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4-11.小さな勝利

 シャルロッテさんやヴィゴーレたちが真剣な面持ちで顔を突き合わせている。

 総勢、20名。

 シャルロッテさん、マリアゲルテさん、公爵嫡子のヴィゴーレ、ガラハド、ロウフィス、アマンダさん、ヘンリー、執事のじぃやさん、ドラディオ、メイドのリリアーノさん、カテーナさん、士官の青年、アドマ、客将扱いのエフィーリアさんとバロン、それと大臣が2人と騎士団長とかいう人が2人、そして俺。

 いや、俺場違いじゃない?

 しかし、シャルロッテさんが俺をつかんで離さない。


「それで、状況はどうなっていますか?じぃや?」

「はい。シャルロッテ様。ドミニオ公爵軍は現在、領界付近に展開中。先日のアレクシス様の件で偵察に出ていた暗部からの報告によれば、黒鉄騎兵約500、騎兵約1000、工兵約300、軽装歩兵約2500、そのほか支援者と思われるもの5000近くと思われます」

「歩兵の数が少ないな……重装歩兵はどうした?」

「見当たらないとの報告を受けています。レノス」

「はい。おそらくですが重装歩兵の一部は騎兵への乗り換え、軽装歩兵への装備転換を行っているものと思われます」

「進軍速度を重視したのでしょうか?」

 騎士団長の男がそう呟くが、ヴィゴーレは納得いかない様子だ。

「いや。そもそも、ドミニオ公爵軍の強みは重装歩兵による守備の堅さと黒鉄騎兵による即撃破の戦術だ。これは親父の戦い方じゃない」

「どういうことでしょう?」

「戦争においてわざわざ自分から強みを捨てるやつはいない。あるとすれば、相当な策略を持っているか、敵に釣られた馬鹿だけだろう」

「なるほど」

「そして親父は馬鹿じゃない。まがりなりにも『飛軍』を継ぐ公爵だ。過去の自分達の戦術や戦略も目を通しているはずだ。もちろん、『飛軍公爵の屈辱の撤退戦』のこともな」

「『飛軍公爵の屈辱の撤退戦』……。飛軍公爵最大の汚点といわれる敗戦のことですね」

「あぁ、我が公爵家では400年前に起きたあの撤退戦を教訓とし、教育に取り入れている」


 いや、真面目な話しているところ悪いけど、俺、場違いじゃない?

 大体、なんだよその飛軍公爵の何とかっていうのは……。

 俺と同じく、手持無沙汰っぽいバロンに声をかけてみた。

「なぁ、バロン。さっきの飛軍公爵がどうこうっていったい……」

(グゥ……)

 こいつ……寝てる!?

 いや、骸骨だからパッと見、寝てるかどうかわからんけどさ。

 って違った、起きろ!おーい、おーきーろー!

 シャルロッテさんに頭をポンポンされた。

 流石に五月蝿かったか。


(うーん。あ、もう終わった?)

「終わってねぇよ!がっつり寝てたなお前!?」

(あぁ、うん。まぁあんまり興味なかったし)

「あっそぅ……」

 シャルロッテさんに手で口を塞がれた。

 ちらりとシャルロッテさんを見るが、こちらを見てニコリとするだけですぐに会議の方に顔を向けてしまった。

 どうしよう、この状態じゃ話せない。バロンに飛軍公爵のなんちゃら聞きたかったんだけどな。

(ふむ。なんか話したそうにしていたから、繋げてみたが、どうだ?そちらから話せるか?)

 お?バロンのテレパシーか?

 話せるかって……。どうやって話すんだろう?

 心で思えばいいのか?

(話し方がわからなかったら、心で思うといいぞ。パスは私と君だけで確立しているからな)

 うん。心で思えばいいらしい。


(バロン、少し聞きたいことがあるんだけどさ、『飛軍公爵のなんちゃら』ってなんだ?)

(あぁ、『飛軍公爵の屈辱の撤退戦』のことか)

 そうそれ。

(あれはな。たしか四百年か五百年くらい前に起きた事件だな。時の飛軍公爵、ボルジャーノン・ドミニオが敗走した戦争のことでな。

 当時、ボルジャーノンは一人の弟と二人の妹がいてな。当時ドリス皇国から独立しドミニオ公爵領と国境を接していた、バスク公国に妹が嫁いでいたのだが、この妹が酷い殺され方をしたんだ。これに怒ったボルジャーノンが三万の軍隊をバスク公国のガランツの谷に差し向けたのだが、怒りに任せた進軍で、八千の軍勢に撤退させられたんだ。

 その後ボルジャーノンは失意のあまり衰弱死したんだが、弟が公爵を継いで妹と兄の敵を討った。この一連の戦争を『ガランツ戦線』というのだが、ボルジャーノンが撤退させられた戦を『飛軍公爵の屈辱の撤退戦』というんだ)

(へぇ)

 正直、話の半分も入ってこなかった。

 とりあえず、進軍するときには、怒りに任せて進軍したらいけないよ、って教訓なのかな?

 うん、まぁいいや。

(ごめんな、バロン。教えてくれてありがとう)

(うん?このくらい大丈夫だぞ。『神獣様』)

(その呼び方やめてくれよ。なんかくすぐったい。今まで通りにフランクに話してくれ)

(はっはっはっ。そうもいくまいよ。今やお前は護国の神獣なのだからな)

(だーかーらー)

(はっはっはっ)

 くそ。こっち全然聞いてくれない。

 絶対わかってて楽しんでるだろ。こいつ。



 さて、会議はその後も続き、結局、解放されたのはその日の夜になってのことであった。

 会議は結局、平行線をたどり、早期に軍を編成できた考察やら、今回の独立の理由やらなんやら言っていたのだが、正直そんなことより、撃退する準備の方が早くしないといけないと思うのだが。これ、俺の感覚がずれてるわけじゃないよな?





 あるぇ~。おかしいぞぉ~。なんで俺はこんなところにいるんだぁ。

 えーっと、なんだったっけ。

 あぁ、そうだ。あいつだ。グレイだ。

 今朝、朝食が終わった後、あろうことかあいつが煽ってきやがった。


「いくら神獣とはいえ、1万近い軍勢を簡単に勝つような事はできませんよねぇ」

「いや、それは(なんでもかんでも神獣頼みは)ダメだろ……」


 食事のあと、ヴィゴーレの会話に割り込んで話していた。

 一介の兵士が貴族の会話に割り込むなんて、中世の世界観で死にたいのだろうかこいつは、と思ったのだが、会議の場ではなかったのが救われたな。


 ともあれ、俺はヴィゴーレとフィリオ、ついでにグレイとヴィゴーレの仲間を強制的に転移の魔法で集めて、転移した。

 転移した場所はつい先日、だいたらぼっちを倒した場所だ。

 未だに相当な熱量を持っている。

 マグマは消火したはずなんだけどな。


「いやいやいやいや……、どこ?ここ……」

「む、ここは先日の……」

「ヴィゴーレ、ここはいったい?」

「なに、ここ……、私の感知に反応している魔力量が多すぎる……」

「フィリオォ……、ここ、ダメだよぅ。残存する魔力量が桁違いに大きすぎる」


 女性2人はかわいそうに震えてしまっていた。

 にしても残存魔力か。そんなものもあるのか。

 まぁ、あの時は何も考えず、ぶっ放したし、しょうがないか。

 しかし、さすがに申し訳なくなってきた。

 女性2人の内、魔法使いっぽい方が、結界のようなものを張った。

 しかしながら、残存魔力とやらが干渉しているのか、その結界は脆弱と言っても過言ではない状態だ。

 仕方がないので俺も彼らの周りに結界のような何かを張ってやることにした。

 といっても、結界の魔法なんて知らないので、我流で適当に。


 まずは魔力を円、いや半球体で設定する。

 これに魔力を遮断したい、という意思を込める。

 空気や視界は通したい。

 属性的には、風か水がいいだろうか?

 よくわからんが発動したみたいだ。

 風属性の魔力遮断結界だ。

 なんだ。やればできるじゃないか。割と簡単だな魔法って。


「えっ……」

「なに……これ……」

「し、神獣様?」

「……本当にとんだ化け物だな」


 ヴィゴーレとその仲間が驚いているが、何に対してだろうか。

 あと、グレイはどうした?さっきから静かだが……。

 白目をむいて立ったまま気絶していた。

 すまん……。



 さて、しかしながら、地面にいると、せっかくの俺の活躍が見れない。

 どうにかして飛ばせないか?この結界。

 そういえば俺が飛ぶときも魔力の発動を感じていた。

 つまり俺が飛ぶときには魔力を消費しているのだろう。

 まぁ、あの体だと羽根がついているとはいえ、どう考えても羽根で飛ぶような作りにはできていない。

 冷静に考えればわかることであった。

 ってことはもしかして飛べないかな?この結界?

 試してみる。

 おぉ、飛んだ飛んだ。

 あれ?イメージ的には結界だけ飛ぶはずだったんだけど、地面ごとごっそり飛んでしまった。まぁ、良いか。とりあえす、そこで俺の活躍を見てもらおう。


 俺は飛び立っつとすぐ軍勢を見つけることが出来た。

 あれが、例のドミニオ公爵軍か?

 おや?公爵軍の物らしき軍旗のそばに30人程の軍勢がキャンプを張っている。

 軍旗は公爵の物とは違うな?どこの軍だろう?あ、もしかして帝国か?

 まぁ良いやどうせ全員撃退するんだし。

 あ、まてよ?何人かは捕虜の方がじぃやさんが助かるか?

 よし、数名は捕虜にしよう。

 しかし、他の人たちはどうしよう?流石に殺すのは不味いよな……。

 となれば、殺傷能力が低くて捕虜の獲得が可能でかつ撃退出来る魔法ということになるのだが……。

 だいたらぼっちを倒したあの魔法はダメだな。被害が大きくなるのは目に見えている。ということは、必然的に火と土はダメか。

 そういえば、森魔法とかあったな。でもどんなものかわからないしなぁ。練習しとくんだった。

 となれば……水か風か。はたまた影か。

 でも影も城で戦わせたとき強かったしなぁ。あいつら、命令聞いてくれるのかな……。やめた。うん、不確定要素は出来るだけ排除しておきたい。

 仕方ないので風と水でいこう。

 まず、ヴィゴーレ達に使ったように風の膜で陣の一部を覆う。この時、あのどこかの軍旗の陣を覆うことも忘れない。

 すっぽりと陣の一部を結界内に収め、ヴィゴーレ達にしたように浮遊させる。

 慌ててテントの中から人が出てきたがもう遅い。

 既に結界は10メートル程の高さに上がっていた。

 おっと、一応中の奴らが暴れないようにしておかないと。

 水魔法を使用し結界内を水で満たす。ついでに水流で渦のようにしておく。

 でっかいブランデーグラスに入ったブランデーのようなイメージをしたのだがエグいなこれ。案の定、彼らは渦に逆らえず流されるままになってしまっている。

 一瞬、洗濯機を想像したが、深く考えるのはやめておこう。リズム洗浄モードとかになったら流石に可哀想だ。

 さて、何人か捕虜(候補)は出来たわけだし、残りの人達にはお帰り願うとしよう。

 どうやって帰って貰おうか……。いっそ、風で陣ごと吹き飛ばそうか。

 いや、危ないかな?うーん。このまま考えていても仕方ないな。とりあえず全部吹き飛ばそう。


 魔法発動っと。

 うーん。ちょっと威力を高め過ぎたか?

 これ、風速何メートルくらい行ってるんだろう?

 吹き荒れた風は辺りにある木々をなぎ倒し、陣のすべてをなぎ倒していく。

 いやぁ。これ。やばいな。

 台風か何かかよ。

 そういえば昔、ハリケーンを題材にした洋画で牛が飛んでいくシーンがあったが、あれをまじかで見てる感じだな。

 まぁ、こっちは飛んでいるのは人だし、ハリケーンのように円を描いているわけではないが。

 哀れ、公爵領の兵士たちはなすすべもなく、公爵領へお引き取りとなった。




 よし。帰るか。

 俺はグレイやヴィゴーレたちのところへ引き返えす。

 おっと、捕虜扱いの人たちも連れて行かないとな。

 申し訳ないけど、もうしばらくは結界を解いてやることはできない。

 まぁ、さすがに洗濯機は解除している。

 うん。ぐったりしてるからもう大丈夫だろう。

 ヴィゴーレたちのところへ戻ると、いろいろ複雑な顔をしていた。

 一人、魔法使いは腰が抜けたのか、フィリオの足にしがみついていた。


「これが……、神獣様……」

「敵対した人たちはかわいそうね……。ねぇ、私は夢を見てるのかしら?」

「これは夢、これは夢、これは夢、これは夢……」

「……」

「おまえ、やり過ぎだ。ちゃっかり捕虜まで連れてきやがって」


 各々、感想を口にしている。

 そういえばグレイはどうした?さっきからやたら静かだけど。







 ……まだ白目をむいて気絶していた。


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