4-10.悪戯、進展
「リリアーノ、カテーナ。すまないが、そこの二人を部屋に連れて行ってやってくれ」
シャルロッテさんとマリアゲルテさん、見事なorz状態だ。
しっかし、本当にポンコツになったなぁ……。
おっと、さっき体を隠すのに使ったシーツが足元にある。
片づけておかないと。
って言ってもこの体だと、そこら辺にまとめて置いておくくらいしかできないのだが。
ヴィゴーレが視界の端で紙袋を確認している。
なんかびっくりしてるけど……?
あぁ。あれか。
紙の質とか、紙が袋として成立していることとかか。
そういえば、図書館にあった本も紙というよりは羊皮紙に近かったっけ。
おかげで肉球と爪で摘まむことができた。
対して女神からもらった本は現代から持ってきたので、当然、洋紙だ。
薄く、白く、上質で一定の品質の商品だ。
こういうのも中世文化からしたらチートだよな。やっぱり。
あれ?
そういえばグレイはどうした?
部屋の片隅にいるな。
「猫が人に……。これは夢、これは夢だ……」
白目向いてうわ言のように何かをつぶやいていた。
そんなにショックが大きいのか。
ここファンタジー世界だぞ。
っていうか女神、まさかこいつには何も話してないとかないよな?
いや、まてよ?こいつは確か事故で転生になったとか言ってたよな。
ってことはこの世界で数年か十数年は生きていたわけだよな?
ファンタジーなら獣人がいなくとも、そこまでビックリするほどのことでもないと思うけどな。
そんな中ちょっと俺の中に悪戯心が芽生えてしまった。
ちょっと、魔が差した。と言うべきだろうな。
こっそりと気配寸断で近づきヴォルガモアに変化した。
「……!?」
流石にこちらに気づいたか。
くらえ、威嚇(小)!!
シャーーーー!
「ぎゃーーーーー!!」
泡を吹いて倒れてしまった。
やり過ぎてしまったか。
もう少し手加減の仕方を極めないとな。
「……何やってるんだ?こいつ」
ヴィゴーレがツッコミを入れてきた。
ちょっと流石に申し訳ない。
今後は少しだけ優しくしてやろう。
ペロリと頬を一舐め。
その瞬間、シャルロッテさんから悲鳴のような声が上がった。
なぜ悲鳴?
「アレク!まさか、男にまで手を出すなんて!」
待った!違う!
俺に男色趣味はない!
っていうか、たったこれだけで男色趣味認定しないで!
「私もペロッてされたいのに!」
違った。いつものシャルロッテさんだった。
「ヴィゴーレ!あの者の首を!」
って、おおぉぉぉぉぉぉい!
何を口走ってますか!この娘は!
「落ち着け。ただの動物的本能だ」
ぐわしっ!
シャルロッテさんの顔面に、ヴィゴーレの見事なアイアンクローが決まった。
そのまま持ち上げて左右に揺らす。
シャルロッテさんはされるがままだ。
普通に考えたらかなり不敬なことしてると思うんだけど。
でも、あの公爵嫡子たちのやりとりを考えたら、『近所の年の離れたお兄さん』くらいの関係なのかもしれないが。
まぁ、いずれにしてもそのくらいで勘弁してあげてほしい。
あれ?そういえばマリアゲルテさんはどうしたんだ?
「ちょっと!カテーナ!私、まだ何もしてない……」
「いえ、大体こういう時は、マリア様も暴走されるかと思いますので。先に手を打っておこうかと」
カテーナさんに吊られていた。
こんな細い体なのに意外と力持ちなのね。カテーナさん。
そういえば、リリアーノさんは火属性の回復魔法……代謝の活性化を使っていた。
今まで城で聞いた話では、リリアーノさんとカテーナさんはともに地方貴族の令嬢で、本来修道院?的なものに入るはずだった二人は、シャルロッテさんとマリアゲルテさんの世話役として、幼いころに宮廷に上がってきたそうだ。
シャルロッテさんの世話役としてリリアーノさん。
マリアゲルテさんの世話役としてカテーナさんが選ばれた。
二人は同じ師……、当時の世話役をまとめていた女史……つまりは当時のメイド長に師事を受け、メイドとして教育を受けたらしい。
この女史が得意としてたのが、火属性魔法と水属性魔法。
2人とも両属性の魔法を獲得し、リリアーノさんは火属性の回復魔法を、カテーナさんは水属性の浄化魔法を得意とするに至ったそうだ。あと1人、同期のメイドがいるらしい。
これは勘なのだが、多分この残り1人は先ほどの俺を吊り下げてくれたメイドではないかと思う。
マリアゲルテさんと仲の良い感じだったし。
まぁ、その辺は追々分かるだろう。
因みに朝食で聞いた限りこの世界、というかこの国では執事やメイド……つまり使用人は男女比率はほぼ均等だ。若干、女性の方が多い位らしい。
というのも、貴族の嫡子には15歳になると伝統的に同性の世話人がつくためだ。
もちろん、一部例外的に異性もいる。
もっともそれが顕著な時期は武力衝突による戦争が起こった際。
これは戦争で兵として志願し、亡くなってしまったり、魔王と呼ばれる魔物・魔獣の討伐で命を落としてしまった時がそれだ。
この世界では魔法があるため、女性も強い。
そのため、戦争や討伐は男が行くもの、という概念はないものの、偏るときは偏る。もちろん女性の地位が低い国もある。その辺りは地域により様々だ。
また、実家の経済状況による時、また結婚相手としてあてがわれた時も、異性になる可能性がある。
まぁ、これはほぼ実家の政略によるものが大きいのだろう。
俺の身近な?身近ではないな。……知っているところではヴィゴーレ。
なんと冒険者仲間の一人、あのギルド職員に弓を放とうとした美人の女性が世話人だそうだ。
しかも当然のように貴族のご令嬢。
なんと羨ましい。リア充爆発しろ。
上流の貴族……それこそ公爵の嫡子には全員に付けられたりもするらしいが、ほとんどの貴族の場合では、次男次女までしか世話人はつかない。
まぁ、人数も限られるだろうしな。
なお、聞いてもいないのに勝手にしゃべったガラハドによると、ガラハドは三男だから世話人はいないらしい。非常にどうでもいいことだが。
流石に俺やシャルロッテさん達と同席はしていないが、ガラハドやヴィゴーレは容疑は晴れたとはいえ、半軟禁状態なんだよなぁ。
ちょっとだけ、どうにかしてやりたい気持ちもなくはない。
「大変です!!」
慌てた様子で兵士が入ってきた。
「どうした?」
シャルロッテさんを持ち上げたままヴィゴーレが答えた。
「ドミニオ公爵領から兵士多数!森林地帯に偵察兵の姿を確認しました!」
「なんだと!?」
ヴィゴーレが驚いている。
「馬鹿な……、軍を動かすのが早すぎる……。親父め……、何を考えているんだ……!」