何を言っているのかも理解していないでしょうね。
まったく。人間というのはどうしてこうも弱いのか。
もう少し、我が主に精神を喰わせたかったのですが。
もう彼は限界でしょう。
最後にもう少しだけ、精神をいただきましょう。
後の始末はこの国の人間にでも任せることとしましょう。
まぁ、暗殺者は仕向けておきましょう。
面白いことになってくれればいいのですが。
しかしやはり、あの時の彼が一番の適任でしょうか。
はぁ、しかし彼は強い。依り代とするにはかなり骨が折れそうですが。
さて、仕事をするとしましょう。
※※※に栄光あれ。
もう大体の方は察しがついているかと思いますが、まだ名前は伏せておきます。