4-3.獣のように(誤解)
絵面が危ない。
………
長い沈黙が流れる。
気まずい。
とても気まずい。
なにせ俺は全裸。
どうしよう。これ。
キィ……。
シャルロッテさんが目線を固定したまま、少し後ろに下がり、扉を閉めた。
キィ……。
再びシャルロッテさんが扉を開けた。
少し時間をおいて、シャルロッテさんが大きく息を吸うのが見えた。
まずい。
思わず、扉に走った。
そのままシャルロッテさんの口を右手で塞いで抱いて引き寄せた。
シャルロッテさんの顔を俺の体に押し付けるようにしたのでフリーになった右手で扉を閉めた。その勢いで鍵も閉めた。
とりあえず一安心。
「申し訳ない。説明するから騒がないでくれ」
シャルロッテさんがゆっくりとうなずくように首を縦に振った。
まぁ、俺の体に顔が押し付けられているので、多分頭を押さえている俺にしかわからないほどかすかにだが。
「すまない。怪しいものじゃないんだ。理解が追い付かないと思うけど、貴女に拾ってもらった猫……アレクシス、です。ちょっと人化の練習をしていたんだ。だから落ち着いてもらえると助かるんだけど」
シャルロッテさんがビクッっと体を震わせた。
驚いたのだろう。俺だって驚く。
ん?
またごっそり、力が抜ける感覚がした。
この感覚は……、スキルで魔力が持っていかれた時の感覚だ。
まさか、何かスキルが発動したのか?
シャルロッテさんが、俺の背中に手をまわした。
そのまま、何かを確かめるように下に手を滑らせる。
手の動きに気を取られていたのが災いした。
突然、シャルロッテさんが、俺の体を舐めるように舌を出したのだ。
何してんの!?この娘!?
思わず、シャルロッテさんの肩を持って体を放す。
しかし、シャルロッテさんに腰のあたりを持たれているため、離れるのは上半身にとどまった。
「ちょ!?なにしてんの!?」
すると、シャルロッテさんはにこりと微笑んで、
「いえ、お母さまから好きな人には早めに唾をつけておけ、と教わっていたもので」
などと言い始めた。
ふざけた教育しやがって!
シャルロッテさんにはそういうのに合わんぞ!!
「ところでアレク……」
シャルロッテさんが顔を赤らめて、つぶやく。
「その……、こういうことは、きちんと婚約してからのほうが……」
そういわれて気づいた。いや、気づいてしまった。
シャルロッテさんは例のごとく、下着のような恰好。
下半身に当たる肌触りがとてもいい。
って違う!!これはまずい!!
「んぁ……」
ちょっ!?そんな声出すな!
変な声を聴いたからか、それとも下着のような姿に触発されたのか。
色々まずいことになっていた。
これは人化を解除しないとまずい!!
素直に猫の姿に戻る!!
「あっ……」
残念そうな声出さない!
ちょっと俺ももったいないと思ったけど!!
流石に不味過ぎる!!
この作品は全年齢対象です!!
俺は心の中で叫んだ。
……なんだよ。この作品はって。
ここは2次元かよ。
1人でノリツッコミした。
あんなことになったが、シャルロッテさんは普通に部屋に泊まっていくようだ。
何ということか。
「人の姿にはならないのですか?」
寂しそうな声出さないで。
今、必死に抑え込んでるんだから。
据え膳喰わぬは……とはいうが、さすがに獣姿はシャルロッテさんが可哀そうだ。
いくら何でも、1、2分で事を終えるほど、素早さ……じゃなかった攻撃力?は高くない。防御力?は薄くない……か?いや、早くない、か。
何をどうしても人化は解けると思う。
……ちょっと勿体なかったか?
さて、朝になってシャルロッテさんは普通に出て行った。
昨日あんなことがあったと思わせない切り替えの早さだ。
ちょっとその切り替えの早さが羨ましい。
しかし、いくら何でも何事もなかったようにしているのはおかしくないかな?
俺は取り合えず、食堂に向かうことにした。
食堂は俺の部屋の階に生活に必要な部屋が集中している。
風呂……というか、湯あみ部屋とキッチンだけ例外で、一階の中庭に面したところにある。
食堂は2階にあるのになぁ……。
このよくわからない構造はどうにかならないものか。
そう考えていると、突然、後ろから抱え上げられた。
そちらを見てみると、俺を抱え上げたのはシナーデさんのようだ。
あれ?今まで朝食の時間に歩き回ることってなかったのに。
すると、シナーデさんはニヤニヤしながら俺にこう言い放った
「シャルロッテから聞いたわよ。アレク。昨日の夜、シャルロッテに獣のように迫ったって」
誤解です。
というか、獣のようにって、俺、猫なんですけどね!!
本日の朝食は珍しく……というか初めてシナーデさんとご一緒だった。
代わりにシャルロッテさんがいなかったんだけど。
そのせいで、超絶めんどくさい朝食になった。
少し手加減してくれシナーデさん。
せめてシャルロッテさんがいてくれたら、誤解もすぐ融けたんだろうけど。
「お姉様ったら、抜け駆けして……」
マリアゲルテさんまでおかしなことを言い始めた。
ほんと、勘弁してくれ……。
そりゃ若い子とどうこうすることがいやないわけではない。
俺だって別に草食系というわけではないし、男を捨てているわけでもない。
若い子に迫られて我慢できる自信はない。
しかし、今の俺は猫の身体だ。
さすがにこのビジュアルではだめだ。そのくらいの理性は、ある。
あるよね?
あると信じたい。
朝食後、俺はバロンに会いに来ていた。
「あら?アレクシス様?どうされたのですか?」
魔女さん……、エフィーリアさんがいた。
ジョウロのようなもので花壇に水をやっている。
そりゃ、いるか。
彼女の家だもんな。
彼女が屈んで植物に手をかざし、魔法のようなものを使用した。
綺麗なエメラルドグリーンの魔力が手元の植物に流れると、蔦が伸び花が咲いた。
するとエフィーリアさんは花を摘み、手に持ったかごに入れていく。
何してんだ。それ。
にゃー。
足元でのぞき込む俺に彼女は答えてくれた。
「これはね。森魔法で薬草を成長させて摘んでいるのよ」
(彼女は森魔法の使い手でな。世間では『大輪の魔女』と呼ばれる冒険者なんだ)
いきなり後ろから声をかけられた。
バロンだ。
「びっくりするから後ろからいきなり声をかけるのはやめていただきたいんだが」
「あら、バロン。おかえりなさい。朝の蒔き割りはもういいの?」
バロンがうなずくと、今度は俺に伝えてきた。
(それはすまなかった。で、どうしたんだ?)
「あぁ、いや、お前に用事があったんだが、エフィーリアさんが魔法を使っていたから見学させてもらっていたんだ」
(ふむ……)
説明をしているとエフィーリアさんが立ち上がり、バロンに言った。
「じゃぁ、バロン。朝食の準備をしてくるから、後のことよろしくね」
再びバロンが頷き、エフィーリアさんは家の中へ戻っていってしまった。
「ところで森魔法って何なんだ?」
(森魔法は上位属性の一つでな。水と土の魔力が強い魔法だ)
「上位属性?」
(あー、なんというか。魔法には基礎魔法と六大属性魔法があるのは知っているか?)
「なんとなく」
よくある設定だ。
となれば、おそらく6大属性とはあれらのことだろう。
(六大属性とは、火、水、風、土、光、闇の属性のことを指してるんだ)
だろうな。
(この六大属性をもとに、効率化を図り、能力別に体系化したのが、上位属性だ。森魔法なら水と土、雷魔法なら、火と光っといった具合にな)
「へぇ。じゃぁ、6大属性を持っていれば、上位属性はすべて使えるのか」
(いや、上位属性はそのスキルを学ばねば使用することはできない。似たようなことはできるがな)
「ふぅん?じゃぁ、その逆は?」
(逆?)
「あー例えば、森魔法なら森魔法を持っていたら、水と土の魔法が使える……とか?」
(いや、それも難しいだろう。水と土を学んだうえで森魔法を習得しなければ、水だけ、土だけ使用するというのは難しいな)
「なるほど」
そう都合よくはいかないのか。
「ちなみにテレパシーって」
(あぁ、これは魔法ではなくスキルだ。まぁ、似たような魔法が独立属性の死霊魔法や、上位属性の空間魔法にありはするが……)
そうなのか。じゃぁ、スキルを得ないと使えないか。残念。
(ところで、アレクシス。君の用事というのは……)
「ん?あぁ、ちょっとテレパシーを教えてもらおうとしたんだが、スキルならいいや。なんかすごく訓練することになりそうだし」
(そ、そうか……)
なんでお前がちょっと残念そうなんだよ。
魔法でパパっとできるもんだと思ったんだよ。
シャルロッテさんは『魅了の魔眼』→『魅了』状態なので、何をされても抵抗することはありません。
しばらく後に解説を出そうと思ったのですが、混乱しそうなので先に書いておきます。
スキル『魅了』
異性を支配下に置くスキル。Ex+では完全支配が可能。
スキル『魅了の魔眼』
相手の性別にかかわらず、支配圏内に含めるスキル。Ex+では広域操作が可能。
わかりにくければ、『魅了』はハーレム系主人公標準装備スキル、
『魅了の魔眼』は「どうする~。アイ○ル」スキルだと思ってください。




