4-15.転移の方法
いやぁ、ひどい。
神様にもブラックな世界ってあるんだな。
しかもいうだけ言って声も聞こえなくなったし。
おっと、彼女にもフォローしとかないとな。
「あー、すみません。ドリアー……ミリアさん。ああいう奴なんで。ご勘弁いただけると」
「い、いえ。大丈夫です。しかし、驚きました」
ほっといった具合に、ミリアさんが胸をなでおろす。
まぁ、そうだよな。ミリアさんにとっては支社で頑張っていた合間にちょっと休憩してたら、本社からお偉いさんが突然やってきたみたいなもんか。
ほんとすみません。
「ただ……」
「ただ?」
「ちょっと私の中の価値観がだいぶ変わってしまったというか……」
「価値観?」
なんのこっちゃ?
「あの、私達の中では世界を作られたのは創造神「ンディナラディオス」だと思っていましたので、さらに上位の存在がいるとは……」
え?なんだって?
「すまん、なんて言った?ンディナ……?」
「創造神「ンディナラディオス」ですか?」
なんというか、発音が難しい神様だな。
なんか、もごもごって感じで聞こえるんだが。無理矢理カタカナにしても名前には思えん。
「あぁ…、人類には発音しづらいですからね」
「なるほど……?」
この世界は発音できないような神を信仰しているのか。
ってあぁ!そうか!
設定ってそういうことか!
「つまり、実際にあったことと、この世界の常識がずれてるってことか!」
俺、というかゲームに振れたことある人間に分かりやすく言うなら、ゲームの中の人間はその世界の設定が常識だけど、その設定を作った所謂ゲームデザイナーや世界観を作った人は他にいる、みたいな。いや、余計に分りづらいか?
で、多分この創造神ってやつが、この世界じゃあ、世界を作っていることになっているんだろう。
実際にはあの女神が『そうなるように』作ったってところか。
まぁ、俺としたらどっちでも良いんだけど。
「ところで、お手伝いというのは何をすればいいんでしょうか?」
あー、それなぁ。
俺の手伝いって、結局なんだろう?
種のことだとすると、あの凶悪な見た目の怪物と戦ってもらうのか?
他のことだとすると、グレイみたいな転移者を探してもらうのか?
あとは……、獣人を……。ごくり。
いや、いかんいかん。
セクハラになりかねん。
て、あぁそうだ。あるじゃないか。植物の精霊の得意そうな分野。
「それじゃあとりあえず植物の改良ってできる?」
「え?植物の改良……ですか?」
「うん。穀物とか野菜とか果樹なんかの。なんか、この国って食糧難らしいからさ。出来ないかなぁって」
「それは……出来なくはないのですが……、今までそのようなことを行ったことがないので何とも……。ウェリスさんが生きておられたら、何か知恵を貸していただけるかもしれませんが……」
「ウェリスさん?」
「アレクシスさんの仲間の一人です。クレアナ小麦という、小麦の発見、栽培方法の確立、世界への拡散を行った方です。もっとも、既に他界されておりますが」
「そうかぁ。ま、気が向いたらお願いできるかな?」
「わかりました。善処致しますわ」
うーん、あとは今のところ特にないかなぁ……、最悪、公爵との戦闘に巻き込まれてしまうかもしれないが。
その時はその時でまた相談しよう。
人の世の争いに干渉しない系の人だったら迷惑だろうし。
そこまで考えて、さて解散か、と思ったときにふと、彼女の足元にある花が気になった。
見た目は百合の蕾っぽい花だがどうも、様子がおかしく感じた。
まるでミリアさんの足に寄り添っているかのような……。
「なぁ、ミリアさん。その足元の花は?」
「これですか?これはオトメユリという、植物系の魔物です。私が長い間、魔力不足で木の姿にしかなれなかったので、私を害虫や線虫から守ってくれていたのです」
「へぇ。植物の魔物なんているのか」
思わず興味本位で手を伸ばす。
「あ、ちょっとお待ちを……」
俺の手が近づくと、蕾がガバッっと……というかグワッといった感じで開いた。
歯のようなものがびっちりと並んでおり、なんか粘液が滴っている。
……。
思わず無言になってしまった。
え、ナニコレ怖い。
軽くホラーだ。
「すみません。それは食虫植物でして……」
な、なるほど。
しっかし怖いなぁ。
昔、怪獣映画で見た植物怪獣みたいだ。
こっちはちっこいけど。
「あ、あぁ。うん。まぁ、魔物もいろいろだな。うん」
そんな話をしていると、頭の中に再び声が響いてくる。
「あー、テステス。聞こえてる?」
この声は女神を連れて行ったあの男か?
「え?また声が……」
「あー、聞こえてるみたいだな。あんまりこっちの交信ってしないから、感覚忘れてたよ」
こっちの交信ってなんだよ。
「いやー、ごめんね。俺、普段こういうことあんまりしないからさ。……実は君に内密に君に頼みがあってさ」
こういうこと?あんまり人間と交信しないってことか?
にしても頼みってなんだよ。
めっちゃ、いやな気がするんだけど。
「あ、そこの精霊さんも、これはあいつにも内密で頼むよ。と、本題に入る前にまずは君の転移の原因を作ってしまったことを謝罪させてほしい」
ってことはこいつがあの種とやらを逃がしたのか。
「そうそう、ちょっと予想外に知識をつけててね。まさか世界樹系列をあんな方法で超えていけるとは思わなくてね」
「世界樹系列ってなんだよ」
「あぁ~、ちょっと説明しづらいんだけど、まぁ、管理してる世界の系列と思ってもらえればいいかな。管理者一人一人に一本の木があって、その中に管理している世界があるって思ってて。木の中同士は比較的容易に移動できるんだけど、他の木に移るのは難しい……みたいな?まぁ、そんな感じ」
なるほど、よくわからん。
っていうか説明へただなこいつ。
「いや、申し訳ない。基本引きこもりなもんで……」
なんとなく、こいつには親近感というか好感を持てる……かな。
あの女神よりはマシかな。うん。
「というか、原因を作った奴ってことは、その種の弱点とか、対処法とかってわからないのか?」
「いや、まぁ、知らなくは無いんだけど、それを言ったら面白くないよね」
前言撤回。こいつもやっぱり、あの女神の同類だったわ。
「で?内密の依頼ってのは?」
「あー、うん。実は例の種がそっちの世界に飛んでから、こっちでも対処法やら防止策やら考えたわけなんだけど、その一環としてあいつの使った、『改良型転生システム』がある種希望になりそうなんだよ」
「改良型?」
「普通、力のあるものを転移やら転生やらさせるときは、一度その世界のルールに落としこんで、肉体を構築した別の器に入れ込む訳なんだけど、君なんかは転移するときに、肉体そのものを作ってから、もとの肉体と同期させてる訳なんだ。その上で作った肉体の強化をしてるわけだね。これは元々、構想はあったんだけど対象になったものの負担が大きいから見送られていたんだよ」
んー?よくわからんな?
どう言うことだ?
「簡単に言うと、今までの転生や転移はパワードスーツを作ってそこに君たちの脳みそを直接入れて新しい生命にしていたわけ。対して今回の転移はパワードスーツを作って君が乗り込む形で作ってるわけさ。これだと、肉体を破棄した時に本来の君に戻れるって寸法なのさ」
うーん、わかったような。わからないような?
「俳優さんとかってドラマのなかでの役と自分本来の生活って違うものだろ?そんな感じだよ」
あー、なるほど。……なるほど?
「え、ちょっと待って。俺の元の身体ってどうなってるんだ?この前、保管してあるって聞いたんだけど?」
「あぁ、ちゃんと保存してあるよ。全部終わって戻りたいときは戻れるようにね」
そうか、よかった。
今の説明を俺なりにかみ砕くと、こういうことだろう。
『がわ』としての肉体を作成して、中身……、仮に『魂』としておくが、『魂』を移しこむのは転生者や転移者としては一般的な方法なのだろう。
普通は転生であれば元の肉体は残っていないだろうし、転移であれば残しておく必要もない。完全に新しい生物として『がわ』と『魂』が固定される。
仮に元の世界に戻っても、それは新しく作った肉体で戻ることになる。ということなのだろう。
新しい体は、基本的に元の世界の物をベースに作られているから、遺伝子的にはどちらも本人。これが大前提なのだろうけど。
で、俺はというと肉体のベースが元の世界の身体なのは間違いないが、『がわ』と『魂』が分離可能と。
そういえば前に遊んだポストアポカリプス物のゲームで、人の脳を使ったブレインロボと、人が乗り込んで使うパワードスーツがでるゲームがあったな。
あんな感じの違いか?
まぁ、最後に戻れるなら俺としては問題ないが。
「っとまぁ、そんな感じで今回の転移はちょっと使ってるシステムが違うから、暫定的に『改良型』っていって新しいシステムとして確立させようと俺たちはしてるのさ」
「は、はあ……。すみません。私には話が難しすぎてついていけません」
そりゃ、パワードスーツとか中世ファンタジー世界の人に言ってもピンとこないわな。俺だって無理なのに。
「ま、仕方ないよね。無理にわかろうとする必要はないから。当人たちにとっては比較的どうでもいいことだし。
で、ここからが本題なんだけど、この『改良型』の有用性と安全性を確かめるために、何人か追加で色々な世界から転移させることになったんだよね」
おい、マテヤコラ。
今でさえ、グレイとしかほかの転移者と会えてないのにさらに人を増やすっていうのか?
「そこは上司の決定だから流石に勘弁してほしいな。一応、転移させる人材は選んであるけど、正直、現代の子たちだからちょっと不安なんだよね」
「不安要素をわざわざ増やすなよ」
「まぁ、これが成功に終われば、今回みたいな『種』の対策や防衛策にもなるし、きっと世界はいい方向に進んでいくんじゃないかな?じゃ、そういうことで彼らの保護もお願いするよ。よろしくね」
「っておい、ちょっとまって……」
ブチンという切断音と共に声が途切れた。
神って、基本あんな感じなのだろうか。
「えっと、私はどうすれば……」
どうしましょうね。
とりあえず……。
「お城に来ますか?」
それくらいしか言えない自分が情けない。
次回、少し遅くなるかもしれません。