3-14.戦乱の時代へ
完全にスルーしてましたが、この話は初春を想定しています。
大体転移したのが3月上旬、現在は3月下旬ころです。
この世界では大麦(一部小麦)の収穫期ちょっと手前です。
この世界は3月、4月といった区割りはなく、「初春」「春」「晩春」「初夏」「夏」「晩夏」「初秋」「秋」「晩秋」「初冬」「冬」「晩冬」と区別されています。
「冬」が1月に当たると思ってください。
-ヴィゴーレ視点-
俺はバスティアン卿とエルフの娘……リヴィアーデと連れ立って迎賓室に来た。
この迎賓室は城の1階にあり元々、会議室だったところを二分割した作りで、それなりに広い。
2000年以上も経っているのに、これだけの城が今だ無事に建っているのはすごいと思うが、建て増しした部分や、改装で追加した壁なんかはどうも違和感がぬぐえない。
なんでも、素材となる石材が違うのだそうだ。
確か昔そんなことを親父に聞いた気がする。
まぁ、まったく興味のないことだが。
そんなことを考えていると、一人の男が目に留まった。
こいつは……、夜烏隊の団員か。
年のころは、成人したてといったところか。
見た目は冴えない。筋力はそこまでついていないな。
恐らく、町民か村民あたりから徴兵された男だろう。
しかし、町民だとしてこんな冴えない男が夜烏隊に入れるだろうか?
答えは否だ。
落ちぶれているとはいえ、ここは2500年続く皇国の皇都。
その中でも最高の警備を行う、皇城の中だ。
こんな男が警備職に就けるわけがない。
皇女の目に留まったとしても、横の端麗な男ならいざ知らず、どこにでもいる一般人と変わらない。
皇女はこんな男が好みなのか?
いや、ないな。
皇女は今、あの神獣に夢中だ。
あれに似ているのなら、わからんでもないが、魔族のように毛皮があるわけでもないし、尻尾がついているわけでもない。まして四足歩行をしてすり寄っているわけでもあるまい。
とすると、こいつ……もしかして強いのか?
それであれば納得がいく。よく目を凝らして、魔力を見てみれば、見た目とは裏腹に、不気味なほど潜在魔力が高い。
体になじみすぎていて怖いくらいだ。
魔力の性質を見ることができれば、相手の得意とする戦術もおおよそ理解できる。
俺は、このスキルを死に物狂いで会得した。
強者を探すには都合がよかったからだ。
まぁ、いまだにかなり集中しないと見れないのが欠点だが。おかげで、俺の魔力がごっそり持っていかれる。
火の魔力の高い奴は、火力の高い火魔法を中心にすることが多い。人によっては強化や増強系の魔法で直接殴ってくる奴もいる。
光の魔力の高い奴は、回復や支援を中心にしてくる奴が多い。
そんな感じに、魔力の性質によって戦闘スタイルというのはあらかた決まってくる。
もちろん、例外もいる。
例えば、先の神獣は小さいときは闇属性と光属性、大きいときは水と土の魔力が強かった。それぞれ、影魔法、森魔法を得意とする奴の特徴だ。
しかし、あの化け物をつぶした姿は、圧倒的に火属性と土属性が強くなっていた。
自在に姿を変え魔力の性質まで変えてしまう魔物なんて聞いたことがない。
俺は、あの時、奴を確かに『神獣』と認めたのだ。
そして、こいつにもあれに近い雰囲気を感じる。
恐らく、俺が求めた『強者』に違いない。
「それで、ご報告をうかがってもよろしいでしょうか?」
集中しすぎた。俺が集中から覚めたのはバスティアン卿が声をかけて来てからだった。
-グレイ視点-
いやいや、なんだよこのおっさん!
めっちゃこっち見てくるんだけど!
超怖い!
え?なに?もしかして、そっち系の人?
もしかして僕、狙われてる!?
ちょっと!勘弁してくださいよ!!
まだ、女子とも付き合ったこともないのに、童貞を筋肉マッチョマンに捧げるなんてことになったら……。
想像しただけでも頭がクラっとしてきた。
この男のような体格で襲われたら、僕なんてひとたまりもないだろう。
僕はノーマルです!!
お願いします!見逃してください!
「それで、ご報告をうかがってもよろしいでしょうか?」
ナイス!団長!うまいこと男の視線から逃れることができた。
バスティアン様は、公爵という立場でありながら、全5隊、30班からなる、夜烏隊の団長、各騎士団の統率・管理を行う、騎士行政舎の最高役職騎士団長、さらには皇家の執事を取り仕切る、執事長でもあるすごいお方だ。正直、働きすぎなのではないかと思う。
きっとこの男の怪しげな視線に気づいてくれたに違いない。
他の隊長ではこうはいかないだろう。
「閣下、お前に熱い視線を注がれていたな」
笑いながら、同僚が言った。
「閣下?」
「なんだ、知らないのか?あのお方は、ヴィゴーレ・ドミニオ閣下。ドミニオ公爵の長男で、天災級冒険者『黒鉄の騎士』のリーダー。超大物だ」
「天災級!?……そんな方がなんでまた」
天災級とは、この世界ではほぼ最強の称号だ。宝石級なんて呼ばれ方もしている。
一般人にも狩ることができる猟種に始まり、一般級、兵士級、隊長級、戦争級、災害級、天災級、魔王級とランクが上がっていく。
英雄や勇者たちを国家で支援する災害級とは違い、確認された時点で各国のギルドに伝達が行き、その英雄たちを各国から招集し、いくつもの国家で連合を組み支援する。その支援される中心人物たる存在と、ギルドから認められた存在。それが天災級だ。
たしか、世界でもパーティーとしては10組、個人としては20人くらいしかいないとかなんとか。そのうちの一人なのか。
凄すぎて、力の具合を想像することができない。
「すまない。考え事をしていた。かの地に現れた魔獣は周りの木々を飲み込み、膨張し、森を枯らせていた。それをアレクシスは一匹で狩りつくした。……地形すらも変えてな」
「地形を……なんと。それほどの力をお持ちだったとは」
地形を変えるって……、あの猫、そんな魔力を持っていたのか。
危なかった。あの魔女さんと仲が良かったみたいだから、変に勘違いされると僕が消されるところだった。魔女さんに踏まれたのはまだ運がよかったのか。
「私たちは何も手出しをしておりません。彼の魔法に守られていました」
すごいな。あの猫。そんな強さがあったと聞かされると、本当に神獣だったのかと思ってしまう。
「あぁ、そして正体不明の男の存在も確認した」
「正体不明の男?」
「たしか、主の種がどうとか言っていた。残念ながら、逃げられてしまったが」
「しかし、あの男、あの魔獣を生み出しておきながら、消滅させようとしておりました。現に、アレクシス様の魔法に守られた我々を、遠巻きながら魔獣の攻撃で被害が出ぬよう守っていたように動いておりました」
「ふむ……。自分で生み出しておきながら、消滅させるとは。なんとも目的が不明な話ですな」
「あぁ、だがそれだけじゃない。戦いが終わったあと、奴は俺たちが見張っているにもかかわらず、忽然と姿を消した」
「姿を?それはいったいどういう?」
「恐らく、転移魔法、もしくはそれに近い何かだ」
「アレクシス様も転移魔法を使われておりましたが、魔法陣を媒介にしておられました。かの男は、それすら発動させずに、まさしく忽然と姿を消したのです」
「ちょ、ちょっと待ってください。アレクシス様は転移魔法を使用されるのですか?」
「あぁ、それだけじゃない。姿かたちを変えて、魔力の性質を変化させられる。今回は火魔法……いや、土属性も混じっていたから何かの上級魔法なのだろうが、ともかく、ソレに特化した姿になったように感じる。あれはおそらく火山を生み出す魔法だ」
「火山を生み出す!?それではまるで神々の御業ではないですか!?」
「事実だ。あの魔獣は推定でも天災級だった。それをほぼ無傷で倒した。魔物としては天災級……、いや魔王級は間違いないだろう」
魔王級!?
魔王級とは、天災級のさらに上、魔物たちの王のことだ。分類としては天災級がほとんどだが、天災級の枠に収まらない力を有している。
王といっても、国を作っているわけではないが、魔物の内いくつかは力あるものに従う。いわゆる群れを形成するのだが、群れといっても、同一種族だけで形成されているわけではない。
その群れを統率しているものを便宜上、王といっているだけだ。
だが、それだけの力はあるし、個体によっては実際に国のように統率している場合もある。
こうなると天災級の魔物はなぜか一段階強くなる。
それを便宜上の魔王と呼んでいるのだ。中には姿形が変わってしまったものもいるようだ。
ここ、200年では魔王と呼ぶべき魔物・魔獣は5体ほど確認されている。
多頭竜の姿をした、個体名オーガム。
巨大な炎の鳥、個体名フェニクス。
人のような姿をしたゴーレム、個体名ヘリオン。
デュラハンのザックハーツ・ガート・ロメロイ元伯爵。
ヴァンパイアのジェームズ・モーグ元枢機卿。
このうち、ロメロイ伯とモーグ卿に関しては討伐令まで出ているのだ。残りの3体に関しては被害が確認されていないことと、ほとんど人目につかないことから、探索依頼は出ているものの討伐令までは出ていない。
あの猫はそんな規格外の魔物たちに匹敵すると思われているのだ。
姫様、どうかしっかりと手綱を握っておいてください。本当にお願いします。
「失礼いたします」
そんなやり取りを横で眺めていると部屋にノックの音が響いた。
-バスティアン視点-
「失礼いたします」
状況を確認している私達のところにノックの音が響いてきた。
「ジュノア卿か」
彼はレノス・ジュノア子爵。
領地を持たない宮中子爵で、私が団長をしている暗部の副団長を務めてもらっている。もちろん、暗部の存在極秘だが。
先代のころに帝国に滅ぼされた国の貴族として亡命してきた人物だ。
その後の功績により、先代には宮中男爵の位を与えたのだが、彼はその爵位を継いだ後、私の直轄になった。勤勉すぎるのが玉に瑕だが、今では私の副官として活躍してもらっている。
「閣下。公爵の皆様が反乱を起こした際の後ろ盾となった国々が判明いたしました」
「ふむ」
私はジュノア卿から一枚の紙を受け取る。
まったく紙は高価だというのに。
暗部では簡単に燃やせる紙を好んで使う傾向がある。
まぁ、情報の機密性を考えれば仕方ないといえば仕方ないのだが。
私は紙に目を通す。
「まぁ、予想通りか」
報告によると今回の反乱は三公爵のバックに別々の国がついていたらしい。
ドミニオ公爵には北から西にかけて広大な領地を持つ帝国が。
ガルアーノ公爵には東の王国が。
グレスノース公爵には北の神聖国がついていたらしい。
恐らくは反乱を起こした後に武力でかの地を抑える策略だったのだろう。全く、強欲なことだ。
「しかし、これで奴らの目論見は崩れたといっても良いな」
何せ此方には先ほど埒外の力を示してくれたアレクシス様がいる。彼が居る限りは、反乱も早期に収まるであろう。
「ジュノア卿、至急各国と公爵領に手紙を送れ」
「各国は認めますかね?」
「認めなければそれも構わん。その時は公爵の首だけ取るまでだ。だが我々はこの証拠を元に各国への対処を行うと発表せよ」
「……兄君の所へもでしょうか?」
「……反乱を起こした時点でかの男も同罪だ。ヴィゴーレ殿もそれでよろしいですな?」
「あぁ。依存はない」
全く、兄もバカな事をしたものだ。
アレクシス様を扶養されたタイミングで反乱を起こすなど。
彼は姫様に危害が及ぶとなれば必ずやお力を貸してくださるだろう。
必ず、天誅が下るだろう。
そしてできることなら……。いや、許されることなら。
私も全力でモフモフして差し上げたい!
「大変です!」
慌てた様子で兵士が部屋へと入ってきた。
-多夢和視点-
シャルロッテさんの隣でシナーデさんの膝でのんびりする。
この人、いやー、まじ動物扱う才能があるわ。
ふと窓の外を見ると、穏やかな陽射しが……。
ってなんじゃありゃ?
見ると右手側から左手側に向けてはるか遠くに、ではあるが、トンボ?
いや、どっちかっていうとあれは……、でっかいアロマロカリス?
まぁ、こっちにこなければ問題ないか。
今は、寝よう。
こんなに陽射しが穏やかで、体がポカポカする日は。
寝るに限る。
「三班、六班、八班集合!冒険者と収穫の手伝いに行くぞ!!」
「おぉ!」
……ちょっと静かにしてほしいなぁ。
ここから、いろいろなキャラクターが出てきます。
頑張って把握します。
いろいろ悩んだ結果、試しに4人の視点で作ってみました。
一応意識してはいるのですが、異世界の人間が二人など数字などを言うときは漢数字、現代から転移した人間が数字を言うときは2人というように数字にするようにしています。
ふと思い立ったのでこれより前の話では気づいたときに修正します。
4/14 王国の位置
西の王国→東の王国。失礼しました。