4-7.プラ製品と衝撃
図書館のポルターガイスト(仮)、……いや、円卓を見たすぐ後だったから、円卓のポルターガイストなどと勝手に呼んでしまったが。ともかく、いきなりシャイなどとディスられたわけだが、心の広い(自称)俺はそのくらいでは怒らない。
うん、怒らない。
ちなみにシャイという文字に使われた本は勝手に本棚に戻っていった。
それはそれで便利だな。
まぁ、いいか。
そんなことより飯だ、飯。
さっくりと食事を頂き、あてがわれたベッドの上でゴロゴロする。
この世界のベッドは中に草が詰められて、その上に綿が敷かれ、シーツがかけられている。
感覚としては、畳の上に敷かれた布団のような感じ。
ベッドにしてはちょっと硬い感じだが、なかなかいい。
ちなみに、掛布団には羽毛が使われているのか軽い。
あと、毛布の代わりなのかわからないが、毛皮と羊毛を合わせた加工品もある。
非常に肌触りが良くて、なんと起毛処理もしてある。実は結構お気に入り。
シーツの肌触りも悪くないが、俺はタオル地や毛布地のほうが好きなので、布団の上で毛布の上に載って包まって寝るようにしている。
超あったかい。幸せだ。
ちなみにシャルロッテさんやマリアゲルテさんがいるときはできない(大体抱きしめられている)ので、これができるのは一人の時の密かな楽しみだ。
口で毛布の端を噛んで持ってくるのはちょっと大変だけど。
俺は暖かい毛布にくるまれて、意識を手放したのだった。
次の日。
暖かい陽気に目を覚ますと、窓が開けられており、心地のいい風が吹き込んできた。
いい。
このままゆっくりできたらいいのに。
そうは問屋が卸さなかった。
またしても、事件は起こったのだった。
俺が食後の探索をしているとエミリーという、メイド服の女性がシャルロッテさんを訪ねてきた。
俺の後ろに従っていたドラディオがシャルロッテさんに取り次いでくれている。
どうやらドラディオとは知り合いだったようだ。
やけに親しげに話していた。
まぁ、俺は関係ないやと高をくくっていると、彼女は俺を持ち上げたのだ。
……ただな、一つ言っていいか。
この持ち方は違うと思うんだ。
俺は両手……、前足を持たれ、万歳ポーズで宙に浮いていた。
絶対おかしいよな!?
これ、いけにえにされる直前みたいになってるから!!
エミリーさんが歩き始めた。
あれ?ドラディオ待たないのか?
普通こういうのって待つ気がするんだけど。
俺は下半身をプラプラさせながら運ばれていく。
どうすっかなぁ。これ。
抵抗することはできるだろうけど……。
被害が大きそうだ。
もうちょっと様子を見てみるか。
最悪、ヴォルガモアになればいいだろう。
おや?向こうからマリアゲルテさんがやってきた。
さっきまで訓練していたのか、何か運動していたのか。
汗を拭きながらやってきて途中でカテーナさんにコップのようなものを渡されていた。
いやまて、なにそれ。
水筒やコップというには少し無理のある外見だ。
俺の知識に近いところだと……。プラスチック製の蓋付コップに見える。
え、なにそれ。この世界、そんな技術あるの?
「あら?エミリーじゃない。戻ってきてたの?」
「お久しぶりです。マリアゲルテ様。ただいま帰還いたしました」
マリアゲルテさんと、エミリーさんが軽く……軽く?挨拶を交わす。
ちなみに、俺はエミリーさんに持たれたままなので彼女は会釈をしていた。
「ん?アレクシスじゃない。もう仲良くなったの?」
「マリアゲルテ様。アレクシスと言うのはこの魔物のことでしょうか?」
「そうよ。姉様が拾ってきたの。可愛いでしょ?」
「確かに。しかし魔物を城にあげるなど……」
「大丈夫よ。すごい大人しいし。それよりエミリー。そのまま姉様のところに行ったら多分雷が落ちるわよアレクシスを離してあげて」
「……畏まりました」
やっと離してくれた。
マリアゲルテさんグッジョブ!!
「アレクシスー、こっちおいでー」
呼ばれたのでマリアゲルテさんのところにいくと、今度はマリアゲルテさんに抱き抱えられた。
際ほどとは違い脇のしたを腕で支えてくれているので、生け贄感がないだけましかな。
ただ、件のプラスチック製のようなカップが近くにあるので、ついついそっちを見てしまっていた。
「なに?これが気になるの?これはねぇ、うちの兵士が考案した新しいカップよ。ちょっと耐久は低いけど、軽いし、訓練で埃っぽくなっても、蓋があるから埃がカップの中に入らない優れものでね。量産できればいいんだけど、これ、お手製の品だから量産できないのよねぇ」
俺の目の前でマリアゲルテさんがカップを振る。
やっぱり、プラスチックに見えるんだけど……。
あ、でも微妙に分厚そうだな。
普通のガラスコップくらいはありそうだ。
うーん。兵士が考案したって言ってたな。誰が考案したんだろう。
まさか、あの転移者疑いの兵士じゃなかろうか。
プラスチックは作れなくても、カップに開閉式の口を備えた蓋をつける工夫はできそうだ。
素材は何で作ったのだろう?
うーん。わからん。
そんなことを考えながら、ふと外を見てみる。
すると、俺の目に衝撃的なものが映った。
衝撃。まさに衝撃だった。
あまりに衝撃過ぎて、多分俺口は開きっぱなしだと思う。
そこには……。
「いやー、はーなーしーて。おーかーさーれーるー」
「おい、人聞きの悪いこと言うな。大人しくしろ」
そこには二人の兵士に抱えられた、女神そっくりの顔をした。女がいたのだ。
遅くなって申し訳ありません。
短いですが。
体調を崩していました。
マリアゲルテが持っているものは当然、プラスチックではありません。
プラスチックに見える蓋つきカップです。
コスト面と技術面の兼ね合いで大量生産は難しい代物です。