4-13EX.教育官ティナ朝食前
湧いて出てきたキャラによる、説明回です。
時系列的には5章の話になりますので、次回、回の入れ替えがあると思います。
貴族について、ギルドについて、お金についてです。
ざっくりふわふわと「あぁ、こんな感じなのね」くらいでお願いします。
そこまで精査してないので多分おかしいところがあります。
私の名前はティナと言います。
ティナ・ハマー。
このドリス皇国の男爵家の出身です。
まぁ。三女ですし、就職した先はこの通りギルド……冒険者相互協力組合でしたし。
あまり貴族って感じじゃないのは自覚しています。
見た目もこんな感じで地味ですしね。
あ、ちなみに私の従兄が警備隊に就職しています。
ちらっと会っただけですけどね。
それに従兄と言っても、年は三か月しか違いませんけど。
私は貴族令嬢ではありますが三女ですので貴族間の婚姻か、商家への降嫁か、どこかの貴族に手習として、使用人に納まるという道もあるのですが、幸い私の父はその辺りに頓着のない方で、兄妹が多いことも相まって自分の道を歩むことになりました。姉や妹達に少し申し訳ない気もしています。
が、男爵家はこのままいけば兄が継ぐでしょうし問題ありませんね。
貴族は嫡子とその予備、まぁつまり長男と次男、場合によっては指名者、副指名者の方たちですね。
嫡子という呼び方も本来は後継者という意味で使われていたのですが、今では長男の方をそう呼ぶようになっています。
他の子供は親が爵位を持つ間は貴族、後継者が継いだ後には準貴族になります。
貴族とはそもそも、爵位を持つ者とその妻子に与えられる敬称のようなものです。
この国では親が貴族である間は嫡子以外も貴族ですが、継いだものがその子であればほかの兄弟は皆準貴族。さらにその子に継いだ場合は平民と同等扱いになります。もちろん、当主に何かあった場合には継承権自体はあるのですが。
例えば、私の父であるソラール・ハマーは男爵位を継ぎましたが、その弟であるグレイ様の御父君であるバラッド・ハマー様は準貴族扱いです。準貴族には基本的に継承権はありませんから、グレイ様は貴族席にはなく、平民です。
まぁ、最近はセレーノ伯爵様の領地を継ぐのではないかと、社交界の一部では噂されていますが。まぁ、噂は噂です。おそらく皇家が伯爵領を継承するでしょうが。
昔、家族が貴族から準貴族になることを心配した侯爵が、引退まで長期間爵位を継がせず、孫に継いだことで、長期間家族が準貴族の地位を獲得していたことがありました。この出来事のあと、皇国ではなるべく長期間、同一の人物が就任し続けることが一般的になりました。
それは皇家においても違いはありませんでした。
準貴族になれば、もう元の貴族とはほとんど関係なくなってしまいますね。気持ちはわからなくはないです。例えば自分の子供が数人いたら、嫡子以外は見捨てろというのでしょうか?それは、私ならいやです。
ということは、自分の将来を考えると、経済基盤を立てておいて損はないわけです。将来出会うであろう私の家族や、私に仕えてくれた使用人を路頭に迷わせるわけにはいかないですしね。
っと、私のことはどうでもいいんです。
今日は私の就職して初めての、週に一度の初心者冒険者講習の日です。
冒険者の方たちって基本平民の方々ばかりなので色々大変なんですよ。
魔物や魔獣の違いが分からなかったり、薬草の種類がわからなかったり、字が読めなかったり、依頼にいろいろ支障をきたす可能性があるので、私達ギルド職員が基本的なことは教えることになっています。
これはギルド創立当初から伝統です。
この講習を受けなければ、冒険者相互協力組合の冒険者として活動はできません。
まぁ、抜け道というか、危険な方法はあるのですが。
遥か昔に西アレイシア地方ギルドを冒険者相互協力組合が吸収し、西アレイシア地方ギルドを再建した際も、このノウハウは受け継がれ、ドリス皇国で冒険者として活動したかったら、所属に限らず必ず一度は講習を受けることになっています。
何年かに一度、ギルド各支部では職員として貴族にゆかりのある人が就職することがあります。
これは貴族とギルドに癒着があるとかそういうことではなく、単に文字が読めて計算と歴史を勉強したことある人間が貴族に多いというだけの話です。
ほとんどが初心者講習の教育者としての採用です。
私の場合、運よく前任者が引退した際に話が回ってきたため就職することができました。
ある程度の教育さえきちんと受けていれば、こうして平民相手の教師などは枠があれば比較的なりやすいですから。
で、大体この初心者講習はベテランの冒険者が同行するのが習慣なんですが……。
「なんで、ヴィゴーレ様がぁ!?」
彼はヴィゴーレ様。
ギルドでの成績は超一級。ギルド職員が手もみしてご機嫌を取るレベルです。
貴族としては私なんて足元にも及ばないほど高位の……。ぶっちゃけ、公爵様の嫡子です。
まぁ、今は反乱しているのでちょっと複雑なんですが。
つまりは私としては仕事上でも生家的にも絶対逆らえないお方なのです。
にしても、そちらの腕の中にいる可愛らしい生物は何でしょう?
あまりイメージに合わない……げふんげふん。もとい、イメージの革新を狙っていらっしゃるのでしょうか。
「気にしなくていい。いつも通り仕事をしておけ。俺はあくまで同行者だ」
「にゃーん」
ははは。いつも通りとおっしゃいますか。
よい冗談です。
というか、私教師役をするのは今日が初めてです。
あと、顔が怖いのでそう睨まないでください。
身体の中のものが全部出てしまいそうです。
彼の腕の中のかわいい物体にはとても癒されます。
緊張しながら教室へと入ります。
多少の教育は前任者から引き継ぎましたが、やはり緊張します。
怖い人とかいたらどうしよう。
「おはようございます。本日は、私、ティナが教師役を務めます。よろしくお願いします」
貴族とはいえ、平民相手にも礼儀は大事。
特に今は貴族ではなく、一癖も二癖もある冒険者を相手にするギルド職員なのですから。
「よろしくお願いします」
ふむ。何名かはちゃんと挨拶を返してくれました。
が、やはり何名かは反抗しているのか、肘をついてそっぽを向いていたり、お互いに話しているようですね。まぁ、同行者紹介で何人その態度を保っていられるか、見ものですね。
「こほん。では本日の同行者を紹介いたしますね。天災級『黒鉄の騎士』所属、ヴィゴーレ様です」
名前を口にした瞬間、一瞬にして、こちらを見ていた人が全員、ざわつきました。
まぁ、しょうがないですね。
なにせ『黒鉄の騎士』です。
天災級とは英雄の称号、現在最も高い階級の冒険者です。
「さて、では講習を始めますね。まず私からお教えするのはお金に関してです」
「なんだ。何かと思ったら今更、金の事かよ」
あ、今、馬鹿にしましたね?
お金を馬鹿にしてはいけませんよ?
冒険者としてはもちろん今後にも大きくかかわってきますからね?
そもそも計算もろくにできないでしょうに。
「このドリス皇国では一般的に使用されている貨幣は6種類、青貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨です。青貨はもっとも価値がなく、青貨五十枚で銅貨一枚。銅貨十枚で大銅貨一枚、大銅貨五枚で銀貨一枚、銀貨二枚で大銀貨一枚、大銀貨十枚で金貨一枚になります。ほかに大金貨、聖貨があります。見る機会はそうそうないと思いますが」
なんせ大金貨は貴族である私でもあまりお目にかかれません、聖貨に至っては一度見たきりです。あの美しさは、今思い出しても素晴らしかったです。
「あの、そのくらいはさすがに我々でもわかっていますよ?」
こほん。失礼しました。少々思いにふけっていました。青貨は……まあ、あまり使うことはないと思いますので除外してもいいでしょう。最後にちらっと紹介程度で。
「では、皆さんがこの皇都で冒険者として収入を得るとしてお話ししましょう。まず、皆さんが宿を使うという前提で、皇都にある平均的な宿に素泊まり、もしくは食事付きで止まったとします。
皇都ではこれらの価格は素泊まりで大銅貨2枚、夜に食事を宿で取るとして大銅貨3枚が必要になります。屋台で食事をとると銅貨三枚から大銅貨一枚程度と考えてください。
対して、皆さんがこれから依頼をもらえるランクは猟種の魔物や魔獣を主に狩るランクになります。もちろんこの他に採取や雑用など様々な仕事で生計を立てていくことになります。これらの仕事は討伐では銀貨一枚、採取では種類にもよりますが、大銅貨一枚から五枚の稼ぎになると考えてください。
さて、ここで問題です。一日の仕事で大銅貨五枚を手に入れたとして、素泊まりで二枚大銅貨を使います。そしてどこかで食事をとって銅貨五枚を使ったとします。さて、手元にはいくら残りますか?」
ちょうど目の前にいた青年を手で指名し、答えさせます。
「……大銅貨三枚と……、銅貨五枚?」
「馬鹿が、大銅貨二枚と銅貨五枚だ。なぜもらった量より増えているんだ」
おっと、ちょっと礼儀がなっていない人ですが、後に答えた人の方が正解です。
カンペなしでこれだけさっと出てくるのは素晴らしいです。
……と思ったら彼は貴族出身でしたか。えっと、オリバー男爵の五男?へぇ。オリバー男爵といえば果樹園で有名な男爵領ですね。
「はい。そちらの男性が正解です。まぁつまり、今受けることができる採取や雑用、日雇いの稼ぎだと、一回の依頼でギリギリ二日、屋根のあるところで生活できるかどうか、ということになります」
新人冒険者たちが少しざわつきましたが、手を鳴らして落ち着かせます。
「落ち着いてください。今のはあくまで一人で依頼を受けた場合ですよ。もちろん、複数人で受けるというパターンもありますし、何かに取り組むついでに受ける、という手もあります」
「複数の依頼を同時に受ける音は可能なのですか?」
「可能だ。もちろん期限に間に合わなかったり、失敗したら評価につながるがな」
「なるほど、ちなみにパーティーを組んだ場合の報酬はどうなるのでしょう?」
「パーティーに支給される。なので後はパーティー内での交渉次第だな。大体一割から三割程度パーティー共用金として保管なりギルドに預けるなどし、残りを参加者で分けるのが妥当だな」
「ギルドに預ける?」
「はい。多少手間賃はかかりますが、ギルドは登録された冒険者の皆様の現金をお預かりしています。このお金はその日の夕方から処理され、早ければ翌日から、遅くとも三日以内にはすべてのギルドで引き出し可能になります」
「すべてのギルドですか?」
「はい。ギルドでは所属者全員の魔力証文を作成しています。先日、皆さんにお渡ししたギルド証にそれを記録していますので、ギルド証と証文の提出があれば引き出しが可能です」
「成長や時間でその証文が変わったり、盗まれたりしてお金をとられたりということはないのですか?」
「全くないわけではありませんが、基本的に生物にはそれぞれ決まった魔力属性の割合というものがあります。これは人族と呼ばれる人間、エルフ、ドワーフ、ウィンディア、フィルボル、魔族に置いては一人一人違っており、また成長し魔力量が変化してもその割合は一定で有ることが確認されています。例外は死亡してアンデッド等の魔獣に変化してしまったときですね。あとは稀に魔物が進化した際、変化することがありますが、基本的に我々は人族社会における組織ですのでこのパターンは除外します。なので、本人が本ギルド証を持参する場合、ほぼ間違いなく引き出せると思っていただいて構いません」
そういうと、ヴィゴーレ様が苦い顔をしました。
あぁ、そうでしたそのパターンがありましたね
「あぁ、一つトラブルになる可能性がある事を忘れていました。ギルド職員による不正の可能性です」
静まっていた部屋のなかが再びざわつきました。
「基本的に信用で成り立っている業界ですが、残念ながら不正を行う者が全く居ないわけではありません。
一応、こちらでも監視はしていますが、冒険者の方々にご協力をお願いすることとあります」
「過去にはどのような不正があったのでしょう?」
「申し訳ありませんが、私にその情報を開示する権利はありません。すみません。ギルドの沽券に関わることなのでご了承ください」
西アレイシア地方ギルドでは先日、この皇都で不正を働いたギルド員が居ました。
解決したのはヴィゴーレ様です。
内容は証文偽装ではなく、ギルド文章の偽装でしたが、あのようなことがあるとギルドの信用問題にかかわりますので早急に対応することになっています。
「さて、ここからが本題になります。皇都で冒険者として暮らしていくには、先ほどの試算した大銅貨を二日に一回収入として得るとして、このままではすべてが生活費に費やされてしまいます。なので、冒険者の皆様はほとんどの場合、依頼に関係のない素材を売って生計を立てています」
「狼系の魔物であれば毛皮や牙、虫系の魔物であれば甲殻や羽根がなかなかの金額で売れるな。採取系であれば、採取のついでに薪となる枯れ枝や滋養薬になるベルモントの草を根ごと採取してくることも多い。ちなみに、買取はギルドで行っている。依頼を受ける前にギルドで提示されている金額を確認しておくのも手だな」
「そうですね。あくまで一人で以来を受けるという前提ではありますが、大銅貨五枚で銀貨一枚ですので、月に二十ほど依頼をこなせば金貨一枚分、皇都での最低限の生活は営めるかと思います。しかし、そこから常に一食付きの宿に泊まるとして、銀貨十枚。一食はなにかを食べるとして、銅貨三枚が、三十日。枚数にすると……」
「銅貨九十枚、銀貨で一枚と大銅貨四枚ですね」
「正解です。金貨は銀貨二十枚分ですから、銀貨二十枚との差額は銀貨八枚と大銅貨一枚。更にそこから皆さんの生活費、冒険の必需品である消耗品費が引かれます」
「武器一つにとっても……例えばロングソード。一般的な見習い品の数打ちのものを使用したとして皇都では銀貨五枚程度から取引されている」
「つまり、ロングソード一本買うと収入は銀貨三枚と大銅貨一枚になってしまいますとてもではありませんが贅沢をする余裕はないということです」
厳しい言い方かもしれませんが、これが冒険者の現実です。
なので、大半の人は討伐系を望むわけです。しかしそこにも罠があります。
「仮に討伐系の依頼を受けたとして、その調査、捜索、行き帰りの費用は自費となることがほとんどです。但し依頼に成功した際に払われる依頼料にはこれらを踏まえた金額をギルドが設定しお支払しています」
「因みに俺たちは共同で荷馬車を購入し馬は俺の領地から持ってきた。馬の世話代、馬車の整備費など費用はかかるが浮いた部分は丸々儲けとなるわけだ」
おぉ!と感嘆の声が上がりました。が、普通はそちらの方がお金がかかったりするので一般的な方法ではないんですよね。
「前金の制度はないのでしょうか?」
「基本的に前金という制度はありません。依頼主が契約内に入れていることもありますが。ですので、ギルド側に提示されていない限りは交渉もタブーとなりますのでご注意ください」
「依頼主が契約内容を途中で変えたり、達成したのに未達成扱いされた場合はどうなるのでしょう?」
「基本的にギルドで受け付けた日付が最終確認日になります。これ以降の変更は受け付けていませんし、もし、依頼主が不正を働いた場合は、ギルドが補填します。それ以降は最低でも三代に渡って依頼の受諾が難しくなります。報酬要求額が上がったり、保険が聞かなかったりですね。明示された器物破損や、まぁないとは思いますが狩りで森を焼き払ったりなど明らかな逸脱行為が確認された場合は、冒険者に対して賠償義務とギルド独自の制裁が課されますのでお気をつけください」
過去に実際、このようなことを働いた領主が居ました。
内容は害獣退治でしたが、受諾を確認した使用人が、そのすぐ後に依頼料を変更したのです。その領地は当時辺境にあり、人も少なかったので害獣退治に回せるほどの人材はいませんでした。
まぁ、結局その領主関係者からの依頼はその後、相場の五倍にまで膨れ上がり、依頼を出せなくなり、魔獣による大殺戮が起き、領民の半数以上が亡くなる結果になりました。
あろうことか、その領主は皇都に救援を求めればいいものの、自分の地位が脅かされることを恐れ、救援要請を出しませんでした。領民を見殺しにしたのです。
本当にひどい話です。
カランカランカラン。
ギルド内に朝から昼の間に鳴る一の鐘の音が鳴ります。
この鐘は大体、朝仕事を終えて朝食をとるころに鳴らす決まりになっています。
「っと、ちょうどいい時間ですね。では、残りは一時間のあと、朝食を取ってからにしましょう。では解散してください」
12/25 2-6に出てくる冒険者学校と新人講習は別物です。ヒュードとコルナは講習を受けてから冒険者になっています。